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お嬢様は私が守る
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<ココット視点>
お嬢様はレオ王子と婚約破棄すると確信しているようだけど、幼い頃からレオ王子が大好きなことは私でも知っている。
最近お嬢様は悲しそうな目で笑うようになった。
私が予言を阻止できるのであれば、大切なお嬢様を命を賭けてもお守りしたい。
今日もモンデル先生の研究室の窓の下で、教えられた薬草を観察する。気のせいかもしれないが、薬草が少し元気のないように思う。モンデル先生も不思議そうに薬草を眺めてばかり、何もしない先生に早く改善方法を見つけて欲しいとイライラしてしまった。
「君・・・この部屋が気になるなら、部屋に入るかい?外は寒いだろう」
「ひゃあ!」
イライラしていたせいで窓が開いたのに気づかなかった。
「い、いえ・・・私は・・・その」
「ここ最近、毎日外から部屋を覗いていただろう?」
「そ、そ、そんなことありません。何故私があなたの部屋など・・・覗いたりしていません」
「通報されたくなかったら、お茶を入れてあげるから部屋に入りなさい」
「・・・はい」
どうしてこうなった?
私はモンデル先生の部屋でお茶をいただいている。
「こんなに手が冷たくなって。若いお嬢さんが何時間も外にいては身体に悪い」
お嬢様の情報だと、モンベル先生は30歳だ。薄いダークブラウンの柔らかい髪の毛を無造作に括り、眼鏡をかけているが顔立ちがいいのは隠せていない。大人の落着いた雰囲気に、いつも寝不足なのか気だるそうな横顔は色気すら感じる。
薬草の知識に関してはこの国でも1・2番を争う権威だ。
手を握られ驚いたが、真っ赤になりながら手を引き抜いた。
「すいません・・・」
「私はモンベル・サイモンだ。君の名前は?」
「ココットです・・・」
「可愛い名前だね。さて、君がこの部屋で気にしているのはこの薬草かな」
「ううう」
モンベル先生が薬草の鉢植えを持ってテーブルに着いた。
「なぜ、この薬草が気になるのか教えてもらおうか」
騙せないと観念した私は、一部分だけ正直に話し出した。
「部屋の外を通りかかったところ、この薬草が偶然目に入って。枯れそうだなって思ったら気になって何度も窓から部屋を・・・・」
「・・・・そうか、君も気づいたか。このスカカズラは抗菌作用が強くて蜜も甘いからねポーションの材料にならないか、研究しているが最近枯れてきてね。私も困ってたんだよ」
「あの・・・スカカズラは私の村でもその辺の道端に咲いていましたが、こんなに栄養価の高い土だとかえって枯れるのでは?」
「なるほど・・・栄養価を下げると言う発想はなかったな。ココット君お茶を飲んだら、外に半分鉢を植え替えるのを手伝ってくれるかな」
***
「お嬢様。問題が起きました」
「どうしたの?」
「モンベル先生の部屋を覗いているのが見つかりました」
「えええ!!それで・・・」
「今日から1時間ぐらいでいいので、研究室に毎日手伝いに来るように言われました。もちろん予言のことは言っていませんが」
ココットはクリクリのダークブラウンの髪をツインテールで結び、ぱっちりとしたグリーンの瞳も小さな唇もほんとうに可愛い。もしかしてヒロインのアイシャ様より可愛いのではないかと思う。そのココットがモブなのだ。ヒロインより可愛いモブってとツッコみたくもなる。
「いいことじゃない。どうせ私が授業を受けている間貴方は暇を持て余しているでしょ。だったらモンベル先生をお手伝いしてあげて」
「・・・私なんかで、よろしいのでしょうか?」
「ココットなら大丈夫よ」
お嬢様にいわれて、今日もモンベル先生の研究室に来ている。
研究室に着くと、まず紅茶を淹れる。研究に集中すると食事も水も取るのも忘れるようで、お嬢様の部屋からいただいたお菓子を添えて出すとやっとお腹が空いていたことに気づくのか、照れくさそうにお菓子を食べるのだ。
最近では、研究室にある小さなキッチンで、簡単なサンドウィッチを作ってふたりで食べることもある。モンベル先生から渡された財布を握って市場に食材を買っていると、夫婦みたいで照れくさくなる。
モンベル先生は、いつも「ココット君がいなかったら餓死していたかもしれない」と笑って、私が作った料理を美味しそうに食べてくれるのだ。
