悪役令息が戦闘狂オメガに転向したら王太子殿下に執着されました

黄金 

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56 救いのない世界に愛しい者を②

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 ゲームに入る前に冒頭に文字が流れている。結構な長文でアルはザッと読んでくれた。

「要約するとこのゲームの製作者は個人だそうです。大量生産もされていないので機体も高かったのではないでしょうか。『星の数ほど君には幸せが訪れる。星の数程に君には未来がある。いつも躓き転んでしまう君に可能性を与えたい。これは君へのプレゼント。ネイニィ愛しているよ。』で締め括らられていますね。」

「ネイニィって??」

「このゲームの主人公です。ここの管理責任者は体感型ゲームが好きで愛好家達とこのゲーム機で日頃から遊んでいたようですね。維持費がバカにならないので金持ちの道楽としか思えません。」

「そんな維持費高いの?」
 
 遊んでみようかと思ったのにとガッカリする隊長に、アルは苦笑してみせた。

「この楕円形の入れ物に専用の溶液を首元まで満たしプレイ中に溺死しないように身体は固定しておくそうです。基本全裸で入り排泄物は溶液が分解して沈澱したものを廃棄する仕組みですが、やはり衛生上のことを考え定期的に交換が必要になります。溶液は製造元が既にないので愛好家達の間で売買されるものを購入とありますが、これが物凄く高いですね。それから常時通信がオン状態になっていないと危険とあります。」

「繋ぎっぱなしでやるの?」

「そうですね。かなり精神の深い部分までゲームに移入してしまうので、現実に戻る為にも必要とあります。」

「結構危ないゲームなんだね。しない方が無難かなぁ。」

 ちぇーと毒づく隊長に、アルは少し思案した。

「戦闘用のオープンワールドは無理ですが恋愛部分のシュミレーションは選択肢なので別機械に移植出来ますよ。」

「え!?ほんと?やるやる!やってっ!」

 持って来ていた漫画はこの前の戦闘で燃えてしまった為暇していた。アルにお願いして感知機能付きのゴーグルに移してもらう。

「あれ?アルもやるの?」

 アルは自分のゴーグルにも移植していた。

「あ、はい。精神に深く影響するゲームというのに興味があります。」

 ゲーム内容よりもゲームが人体に与える影響が気になるらしい。

「あー、はいはい、真面目だなぁ、攻略対象者がいっぱいいるんだ?」

 オープニングを二人で体験し、同じ主人公なので折角だから違う攻略者を狙おうと話し合った。

「隊長は誰狙いですか?」

「うーーーん?とりあえず王道の王太子かな?アルは?」

 それに瞳の色が綺麗だ。
 アルは攻略者がいっぱいいすぎて迷っているようだった。メンバーリストを開いて、おっ!と面白い人物を見つける。

「アル、アルの名前に似てるやついるよ。イゼアル・ロイデナテル侯爵子息だって!あだ名がアルだよ~。こいつにしなよ。」

 え?これ?とアルはちょっと嫌そうな顔をした。まぁ優秀遺伝子なのに気弱なアルファって書いてあるもんね。
 オメガバースかぁ~。しかもBL!

「しゅぱぁーーーっつ!」

「………はい。」

 こうやって暇な一ヶ月間を二人でゲームをして過ごした。





 僕が十人目の攻略に取り掛かった頃、漸くアルはイゼアルを攻略した。
 もう無理です……。打ちひしがれた様子のアルに感想を聞けば、悪役令息ノアトゥナに精神的な打撃を受けて立ち直れないと言っていた。大丈夫?本当に精神に深く入り込むんだろうか?今のところ僕は平気だけど。
 アルは自分で攻略することを諦め、攻略内容をカンニングすることにしたようだ。機体情報から過去履歴を引き抜き出している。

「そんなにノアトゥナにやられたの?ちゃんとハッピーエンドなった?」

「ギリギリなりましたが、溺愛はないですね。」

 溺愛!?なにそれ!?九十五パーセント???
 
