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【第十五章】暗闇のハイランダーズ編

15-29【アーティファクトドラゴン】

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「あははははは。貴様がアスラン殿だな!!」

壁を突き破り現れたアーティファクトドラゴンの体内から長槍のパンナコッタの声が聞こえて来る。

青年ぐらいの声だろうか?

テンションが高いな~。

ドラゴンに乗れてアゲアゲですか~。

それにしても何が長槍のパンナコッタだ……。

長槍なんて持ってないじゃあねえか……。

それどころかなんだよ、このドラゴンは……。

ただの鋼鉄の塊じゃあねえぞ。

メタリックカラーでテカテカ光る素材はマジックアイテムだ。

どのような効果が働いているか分からんが、間違いなくヤバイマジックアイテムだろう。

身長15メートルほどで、西洋ドラゴンっぽい洋龍だ。

後ろ足二本で直立している。

背中に開いた大きな羽でバランスを取ってるようだな。

前の手はTレックスのように小さく短いが、長い首からギラ付かせている牙は鋭利で鋭い。

あんなので噛まれたら、即ズダボロのミンチだぜ。

圧倒的な戦力にパンナコッタが増長する。

「あはははは~。この姿を見て驚いたか人間!!」

ドシンドシンと地鳴りを響かせアーティファクトドラゴンが前進して来る。その地鳴りで天井から煤が降ってきた。

「こりゃまたドデカイ物が出てきたな……」

アーティファクトドラゴンの両目が赤く輝いている。それに口から僅かに炎が揺らぎ出ていた。

俺は金属龍を見上げながら推測する。

「このドラゴン、絶対ドラゴンブレスを吐きやがるな……」

あー、やっぱりついてない……。

またファイアーブレスだよ。

とにかく最近はファイアーブレスが多すぎる。マジついてね~……。

俺が僅かに後退するとパンナコッタが余裕の口調で訊いてきた。

「なあ、アスラン殿、少し訊きたい?」

「なんだよ?」

「人間の体は生肉で出来ているのだろう。ならば我々鋼鉄生物とは違い、簡単に燃えてしまうのだろ?」

「ああ、鉄より肉は良く燃えるな……」

「ならば、燃えて塵になってしまえ!!」

言うなりアーティファクトドラゴンが大きく口を開いた。

こちらに向けられた喉の奥で炎が揺れている。

「食らえ、模造ドラゴンブレス!!」

「模造かい!!」

パンナコッタが言うなりアーティファクトドラゴンの口からファイアーブレスが放たれた。

だが俺も残されたスキルを放って回避する。

「ダッシュクラッシャー!!」

低い姿勢で3メートルダッシュした俺はファイアーブレスの下をくぐって前進した。

「更にスライディング!!」

俺はダッシュクラッシャーのフィニッシュブローをスライディングキックに替えると石畳を滑って模造ドラゴンの足元に滑り込む。

「よっ!!」

そして跳ね起きると模造ドラゴンの股間目掛けて左鉄腕のアッパーカットを打ち上げた。

「ゴールデンアイアンアッパーだ!!」

俺が模造ドラゴンの股間をぶん殴るとゴワ~ンっと音が響いた。

「生身の生物じゃああるまいし、金的なんて効くかそんなの!!」

「ですよね~……」

「シュート!!」

模造ドラゴンのサッカーボールキックが俺の身体を蹴り飛ばした。

俺は左の鉄腕を盾にガードしたが大きく後方に飛ばされる。

衝撃が体内に響くがダメージは薄い。

俺は着地すると「ちっ!!」っと舌打ちを溢した。

それにしても凄いパワーだな。

流石は石の壁を破壊しながら登場するだけのことはあるぜ。

「観念して、消し炭になれ!!」

今度は模造ドラゴンが両手を付いて頭を低くした。

地面スレスレの高さでドラゴンブレスを吐く。

「燃やされてたまるか!!」

俺は炎の息をジャンプで躱すと模造ドラゴンに飛び込んだ。