研究者という人たちはみんなこんな感じなのだろうか。
研究室で先生が難しそうな本を読んでいる隣で、のんびり1日が過ぎていくのも嫌いじゃない。
外に植え直したスカカズラは、本来の生命力を取り戻したかのように見事な花を咲かせている。
(ここまで元気になればお嬢様に安心していただけるわね)
そんなことを考えながら、モンベル先生の横顔を見つめていた。
「あんまり僕の顔を見つめないでもらえないかな。可愛くってココット君を襲ってしまうかもしれないよ」
「え?あ、じろじろ見てましたか」
「くっく、ココット君は何を考えていたのかな?」
「・・・スカカズラも元気になったし、もう来る必要もないかな・・・と」
「えっ!ココット君は僕のことはどうでもいいの?」
先生が座っている椅子を私の方に向け、そのまま私が座っている椅子を引くと先生に股の間に収まる形になった。余りの近さにびっくりした。
「いや、そういう訳では。食事も水分も取らないモンベル先生が餓死することは心配していますよ」
「では、もう来ないなんて言わないでください」
「でも、私のもやることがありますし。たまに差し入れを持ってくると言うのはどうでしょ?」
「食欲だけなら人を雇います。ココット君、男性にはもうひとつ心配しないといけないことがありますよ。性欲です」
「性欲!・・・・ん、性欲?」
思わず、顔を元に戻すと先生の色っぽい顔が目に前に合って、慌てて顔を背けようとするが顎を掴まれた。
「私が嫌いですか?」
「いえ・・・嫌いでは」
「では、好きですか?」
「す・き・・・?」
「くっく、ではこうされるとどうでしょう?」
なにか温かいものが私の唇にかぶさると、唇から先生の舌が入ってきて口内を刺激する。
「ふあ・・・」
長い口づけが終わると「今、嫌でしたか?」と、熱っぽい瞳で見つめられて、腰が砕けたように先生に寄り掛かった。
「嫌では・・・」
「良かった。僕はココット君が好きです。あなたが入れる紅茶も真面目な性格も、可愛らしい顔も、全部好きです」
***
<モンベル先生視点>
ある日研究室に向かって歩いていると、私の研究室の窓にぶら下がるように中をのぞいている女性がいた。
スパイかとも思ったけど、これだけ素人丸出しだとスパイではないだろう。何が目的かは不明だったが、少し泳がせてみようと気づかないふりをした。
それから毎日、研究室の部屋の窓から中を覗いているが、フラスコや鏡に映っていることには気付いていないのだろう。猫のようにぴょこっと顔をだしては、隠れる。
そんな姿が面白くって『今日は来ないのかな』といつの間にか彼女の訪問を楽しみにしている自分に気づいた。
私は昔からモテる部類のようで、生徒から告白されたり、研究室にいると迫られたりすることが頻繁に起こる。そのせいで女性に対して少々うんざりしていた。若い時は、生徒を誑かしていると言われたこともある。
それからは眼鏡をかけ、髪の毛を無造作に伸ばすようになったが、あまり効果はない。
私に乱暴をされたと訴えた令嬢は、両親を引き連れ『責任を取って娘を嫁にしろ』と怒鳴り込んできたことがある。
「貴方は自分の娘を見て、男が地位も名誉も捨てるほどの美貌だと思うのか」と言うと、黙り込んだ父親を見て令嬢は泣き出してしまった。結局、娘の虚言と納得して帰って行ったが益々女性が嫌になってしまった。
最初は私を覗いているのかと思ったが、彼女の視線はある鉢に向かっている。私にはまったく興味がないと見える。そしたら、急に彼女のことがもっと知りたいと思った。そして2カ月前、何故かうわの空で隠れることも忘れている彼女に声をかけた。
話をしてみると幼いと思っていた彼女は意外と私と年も近く、一緒にいるととてもよく気付く優秀なメイドだと実感した。喉が渇いたなと思えば、そのタイミングでお茶が出てくる。今日は何か食べたっけと考えているとサンドウィッチやクッキーを差し出してくれる。そうするうちに彼女と一緒にいる時間が、とても居心地がいいと思えるようになった。
そして今日、ココットが『もう来なくていいかな』と言い出した。
私は必死になりすぎて「食欲だけなら人を雇います(便利だから一緒にいたいのではない)ココット君、男性にはもうひとつ心配しないといけないことがありますよ。性欲です(貴方が好きだからもっと深くつながりたい。つまり貴方が好きだということ)」と告白した。