「そんなのあるんだ?もっかいチャレンジ~。」

 僕はまたナリシュ王太子殿下をやり直すことにした。と言っても途中のセーブポイントからでいいとアルから教えてもらう。カフィノルア王家はみんな群青色の瞳にプラチナブロンドの髪と同じ容姿をしているけど、僕的にはナリシュ王太子殿下を気に入っていた。なんていうか、欠如型に似ていたのだ。
 ナリシュ王太子殿下はいつも微笑んでいるし、ハッピーエンドになる時はちゃんと本物の笑顔を見せるんだけど、もっと違うあの時の欠如型が見せた笑顔が見れるのかもと思った。

 黙々と攻略を進める僕の傍で、アルは通常業務をこなしていた。サボりではないよ?交代でやってるんだよ?
 僕は僕の休憩時間を使って遊んでいる。
 
 エンディングまで到着し、僕はボーとその光景を眺めていた。
 僕が欲しかったものが確かにそこにはあった。
 あったけど、悲しい。
 
「………隊長?どうしたんですか?」

 ハッとした。

「あ、ううん。エンディング見たよ。良かった!凄く良かった………。」
 
 アルは多分このエンディングを攻略情報を見て知っているんだろう。特に何も言わなかった。
 アルにも欠如型のことは話したことがないし、このナリシュ王太子殿下のエンディングと欠如型のことは何も結びつかない。
 だから僕が何を考えてるかなんて分からないだろう。





 僕はそのゴーグルをいつも持ち歩くようになった。ゲームで遊ぶ為だ。アルからも他の隊員達からも呆れられた。
 僕はこっそりとゴーグルに映る画面を見る。
 いつか見たシャーランテルゼの樹海を思わせる綺麗な青の瞳をずっと眺めていた。海の色。海の中を流れる光のカーテンは髪の色。何度も眺めては心の中で反芻した。そうしたら少し落ち着くからだ。
 僕は感情制御型だから悲しいことや辛いことは直ぐに押さえ込んでしまう。でも歳とともにそれも難しくなりつつあった。
 もう三十代後半。医者からは戦闘人形の限界だろうと診断された。ここまで生きた戦闘人形はあまりいない。いるにはいたが心を病んでしまうと言われた。

「………退役ですか?」

「うん、長く生きてるからね。身体が限界に近いんだって。延命の薬を飲めば二十年くらいは生きられるらしいからそうしようかなと思って。」

 この頃には対立する自由星間同盟との戦争も冷戦状態に入っていた。お互い侵略し合いちょうど星が存在しない宇宙空洞を挟んで侵略が止まった。そこから睨み合いとなっている。

「……分かりました。」

 アルは寂しそうだった。
 だからアルも長く生きて僕の所へおいでと誘った。戦争は冷戦状態とはいえ全くないわけではない。今度は連合軍同士で争いが起ころうとしている。シフェニラス大教国家から戦えと言われる可能性は高かった。それでも生き残って欲しくて、希望を持って欲しくておいでよと言った。

「僕ね、家族を作ろうと思うんだぁ…。」

「………………え?…ぇえ?まさか結婚?」

「ちーがーうっ!子供だよっ!子供っ!子供をね、育てたいなって。すっごく可愛がって育てたいんだぁ。」

 はぁ、子供ですか?とアルはよく理解出来ないといった顔で僕を見ていた。
 生殖器のない僕に子孫を残すのは無理だけど、子供を産めない人間は人工的に自分達の子供を作ったりする。僕もそうやって自分の子供を作ろうと思った。幸いお金はいっぱい持っている。
 皆んなからくれたお金で作るんだから、皆んなの子供ってことだよね?

「子供ってことは、本星に戻るんですか?」

「あー、うん。もうカタログ貰ったんだよ。一人親でも費用は高いけど出来るって。」

 戦争人形の自分達でもちゃんと戸籍は与えられている。戸籍とお金さえあれば出来そうだった。
 アルは少し心配そうだ。

「上層部から何も言われないでしょうか?」

「大丈夫。許可はとったよ。もう退役の日も決まってるし、その後に産まれるよう時期を調整するよ。」

 




 退役は実にあっさりとしたものだった。
 紙にサインして終わり。長かった戦争人形の最後ってつまんないなと思った
 子供は本星にある普通の医療施設でお願いしていた。僕のことを知っていた医師は退役を知りお祝いを言ってくれるような人の良さそうな人だった。
 培養液にぷかぷかと浮く赤ちゃんを今日も元気ですよと見せてくれる。
 ポヤポヤの薄い金の髪が揺れ、真っ青な瞳が薄く開いた。
 ゾワゾワとお腹が震える感じがする。

「…………可愛い。」

 何時間でも見ていられる気分だった。

 この子が産まれたら住む場所を決めないと。暫くはこの病院と併設する小児病棟に通わなければならないけど、安定したら好きな場所に行ける。それまでは病院近くのアパートに住むことにした。

 楽しみっ、楽しみすぎるっ!

