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しおりを挟む私が甲冑の騎士と出会ったのも、ダンジョンが発生した1年前。
「スミレ!こっちも手伝って!」
「はーい!」
私は負傷した人の対応に追われていた。
思っていたより大きなダンジョンが出来たこと、王都から少し離れていることから応援が遅れていた影響で、農民などの普段武器を持たない人たちも駆り出されていた。
もちろん、そういった人たちは最前線では戦わない。現場の中でもより安全なところに配置されていた。それでもやはり、負傷した者が増えていた。
それでもここは、騎士の家系が治める領地。最前線の人数は少なくても、1人10人のほどの働きをしているらしい。その剣捌きを近くで見た者たちは、感動していた。流石だと褒め称えていた。
彼らのおかげで、私たちがいるところにまで魔物が来ることはなかった。
あと、何日こんな日が続くんだろう。
日に日に増えていく負傷者。
実物を見ていないから、“大きい”ということしか情報がないダンジョン。
私だって剣術使えるのに、こんなところにいていいのかしら?
そんな気持ちも、日に日に大きくなっていった。
死者が出ていないとはいえ、背中に大きな傷を負った者や脚の腱が切れた者などの重傷者が増えているのも事実だ。見ているだけは歯痒い。
「スミレもどこかで休憩を取りなさい。無茶して倒れたら、要看護者が増えるだけだ。」
「…は、お父様。」
お父様は領主様の左腕。現場にはあえて出向かず、基地で指示を出していた。
剣術ができないわけではないが、筋肉馬鹿が多いこの領地では頭脳派として仕事をしている。ちなみに、領主の右腕は領主夫人だ。
「ねぇ、お父様。」
「なんだい?」
「私も、討伐に行っちゃダメかな?」
「ダメだね。」
私が言うことをわかっていたのだろう。こちらも見ずに即答された。
「なんでですか?武器を持ったこともない農民でも戦っています。私は!剣を習っていたじゃありませんか!」
「…ここだって何かあったら守らないと行けない場所だろう。」
「この1週間程、ここに魔物は1度も来なかったわ。」
「その油断が危ないと言ってるんだ。」
普段優しい父は、こういったときは頑固だ。でも、私は父の娘。こういうところが似てると言われる。
「わかりました。今回行かせてくれたら、もう剣を握りたいなどと我儘は言いません。これで最後です。」
この先の約束なんて、普段ならしない。でもそれくらい、今回は見ていられなかった。
「お願いです。」
「…わかった。」
「あなた!待ってください!この子は女の子です。何かあったらどうするんですか?!」
お母様が私たちの話を聞いていたらしい。まぁ、結構大きな声で話していたから当然だ。
「お母様、邪魔しないでください。」
「いいえ、させてもらうわ。一生残る傷が出来たらどうするの?」
「今、そんなこと言ってる場合?」
お母様が心配してくれてるのはわかってる。でもここ数年、何も役に立てていなかった私が役に立てる時が来たのだ。指を咥えて待ってるだけじゃ満足できない。
「お願い。もう狩りもしないわ。令嬢らしくする。」
「……カサメ、無駄だよ。」
「っんもう!誰に似て頑固なんだか。」
ごめんなさい。他の令嬢なら、こんな我儘言わなかっただろう。
お転婆でごめんなさい。心配かけてごめんなさい。
でも、私は一生残る傷が出来ても同じ選択をするわ。
そうして、次の日から私は討伐に参加することになった。
お母様の条件でお父様もついてくることになった。そして、前線から3番目の班で戦うことに。
お転婆娘といじられながらも、2日間ほどは何事もなくうまくいっていた。
班の連携も取れていたし、みんなかすり傷程度で済んでいた。
問題が起きたのは3日目。
安定に近づいて、魔物も少なくなったことで皆が油断していた。
それは、陣地で昼食をとっていた時だった。
「お父様もどうぞ。」
私は食事を配っていた。
大事なことなので言っておくと、食事は私は作っていない、料理は苦手だ。
作ってくれたのはお父様の部下の方だ。私は1番下っ端だったので、せめてそれを手伝おうと周りをウロチョロしていた。
「ありがとう。」
この時はまだ、私たちはいつものように非日常ながらも平和に終わると思っていた。
ガサガサ。
最初に聞こえた時は、音が小さくて空耳かと思った。
「マトロさんのご飯、とっても美味しいです。」
「そう?お口に合ったようでよかったよ。」
ガサゴソガサ。
「ん?何か聞こえました?」
「聞こえたな。スミレたちはここにいなさい。ちょっと見てくる。」
「わかった。」
お父様は音が聞こえた方へ様子を見に行った。
「音が小さかったから、小型の魔物かもしれないね。」
一緒にこの場に残ったマトロさんと食事をしつつ、周囲を警戒していた。
ガサガサガサッ!
マトロさんの後ろ側、予想通りに小さな魔物が飛び出してきた。
シュッ!
小さな魔物でも、背後をとられると危ない。
私は咄嗟にマトロさんをかばって剣を振るった。しかし、少し距離が足らなかった。剣先が子熊の腕を擦り、血が垂れた。
「子熊の魔物みたいですね。」
体制を立て直したマトロさんに子熊を任せ、発煙筒に火をつけた。
父たちに戻ってきてもらうためだ。
子熊だけならマトロさんだけで倒せるだろう。
音の原因がわかったなら、わざわざ班がバラバラになることはない。班行動にも意味があるのだ。
「スミレッ!!」
「あ、お父様。」
「後ろ!」
「え…。」
父からの警告と共に背後からさっきを感じて、振り返ると同時に剣を振るった。
しかし。
ガキンッ!
あたりどころが悪く、熊の鋭い爪に剣が折れてしまった。
「スミレッ!!!」
先程の子熊の親だろうか。
近すぎて、もう避けることもできない。
そうして、死を覚悟した私を助けてくれたのが甲冑の騎士だった。
名も名乗らず去ったという騎士。
私以外にもたくさんの人を助け、私が意識を失っていた数日の間に王都へ帰ってしまったという。目を覚ました私は噂でしか彼のことを知れず、お礼を言うにも彼が第二騎士団に所属していること以外わからない。だから、誰に宛てて出せばいいのかもわからない。
家族は顔を見ただろうと聞いてみたが、誰も見ていないの一点張りで答えてくれなかった。
そのうち私は、甲冑の騎士の迷惑になるかもしれないと思って彼の情報を集めるのをやめてしまった。
そうして諦めた甲冑の騎士に、会えるかもしれない。
会わない・考えない、そう考えるほど気になるというもの。それまでに聞いた、紳士的な振る舞いを何度も思い返した。
彼を悪く言う人は、この街に誰一人としていない。それがどれだけすごいことか。
段々、彼は私の憧れの人へと昇格していった。
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