悪役令息が戦闘狂オメガに転向したら王太子殿下に執着されました

黄金 

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66 ナリシュ王太子殿下の策略

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 ネイニィが中央会場のテントが密集する中に入っていったのを確認して、ニンレネイは湿地帯側に防御結界を張った。指定された一部にしか結界を張らないので、それ以外の場所から魔獣は会場内に入り込んでしまうのだが、それでいいと言われた。
 ナリシュ王太子殿下からの指示だった。
 殿下達が何をやろうとしているのかを確認すると、大きな目的としてはネイニィ・リゼン男爵子息を筆頭婚約者候補から外すのが目的だと言われた。
 オリュガが外された時は、オリュガの悪い噂と普段の素行の悪さで筆頭から外された。
 ネイニィは怪しいクッキーをばら撒いてはいるが、そのクッキーからは多少聖魔法の痕跡はあるものの人体に影響する量ではなく、人に渡すなと禁止する程のものでもなかった。ただ王族や貴族では家の事情もあるし無闇矢鱈と物を受け取ったり飲食物を貰うことをしない。その事を踏まえて配るようにと注意はした。そしてナリシュ王太子殿下には食べられないので渡さないようにとも。
 ネイニィは成績も良く生徒達の人気が高かった。いきなり筆頭婚約者候補から外すには難しく、ならば問題行動を起こしてもらおうとナリシュ王太子殿下は悪びれなく微笑んでそう言った。
 つまり罠にかけることにしたということだ。
 ニンレネイは何故殿下達が模擬戦二日目に魔獣が大量発生することを知っていたのか知らされていない。
 ナリシュ王太子殿下が言った通りに事が進んでいく不思議に問い質したくはあるが、あの感じからすると教えてくれないだろうなと思っていた。
 仕方なく言われた通りに結界を張る。
 張ったはいいが次々と湿地帯の方からやってくる魔獣達が、結界の壁に激突し暴れ出した。

「…………え、これどーしたら?」

 ナリシュ王太子殿下が言うにはちゃんと補助はつくからと言われていたのだが、補助とは……?

「ふぅむ、なかなかの数だねぇ。」

 ニンレネイはビクゥと肩を震わせた。
 朝別れたばかりのノルギィ王弟殿下が背後に立っていた。気配を消して近付かないで欲しい!
 昨晩あまりのことに意識を飛ばしたが、暫くして目を覚ました時もノルギィ王弟殿下はニンレネイを抱っこしたままだった。そこからニンレネイとノルギィの平行線を進む言い合いが続き、結局朝まで一緒にいたのだ。
 まさかニンレネイの補助とはノルギィ王弟殿下のことか?
 ジリジリと後ずさると、ガシッと腕を掴まれた。

「結界から出るんじゃないぞ?」

 ニヤリと笑ってニンレネイの腕を離した。

「結界の外に出るのですか?」

「出ねば攻撃出来んだろう。」

 ノルギィ王弟殿下の足がトンッと結界の外に出る。
 手に持っていた長剣をノルギィ王弟殿下は抜いた。赤い刃から炎が噴き出る。引き抜きざま長剣は横に薙ぎ払われた。ゴオゥオォォォ…と切られた魔獣達が燃えて消し炭になっていく。
 
「そこで大人しく見ておけ。」

「…あ、はい。お気をつけて。」

 朝まで結婚するしないで言い合いをしていても、ちゃんと身を案じて声をかける生真面目なニンレネイに、ノルギィは面白くなって笑いながら駆け出した。





 ネイニィは今度こそ自分が主人公に戻れると信じていた。
 もう元のシナリオから全てが大きくズレていることを信じたくなかった。
 オリュガを悪役令息にするのが難しいなら、ノアトゥナを悪役令息にしておけば、自分は主人公に戻れると信じていた。
 ネイニィはゆっくりと戻った。だって闇の魔獣達が中央会場を十分に荒らしてくれないと、ネイニィが輝かないと思ったから。
 そろそろいいだろうと思いながらテントの群れの中へと入っていく。
 会場は大混乱に陥っていた。思った通りだとネイニィは少し笑った。
 ネイニィとフィナゼは朝の開始の合図の前に会場を離れた。国王陛下と王妃は開始の合図に合わせて観戦に来ると聞いていたからだ。
 生徒達も開始前ならまだ会場に多くいるはずだった。多ければ多い方がいい。だってその方が怪我人も多く出るだろうから。

 胸を弾ませて進んでいたが、少し様子が違うと感じた。
 魔獣はまだいる。だけど数が異常に少なかった。湿地帯ではもっと沢山発生していたはずなのに。
 それに怪我人も少ない。いるにはいるが、重傷人はいない。治癒を必要としない程度の騎士達が走り回ってはいるが、いるはずの生徒達はいなかった。
 国王陛下と王妃がいるはずの会場の中央がテントの合間から見えてくる。
 中央には国王陛下が指揮を取っていた。手には剣を持っている。空から鳥型の魔獣が攻撃して来たが、国王陛下は剣に魔力を漲らせて風の刃を生み出し、鳥型の魔獣が地上に到達する前に消し去ってしまった。ネイニィが知らない魔法剣を持っていた。