「くらぇぇえええ!!」

俺はファイアーブレスを吐き続ける模造ドラゴンに上空から迫る。

「アイアンハンマーパーーンチ!!」

高さに体重を乗せて振るわれる俺の鉄腕パンチが模造ドラゴンの脳天を打ち殴った。

パンチの衝撃に模造ドラゴンがゴッツイ顎を床に激突させる。

それでファイアーブレスが止まった。

「どうだ、こんにゃろう!!」

「じゃかあしいわ!!」

頭の上に乗る俺を模造ドラゴンが首を振るって落とそうとする。

しかし俺は鱗に掴まって堪えた。

「暴れるな!!」

「掴まるな!!」

俺は暴れる模造ドラゴンの眼中部分に右手を滑り込ませる。

「目潰しだ!!」

「目なんて無いわい!!」

あっ、マジだ、目が無い。

空っぽだ。

あれ、このサイズなら目から中に入れそうだぞ。

「よっと……」

って、ことで俺は瞳部分から模造ドラゴンの体内に忍び込んだ。

「えっ、なに、おまえ。何を入って来てるんだよ!!」

「お邪魔しまーす」

「勝手に人の家に入ってくんなよ。不法侵入だぞ!!」

「関係あるか、ボケ!!」

俺は喉の中を這って進む。

「どうした、ファイアーブレスと一緒に吐き出せばいいだろ!?」

「炎は口の中で精製されるんだ。喉まで進まれたら無理なんだよ!!」

「あっ、こんちわ」

「こ、こんにちわ……って出ていけよ!!」

「やーだーよー」

俺が狭い首から胴体部分に顔を出すと、下の方に台座があり、そこに一本の刀身が刺さっていた。

槍の棒から刀身だけを分離させたパンナコッタの本体だろう。

俺は首の内部から身体を引っこ抜くと胴体部分内に着地する。

「よう、初めまして~」

「は、初めまして……」

「アスランと申します」

「パ、パンナコッタと申します……」

俺は刀身にあるパンナコッタの顔の前に腰かけた。

パンナコッタは顔をヒクヒクと引き吊らせている。

「なあ、訊いていいか?」

「な、なんでしょうか?」

「このアーティファクトドラゴンって飛べるの?」

「い、いえ……。羽は飾りです。ほら、何せ狭いダンジョン内ですからね。飛ぶことまで想定しておりません……」

「へぇ~、そうなんだ~」

俺は薄暗い体内をキョロキョロと見回してからパンナコッタを凝視した。

「それで、お前はこの状況を打開出来る手段はあるのか?」

「鎧はアーティファクトドラゴンを操るのに邪魔になるので置いてきてます……」

「体内の防衛システムは、どうよ?」

「あ、ありません……。まさか侵入されることまで想定してませんでしたから」

「ならば、敗北ですか?」

「敗北ですな……」

よし、観念したぞ。

「なあ、この敗北は良い勉強になっただろ?」

「はい、良き教訓となりました……」

「俺からお前にアドバイスがあるんだが、聞いてみるかい?」

「な、なんで御座いましょう……?」

「お前は戦闘に向いてない。俺は今現在ダンジョンの外で町を作ってる。そこで政治に励んでみないか?」

「町作りの政治ですか!?」

おっ、パンナコッタの目が輝いたぞ。

「町には死霊の大臣ズやガメツイ女医が仕切って奮闘中だ。お前が仲良くやれるなら、ハイランダーズとしてではなく、大臣の一人として雇ってやってもいいぞ」

「本当ですか!!」

「ああ、本当だ」

「でも、私はあなたに牙を剥いた謀反者ですぞ……」

「これは出会いだ。謀反に入らん。それに二度目の裏切りは許さん。それだけだ。──で、どうするよ、パンナコッタ?」

「喜んでお仕えいたします!!」

「よし」

俺が微笑むとパンナコッタも微笑んだ。

本日ハイランダーズと何度か戦って分かったことがある。

こいつらはモンスターなのに、根が悪くない。

こいつらとなら仲間として歩んでいけそうだ。



アスランvs長槍のパンナコッタ。

勝者アスラン。
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