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第一章 であい
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その日は、珍しく雲一つない青く透き通った晴れの日のことでした。
いつものように、本館の図書室の本棚に隠れている隅っこの奥まっているお気に入りの場所で一人静かに座りながら、ルーナが本を読んでいました。
ここは、滅多に人が来ることがなく一人の時間を過ごすことが出来るのです。
足音が聞こえ顔を上げると黒服の修道服を着たシスターが立っていたのでした。
「ルーナ、探しましたよ」
久しぶりに話しかけられ、名前も呼ばれ、そして怖い声色でルーナに話しかけてくるシスターにルーナはびくりとすると出窓ベンチから素早く立ち上がるとシスターにお辞儀をします。
「申し訳ございません、シスター。どのようなご用でございますか?」
ルーナに緊張が走る。
(私が何か問題を起こしたのだろうか。でも心当たりはない)
間を置かずにシスターは続けて話します。
「本当に手間をかけさせないでほしいわ。お前に会いたいと言っている方がいるそうよ」
めんどくささと少しの苛立ちが伝わってくる口調でルーナに用件を伝えます。
ルーナはシスターの「会いたい人がいる」という言葉に戸惑います。
(私に?会いたい人?)
「はい、シスター」
シスターはルーナの方を振り返ると、ルーナを待たず図書室の入口のドアに向かって歩いていきます。
適当に本棚に本を戻すと、急いでシスターの後を追いかけていきます。
ルーナの前を歩いていたシスターは、思い出したようにルーナに言います。
「会う前に物置部屋に着替えがあるからそれに着替えてから会うことになっているから」
図書室を出てから廊下を少し進み、左に曲がると物置部屋があります。
部屋の前に着くとシスターがルーナに言いました。
「早く着替えなさい」
「はい」
部屋に入ると机に広げられた状態のワンピースが置かれており、ルーナの体型にぴったりの大きさで、新品のようでした。
ルーナは小さいワンピースを脱ぐと大きなワンピースに急いで着替えていきます。
着替えている最中もルーナは何故服をわざわざ着替えるのだろうと考えていたのでした。
急いで廊下に出るとシスターは待たずにどんどん歩き出したのでした。
しばらく歩くと渡り廊下があり、そこを通るといつもは足を踏み入れない別館につながっているのでした。
渡り廊下に出ると、遠くで数人のシスターたちがルーナを見ており、歩いているルーナにまで聞こえる声で話しています。
「あんな子のどこが良いのかしら?」
「きっと売られてしまうんだわ」
「誰も貰いたくなんてないわよ」
「物珍しいだけよ」
ルーナは下を向き聞こえないふりをして歩き続けます。
そして何故、着替えたのかということがルーナはシスターたちの会話で確信へと変わったのでした。
私が早くいなくなってくれるために少しでも綺麗にしておこうという考えなのだということに。
しかしルーナも残念ながらシスターたちと同じ考えなのでした。
(こんな物つきがある私に何の用事があるというのだろうか。もしかして、本当にシスターたちが言っていたような、そういうところに連れていかれてしまうのかもしれない)
そんなことを考えているうちに別館に足を踏み入れていたようで、いつもと違う見慣れない景色を歩きながら見渡す。
シスターがある部屋で立ち止まった。
どうやら目的の部屋に着いたようである。
「ここで待っていなさい」
「はい」
いつもの扉とは違う、見慣れない立派な扉があり、シスターがその扉をノックします。
「連れて参りました」
「入ってきなさい」