「…………なんで?なんで、王様が剣を持ってるの?」

 ゲームでは帯剣しておらず、国王は魔獣の毒にやられてしまうはずだった。国王陛下の攻略では国王陛下の側にいる為、魔獣の攻撃からネイニィが守り感謝されるのだが、それ以外では必ず怪我を負うはずだった。だからナリシュ王太子殿下は隣国との戦争が終わった後、国を安定させる為に戴冠するのだ。もしくは敗戦してしまう。
 国王陛下の側にはリマレシア王妃が座り込んでいた。周りには王妃のお気に入りの騎士達が囲んでいる。この魔獣達はリマレシア王妃を狙うように闇魔法で作られた魔獣達だった。だから本当は王妃が攻撃を受けなければならないのに、国王陛下は庇い怪我を負うわけだが、魔法剣を持った国王陛下は強かった。
 剣を振るえば竜巻が起き、魔獣達を粉々にしながら渦の中へと吸い込んでいく。
 ナリシュ王太子殿下とよく似た顔立ちは凛々しく、歳を感じさせない体躯は逞しい。こうやって見てみれば、ナリシュ王太子殿下もまだまだ子供らしい面影が残っている。
 徐々に数を減らす闇の魔獣達に、ネイニィは焦りを感じた。このままではネイニィが活躍する場が無くなる。
 聖魔法で魔獣を倒し、怪我人を治療して、ネイニィは皆んなから更に認められるようになる。どの攻略者相手でも好感度が上がることになるはずだった。
 ネイニィはグルリと会場内を見渡した。
 生徒達は一箇所に集められ、騎士団が守っているのが見えた。そこでノアトゥナが聖魔法で怪我人の治癒を行っているのが見えた。
 感謝されるノアトゥナを見て、ネイニィはカッと頭に血が昇る。

 あそこでああやって感謝されるのはネイニィだったのに!

 ネイニィは聖魔法を行使する為、身体の中に魔力を漲らせた。ここら一帯にいる魔獣を聖魔法で消し去ってやる!
 だが手にはビンを持ったままだった。
 ビンの中身は空だが、ほんの少しの液体が付着して残っていた。聖魔法がビンの中へ吸い込まれ、ワラワラと魔獣達が生まれてくる。

「…………なっ!何故魔獣が突然!?」

 近くで魔獣と戦っていた騎士が声を上げた。
 ネイニィもハッとしてビンを手放す。

「貴方は王太子殿下の………!どういうことでしょうか。」

 ファーブリマ騎士団長が近寄って来て尋ねる。その間にもビンから魔獣が生み出されていた。
 慌てて騎士達が対応に追われることになる。
 そこに魔法師団も加勢してきた。

「……え、違うっ!僕じゃない!」

 集まる疑惑の視線にネイニィは狼狽えた。
 魔獣は力のない者から襲おうとする。集まった生徒達の方へ魔獣は襲いかかるが、ノアトゥナが聖魔法で消滅させていた。
 何で!?ノアトゥナにはそんな力はないはずなのに!
 ネイニィは知らない。
 フィナゼが態とビンを持たせたままにして聖魔法を使った時に魔獣が出るようにしたことも、ナリシュとオリュガが湿地帯で魔獣の数を減らして中央会場の危険度を下げたことも、ネイニィが現れて魔獣が出たら騒ぐようにファーブリマ騎士団長に命じていたことも、国王陛下に帯剣しておくよう言っていたことも、ネイニィがボロを出すようにと見張られていたことも、全部ナリシュがネイニィを嵌める為に仕組んでいた。
 ナリシュはオリュガとイゼアルから攻略内容を聞いて、魔法理論教師フィナゼ・ロビトーにネイニィと共に中央会場へは戻らないとようにと言い含めていた。そして聖魔法を獲る人間を、ノアトゥナではなくネイニィにするようにと言っていた。
 ノアトゥナが聖魔法を魔力切れを起こすことなく使えているのは、そこまで怪我人が出なかったことと、魔獣の数が少なかったからだ。ゲームではフィナゼ教師から聖魔法の力を奪われていたが、現実には奪われていない。しかもレクピドがくれた付与魔法付きのマントを着ているので、ノアトゥナはゲームシナリオよりも聖魔法が使える状態になっている。
 逆にネイニィは少しずつフィナゼ教師から聖魔法を奪われていた。模擬戦一日目に行った治癒が上手くいかなかったのも、フィナゼ教師から聖魔法を吸い取られ魔力が不安定になったからだった。