自分から告白をしたことはないが、上手く伝わっただろうか。ココットは真っ赤になっていたが、キスをしても怒らなかった。
私にもやっと結婚したい人ができた。
***
<ココット目線>
お嬢様に何と言えばいいのだろう。今日の出来事を思い出すだけで、顔から火が出そうだ。
「お嬢様・・・問題が起きました」
「次は何があったの?」
「モンベル先生から交際を申し込まれました」
「ふっふっふ。ココットは可愛いもの。私もそうなるんじゃないかと思っていたわ」
「でも、私はどうすれば・・・」
「ココットも嫌じゃないでしょ。付き合えばいいのよ」
私はお嬢様を守るためスパイに徹していたはずだ。それか、何故か恋人になったモンベル先生の研究所で過ごしている。先生の話し方が益々甘くなり、時間があれば私を膝にのせてキスばかりしてくるのだ。
今日も研究室で料理をしていると、部屋をノックする音が聞こえた。嫌な予感がして急いで研究室のトイレに隠れた。先生は少し驚いていたけど、何ごともなかったように声をかけた。
「はい。入っていいですよ」
「先生、アイシャです」
「ああ、男爵令嬢のアイシャ様でしたか」
「はい。先生に質問があって・・・あ、この鉢元気がないですね」
アイシャ様が目を向けたのは、スカカズラの鉢だった。先生は実験のため栄養価の高い肥料の鉢を残していたのだ。アイシャが手を伸ばすと、キラキラした光が鉢を包んだ。
「あ、ちょっ・・・」
あっという間に鉢のスカカズラが瑞々しく蘇っていく。
アイシャは上目遣いで「モンベル先生、お礼は結構です。気にしないでください」そう言って部屋を出て行った。
「なんだあれ?」
あれがアイシャ様・・・またもやお嬢様の予言通りになった。私は心臓の音が大きくなった気がした。固まっているとモンベル先生が「ココット!大丈夫か」と心配してくれたようだ。彼の広い胸に顔を埋めていると安心して口を滑らせてしまった。
「モンベル先生・・・・お嬢様が婚約破棄になる」
突然泣き出した私が泣き止むまで、子供をあやすようにトントンと背中を優しく撫でてくれた。
「ココットの知っていることを教えてもらえますか。ひとりで悩む必要はないんですよ。私はきっとココットの役に立てると思いますよ」
ゆっくり自分がレベッカ様のメイドであること、レベッカ様が子供の頃にある予言をしたこと、そしてまたひとつ予言が当たったこと、お嬢様は王子から婚約破棄をされることを話した。
モンベル先生は、予言などという非現実的な話を信じてくれた。そして、アイシャ男爵令嬢も未来が読めるのではないかと言われた。
アイシャ様は突然研究室に訪れ、迷いもなくスカカズラの鉢に向かった。スカカズラのことが最初から分かっていたように。彼の洞察力がなければ考えもしなかった。
「レベッカ様は、未来を変える気はないのですか?」
「私も婚約破棄などして欲しくないです。でも、未来を変えると多くの人が巻き添えになって死んでしまうと言われ、このまま婚約破棄をするのが一番だと」
「・・・ココット。大勢の人の命がかかっているなら、ますます理由を調べないといけません。ココットは、もっと詳しくレベッカ様に聞くことはできますか」
「はい・・・やってみます」
モンベル先生が味方になってくれれば、お嬢様を救えるかもしれない。
***
あと3話で完了です。
※たまに読み直して誤字脱字を修正しています。若干表現を変更しました。
お嬢様はレオ王子と婚約破棄すると確信しているようだけど、幼い頃からレオ王子が大好きなことは私でも知っている。
最近お嬢様は悲しそうな目で笑うようになった。
私が予言を阻止できるのであれば、大切なお嬢様を命を賭けてもお守りしたい。
今日もモンデル先生の研究室の窓の下で、教えられた薬草を観察する。気のせいかもしれないが、薬草が少し元気のないように思う。モンデル先生も不思議そうに薬草を眺めてばかり、何もしない先生に早く改善方法を見つけて欲しいとイライラしてしまった。
「君・・・この部屋が気になるなら、部屋に入るかい?外は寒いだろう」
「ひゃあ!」
イライラしていたせいで窓が開いたのに気づかなかった。
「い、いえ・・・私は・・・その」
「ここ最近、毎日外から部屋を覗いていただろう?」
「そ、そ、そんなことありません。何故私があなたの部屋など・・・覗いたりしていません」
「通報されたくなかったら、お茶を入れてあげるから部屋に入りなさい」
「・・・はい」
どうしてこうなった?