院長の声が部屋の中からするではありませんか。
シスターは扉の前から退くとルーナに部屋に入るように合図を出します。
ルーナは身なりを整え、ドアノブに手を掛けます。
心の準備も出来ないままここに来てしまったので緊張しているのです。
緊張をどこかへ行かせるためにドアノブを強く握ります。
早く部屋に入るようにシスターが催促してくるのでルーナはようやく部屋の中に入ります。
部屋の中に入ると長いテーブルと数脚の椅子があり、いつもの部屋の内装と少し違うようでした。
院長が手前に立っていて、その中のひとつの椅子に、ひとりの男性が座っていました。
「お待たせいたしました。連れて参りました」
院長はいつもルーナの前では出さない優しい口調でそう告げると、男性は椅子から立ち上がった。
ルーナの前までやって来ると挨拶をしてくれたのでした。
「初めまして、私の名はシャルル・アルジェント」
アルジェントという人はルーナに優しく微笑んでくれて、初めて会ったのに優しい雰囲気が伝わってくる。
年齢はルーナよりも随分上で三十代後半くらいに見える。
顔が細長く、少しふっくらとした体型をしていて、髪は銀色をしており、田舎町にはそぐわない綺麗な格好をしていた。
どうすればよいのか分からないまま、いつもしているようにアルジェントにお辞儀する。
「ルーナ、挨拶は?」
院長に催促され、急いで挨拶をする。
「は、初めまして、ルーナと申します」
緊張してしまい、思わず声が上擦ってしまった。
「ルーナ、素敵な名前をしているね。あまり顔がよく見えないね。顔を見せてくれないか?」
そういうと、アルジェントはルーナの顔にかかった髪を優しく退かそうとしたのでした。
突然のことに驚き反射的に後ずさりをしてしまい隠れていた瞳が見えてしまったのです。
後ろでその様子をみていた院長も驚いた表情をしている。
見られてしまった!ルーナはそう思ったのでした。
ルーナはとっさに左側の瞳を髪の毛で隠し後ろを向いたのでした。
自分自身、心臓が脈打つのが分かりました。
ルーナの怯えた後ろ姿を見てアルジェントは申し訳なさそうに謝ります。
「初めて会ったばかりなのに突然髪の毛を触ろうとしてしまって怖い思いをさせてしまった。軽率な行動だった。すまない許してくれるだろうか」
アルジェントの謝罪の言葉が後ろから聞こえてくるがルーナはどうすれば良いのだろうと思い振り返れずにいた。
その最中でも院長の苛立ちをにじませた視線が顔を見ずとも伝わってくるが、ルーナは答えることが出来ずにいた。
どのくらいの時間が経ったのだろう。
ルーナにとっては何時間にも感じられたし、実際は数分だったのかもしれない。
「ルーナ、こちらを向いてくれないか?」
優しい声色でルーナの名前を呼んでくれている。
決して急かすことなくルーナが振り返ってくれることを待ってくれている。
アルジェントは院長にふたりにしてくれないかと頼むと院長は部屋を出ていったのでした。
しばらくすると、ルーナは意を決してアルジェントの方に振り向いたのでした。
「よかった。こっちを向いてくれた」
アルジェントは安堵の表情をしていました。
ふたりきりになり、ルーナはどうすれば良いのか戸惑ってしまいます。
瞳の事について言ってこないということは見られていなかったのだと少し気持ちが落ち着いた。
「椅子に座ろうか」
アルジェントはルーナを椅子に座るように促してくれた。
アルジェントが椅子に座るとルーナも遅れて座った。
「失礼いたします」
向き合って座り、何を話せばいいのか分からず下を向いてしまう。
机に置いてあるアルジェントのために用意されたカップの飲み物を置いた音がした。
「ルーナ」
「はい」
「改めて私について自己紹介をさせてほしい」
