【完結】悪役令嬢に生まれ変わったけど死ぬしかないようです

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前世を思い出したけどヤバくない?

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3年前馬車が横転する事故に遭った私は、頭を打った衝撃でこの世界が『真実の愛に目覚めて(悪役令嬢には死をもって償わせます)』の小説だと気づいた。

「ぎゃあ!嘘でしょ・・・私、悪役令嬢のレベッカ・ハウ・ロウゼン伯爵令嬢じゃん!」

頭は痛いし、混乱気味ではあったが今は一刻の猶予もない。私は馬車の中から、助けてと必死に叫んでいた。

ストーリー通りだとこの馬車で母が死ぬ。声を聞いて従者が横転した馬車から、母と私を引きずり出してくれた。

従者が母と私を安全な場所まで連れて行くと、前方から走ってきた馬車が、止まることもなく猛スピードで私たちが乗っていた馬車に乗り上げたのだ。馬車は大破し、接触した馬車の車輪も外れているようだ。興奮した馬がけたたましく鳴いていた。間一髪とはこのことか、冷や汗が流れた。

***

「奥様、お嬢様大丈夫ですか!」

従者のマイロも真っ青だ。マイロも馬車が横転した時に擦りむいたのだろう、ズボンが破れて血が滲んでいた。

「大丈夫よ。相手の方は?」

乗り上げた馬車には、若い令嬢と侍女が乗っていた。あちらも幸いなことに怪我はなかったようだ。今日の夜会に遅れ、相当無理を言って従者に急がせていたようだ。

相手がショックで話もできない様子だったので、事故の処理はまた後日と言うことで別れた。

屋敷の近くまでは移動していたので、10分程度歩いて屋敷に戻ることになった。

マイロは母と私を危険な目に合わせたことで、責任を感じているのか口が重い。

「マイロ、屋敷に戻ったら怪我の手当てをしなさい」

そう言うと、母もマイロも少し驚いた顔をしていた。母も「そうよ。今日はみんな大変だったけど、大した怪我もなくて良かったわ」と私の腕に自分の腕を絡めた。

「そうですね。お母様が無事で良かったわ」

***

物語では、宝石店で母から勧められた宝石が気に入らず『この店には、みすぼらしい宝石しか置いてないの?もっと大きな宝石を持ってきてちょうだい』と大騒ぎをしたせいで予定より店を出るのが遅くなり、横転してもすぐに逃げることができず接触事故が起きていた。

しかし今回、前世の記憶はまだなかったが宝石店で母が勧めてくれた小ぶりのネックレスを購入することに決めた。本来のストーリーより大幅に時間が稼げたのだ。日本人だった時の遠慮が無意識に出たのかもしれない。

記憶が戻ったタイミングも良かった。あのままぐずぐず馬車の中にいれば、やはり事故に遭っていただろう。馬車を操縦していた従者のマイロも物語通りであれば、とっくの昔に私がクビにしていた。

そう思うと私が知っているゲームとは、少しのずれが生じているのかもしれないと思った。

***

屋敷に帰るとすぐにメイドのココットがお風呂を用意してくれた。考え事をしたかったので、ひとりでゆっくり入りたいと言うとココットは少し驚いていた。前世を思い出した今ではお風呂をひとりで入れない方が恥ずかしかった。

猫足の浴槽がヨーロッパ風で可愛らしい。毎日入っていたお風呂も今はヨーロッパへ旅行にでも行った気分だ。温かい湯船に入って、ほっと肩の力を抜いた。

私の思い出した田中彩というもう一人の自分。彩はコールセンターで働く、オペレーターだった。亡くなった日は、朝からクレーム対応に追われ心身疲れ果てていた。恐らく赤信号に気づかず、車に引かれたのだろう。

同居の親にも「あんたもいい歳なんだから結婚相手ぐらい連れてきなさい」と嫌味を言われ、会社でも家でも休まらない毎日。田中 彩、28歳の短い人生だった。

「可哀そうな私・・・せめて転生するならモブが良かった」

頭を触ると少したんこぶになっている。『はあ』とため息をつき、肩までお湯につかった。

馬車の横転事故は、物語でも重要なシーンだ。目の前で真っ赤にそまる光景。レベッカは母親が、自分の腕の中で冷たくなっていくのをただ見ていることしかできなかった。馬車の中で母親を抱きしめ、美しい顔をしかめて涙を流す少女の姿が挿絵になっていた。

