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しおりを挟む我が家は王都でも外れたところにあるため、馬車で時間ほどかかる。つまりその間、狭い馬車の中で彼と二人きりということだ。何かされるのではと思ったけど、楽しく思い出話をしただけだった。
「着いたみたいだ。」
先に降りて差し出される手。
「どうした?ほら、どうぞ。」
あぁ、慣れてる。こんなことをサラリとしちゃう人なんだ。…王都の人はみんなこうなのかしら。だとしたら、私はすぐに領地に戻ることになりそうね。
「ありがとう。」
それでも、私のデビューに協力してくれる人なんだから感謝しないと。
本音を言うと、ここで運命の出会いが!とかちょっと期待してたけど彼とならそんなことも起きないわよね。
中に入ってすぐ、ざわざわヒソヒソと私たちのことを話されている。
そりゃ、見たこともない女がこんなイケメン連れてたら噂話でもしたくなるよね。わかります。しかも、こんな幸薄そうなハズレくじみたいなのが一緒なんだもん。
あぁ、嫌だ嫌だ。リート連れてたら、私の出会いのチャンスが減っちゃうわ。
「よぉ、リイト。あ…そうだ。今日はツレがいたんだったな。こんばんは。」
「ロード」
「睨むな。挨拶したら行くから。マナーくらい守らせろ。」
リートに声をかけてきたのは、濃い茶色にピンク色の瞳を持つ青年。毛先は少しクルンとしていて可愛い。
まぁ、こんなチャラい人は圏外だけど。
「初めまして。俺はリイトと同じ、第二騎士団に所属してます。ロード・スカニエルです。よろしくね。」
手を差し出されたので、挨拶かと思い手を出した。
バシッ!
「痛ッ!」
あまりの速さにちゃんと見えなかったが、どうやらリートは手を払った様子。
「なんだよ、減るもんじゃないだろ。そもそも挨拶だから!」
「減る。」
ガルルと威嚇する大型犬をよしよしと宥める。
「リイトの幼馴染のスミレ・エトノシカです。」
「うん、噂の幼馴染ちゃんね。」
「噂?」
「いった!」
ロードさんが脛をさすっている。またリートが何かしたんだろう。
「これ以上、アザができたら困る。じゃあね、また。」
「…またがあると思うな。」
「はいはい。」
ロードさんが去っていくのを見ていると、スッとリートが視界を遮ってきた。
「喉乾いてないか?」
ニコッと音が鳴りそうな顔。
「そうだね、少しもらおうかな。」
「そうしよう。挨拶はもう少し後だから。待ってて。」
頭をポンポンと優しく叩くと、リートは飲み物を取りに行ってくれた。
そこでやっと、リートメインで向けられていると思っていた視線が私にも向けられていることに気がついた。
はぁ、胃が痛くなりそう。
女性たちの鋭い視線が刺さる。
「お嬢さん、お一人ですか?」
周りの視線に気づいてかそうでないのか、一人の男性が声をかけてきた。
夜の闇を溶かしたような深い青色の髪と、星のような明るい黄色の瞳。スッと通った鼻筋に、人の良さを表したような目尻とその下にある黒子。
何となく、彼は私を手助けするために声をかけたのだと思った。
「僕はジョシュア・ムンルアナと申します。綺麗なお嬢さんのお名前も伺ってよろしいですか?」
初対面にしてはキザなことかもしれないけど、これが貴族と言われたら付き合いのない私には納得するしかない。でもそれ以上に、この場から私を連れ出してくれるのは彼しかいないと思った。
「スミレ・エトノシカです。」
「あぁ、エトノシカ伯爵令嬢でしたか。初めまして。」
彼は、パッと顔を明るくさせた。
うちの名前を聞いて喜ぶなんて、騎士に憧れのある人か騎士の人かのどちらかなんだろう。
「うちの父をご存知でしたか。」
「えぇ、私も騎士ですから。そのお名前はよく知っています。実際。伯爵にはお世話になりましたから。」
「そうでしたか。」
父の知り合いか。じゃあ、もしかしたらこの方が私のパートナーになっていた可能性もあったかもしれないわね。
「あぁ、そろそろ君の今夜のナイトが戻ってくるみたいだ。」
彼の視線の先には、こちらに向かってくるリートが見えた。
もう、戻ってこなくてもいいのに。せっかく良い人と出会えたかもと思ったのに。
「よかったら今度、お茶でもしましょう。」
「えぇ、喜んで。」
「よかった。では、また。」
私の掌に唇を落として、彼は去っていった。
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