このあとシャルル・アルジェントという人物がどんな人物なのかということを教えてくれた。
ここからずっと南の水の都フルスという場所に住んでおり、仕事は貴族相手に商売をしていて、そこそこよい家柄の出身なのだそう。
そんな彼が、私に出会ったのはパラディース教会ではない別の教会での孤児院の交流会だったという。
私のことを見かけて気になっていたがどんな名前で何処で暮らしているのか分からず、その日は話せずに終わってしまったという。
その後、懸命に私のことを調べて探し出すと、この教会にいることを知ったのだそう。
彼は結婚しておらず独り身だが使用人と共に暮らしているという。
「ルーナ、次は君の事を教えてくれないかな?」
ルーナはゆっくり口を開くと自己紹介を始めた。
「年齢は十五歳で、好きなことは本を読むことでございます」
あとは、何を言えば良いのだろうか。話すことがない。
アルジェントはルーナに質問をする。
「どんな本を読むの?」
「様々なジャンルを読みます」
「そうなんだね」
しばらく他愛のない話をある程度したあとアルジェントは姿勢を正し、真剣な眼差しに変わるのがルーナにもわかった。
「私が今日ここを訪れた理由は君を家族として迎え入れたいと思ったからなんだよ」
さきほどまで彼が言っていたことを簡単に説明すると、里親になってくれるということなのである。
この国では、結婚していなくてもある程度の条件をクリアすれば里親として子供を迎えられるのである。
この制度が使える年齢は十六歳まで、そしてこの教会もこの制度が終わる十六歳までに出ていかなくてはならないのである。
そして私は、今年で十五歳を迎えるため、あと少しでここを出なくてはいけないのである。
当てがなければ、奴隷として売られるか、もしくは好意を寄せてもいない年上の人の家に奴隷同然の扱いを受けるか。
どちらに転んでも幸せになれず辛い日々が待っているのである。
だから、これが最後の機会かもしれない、色んな場所を転々としてきた私に『家族になりたい』と言ってくれた。
「急がなくていい、ゆっくり考えてくれていい」
「分かりました」
「あ、最後に名前を呼んでくれないか?」
ルーナはおそるおそる名前を呼んだ。
「アルジェント様」
初めての面会はこれで終わったのだった。
次の週、今日のルーナは祈りを終えると誰もいない中庭まで歩いていきベンチに座り考えていたのでした。
花壇には、綺麗な花が咲いており、風で花が揺れています。
ルーナは悩んでいた。
この瞳をまだしっかりとアルジェントに見せられずにいたのだった。
私たちが住むこの世界の人々の瞳は、緑の瞳が多く、青の瞳は珍しかった。
そんな私は左右で瞳の色が違い、左目が青色、右目が緑色をしているのである。
そのため、関わる人は私の瞳を見ると気味悪がり、恐れられ、蔑まれてきた。
ルーナは、瞳を閉じてあの日々の出来事を思い出していた。
それはルーナにとって忘れたい記憶。
最初は好奇心で近寄ってくるが、何かがあるたびにルーナの瞳のせいにされてきたのであった。
「ルーナが瞳で呪いをかけたんだ。だって、瞳の色が青いなんておかしいよー」
「見てみて、あの子のあの瞳の色、何かに呪われているみたい」
「本当だわ、何故青い瞳をしているの?変よね……」
ルーナに浴びせられる数々の言葉たちの棘がルーナに突き刺さる。
ルーナは瞳を開ける。
遠くでルーナの名前を呼ぶ声がするが、気のせいではない。
いつもは呼ばれない名前を呼んでくれる人、それは、アルジェント様だ。
「ルーナ」
(アルジェント様が来てくれた)
ベンチから立ち上がると、強い風が吹きルーナの長く美しい黒髪を揺らすのでした。
あの日の突然の訪問以降、何度か教会を訪れるようになっていたアルジェント。
ルーナはいつしか呼び方がアルジェント様からシャルル様に変わっていた。