私はモンデル先生の部屋でお茶をいただいている。
「こんなに手が冷たくなって。若いお嬢さんが何時間も外にいては身体に悪い」
お嬢様の情報だと、モンベル先生は30歳だ。薄いダークブラウンの柔らかい髪の毛を無造作に括り、眼鏡をかけているが顔立ちがいいのは隠せていない。大人の落着いた雰囲気に、いつも寝不足なのか気だるそうな横顔は色気すら感じる。
薬草の知識に関してはこの国でも1・2番を争う権威だ。
手を握られ驚いたが、真っ赤になりながら手を引き抜いた。
「すいません・・・」
「私はモンベル・サイモンだ。君の名前は?」
「ココットです・・・」
「可愛い名前だね。さて、君がこの部屋で気にしているのはこの薬草かな」
「ううう」
モンベル先生が薬草の鉢植えを持ってテーブルに着いた。
「なぜ、この薬草が気になるのか教えてもらおうか」
騙せないと観念した私は、一部分だけ正直に話し出した。
「部屋の外を通りかかったところ、この薬草が偶然目に入って。枯れそうだなって思ったら気になって何度も窓から部屋を・・・・」
「・・・・そうか、君も気づいたか。このスカカズラは抗菌作用が強くて蜜も甘いからねポーションの材料にならないか、研究しているが最近枯れてきてね。私も困ってたんだよ」
「あの・・・スカカズラは私の村でもその辺の道端に咲いていましたが、こんなに栄養価の高い土だとかえって枯れるのでは?」
「なるほど・・・栄養価を下げると言う発想はなかったな。ココット君お茶を飲んだら、外に半分鉢を植え替えるのを手伝ってくれるかな」
***
「お嬢様。問題が起きました」
「どうしたの?」
「モンベル先生の部屋を覗いているのが見つかりました」
「えええ!!それで・・・」
「今日から1時間ぐらいでいいので、研究室に毎日手伝いに来るように言われました。もちろん予言のことは言っていませんが」
ココットはクリクリのダークブラウンの髪をツインテールで結び、ぱっちりとしたグリーンの瞳も小さな唇もほんとうに可愛い。もしかしてヒロインのアイシャ様より可愛いのではないかと思う。そのココットがモブなのだ。ヒロインより可愛いモブってとツッコみたくもなる。
「いいことじゃない。どうせ私が授業を受けている間貴方は暇を持て余しているでしょ。だったらモンベル先生をお手伝いしてあげて」
「・・・私なんかで、よろしいのでしょうか?」
「ココットなら大丈夫よ」
お嬢様にいわれて、今日もモンベル先生の研究室に来ている。
研究室に着くと、まず紅茶を淹れる。研究に集中すると食事も水も取るのも忘れるようで、お嬢様の部屋からいただいたお菓子を添えて出すとやっとお腹が空いていたことに気づくのか、照れくさそうにお菓子を食べるのだ。
最近では、研究室にある小さなキッチンで、簡単なサンドウィッチを作ってふたりで食べることもある。モンベル先生から渡された財布を握って市場に食材を買っていると、夫婦みたいで照れくさくなる。
モンベル先生は、いつも「ココット君がいなかったら餓死していたかもしれない」と笑って、私が作った料理を美味しそうに食べてくれるのだ。
研究者という人たちはみんなこんな感じなのだろうか。
研究室で先生が難しそうな本を読んでいる隣で、のんびり1日が過ぎていくのも嫌いじゃない。
外に植え直したスカカズラは、本来の生命力を取り戻したかのように見事な花を咲かせている。
(ここまで元気になればお嬢様に安心していただけるわね)
そんなことを考えながら、モンベル先生の横顔を見つめていた。
「あんまり僕の顔を見つめないでもらえないかな。可愛くってココット君を襲ってしまうかもしれないよ」
「え?あ、じろじろ見てましたか」
