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綻び
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翌日、さっそく学校に写真を持参した。部活の時間になり、スケッチブックの横に置く。学校から見える景色も田舎特有の大自然だが、山の中は家の一軒も無いため、やはり異質に見える。
何気なく選んだ写真だが、木一本とっても、根本、幹、葉と、上手く描こうと思えば思う程、手が自分の想定とは違う動きをして完成に至らなかった。
──木ってこんなに描くの難しいんだ。
写真と格闘するも、描きなれないものに苦戦してしまう。清は思い切って校庭へ出ることにした。
山野に了承を取り、校舎を出る。学校の敷地内であれば、部室以外で作業することは認められている。ただし顧問が監督する義務があるため、部室の窓から見える範囲か、見えないところであれば十五分までと制限時間がある。
「いってきます」
今も、清の他に一人外へ出ている。彼は運動部の様子を描くと言っていた。清は校庭を歩きながら、部室の真下にある木の前を陣取った。ここならば部室から確認出来るため、時間を気にせずゆっくり作業出来る。
写真を参考に絵を描く前に、まず木を描けるようにならなければ。目の前にそびえ立つ木の周りをぐるりと回る。清が頷く。
「なるほど、こうなってるのか」
今の今まで木をこんなに間近で観察することはなかった。視界に入っても、木は木として認識していただけで、幹の様子や、根本のうねり具合など、どこを取っても大胆な木の曲線に驚かされた。
「うわ、今までどうして知らなかったんだろう」
この分だと、きっとこれと同じように記憶が曖昧な身近なものが沢山あるのだろう。知ることが出来ただけで、部活に入った甲斐がある。一通り観察した後は、立ちながらせっせとデッサンを始めた。
結局、部活の時間いっぱいを木のデッサンに費やした。一回目に描いた時よりは、らしさが出てきたように思う。美術室に戻ると、山野からチラシを配られた。
「締め切りまで早いけんど、いちおう渡しておくね」
そこにはポスターコンクールと書かれていた。他の部員は夏休みのうちに渡されていたらしい。入ったばかりの清は、参加不参加は自由だと言われた。
テーマは、交通安全、税金についてなど、中学生の夏休みの宿題で出されそうなものが主だった。せっかく入ったのだから挑戦してみようか迷ったが、締め切りが半月後で、実力不足を理解しているため、次の機会に見送ることにした。
「ポスターコンクール参加する?」
「ううん。ちょっと間に合わなさそうだから」
「そっか、残念。けんど、また来年になれば、大きいコンクールもあるき」
「うん、それまで基礎力上げて挑戦してみる」
無理をして、納得のいかない作品を仕上げたところで達成感より苦痛を味わうだけだ。美術部だって、元々やる気があって入ったわけではないのだから、こんなところで挫折する必要は無い。これから少しずつ上を目指していこう。
部活が終わり、清はスケッチブックを持って帰ることにした。一冊目は配布されたが、二冊目から自分で購入するらしい。スケッチブックくらいならいくらでも買うと家族も言ってくれた。その言葉に甘えて、遠慮無くどんどん試し描きをしていくつもりだ。
山へ行く時間は無いので、家の近所でどこか練習に使わせてもらおう。家に鞄を置き、財布とスマートフォンを持ってすぐに出る。
「そうだ。駄菓子屋」
おばあさんが営む駄菓子屋は、年季が入った独特の雰囲気があり、それでいて趣深く優しさも感じられる。買い物ついでにデッサンをしていいか聞いてみることにした。
「いらっしゃい」
「こんにちは。あの、僕美術部に入っていて、デッサンの練習をしたいので、このお店を描いてもいいですか?」
「あら、部活の練習? えいよ、ゆっくり描いて」
「有難う御座います」
最初にお菓子を買い、店の前にあるベンチに座らせてもらう。スケッチブックを広げ、鉛筆で店の外観を描き始めた。
こじんまりした民家のようにも、何かの倉庫を改造したようにも見える。細かい部分は近寄って古い看板の内容まで描き写した。