最初は、呼び慣れずにいたのだが名前を呼ぶにつれて慣れ始めていたのであった。
今日は、あの日初めてあったあの部屋で会うことになったのでした。
「シャルル様は以前顔を見せてほしいとおっしゃていました」
「そうだね」
「今日は、私の隠していたことを見てほしいのです」
「分かった。見せてくれるかい?」
ルーナは、椅子から立ち上がるとシャルルの近くまでやって来るとシャルルはルーナの方にからだを向けます。
ルーナは深呼吸をします。
「驚かないでください」
前置きを済ませましたが、なかなか髪の毛を退かすことが出来ません。
「ゆっくりでいいよ」
頭の中では失望されないだろうか、家族になることを止めてしまわないか、そんなことばかりが頭を過った。
ルーナは勢い良く髪の毛を退かした。
「ルーナ、君の瞳は綺麗な色をしているね」
最初にシャルル様が言ってくれた言葉は私の予想を越える言葉だった。
優しそうなそのシャルルの顔を見て、ルーナにとって生まれて始めての感覚に襲われる。
ルーナは自分でも気づかないうち泣いていることに気づいた。
シャルル様が驚いてあたふたしている。
そしてルーナは決意するのです。
彼になら私の残りの人生を賭けてもいいと思えた。
私、決めた。
私は彼の家族になりたい。
彼を信じても良いと思えた。
明確な確信はないけれど、この選択は間違いじゃないと思える。
「シャルル様」
「どうしたルーナ」
「私は、シャルル様と家族になりたいです」
突然の申し出に目が飛び出そうになっているシャルルを横目に嬉しいその気持ちがルーナの心を包んでいたのでした。
やっと、やっとこの孤独から抜け出せるのだと思うと何とも言えない気持ちになる。
シャルル様は喜んでくれた。
「また来るよ。ルーナ」
「はい、またいらっしゃるのをお待ちしておりますね。シャルル様」
そうシャルルに告げると、シャルルは馬車に乗り込む。
ルーナはシャルルの瞳を見て名前を始めて呼ぶことが出来た。
何と表現すれば良いのか、恥ずかしいような嬉しいようなその感情が全部詰まっているように感じる。
ルーナはシャルルの乗る馬車を小さくなるまで見送ったのであった。
その日の夜、そわそわして眠れずにいたのでした。
それは、隠し続けてきた瞳を見せたからなのかどうかは分からない。
あの日初めてあった日シャルル様に対する印象は良いものではなくなってしまった。
シャルル様は私に少しずつ近づいてきてくれた。
私が心を開いてくれるようにと。
そんなことしてくれる大人は今までいなかった。
それだけが理由ではないけれど家族になるということが夢じゃないそれだけで私は幸せだ。
いつものように、本館の図書室の本棚に隠れている隅っこの奥まっているお気に入りの場所で一人静かに座りながら、ルーナが本を読んでいました。
ここは、滅多に人が来ることがなく一人の時間を過ごすことが出来るのです。
足音が聞こえ顔を上げると黒服の修道服を着たシスターが立っていたのでした。
「ルーナ、探しましたよ」
久しぶりに話しかけられ、名前も呼ばれ、そして怖い声色でルーナに話しかけてくるシスターにルーナはびくりとすると出窓ベンチから素早く立ち上がるとシスターにお辞儀をします。
「申し訳ございません、シスター。どのようなご用でございますか?」
ルーナに緊張が走る。
(私が何か問題を起こしたのだろうか。でも心当たりはない)
間を置かずにシスターは続けて話します。
「本当に手間をかけさせないでほしいわ。お前に会いたいと言っている方がいるそうよ」
めんどくささと少しの苛立ちが伝わってくる口調でルーナに用件を伝えます。
ルーナはシスターの「会いたい人がいる」という言葉に戸惑います。
(私に?会いたい人?)