6歳から婚約者であるレオ様は当初母親を亡くしたレベッカに、それは忍耐強く付き合ってくれた。でも時間が経つにつれ回復どころか、レベッカはレオ様に益々甘え依存していく。レオ様が王子教育で多忙と分かりながらしつこく付きまとい、庇ってくれないと狂ったように怒り出すのだ。

「そりゃ、レオ様も疲れるよね」

そんなことを繰り返した結果、レオ様と会う機会は段々減っていく。レベッカは『会いたい』と何度も手紙を書くのだが返事は来ない。

寂しさを紛らわすように、使用人たちに怒りをぶつけるものだから屋敷の中でも孤立。優しかったお父様ですら、娘の気持ちが理解できず、屋敷にも帰ってこなくなった。

心の傷やカウンセリングという概念はない。そんなレベッカが不憫でもあった。

「でも、どうなるんだろ?母は生きてるし、そうしたら嫌われることもない?婚約破棄にはならないってこと?」

レベッカの記憶にあるレオ様は、王子なのに奢らず堅実的で優しく性格が最高なのだ。それに容姿もとにかく恰好がいい。こんなスパダリだったら、喜んで結婚する。逆に、ヒロインが現れ結婚破棄になったとしても、それはそれで構わない。私にとって恋愛要素はさほど問題ではない。

それよりも1番の問題は、物語のサブタイトル『悪役令嬢には死をもって償わせます』通り、悪役令嬢のレベッカはなにをやっても必ず、落雷で死ぬのだ。

当たり前だが、私だって死にたくはない。

物語のままだと婚約者のレオ様から卒業パーティーで、婚約破棄を言い渡される。レベッカは髪を振り乱し、狂ったように泣き叫ぶが、その時会場の外では雷鳴が轟き雨が激しく降っていた。

嫌悪感を抱いたレオ様が「今日はお開きにする」と言ったことで、来賓客は帰りを急ぐためレベッカをひとり残し全員が会場を後にした。その後レベッカは落雷にあって亡くなるのだ。レオ様の一言がなければ、会場に残っていた300人以上が、甚大な被害を被っていただろう。

残念なことに誰を攻略しても同じ結果なのだ。必ず攻略者たちの婚約者が絡んでくる。そして、卒業パーティーで婚約破棄につながるのだ。もし、パーティーに参加しなければ、アイシャ様を虐めなければと考えるが、私は回避できても全員を助ける方法がみつからない。300人以上の命を思うと気が重くなる。

ちょっとだけ、自分が犠牲になれば他の人々は助かるかもと考えてしまう。悪役令嬢に厳しくない?と泣きそうな気分だ。

浴室の窓の外には真っ赤な夕焼けが広がっていた。今は何かが変わることを祈ることしかできなかった。

***

「ココット・・・どうしたの」

お風呂から上がるとメイドのココットが心配そうに待っていた。レベッカの記憶だとココットにも厳しく対応している。何か言いたそうだけど、レベッカが怖くて話せないのだろう。

一般人だった前世を思い出すと今までの伯爵令嬢としてのレベッカは、使用人が自分と同様のマナーや教養があると思っている。使用人は爵位もちだ、それでも跡継ぎでなければ外で働く必要がある。爵位によっては十分なマナーも教養も習っていないことがあるが、それがレベッカには分かっていなかった。

「ココット、どうしたの?言いたいことがあれば言っていいのよ」

「・・・・・・・お嬢様、お風呂が長かったですね。倒れているのかと心配しました」

「ありがとう。心配してくれたのね。嬉しいわ」

ココットは、少し目を見開いたが「紅茶でもお持ちします」と言って部屋を出て行った。

『使用人たちとも関係を再構築しないとね』


***

「お嬢様、こちらでよろしいでしょうか?」

「いえ、もっときつい顔になるようにメイクできない」

「お嬢様の顔立ちがいいのでそりゃできますが、本当に悪役令嬢になるのですか」

ココットとは、2年も経つとだいぶ打ち解けて話せるようになった。

ココットには私は予知夢を見ることができると説明し、近い将来レオ様から婚約破棄を言い渡されることも話している。ココットは納得がいかないようで『どうして、お嬢様が婚約破棄をされないといけないのです』と何度も聞いてきたが、これは私も望むところなのと説得すると『お嬢様が望むなら』と納得した様子だった。

