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79 良い夢も悪い夢も貴方となら
しおりを挟む桜がチラチラと舞う中、大きなレジャーシートの上には豪華絢爛なお弁当箱が並んでいた。
夜桜見物しようと言い出したのは楓。
それに同意したのは仁彩と鳳蝶だ。それに付き合わされて、法村、識月、光風が反対不可の参加が決定した。
じゃあお父さん達もと仁彩が言い出し、皓月、雫、識、史人まで呼ばれて、本日月明かりの中、夜桜見物が開催された。
仮想空間ではない本物の桜の木の下で、お弁当を持ち寄った。
他にも来客はいるのだが、ここはフリフィア内部の公園で、場所取りは予約制の為、混雑する事もなくゆったりと寛ぐ事が出来る。
夜の闇を乱さない程度のぶら下げられた灯りは、程よく薄桃色の桜を浮き上がらせていた。
その暗闇を利用して良からぬ事を致す客も勿論いるので、客同士の距離はそれなりに取られているし、間には衝立が立っている。
現実での遊戯の為、フェロモンが出た時点で退場させられるので、この公園の花見は健全な方だと楓が勧めてきたのだ。
流石に食べるには暗すぎるので、敷物の上には適度にオシャレなガラス製のライトが置いてあった。
其々のカップルでお弁当は持ち寄ったわけだが、作る人間はほぼ決まっている。
鳳蝶、雫、史人は勿論だが、仁彩は雫と共同で作ってきた。そして言い出しっぺの楓は法村が作らされた。楓の方が何でも出来るのだが、法村は今後の為に料理を習わされていた。それを聞いた面々は最初は憐れんだが、嬉しそうな法村を見て、コイツヤバいなと再認識した。
「史人君、和食上手になってきたね。」
雫はたまに史人に和食を教えていた。
「はい、次の冬には里芋とイカの煮っ転がしを作れそうです。」
にっこりと史人は微笑む。識に食べさせる為に習い出したが、煮物は慣れてこないと美味しく出来なかった。まずはいろんな料理からと挑戦していたら、旬の時期を過ぎてしまった為、今日は旬野菜を取り入れて牛蒡と人参のきんぴら、菜の花の胡麻醤油和え、筍の煮物を入れてきた。
識が美味しそうにうまうまと食べているので、和食を練習した甲斐があったと史人は満足だ。
「鳳蝶、鳳蝶っ!」
口を開けて待つ光風に、恥ずかし気にササミの照り焼きを口に放り込んでやる。
「おまっ、………恥ずかしいから一回だけなっ!」
「家ではいつもやってくれるのにぃ。膝に乗ってイチャイチャしよ~?」
最近鳳蝶は光風が所有する家と自宅を行ったり来たりしている。
光風は作業用の倉庫付き自宅を持っているので、半同棲の様なものだ。
二人っきりなら甘えれる様になった鳳蝶だが、人前では無理だ。それをこんな所でバラすなと光風の頬にグリグリと拳を押し付ける。
「お前!喋るな!」
「い~な~、鳳蝶は青海君の膝に乗ってるんだ?」
仁彩が羨ましそうに呟いた。
「膝に乗りたかったのか?おいで。」
識月が手を広げると、わーいと本当に乗ってしまった。
「こらっ、仁彩、人様の前で!」
雫が止めようとするが、皓月がまぁまぁと宥めている。
「わ~仁彩くんは可愛いねぇ~。」
微笑ましげに法村が見ていると、楓の潤んだ瞳にすぅと冷たい熱が籠る。
「わ~じゃあ僕が一生センセの膝に重石を乗せてあげるぅ~。」
何キロがいい?と聞かれて法村は一生懸命楓に弁明していた。
ハラハラと桜の花びらが散り、お弁当があらかた無くなる頃、解散となって其々帰宅した。
ご機嫌な楓を法村は抱っこして連れ帰る。
「良かったね。皆んな来てくれて。」
楓は今まで友達付き合いというものをほぼしてこなかった。だから法村が誘ってみたらと提案したのだ。
「んふふ~楽しかったね!」
楓が楽しそうにすると、法村は嬉しそうにする。法村は楓に逆らわない。
それは病的な程に徹底されている。
地下の隔離部屋で行われている泉流歌への陵辱も、それを指示しているのが楓だと知っても、法村は変わらなかった。
ここはフリフィアだ。
綺麗なものより汚いものの方が多い。
地上の歓楽街等可愛らしいものだ。
どんなものを見せても法村は笑っているだけ。楓はそんな事で法村を嫌いになったりしないが、恐らく他人が法村を見た時、恐ろしく感じるのでは無いだろうか。
その病的なまでの妄信を。
楓が法村の胸にスリスリしなが見上げると、優しい瞳が返ってきた。
法村は優しい。
そこに狂気など一切感じない。
「ね、タクミ君。僕悪い事ばっかしてるでしょ?もしもうダメだぁーってなったら、死んで逃げようと思ってるんだよね。」
法村が何を突然と言った風にマジマジと見てきた。
「その時になったら、一緒について来てくれる?」
楓の優しい番は嬉しそうに笑う。
「連れてってくれないと困るなぁ。」
法村は楓のお願いをいつも嬉しそうに聞いてくれる。
例え胸にナイフを突き立てても、それが楓なら許しそうだ。
「ふふふふふ、タクミ君の変態。」
「えぇ!?」
何故!?と驚く法村に、楓はぎゅっとしがみつく。
だからこそ楓は法村を番に選んだ。
久しぶりに対面したのは高校入学の時。
『こんにちはぁ~、浅木楓ですっ!ショタコン変態教師の法村センセっ!』
楓はフリフィアの楓として法村の前に姿を現した。
内心は覚えてるだろうか、楓が送ったVRは見ただろうか、その登場人物が楓だと気付くだろうかと、少しドキドキしていた。
『……………カエデ?』
法村は楓を昔の様に呼んだ。
その瞳の奥に見えた執着に、楓はブルリと震えた。
法村は楓を望んでいる。
小悪魔のように笑いながら、楓の心は歓喜していた。
下半身が疼き、フリフィアも八尋の事も全て投げ打って、法村と遠くへ逃げたいという衝動が湧き出た。
息を吐き心を鎮めて、昔の事は無かった事にした。
まだだ。今では無い。まだチャンスはあると、方針を組み立てていったのだ。
ねえ、タクミ君。
ここはフリフィア。
良い夢も、悪い夢も見放題なんだよ。
だから、ずっと一緒に見ようね?
そして、地の果てまで堕ちた時は、一緒に逝こう?
例え最後にそうなったとしても……………………、貴方となら全てが良い夢になる。
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ただいま『婚約破棄署名…』『偽りオメガ…』と読了させていただいたところです。
黄金様作品、好きです。
好き過ぎる!!
作品の奥行きが深い!!
キャラクターが魅力的!!
出会えて良かったです。
これから他作品も順に巡らせていただきますね。
取り急ぎ、ファンが1人増えましたとお伝えしたかったのです。
偽りオメガでは、光風✕鳳蝶推しです♡
法村先生の変態ちっくなところがもっと見たいので、ぜひ今後も番外編お待ちしています。
感想有難う御座います。
ファンになって貰えるなんて嬉しいです。
キャラや背景は一生懸命考えてます。
と言っても自分の好みで書いていますので、偏りが出てるのではと心配しつつ、でも好きなキャラじゃないと書けないし、と思いながら書いてます。同じ感覚を持っていただいてるのだと嬉しく思います。
余裕があれば番外編など書いてみたいですね。