「はい、シスター」
シスターはルーナの方を振り返ると、ルーナを待たず図書室の入口のドアに向かって歩いていきます。
適当に本棚に本を戻すと、急いでシスターの後を追いかけていきます。
ルーナの前を歩いていたシスターは、思い出したようにルーナに言います。
「会う前に物置部屋に着替えがあるからそれに着替えてから会うことになっているから」
図書室を出てから廊下を少し進み、左に曲がると物置部屋があります。
部屋の前に着くとシスターがルーナに言いました。
「早く着替えなさい」
「はい」
部屋に入ると机に広げられた状態のワンピースが置かれており、ルーナの体型にぴったりの大きさで、新品のようでした。
ルーナは小さいワンピースを脱ぐと大きなワンピースに急いで着替えていきます。
着替えている最中もルーナは何故服をわざわざ着替えるのだろうと考えていたのでした。
急いで廊下に出るとシスターは待たずにどんどん歩き出したのでした。
しばらく歩くと渡り廊下があり、そこを通るといつもは足を踏み入れない別館につながっているのでした。
渡り廊下に出ると、遠くで数人のシスターたちがルーナを見ており、歩いているルーナにまで聞こえる声で話しています。
「あんな子のどこが良いのかしら?」
「きっと売られてしまうんだわ」
「誰も貰いたくなんてないわよ」
「物珍しいだけよ」
ルーナは下を向き聞こえないふりをして歩き続けます。
そして何故、着替えたのかということがルーナはシスターたちの会話で確信へと変わったのでした。
私が早くいなくなってくれるために少しでも綺麗にしておこうという考えなのだということに。
しかしルーナも残念ながらシスターたちと同じ考えなのでした。
(こんな物つきがある私に何の用事があるというのだろうか。もしかして、本当にシスターたちが言っていたような、そういうところに連れていかれてしまうのかもしれない)
そんなことを考えているうちに別館に足を踏み入れていたようで、いつもと違う見慣れない景色を歩きながら見渡す。
シスターがある部屋で立ち止まった。
どうやら目的の部屋に着いたようである。
「ここで待っていなさい」
「はい」
いつもの扉とは違う、見慣れない立派な扉があり、シスターがその扉をノックします。
「連れて参りました」
「入ってきなさい」
院長の声が部屋の中からするではありませんか。
シスターは扉の前から退くとルーナに部屋に入るように合図を出します。
ルーナは身なりを整え、ドアノブに手を掛けます。
心の準備も出来ないままここに来てしまったので緊張しているのです。
緊張をどこかへ行かせるためにドアノブを強く握ります。
早く部屋に入るようにシスターが催促してくるのでルーナはようやく部屋の中に入ります。
部屋の中に入ると長いテーブルと数脚の椅子があり、いつもの部屋の内装と少し違うようでした。
院長が手前に立っていて、その中のひとつの椅子に、ひとりの男性が座っていました。
「お待たせいたしました。連れて参りました」
院長はいつもルーナの前では出さない優しい口調でそう告げると、男性は椅子から立ち上がった。
ルーナの前までやって来ると挨拶をしてくれたのでした。
「初めまして、私の名はシャルル・アルジェント」
アルジェントという人はルーナに優しく微笑んでくれて、初めて会ったのに優しい雰囲気が伝わってくる。
年齢はルーナよりも随分上で三十代後半くらいに見える。
顔が細長く、少しふっくらとした体型をしていて、髪は銀色をしており、田舎町にはそぐわない綺麗な格好をしていた。
どうすればよいのか分からないまま、いつもしているようにアルジェントにお辞儀する。
「ルーナ、挨拶は?」
院長に催促され、急いで挨拶をする。
「は、初めまして、ルーナと申します」
緊張してしまい、思わず声が上擦ってしまった。
「ルーナ、素敵な名前をしているね。あまり顔がよく見えないね。顔を見せてくれないか?」
そういうと、アルジェントはルーナの顔にかかった髪を優しく退かそうとしたのでした。
突然のことに驚き反射的に後ずさりをしてしまい隠れていた瞳が見えてしまったのです。
後ろでその様子をみていた院長も驚いた表情をしている。
見られてしまった!ルーナはそう思ったのでした。
ルーナはとっさに左側の瞳を髪の毛で隠し後ろを向いたのでした。
自分自身、心臓が脈打つのが分かりました。