「くっく、ココット君は何を考えていたのかな?」
「・・・スカカズラも元気になったし、もう来る必要もないかな・・・と」
「えっ!ココット君は僕のことはどうでもいいの?」
先生が座っている椅子を私の方に向け、そのまま私が座っている椅子を引くと先生に股の間に収まる形になった。余りの近さにびっくりした。
「いや、そういう訳では。食事も水分も取らないモンベル先生が餓死することは心配していますよ」
「では、もう来ないなんて言わないでください」
「でも、私のもやることがありますし。たまに差し入れを持ってくると言うのはどうでしょ?」
「食欲だけなら人を雇います。ココット君、男性にはもうひとつ心配しないといけないことがありますよ。性欲です」
「性欲!・・・・ん、性欲?」
思わず、顔を元に戻すと先生の色っぽい顔が目に前に合って、慌てて顔を背けようとするが顎を掴まれた。
「私が嫌いですか?」
「いえ・・・嫌いでは」
「では、好きですか?」
「す・き・・・?」
「くっく、ではこうされるとどうでしょう?」
なにか温かいものが私の唇にかぶさると、唇から先生の舌が入ってきて口内を刺激する。
「ふあ・・・」
長い口づけが終わると「今、嫌でしたか?」と、熱っぽい瞳で見つめられて、腰が砕けたように先生に寄り掛かった。
「嫌では・・・」
「良かった。僕はココット君が好きです。あなたが入れる紅茶も真面目な性格も、可愛らしい顔も、全部好きです」
***
<モンベル先生視点>
ある日研究室に向かって歩いていると、私の研究室の窓にぶら下がるように中をのぞいている女性がいた。
スパイかとも思ったけど、これだけ素人丸出しだとスパイではないだろう。何が目的かは不明だったが、少し泳がせてみようと気づかないふりをした。
それから毎日、研究室の部屋の窓から中を覗いているが、フラスコや鏡に映っていることには気付いていないのだろう。猫のようにぴょこっと顔をだしては、隠れる。
そんな姿が面白くって『今日は来ないのかな』といつの間にか彼女の訪問を楽しみにしている自分に気づいた。
私は昔からモテる部類のようで、生徒から告白されたり、研究室にいると迫られたりすることが頻繁に起こる。そのせいで女性に対して少々うんざりしていた。若い時は、生徒を誑かしていると言われたこともある。
それからは眼鏡をかけ、髪の毛を無造作に伸ばすようになったが、あまり効果はない。
私に乱暴をされたと訴えた令嬢は、両親を引き連れ『責任を取って娘を嫁にしろ』と怒鳴り込んできたことがある。
「貴方は自分の娘を見て、男が地位も名誉も捨てるほどの美貌だと思うのか」と言うと、黙り込んだ父親を見て令嬢は泣き出してしまった。結局、娘の虚言と納得して帰って行ったが益々女性が嫌になってしまった。
最初は私を覗いているのかと思ったが、彼女の視線はある鉢に向かっている。私にはまったく興味がないと見える。そしたら、急に彼女のことがもっと知りたいと思った。そして2カ月前、何故かうわの空で隠れることも忘れている彼女に声をかけた。
話をしてみると幼いと思っていた彼女は意外と私と年も近く、一緒にいるととてもよく気付く優秀なメイドだと実感した。喉が渇いたなと思えば、そのタイミングでお茶が出てくる。今日は何か食べたっけと考えているとサンドウィッチやクッキーを差し出してくれる。そうするうちに彼女と一緒にいる時間が、とても居心地がいいと思えるようになった。
そして今日、ココットが『もう来なくていいかな』と言い出した。
私は必死になりすぎて「食欲だけなら人を雇います(便利だから一緒にいたいのではない)ココット君、男性にはもうひとつ心配しないといけないことがありますよ。性欲です(貴方が好きだからもっと深くつながりたい。つまり貴方が好きだということ)」と告白した。