落雷で死ぬとは流石に言えなかったが。

「これで、ばっちりね」

今日から王都学園の3年になる。日本で言うところの高校3年にあたる。
今日まさしくヒロインのアイシャ様が入学してくるのだ。
明るいピンクの髪に、庇護欲を掻き立てられる愛くるしい顔でレオ様だけでなく、宰相の子息であるカルロス様や騎士団長の次男ヘイル様をも虜にしていく。

私が2年前に書き込んだノートを確認する。

『婚約破棄をするためにすること』
①アイシャ様に不満をぶつける
②アイシャ様に食堂で水をかける
③教科書を破る
④靴をごみ箱に捨てる
⑤階段から突き落とす
⑥彼女を暴行するよう町のゴロツキを雇う

こんなこと前世でもしたことがない、できるか私とも思うが一応ストーリーに沿ってやるしかないと思うと力が入る。

一番難しいのが⑤と⑥だ。階段から背中を押すのは、力加減が難しい。加減によってはアイシャ様を殺すこともあり得る。それに町のゴロツキとどうやって知り合いになればいいか分からない。

以前、ココットと町に出かけた時薄暗い路地裏に行こうとしたが、ふたりとも足がすくみ結局行けていないのだ。

事故の後から過保護になった従者のマイロに協力を仰ごうとしたが、マイロに言っても絶対反対されるだけだろうと諦めた。

レオ様とは、距離を開けるため1年ぐらい前から王宮に呼ばれても理由を付けてはお断りをしている。
28歳だった記憶が戻って、レオ様を思う気持ちにも冷静になれた。物理的に距離をとることで、私への罪悪感を軽減できるはずだ。

***

入学式が終わると、何事もなく穏やかに1カ月が過ぎた。アイシャ様を見てみたい気もしたが、このまま出会わなければその方がいいと思い探すのは止めた。

3年になる頃にはレオ様は単位を早々に取得し、国王陛下から任された仕事や生徒会の引継ぎで同じクラスでもめったに会うことはなかった。

紅葉した木々を教室から何気なく眺めていると、レオ様が中庭のベンチで座っているのが見えた。

「レオ様・・・久しぶりに見るな」

この頃には、身長も伸び厚くなった胸板は鍛えているとすぐ分かる。男らしく成長するレオ様は、絵本に出てくる王子様そのものだ。その上温厚な性格のレオ様の人気は高い。やっぱり恰好いいなと眺めているとその視線に気づいたのか、私がいる方向をレオ様は振り返った。

慌ててしゃがみ込んだが、レオ様が振り返った時ピンクの髪の毛がちらりと見えた。

「ああ、出会ってしまったのね・・・」

学園の寮に戻るとココットは真っ青な私の顔に気づき「お嬢様何があったのです」と聞いてきた。

「レオ様が、アイシャ様と仲良さそうに中庭で話しているのを見たの」

ココットは信じられないと言わんばかりに目を見開いている。

「まさか、本当にお嬢様が話してくださったことが起きたのですね」

「ええ、私も信じたくはなかったわ」

「これからどうすれば・・・」

「私の記憶が正しいか、もう少し検証する必要があるわね」

ココットは私が書いた1冊のノートを持ってきた。

「次は、1週間後宰相のご子息であるカルロス様が、偶然教室の窓から入ってきたカラスからアイシャ様をお守りするため彼女を抱きしめるというイベントですね」

「そうだったわね」

「お嬢様、私がばれないように教室に忍び込んで確認します。お嬢様はアリバイのためにご友人とカフェにでも行って時間を潰してください」

「分かったわ。素晴らしい行動力ね、ココットも気を付けてね」

ココットと仲良くなって分かったが、彼女は器用なタイプで大体のことは自分でできてしまう。偵察も彼女に任せていれば大丈夫だろう。1週間後ココットの指示通り、友人を誘ってカフェで楽しい時間を過ごした。寮の自室に戻るとココットが思いつめた顔をしていた。