 ネイニィはナリシュがそんな裏工作をしていることなど知らないし、そんなことを考える余裕はもうなかった。
 ただ思い通りにいかないシナリオに、青褪め震えていた。

「ビンは回収します。事情を聞きたいので拘束させてもらいます。」
 
 ネイニィはまだナリシュ王太子殿下の筆頭婚約者候補なので丁寧に扱われたが、周りを騎士に囲まれて罪人のように連れて行かれた。

「……そんな、………そんなっ!」

 誰か助けてくれる人をと思い見回しても、ネイニィを助けてくれる人は誰もいなかった。





 ノアトゥナは魔獣を聖魔法で滅ぼしながら、連れて行かれるネイニィを盗み見た。
 最近オリュガ兄上が王太子殿下とコソコソしてるなと思ったら、どうやらこれをしたかったのかなと思ったが、詳しいことは教えてもらっていない。
 ノアトゥナは自分が子供扱いされているのだと感じてムゥっと頬を膨らませた。
 とりあえず魔獣を倒して怪我人を治してやる!

「……ノアトゥナっ!」

 グィッと腰に腕が回り引き寄せられた。

「………!?」

 ノアトゥナがいた所に鳥型の魔獣が襲いかかり、鋭く長い嘴が地面に突き刺さる。そのままそこにいたら大怪我を負うところだった。
 引き寄せたのはイゼアルだった。ニンレネイ兄上はテント周辺の結界を張る為に離れたので、ノアトゥナを守る為にイゼアルが残っていた。
 ノアトゥナを庇ったので腕に傷を負い血が滲み出していた。

「すみません急に引き寄せて。大丈夫でしたか?」

 地面に突き刺さった魔獣を剣で切り倒してイゼアルは問い掛けてきた。

「う、うん。平気………。」

 ポケッと見上げて頷くと、イゼアルはホッとしたように微笑んだ。優しい笑顔だ。

「俺が守るので聖魔法に集中して下さい。」

「…………っ!」

 イゼアルはノアトゥナの前では自分のことを俺と言わない。オリュガ兄上と話している時は俺と言っていたりするのに、ノアトゥナの前では少し壁があったのだが、今はノアトゥナにも俺と言った!
 嬉しくて口をモニョモニョさせていたら心配そうに覗き込んできた。

「ノアトゥナ?やはりどこか怪我しましたか?」

「………違うしっ!怪我しても治せるしねっ!」

 ついつい強気な発言をしてしまい、ノアトゥナは少しへこんだ。も、もうちょっと甘えなきゃなのに!ありがとうって言わなきゃなのに………。
 これがダメなのだと分かってはいるのに、素直になれずにノアトゥナのやる気が萎んでしまった。

「ノアトゥナ?魔力が切れましたか?無理はしなくていいんですよ。俺達に巻き込まれているようなものなんですから。」

 ノアトゥナはプルプルプルと首を振った。

「やるっ!」

 拳を作って叫んだノアトゥナに、イゼアルはフッと笑った。

「流石です。ノアトゥナは頑張り屋ですね。」

 お、お、同じ歳なのに~~!と思いつつも、これがアルファなのかなぁとノアトゥナは考えた。いつもは一歩身を引いた位置にいて押しに弱いのに、いざという時は強い。優しい包容力は花の匂いとなってノアトゥナを包んでいる。
 アル君は多分ノアトゥナの甘い匂いを嗅いでも平気なのだろう。
 この前試着した時、同じ部屋にいて上着とか着せてくれたけど何も反応がなかった。このまま全部脱いで見せたらとも思ったけど……、それで嫌われたくもないし………。
 きっとこんな優秀なアルファなら、アル君の魅力にクラリときたオメガがいくらでも誘惑していったに違いない。そして未だに恋人がいないということは、誰にも靡かなかったということだ。
 そんな愚かな手は使いたくない!
 
「いいもんっ!いいもんっ!いいんだもぉぉぉぉんっっっ!!」

 ノアトゥナがカッと聖魔法を放つ。
 周囲にいた魔獣は消え、近くにいた怪我人の怪我が治った。イゼアルの腕の怪我も治してしまう。

「す、凄い、流石ノビゼル公爵家の御令息だ!」

「ノアトゥナ様、可愛らしい…!」

 周囲にいた生徒達は頬を染めノアトゥナに見惚れていた。
 イゼアルはまた空から襲いかかる魔獣を切り裂いた。一度に数匹切り落とす腕前は素晴らしいものがある。ボタボタと落ちてくる魔獣の残骸に、生徒達は唖然としてイゼアル・ロイデナテルを見た。

「怪我が治ったのなら騎士団の方へ避難して下さい。」

 普段の温厚さとは違う低い声に、生徒達はブルリと震えてそそくさと逃げだした。

「わっ、凄い!アル君も強いよねぇ~。」

 ノアトゥナは生徒達が青褪め逃げて行くのには気付かずイゼアルの腕前を褒めた。
 イゼアルは生徒達から視線を外しノアトゥナの方を見る。そこにはいつも通りの涼しげな優しい微笑みがあった。

「ありがとうございます。さ、片付けてしまいましょう。」

「うん!」

 二人はまた魔獣を討伐する為会場内に集中した。






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