鳥居の下で

犬山田朗

文字の大きさ
上 下
4 / 7

詰んだ

しおりを挟む
ラーメンを注文して、お互い、話題が全くないのでそのまま本題に入る。
高富が切り出した。
「椎名が亡くなって、本当にショックだった。俺たちが気付く方法や、助ける方法がなかったのか。学校で改善を常にしている。何が聞きたい?」
紗季が苗字で呼ばれてるのが新鮮だった。
「いじめは判明したんですか?」
「残念だけどまだ…全く見当がつかない。誤解しないでほしいけど、他の先生や友達も真剣に探してる。」
「わかります。そんな奴じゃないんで。」
「俺もそう思う。だからもしかしたら…」
「もしかしたら?」
「正人くん、俺疑ってるだろ?それに近い感じだ。少し当てがある。」
「いつから俺が疑ってると?」
「うちの学校に最初に来た時から何か目的があると思ってた。滝沢と君が会った日、会話を聞いた子が、最低だとか俺に抗議に来た。」
「滝沢って麻実さんですね。先生は誰が怪しいと思ってますか?」
「そう麻実。確信のない事は言えない。でも君が聞いてきたことには最大限協力はする。」
「じゃぁ、あの日何してました?」
「椎名の事件があったころは妹と家にいたよ。」
「適当じゃないでしょうね?」
「本当は警察も事件としても捜査してるんだ。俺は実行不可能だと早々に候補から外れてる。」
「候補にはなったんですね。」
「あぁ。はっきり言うんだな。恥ずかしながら、その点は反省してる。」
「妹以外の家族は何してたんですか?」
「俺は一人暮らし、妹は実家より俺の家の方が駅に近いからたまに寄って、泊っていくこともある。高校生だ。」
「年離れてるんですね。どこの高校ですか?会えますか?」
「西多摩。会うのは勘弁してくれ。十五離れてるよ。かーさんが十代で俺産んで、とーさんと結婚するまで一人で育ててた。」
「立ち入ったことすみません。」
「椎名は妹と雰囲気似てて、調子に乗っていたんだと思う。」
ラーメンが来たがすでに話すことがなくなっていた。気まずくおいしく食べてすぐ帰った。

「なぁ、紗季。あの女子高生は妹だったと思う。ほら、西多摩の制服。これだったろ。」
スマホを見せて言った。
「うーん。妹だったのかぁ」
「でも大人が関わっていることはまず間違いないね。車がないと運べない。」
「他の先生かぁ。誰だったとしてもショックだなぁ。どの先生になんで恨まれたんだろ。」
「高富を好きだった奴は?逆恨みの線でどう?」
「そんな奴いないよ。」
「そこを何とか…」
「いないって、ないない」
主観が入りすぎてて参考にならないなと正人は諦めた。
仮に麻実だったとして、有力かつ唯一の共犯者が消えたのは痛い。警察も動いてて進んでないのに、俺なんかでなんとかなるんだろか。
「紗季が手の付けられない怨霊になる前になんとかしないと。」
「私が怨霊になるって確定事項みたいに言うのやめてくれない?」
「せめて俺だけは襲わないで。」
「なにいってるの、そん時は一番よ。」
「よわったなぁ。」
「だったら体裁だけでも優しくしたほうがいいよ。」
紗季が寝ている時、ふと目がこちらを見ていたことがあった。正人は動けなくなり、冷や汗が運動しているかのように出た。
まだ理性があるようだったが…その目は人間とはかけ離れた、抵抗する気が全く起きない絶望を抱く恐怖を放っていた。紗季には言っていない。

正人は気まずい。母親はよそよそしい。今朝、少し寝坊した正人の様子を見に来た母親は、立って動いている正人と、布団の中で動くなにかをみた。
学校から帰ると、母親のいるリビングで堂々と紗季がテレビを見ている。
「おかえり。」
二人の声がした。
「ただいま。」
「あんたね、これはいけないよ。紗季ちゃんの親に申し訳ない。」
「紗季、何をどう説明したの?」
正人はもう何が何だかわからず、親の前でかまわず説明を乞う。
「みんな死んじゃって、正人しかいないってそのまま説明したよ。」
「そっか、かーさん、そういうことだ。隠しててわるかった。紗季は自分ちだと思って自由にしてて。」
有無を言わさず自分の部屋へ逃げた。
「そろそろ隠すの難しくなってきてたけど、被害は最小限か…良しとするか。」
独り言を繰り返す。
「あぁぁ、きつく言って幽霊特権使わせとけばよかった。もう完全無理じゃん。」
詰んできたことに困っている。
「警察頑張ってよ。紗季が俺殺す前に。頼むよ。」
正人も自分の命は惜しい。他人事とはいかない。いつもの大人びた雰囲気とは違う。
幸い、母親の提案で部屋が別れた。気休めだけど安心して寝られる。
しおりを挟む

処理中です...