あまり時間をかけても良くない。対象物を把握し、速く描けるようになるのも重要だ。絵というものは奥が深い。
「ほうほう」
「わッ」
何気なく選んだ写真だが、木一本とっても、根本、幹、葉と、上手く描こうと思えば思う程、手が自分の想定とは違う動きをして完成に至らなかった。
──木ってこんなに描くの難しいんだ。
写真と格闘するも、描きなれないものに苦戦してしまう。清は思い切って校庭へ出ることにした。
山野に了承を取り、校舎を出る。学校の敷地内であれば、部室以外で作業することは認められている。ただし顧問が監督する義務があるため、部室の窓から見える範囲か、見えないところであれば十五分までと制限時間がある。
「いってきます」
今も、清の他に一人外へ出ている。彼は運動部の様子を描くと言っていた。清は校庭を歩きながら、部室の真下にある木の前を陣取った。ここならば部室から確認出来るため、時間を気にせずゆっくり作業出来る。
写真を参考に絵を描く前に、まず木を描けるようにならなければ。目の前にそびえ立つ木の周りをぐるりと回る。清が頷く。
「なるほど、こうなってるのか」
今の今まで木をこんなに間近で観察することはなかった。視界に入っても、木は木として認識していただけで、幹の様子や、根本のうねり具合など、どこを取っても大胆な木の曲線に驚かされた。
「うわ、今までどうして知らなかったんだろう」
この分だと、きっとこれと同じように記憶が曖昧な身近なものが沢山あるのだろう。知ることが出来ただけで、部活に入った甲斐がある。一通り観察した後は、立ちながらせっせとデッサンを始めた。
結局、部活の時間いっぱいを木のデッサンに費やした。一回目に描いた時よりは、らしさが出てきたように思う。美術室に戻ると、山野からチラシを配られた。
「締め切りまで早いけんど、いちおう渡しておくね」
そこにはポスターコンクールと書かれていた。他の部員は夏休みのうちに渡されていたらしい。入ったばかりの清は、参加不参加は自由だと言われた。
テーマは、交通安全、税金についてなど、中学生の夏休みの宿題で出されそうなものが主だった。せっかく入ったのだから挑戦してみようか迷ったが、締め切りが半月後で、実力不足を理解しているため、次の機会に見送ることにした。
「ポスターコンクール参加する?」
「ううん。ちょっと間に合わなさそうだから」
「そっか、残念。けんど、また来年になれば、大きいコンクールもあるき」
「うん、それまで基礎力上げて挑戦してみる」
無理をして、納得のいかない作品を仕上げたところで達成感より苦痛を味わうだけだ。美術部だって、元々やる気があって入ったわけではないのだから、こんなところで挫折する必要は無い。これから少しずつ上を目指していこう。
部活が終わり、清はスケッチブックを持って帰ることにした。一冊目は配布されたが、二冊目から自分で購入するらしい。スケッチブックくらいならいくらでも買うと家族も言ってくれた。その言葉に甘えて、遠慮無くどんどん試し描きをしていくつもりだ。
山へ行く時間は無いので、家の近所でどこか練習に使わせてもらおう。家に鞄を置き、財布とスマートフォンを持ってすぐに出る。
「そうだ。駄菓子屋」
おばあさんが営む駄菓子屋は、年季が入った独特の雰囲気があり、それでいて趣深く優しさも感じられる。買い物ついでにデッサンをしていいか聞いてみることにした。
「いらっしゃい」
「こんにちは。あの、僕美術部に入っていて、デッサンの練習をしたいので、このお店を描いてもいいですか?」
「あら、部活の練習? えいよ、ゆっくり描いて」
「有難う御座います」
最初にお菓子を買い、店の前にあるベンチに座らせてもらう。スケッチブックを広げ、鉛筆で店の外観を描き始めた。
こじんまりした民家のようにも、何かの倉庫を改造したようにも見える。細かい部分は近寄って古い看板の内容まで描き写した。
あまり時間をかけても良くない。対象物を把握し、速く描けるようになるのも重要だ。絵というものは奥が深い。
「ほうほう」
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