ルーナの怯えた後ろ姿を見てアルジェントは申し訳なさそうに謝ります。
「初めて会ったばかりなのに突然髪の毛を触ろうとしてしまって怖い思いをさせてしまった。軽率な行動だった。すまない許してくれるだろうか」
アルジェントの謝罪の言葉が後ろから聞こえてくるがルーナはどうすれば良いのだろうと思い振り返れずにいた。
その最中でも院長の苛立ちをにじませた視線が顔を見ずとも伝わってくるが、ルーナは答えることが出来ずにいた。
どのくらいの時間が経ったのだろう。
ルーナにとっては何時間にも感じられたし、実際は数分だったのかもしれない。
「ルーナ、こちらを向いてくれないか?」
優しい声色でルーナの名前を呼んでくれている。
決して急かすことなくルーナが振り返ってくれることを待ってくれている。
アルジェントは院長にふたりにしてくれないかと頼むと院長は部屋を出ていったのでした。
しばらくすると、ルーナは意を決してアルジェントの方に振り向いたのでした。
「よかった。こっちを向いてくれた」
アルジェントは安堵の表情をしていました。
ふたりきりになり、ルーナはどうすれば良いのか戸惑ってしまいます。
瞳の事について言ってこないということは見られていなかったのだと少し気持ちが落ち着いた。
「椅子に座ろうか」
アルジェントはルーナを椅子に座るように促してくれた。
アルジェントが椅子に座るとルーナも遅れて座った。
「失礼いたします」
向き合って座り、何を話せばいいのか分からず下を向いてしまう。
机に置いてあるアルジェントのために用意されたカップの飲み物を置いた音がした。
「ルーナ」
「はい」
「改めて私について自己紹介をさせてほしい」
このあとシャルル・アルジェントという人物がどんな人物なのかということを教えてくれた。
ここからずっと南の水の都フルスという場所に住んでおり、仕事は貴族相手に商売をしていて、そこそこよい家柄の出身なのだそう。
そんな彼が、私に出会ったのはパラディース教会ではない別の教会での孤児院の交流会だったという。
私のことを見かけて気になっていたがどんな名前で何処で暮らしているのか分からず、その日は話せずに終わってしまったという。
その後、懸命に私のことを調べて探し出すと、この教会にいることを知ったのだそう。
彼は結婚しておらず独り身だが使用人と共に暮らしているという。
「ルーナ、次は君の事を教えてくれないかな?」
ルーナはゆっくり口を開くと自己紹介を始めた。
「年齢は十五歳で、好きなことは本を読むことでございます」
あとは、何を言えば良いのだろうか。話すことがない。
アルジェントはルーナに質問をする。
「どんな本を読むの?」
「様々なジャンルを読みます」
「そうなんだね」
しばらく他愛のない話をある程度したあとアルジェントは姿勢を正し、真剣な眼差しに変わるのがルーナにもわかった。
「私が今日ここを訪れた理由は君を家族として迎え入れたいと思ったからなんだよ」
さきほどまで彼が言っていたことを簡単に説明すると、里親になってくれるということなのである。
この国では、結婚していなくてもある程度の条件をクリアすれば里親として子供を迎えられるのである。
この制度が使える年齢は十六歳まで、そしてこの教会もこの制度が終わる十六歳までに出ていかなくてはならないのである。
そして私は、今年で十五歳を迎えるため、あと少しでここを出なくてはいけないのである。
当てがなければ、奴隷として売られるか、もしくは好意を寄せてもいない年上の人の家に奴隷同然の扱いを受けるか。
どちらに転んでも幸せになれず辛い日々が待っているのである。
だから、これが最後の機会かもしれない、色んな場所を転々としてきた私に『家族になりたい』と言ってくれた。
「急がなくていい、ゆっくり考えてくれていい」
「分かりました」
「あ、最後に名前を呼んでくれないか?」
ルーナはおそるおそる名前を呼んだ。
「アルジェント様」
初めての面会はこれで終わったのだった。
次の週、今日のルーナは祈りを終えると誰もいない中庭まで歩いていきベンチに座り考えていたのでした。
花壇には、綺麗な花が咲いており、風で花が揺れています。
ルーナは悩んでいた。
この瞳をまだしっかりとアルジェントに見せられずにいたのだった。
私たちが住むこの世界の人々の瞳は、緑の瞳が多く、青の瞳は珍しかった。