 戦場ではいつも感情をコントロールしていたけど、もうそんなことはしなくていい。薬は毎日飲まなければならなくなったけど、これは精神安定剤のようなものだ。今のところ感情を抑える必要もないし、暴走しそうになる気配もない。

 子供がそろそろ産まれるかもという時に、連合軍同士で戦争が始まった。
 折角の平和をまた戦争でぶち壊そうとしている。
 戦うことは割と平気だったけど、今はやめて欲しいと思った。僕の子供が産まれるんだよ!?
 
 本星の周りには三つの衛星が周回している。それの一つに大きな爆発が起きた。轟音と地鳴りに人々が慌てて外に出る。
 爆破は衛星の一部だが、目視で見れるほどに大きな爆破だ。敵が来た?
 大型戦艦なら衛星に穴を開けるくらいの攻撃が届く。
 退役してしまったので元の部隊とは連絡が取れないのが悔やまれた。戦争人形は外部との連絡を全て遮断される。許可された範囲しか通信が許されていない。
 
 空に影が出来る。
 これは、連合軍の戦艦だ。

「……本気でやるつもり?」

 アパートから病院へ走った。途中で通信が入る。耳にかけていた通信機で通信を繋いだ。走りながら応答すると、聞き慣れた上官の声が聞こえてきた。

「直ぐに応戦の用意を。」

「僕は退役しましたが!?」

「取り消しだ。」

「そんな暇はありません!」

 向こう側で笑う声がする。安心しろ、荷物は片付けやる。
 その言葉にゾワッとした。

 何を?何を言ってるの……?嫌な予感がした。
 走りながら病院の方を見ると煙が上がっている。空に浮かぶ敵船は確かに攻撃しているが、それは軍事基地を主に攻撃しているのであって医療施設や学校には全く向かっていない。それなのに病院からは火の手が上がり爆発が起こっている。
 敷地に入ると人が倒れていた。建物に近づく程に死体は増えていく。銃弾を浴び血だらけになった人達の中に此処で知り合ったスタッフがいた。
 いつも通う施設の一角に、ここにはそぐわない軍服姿の軍人が大勢いた。
 通路にも処置室にも人が倒れているのが見える。あの優しい医師も事切れていた。中にいる赤ちゃん達を庇ったのか、培養液の入ったガラスケースの前に横たわっていた。

「ーーーーーーっ!きさまらっ!」

 怒りが込み上げる。
 こんな激情は久しぶりだった。いつもはスッと感情を片付け頭の片隅に消すのに、今日は上手くいかない。
 死んだ医師の奥にある培養液のケースが開けられている。こじ開けたのか壊れて機械も床も水浸しになっていた。
 ガタガタと震えるスタッフが真っ青な顔でトレーを持って現れた。銀のトレーに動かない小さな身体がある。
 呆然とそのトレーを僕は見ていた。
 ふわふわのプラチナブロンドの短い髪は濡れたままで、光を失った青い瞳が虚ろに少しだけ開いていた。

「…………ぁ、」

 何を言えばいいんだろう?
 どうしたらいい?仲間が死んだ時も、欠如型が自爆した時も、僕は何も言わなかった。それはそうした方がいいと冷静に考えたから。でも、今もそうなの?この湧き上がる苦しみはどうしたらいいの!?

「………はっ、…ぁ、ぁ、あ……。」

「こんなのはまた作ればいいだろう。まずは上空の敵を排除しろ。」

 戦争人形には上官の命令は絶対だと刷り込まれている。逆らってはいけないと。
 通り過ぎていく軍人達を僕はどうすることも出来なかった。

「すみませんっ、すみませんっ、先生は抵抗して、殺されて、わたし、……!」

 トレーを落とすまいと震えながらもスタッフは僕に謝っていた。

「……うん。」

 そっと僕の子を抱き上げる。
 本当はもう少ししたら、起こされて初めての外気に震えて泣いている我が子を、感激して抱き上げるはずだった。
 どんな匂いがするんだろう?
 笑うかな?
 暴れるかな?
 性別は男の子にした。元気に生きて欲しかったし、僕は戦闘ばかりしていたから、ガサツだから女の子は無理だと思って。

 冷たい身体はぐにゃりとして動かなかった。





















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