自分から告白をしたことはないが、上手く伝わっただろうか。ココットは真っ赤になっていたが、キスをしても怒らなかった。
私にもやっと結婚したい人ができた。
***
<ココット目線>
お嬢様に何と言えばいいのだろう。今日の出来事を思い出すだけで、顔から火が出そうだ。
「お嬢様・・・問題が起きました」
「次は何があったの?」
「モンベル先生から交際を申し込まれました」
「ふっふっふ。ココットは可愛いもの。私もそうなるんじゃないかと思っていたわ」
「でも、私はどうすれば・・・」
「ココットも嫌じゃないでしょ。付き合えばいいのよ」
私はお嬢様を守るためスパイに徹していたはずだ。それか、何故か恋人になったモンベル先生の研究所で過ごしている。先生の話し方が益々甘くなり、時間があれば私を膝にのせてキスばかりしてくるのだ。
今日も研究室で料理をしていると、部屋をノックする音が聞こえた。嫌な予感がして急いで研究室のトイレに隠れた。先生は少し驚いていたけど、何ごともなかったように声をかけた。
「はい。入っていいですよ」
「先生、アイシャです」
「ああ、男爵令嬢のアイシャ様でしたか」
「はい。先生に質問があって・・・あ、この鉢元気がないですね」
アイシャ様が目を向けたのは、スカカズラの鉢だった。先生は実験のため栄養価の高い肥料の鉢を残していたのだ。アイシャが手を伸ばすと、キラキラした光が鉢を包んだ。
「あ、ちょっ・・・」
あっという間に鉢のスカカズラが瑞々しく蘇っていく。
アイシャは上目遣いで「モンベル先生、お礼は結構です。気にしないでください」そう言って部屋を出て行った。
「なんだあれ?」
あれがアイシャ様・・・またもやお嬢様の予言通りになった。私は心臓の音が大きくなった気がした。固まっているとモンベル先生が「ココット!大丈夫か」と心配してくれたようだ。彼の広い胸に顔を埋めていると安心して口を滑らせてしまった。
「モンベル先生・・・・お嬢様が婚約破棄になる」
突然泣き出した私が泣き止むまで、子供をあやすようにトントンと背中を優しく撫でてくれた。
「ココットの知っていることを教えてもらえますか。ひとりで悩む必要はないんですよ。私はきっとココットの役に立てると思いますよ」
ゆっくり自分がレベッカ様のメイドであること、レベッカ様が子供の頃にある予言をしたこと、そしてまたひとつ予言が当たったこと、お嬢様は王子から婚約破棄をされることを話した。
モンベル先生は、予言などという非現実的な話を信じてくれた。そして、アイシャ男爵令嬢も未来が読めるのではないかと言われた。
アイシャ様は突然研究室に訪れ、迷いもなくスカカズラの鉢に向かった。スカカズラのことが最初から分かっていたように。彼の洞察力がなければ考えもしなかった。
「レベッカ様は、未来を変える気はないのですか?」
「私も婚約破棄などして欲しくないです。でも、未来を変えると多くの人が巻き添えになって死んでしまうと言われ、このまま婚約破棄をするのが一番だと」
「・・・ココット。大勢の人の命がかかっているなら、ますます理由を調べないといけません。ココットは、もっと詳しくレベッカ様に聞くことはできますか」
「はい・・・やってみます」
モンベル先生が味方になってくれれば、お嬢様を救えるかもしれない。
***
あと3話で完了です。
※たまに読み直して誤字脱字を修正しています。若干表現を変更しました。
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