「ココット?」

「お嬢様!お迎えもせずに申し訳ありません」

「どうしたの、顔が青いわ」

「・・・・お嬢様・・・お嬢様の予言通りのことが起きました」

「そう・・・やはり起こったのね」

「でも、偶然かもしれません。次は魔法の授業の際アイシャ様の聖魔法を使い過ぎて、気を失ったアイシャ様を騎士団長の次男であられるヘイル様がお姫様抱っこで保健室に連れて行く・・・でしたよね」

「ええ、そうね。それは私が同じクラスだから確認できると思うわ」

それから1カ月が経ち、今日の授業では自分の得意とする魔法を先生に披露するという課題だった。

魔力が高いものと結婚を繰り返した王族や高貴族ほど魔力が大きい。平民はほとんど魔力を持ち合わせてはいない。ここで魔力が高いことを示せば、より地位の高い爵位の者と縁ができるかもしれない。みんな張り切っていた。

この世界を構成する魔法は四つの要素。 「風」「地」「水」「火」の四つを指す四大元素が元になっている。

「おお、なかなかの威力ですね」

先生も生徒も楽しそうだ。私も魔法があると聞いた時テンションがあがったものね。

私は水と火の2属性持ちだ。この魔力の大きさがレオ様との婚約者になった理由でもある。

家庭教師に習った通りに呪文と唱え水の球体を作った。そして、火の属性を使い一瞬で蒸発させると、周りから『おお!』と歓声が聞こえた。

「素晴らしい魔力ですね。いいでしょう、次」

次はヘイル様のようだ。

「流石レベッカ様、素晴らしい魔力でした」と私に一礼をすると、手を伸ばした。すると剣山のように土が鋭く盛り上がり石化した土が何本も現れた。
そして、もう一度手を伸ばすと砂のように岩が崩れ、元の練習場に戻った。

「ほう、こちらも素晴らしい魔力ですね。いいでしょう」

今日は3年生が1年生にお手本を示すための合同授業になっていた。男爵令嬢のアイシャ様が高貴族よりも高い魔力を示し一目置かれるイベントだ。

「は、はい。アイシャです。よろしくお願いします」

貴族子息たちに囲まれ緊張したように、アイシャ様が前に出た。

「はい。アイシャ様いつでもいいですよ」

「はい!」

アイシャはそう言って、可愛らしく胸の前で手を組むと、練習場に居合わせた誰もが春の日差しのように温かい風を感じた。そうすると小さな可愛らしい花が練習場に咲き始めたのだ。幻想的な風景にまたもや歓声があたった。

アイシャ様の魔力が高い。その魔力があったからこそ新たな婚約者になれたといってもいい。案の定アイシャ様は魔力を使いすぎたのだろう。

「あ!」

倒れるように身体がよろけると隣にいたヘイル様が抱きしめた。

「アイシャ嬢!」

「これは、魔力を使いすぎたのかもしれませんね。ヘイル殿、そのまま彼女を保健室に連れて行っていただいてもよろしいかな」

「はい・・・」

ヘイル様がアイシャ様を抱きかかえると、アイシャ様は嬉しそうに微笑んだ。騎士を目指して普段から鍛えられているヘイル様にとって、アイシャ様の体重も問題ないようだ。軽々とアイシャ様をお姫様抱っこする姿に女生徒たちが羨ましそうに見送った。

「みなさん、今日の授業はここまでです。騒がず教室に戻ってください」

***

「ココット、今日のヘイル様のイベントが起きたわ」

「お嬢様、まさか予言通りイベントが起きたと?」

「そうよ。アイシャ様が魔力切れを起こしてヘイル様が保健室に連れて行ったわ」

魔力切れを起こすと誰かから魔力をもらわないといけない。恐らくヘイル様はアイシャ様にキスで魔力の譲渡をしたはずだ。

「次は、モンデル先生とのイベントですよね?」

「そうね。モンデル先生が研究で使っている貴重な薬草が枯れ始めているのを嘆いているところに、偶然居合わせたアイシャが光魔法で回復させるのよね」

「私がモンデル先生の部屋を張り込みします。お嬢様は普段通り授業を受けてください」

「ありがとう・・・」

物語の強制力のせいだろうか、ここまで物語通りだと私は卒業パーティーでの断罪を回避できないかもしれない。そう思うと、やっぱり私は雷に打たれて死ぬのだろうかと不安になった。

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