Doubts beget doubts

朔月

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偽物

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僕には、おじいちゃんが見える。
いつも頭に大きめの麦わら帽子をのっけているおじいちゃんが。
おじいちゃんは僕が小学校から帰ってくると、いつも玄関で待っている。
僕が初めておじいちゃんに会った時、それは、小学校四年生の夏休みだった。
午前中に友達と一通り遊び終えて帰ると、そこにいたのは見知らぬ老人だった。
しかし、不思議なことに恐怖を覚えることはなく、なんだか懐かしい気持ちさえした。
老人は僕を見ると立ち上がり、目頭を押さえて大粒の涙をこぼした。
それから、老人はぼくにこう告げた。
「儂は、君のおじいちゃんなんだ。」
物心ついてからは一度もおじいちゃんと会ったことがないものだから納得せざるを得なかったし、なんとなくそんな気がした。
何しろ、パパやママからおじいちゃんとおばあちゃんのことを聞いたことがなかったので、しばらくは唖然としていた。
おじいちゃんは僕が2歳の頃にガンで死んだらしい。
どうしても大きくなった孫の姿が見たいと願っていたら、いつの間にか僕の家で座っていたと教えてくれた。
こうして、僕とおじいちゃんは毎日を共にするようになった。
パパや皆んなは、信じてくれないし、やっぱり僕にしか見えていない。
僕とおじいちゃんの日課は一緒にペロの散歩に行くことだ。
ペロは本当に足が速くて、僕らは追いつくのに一苦労。
散歩がひと段落つくと、僕らは近くの浜辺に座って夕方までおしゃべりをする。
おじいちゃんのお話は本当に面白い。
いろんな時代のお話をしてくれるのだが、実際にその場にいたかのような迫力を感じさせるものばかりだ。
因みに今日は、人喰い鬼についての話をしてくれた。
おじいちゃんの話は怪談が多いのだ。
それから、夕方になると、おじいちゃんは決まって海の方に消える。
夏は遅くまで一緒にいられるから嬉しい。
今日は、もうおじいちゃんとは別れて家路についたところだ。
暗くなってきたし、急がなくちゃ!

ーーーーーーーーーーーーーー

家に帰るとママが嬉しそうに話しかけてきた。
「最近、おじいちゃんの話ばっかりするから懐かしくなって、アルバムの中を探してみたの。
おじいちゃん、あんたが2歳の時に死んじゃったから、一緒に写ってる写真見つけるの難しかったのよ。」
ママはそう言うと、僕に古びて色あせた一枚の写真を渡した。
僕は興奮してその写真を受け取り、ドキドキしながらその中をそっとのぞいた。












「ママ、このおじいさんは誰?」












ーーーーーーーーーーーーーー

次の日から『おじいちゃん』は僕の前から姿を消した。
落胆する僕を見て、パパは僕を外食に連れて行ってくれた。
ママが好きだった中華料理屋に。
パパは僕に尋ねた。
「ママは今日、ここに来るのかい?」
僕は首を横に振った。ママはお留守番だ。
続けてパパは
「最近妙に落ち込んでるな。
何かあったのか?」
と聞いてきた。
僕は少し悩んでから、ちょっとだけ頷いた。
パパは僕を見て、うんうんと頷くと何も言わずに頭をがしがしと撫でてくれた。
そして、ママが好きだったギョーザをもう一皿頼んでくれた。
少しだけ涙が溢れた。
家に帰る前に、僕はパパにママから貰った写真を見せた。
この写真のおじいちゃんが、本当のおじいちゃんかどうかたしかめるためだ。
ママが言うくらいだから、写真の方が本物のおじいちゃんで違いないのだが、確かめずにはいられなかった。
案の定、写真のおじいちゃんは本物だった。
がっかりしたけど、そんなことはもはや僕にとってはどうでも良かった。
あの優しかった『おじいちゃん』に会えないことが僕にとって一番の問題だったのだ。

ーーーーーーーーーーーーーー

家に着いてから、僕は自分の部屋にこもってじっと考えていた。
なぜ『おじいちゃん』がおじいちゃんのフリをしていたのかを。
おそらく突然消えたのは僕に正体を見破られたからだろう。
布団の中でずーっと考えていたら、いつのまにかママが隣に立っていた。
「やっぱり『おじいちゃん』は偽物なんだからもう会わない方がいいわよ。」
無愛想で意地悪なことを言ってきたので腹がたった。
何か言い返そうとしてママの方に顔を向けたが、そこにママの顔はなかった。
代わりに『おじいちゃん』から聞いた鬼のそれにそっくりな顔があった。
「残念。どの道もう『おじいちゃん』には会えないわねぇ。」
『ママ』だった何かは冷淡に告げた。


ママは偽物だった。


僕は小学校五年生で、それこそ生きてきた時間は短かったものの、今までの人生が走馬灯のように頭の中を颯爽と駆け巡った。
嗚呼、僕は死ぬんだな。
そう思った時、目の前に麦わら帽子の影が現れた。
『おじいちゃん』だった。
『おじいちゃん』は『ママ』を殺してくれた。
『おじいちゃん』はおじいちゃんではなかったけど、僕を救ってくれた!
天地がひっくり返ったかと思うくらい衝撃的だった!
僕は涙を












流れた涙はを伝って落ち、布団のシーツに染み込んだ。












僕の反転した赤い視界が最後に捉えたのは、


















麦わら帽子をかぶった鬼の姿だった。















「いただきまーす。」









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