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しおりを挟む「嫌よ。絶対、王都になんか行かないわ。」
「そんなこと言って。ニーラだって結婚したのよ?あなたもそろそろ考えなきゃ。」
久しぶりに領地に帰ってきたお姉様は、自分がいる間になんとしても頷かせたいらしい。ここのところ、毎日私の部屋へやって来ていた。
「領地内でいい人を見つけるじゃダメなの?」
「あなた、何年ここにいたと思ってるの?」
「その気じゃなかっただけよ。」
「その気じゃなくても、いい人に出逢ったらわかるものよ。」
お姉様は美人だし、要領もいい。チヤホヤされてきたから、何も気にしなくても恋愛ができたかもしれない。でも私は華がないし、存在感もない。着飾ったら服に着られるような女なのよ?
「…今時、結婚しなくても生きていけるわ。」
「ええ、そうね。でもそれは、手に職がある人が言うの。スミレは勉強が得意じゃないから先生は無理だろうし、人見知りだから接客もできないじゃない。」
「ソフィアおばさんのところでパンを焼くわ。おばさんもいつでもおいでって言ってたもの。」
「パン屋さんが何時から働いてるか知ってる?朝がとても早いのよ?あなた、朝が弱いじゃない。」
「…否定ばかりしないでよ。」
みんなに心配をかけているのはわかっている。でも私が王都に行きたくない理由を作ったのは、他でもない家族なのよ。
…みんなもそれがわかってるから、今まで好きにさせてくれてたのもわかってるけど。
「もうすぐルウトが10歳になるでしょう?弟に迷惑をかけることになるのよ?」
わかってるわ。10歳になれば、次期当主として本格的に教育を受けることになる。そうなれば、私の存在は邪魔よね。
“元”次期当主だった私の存在は。
ルウトのことは愛しているし可愛いと思ってる。でもそれとは別で、人生の半分を次期当主として生きた私だって思うところはある。
10歳の時、弟の誕生により突然終わった当主としての教育。それから始まった令嬢教育に戸惑った。そして、納得がいかなかった。
あれからもう約10年。
確かに、立ち直るには十分な時間だろう。
それでも私は、まだ自分の新たな道を見つかられずにいる。
幼い頃に剣を握り、他の令嬢とは別の学をつけて育った私。案の定、他のお淑やかなご令嬢と趣味が合わなかった。
10歳までにできた友だちは、男の子ばかり。令嬢として生きることになった私が今までと同じように接すると、はしたないと罵られる対象になった。
そんな私が唯一仲良くしていた令嬢がニーラだ。
ニーラは私が当主教育を受けているときから仲良くしていた。
さっぱりした性格で、私が体を動かしたいと言っても理解してくれる。そして、乗馬くらいなら付き合ってくれる。…私はそれに加えて狩りや釣りもしていたけど。
「これから手に職をつけるじゃダメなの?」
「悪くはないけど、それはあなたが本当にしたいこと?」
そう言われては、何も言えない。
「それに、王都に行けばあの騎士様にも会えるかもしれないわよ?まだ、お礼を言えていないんでしょう?」
それは、確かに。
1年前、この近くでダンジョンが誕生した。
ダンジョンは突然現れる。そして、突然消える。
まだわからないことが多くて、研究が続けられているが不確定要素ばかりで進んでいない。
わかっている情報の1つとして、ダンジョンが出来てすぐは魔物が大量発生するということ。
安定すれば、魔物はダンジョンから出てくることはまずない。しかし、出来てすぐは生息地争いに敗れた多くの魔物がダンジョンから出てくる、と言われている。
安定してしまえば、冒険者がやってくるので領地が潤う。問題は安定するまでだ。
そのダンジョンが1年前にできたことで、当時は魔物退治に皆が追われていた。男は実際に現場で退治を、女性はそれを手伝うために怪我した者の手当てや炊事などを行っていた。
ここ数年の中でも大きなダンジョンだったため、少々手こずり負傷者が多く出た。しかし、甲冑の騎士のおかげで死者は出なかった。
甲冑の騎士は王都で第二騎士団に所属しているらしい。あまりの大きさに、こちらに応援に来てくれたというわけだ。
彼はダンジョンが落ち着いたのを確認して、王都へ戻っていった。私はその間、寝込んでいたので会えていない。
「その人には、ちょっと会いたいかも。」
「でしょう?毎日、夜会に出ろと言ってるわけじゃないの。王都でも数年暮らしてみよう?結婚じゃなくてもいい。やりたいことが見つかるかもしれないじゃない。それでも領地で暮らしたいとなれば、私ももうとやかく言わないわ。」
「わかった。ありがとう、お姉様。」
そうして、私の王都行きが決まった。
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