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しおりを挟む私はその後、お姉様に連れられて国王様に挨拶を済ませた。
「緊張した?」
「当たり前よ。私はお会いするの、初めてなのよ?」
「お優しい方だから大丈夫よ。」
お姉さまの言葉に、もしかして国王様までも手名付けちゃった?とか考えちゃった。そんなんわけないよね。私の馬鹿。
「それより、良い人は見つかった?」
お姉様が私を連れ出した目的は、この話だろう。
「まだ、見つけたと言えるほどの人とお会いしてませんわ。」
「もう、こういうのは数じゃないのよ。それに話していなくたって一目見て、なんてこともあるんだから。」
「そういうもの?」
「そういうものよ。」
うーん、初心者には難しいわ。
それにしても、そろそろお腹空いてきたんだけど…。まだ踊ってもないからダメよね。いくら私でも、踊りも一通り終わってからじゃないと料理を食べちゃいけないって知ってるわ。
そんな私のお腹事情を察してくれたように、ホールの音楽が変わった。
「シュリー、踊ろうか。」
「えぇ。スミレも、どなたか良い人と踊るのよ。」
「わかってる。いってらっしゃい。」
幸せそうな二人が踊り始めるのを見ていて、羨ましくなった。
私にもあんな風に思える人ができるのかしら。今は想像もできないけど。
「スミレ。」
声をかけてきたのは、リートだった。
「俺と踊ってくれませんか?」
「何、同情?私が誰からも誘われないからって。」
「違うよ。俺がこんなことするのは、君だけだよ。」
はいはい。女たらしがよく使う言葉ね。私に使っても意味ないのに。
「返事は?」
「はぁ。」
仕方ない。デビュー戦で一度も踊らないわけにはいかないものね。
リートが差し出した手に自分のを重ねる。
「ありがとう。」
優しい幼馴染は、好きな人を待たせて今日のパートナーである私のところに来てくれた。
デビューの際に一度も踊らない、またはパートナーなしで参加することは不名誉なこととされている。その後もずっと、からかいの種にされるのだ。
きっと仕方なく踊ってくれているんだろう。彼の恋人にも申し訳ないことをしたわ。
「ねぇ、何考えてる?」
耳元で、リートが聞いてきた。
「別に、何も。」
さすが幼馴染だろうか。私が考え事をしていることに気づいたのもだけど、初めて二人で踊ったのに何度も踊ってことがある相手みたいに踊りやすい。
だから、こんな考え事をする余裕もある。
そんな私たちの様子が、周りから注目を集めていたことにも気づかず。
間も無くして、一曲目が終わった。
お姉様たちはまだ踊っている。
「俺たちも…」
「エトノシカ伯爵令嬢、次は僕と踊ってくれませんか?」
近くに先ほどの男性、ムンルアナ卿が来ていた。
まさか、ダンスのお誘いをしてくれるなんて。
「えぇ、是非。」
先ほど、リートが何か言おうとしていた気がするけど気のせいだろう。
「よかった。さぁ、行きましょう。」
彼に手を引かれ、ダンスを踊り始めた。
「さっきも見てたけど、本当に初めてなんだよね?すごく上手だ。」
彼は自然に私を誉めた。
耳元で囁かれて、ドキドキした。
その後も彼は、私に話しかけてくれた。しかもリードは完璧。私が踊りやすいようにしてくれる。
お姉様、この人かもしれない。
「僕たち、今日あったはずなのにそんな気がしないな。…って、恥ずかしいこと言ったな。忘れて。」
なんて、照れる彼の顔が可愛いなんて思ってしまって。
たった一曲踊っただけなのに、私たちはたくさん話した。
「ありがとう。とても楽しかったよ。また。」
「私も楽しかったわ。またね。」
あっという間のひとときだった。
ムンルアナ卿が立ち去る姿も愛しい。そして、少し悲しかった。
「スミレ。」
「…お姉様。」
「そう、見つけたのね。」
「うん。」
自分でも、今だらしない顔をしているとわかっている。それでも、これが恋かと。ただその気持ちに浸っていたかった。
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