そんな私は左右で瞳の色が違い、左目が青色、右目が緑色をしているのである。
そのため、関わる人は私の瞳を見ると気味悪がり、恐れられ、蔑まれてきた。
ルーナは、瞳を閉じてあの日々の出来事を思い出していた。
それはルーナにとって忘れたい記憶。
最初は好奇心で近寄ってくるが、何かがあるたびにルーナの瞳のせいにされてきたのであった。
「ルーナが瞳で呪いをかけたんだ。だって、瞳の色が青いなんておかしいよー」
「見てみて、あの子のあの瞳の色、何かに呪われているみたい」
「本当だわ、何故青い瞳をしているの?変よね……」
ルーナに浴びせられる数々の言葉たちの棘がルーナに突き刺さる。
ルーナは瞳を開ける。
遠くでルーナの名前を呼ぶ声がするが、気のせいではない。
いつもは呼ばれない名前を呼んでくれる人、それは、アルジェント様だ。
「ルーナ」
(アルジェント様が来てくれた)
ベンチから立ち上がると、強い風が吹きルーナの長く美しい黒髪を揺らすのでした。
あの日の突然の訪問以降、何度か教会を訪れるようになっていたアルジェント。
ルーナはいつしか呼び方がアルジェント様からシャルル様に変わっていた。
最初は、呼び慣れずにいたのだが名前を呼ぶにつれて慣れ始めていたのであった。
今日は、あの日初めてあったあの部屋で会うことになったのでした。
「シャルル様は以前顔を見せてほしいとおっしゃていました」
「そうだね」
「今日は、私の隠していたことを見てほしいのです」
「分かった。見せてくれるかい?」
ルーナは、椅子から立ち上がるとシャルルの近くまでやって来るとシャルルはルーナの方にからだを向けます。
ルーナは深呼吸をします。
「驚かないでください」
前置きを済ませましたが、なかなか髪の毛を退かすことが出来ません。
「ゆっくりでいいよ」
頭の中では失望されないだろうか、家族になることを止めてしまわないか、そんなことばかりが頭を過った。
ルーナは勢い良く髪の毛を退かした。
「ルーナ、君の瞳は綺麗な色をしているね」
最初にシャルル様が言ってくれた言葉は私の予想を越える言葉だった。
優しそうなそのシャルルの顔を見て、ルーナにとって生まれて始めての感覚に襲われる。
ルーナは自分でも気づかないうち泣いていることに気づいた。
シャルル様が驚いてあたふたしている。
そしてルーナは決意するのです。
彼になら私の残りの人生を賭けてもいいと思えた。
私、決めた。
私は彼の家族になりたい。
彼を信じても良いと思えた。
明確な確信はないけれど、この選択は間違いじゃないと思える。
「シャルル様」
「どうしたルーナ」
「私は、シャルル様と家族になりたいです」
突然の申し出に目が飛び出そうになっているシャルルを横目に嬉しいその気持ちがルーナの心を包んでいたのでした。
やっと、やっとこの孤独から抜け出せるのだと思うと何とも言えない気持ちになる。
シャルル様は喜んでくれた。
「また来るよ。ルーナ」
「はい、またいらっしゃるのをお待ちしておりますね。シャルル様」
そうシャルルに告げると、シャルルは馬車に乗り込む。
ルーナはシャルルの瞳を見て名前を始めて呼ぶことが出来た。
何と表現すれば良いのか、恥ずかしいような嬉しいようなその感情が全部詰まっているように感じる。
ルーナはシャルルの乗る馬車を小さくなるまで見送ったのであった。
その日の夜、そわそわして眠れずにいたのでした。
それは、隠し続けてきた瞳を見せたからなのかどうかは分からない。
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シャルル様は私に少しずつ近づいてきてくれた。
私が心を開いてくれるようにと。
そんなことしてくれる大人は今までいなかった。
それだけが理由ではないけれど家族になるということが夢じゃないそれだけで私は幸せだ。
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ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳
ロミオ王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
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