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綻び
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いつの間に来たのか、サチが横からスケッチブックを覗いていた。慌てて店の奥を見る。幸い、おばあさんは清の様子に気付いていなかった。
「びっくりしたよ」
「ごめん」
言いながら、スケッチブックを閉じる。サチから抗議の声が上がった。
「もっと見たかった」
「まだ練習中で恥ずかしいんだ」
「そっか。美術部入ったんだっけ」
サチは清の学校でのことを聞いても羨ましがることはない。しかし、学校の話自体は好きで、このスケッチブックにも興味を持っているようだった。
「上手になったら見せてね」
「うん、分かった。今度サチのこと描かせて」
「いいよ」
清がおばあさんに近付き礼を言うと、持っていた袋にお菓子を一つ追加で入れてくれた。
「頑張ったき、ご褒美ね」
「有難う御座います」
世話になったのにご褒美までもらってしまった。店と客、都会より近い距離がくすぐったくなる。
「一緒に食べよ」
「うん」
駄菓子屋の帰り、二人で食べながら歩いていたら、偶然飯田に会った。清が飯田に手を振る。
「太一だ」
「おお、清もあこの店に寄った──」
途中で飯田の声が不自然に途切れる。食べ終わったお菓子の包装紙がサチの手から滑り落ちた。
もしかしてサチが見えたのか。心臓を五月蠅くさせながら、代わりに清がゴミを拾う。
「びっくりしたぁ」
「……どうしたの?」
「今、そのゴミが宙にちっくとばぁ浮いちょったように見えたがよ。普通に風だよな」
驚いたのは清の方だ。まさか、サチが持っているものだけが見えたなんて思いもしなかった。
「風でしょ。それ言われて、僕の方がびっくりしたよ」
「あはは。怖がらせるつもりはなかったき、許して!」
「いいよ」
頭を掻きながら、飯田が豪快に笑った。
「また学校で」
「じゃあね」
大きなバッグを抱えた飯田が走っていく。姿が見えなくなったことを確認して、清とサチが同時に息を吐いた。
「……知ってた?」
サチがぶんぶん首を振る。
「初めて知った。見えるんだね。でも、そっか。お菓子はこの世界の物だから。次から気を付ける」
今まで人に見られることなく、山の中で過ごしてきたサチにとっては未知の出来事だった。清にとっても予想外で、サチがこの世界でも作用することに、初めての高揚を覚えていた。
帰宅し、出迎えてくれた母にスマートフォンの画面を見せる。
「ね、これ何が写ってる?」
母が画面を見つめ、首を傾げて答えた。
「木とお花……あ、これがサンジン様の山?」
「うん、そう」
がっくり肩を落として自室に入った。清が画面を見ると、そこにはサチが笑顔でこちらを向いていた。
「これも視えないんだ」
プリントされない時は動揺したが、データの方はしっかり写っているのだから他の人も認識出来ると思っていた。
これも周りからしたら幻なのか。こんなに生き生きとしたサチを、幻の言葉一つで片付けたくないのに。スマートフォンを両手で握りしめる。
──ずっとサチの傍にいて、僕がサチの証明になる。
たった一人でも、サチがいることを知っている人間がいれば、彼女も寂しくないだろう。
『おお~ん……』
「あ!」
ベッドから起き上がり、窓を開ける。見渡してみるが、やはり何もいない。野犬でもうろついているのだろうか。犬は好きだが、野犬ともなると危険だ。陽が落ちたら出歩かないようにしよう。清はそろりと窓を閉めた。そこに、大きな影が映った。
「びっくりしたよ」
「ごめん」
言いながら、スケッチブックを閉じる。サチから抗議の声が上がった。
「もっと見たかった」
「まだ練習中で恥ずかしいんだ」
「そっか。美術部入ったんだっけ」
サチは清の学校でのことを聞いても羨ましがることはない。しかし、学校の話自体は好きで、このスケッチブックにも興味を持っているようだった。
「上手になったら見せてね」
「うん、分かった。今度サチのこと描かせて」
「いいよ」
清がおばあさんに近付き礼を言うと、持っていた袋にお菓子を一つ追加で入れてくれた。
「頑張ったき、ご褒美ね」
「有難う御座います」
世話になったのにご褒美までもらってしまった。店と客、都会より近い距離がくすぐったくなる。
「一緒に食べよ」
「うん」
駄菓子屋の帰り、二人で食べながら歩いていたら、偶然飯田に会った。清が飯田に手を振る。
「太一だ」
「おお、清もあこの店に寄った──」
途中で飯田の声が不自然に途切れる。食べ終わったお菓子の包装紙がサチの手から滑り落ちた。
もしかしてサチが見えたのか。心臓を五月蠅くさせながら、代わりに清がゴミを拾う。
「びっくりしたぁ」
「……どうしたの?」
「今、そのゴミが宙にちっくとばぁ浮いちょったように見えたがよ。普通に風だよな」
驚いたのは清の方だ。まさか、サチが持っているものだけが見えたなんて思いもしなかった。
「風でしょ。それ言われて、僕の方がびっくりしたよ」
「あはは。怖がらせるつもりはなかったき、許して!」
「いいよ」
頭を掻きながら、飯田が豪快に笑った。
「また学校で」
「じゃあね」
大きなバッグを抱えた飯田が走っていく。姿が見えなくなったことを確認して、清とサチが同時に息を吐いた。
「……知ってた?」
サチがぶんぶん首を振る。
「初めて知った。見えるんだね。でも、そっか。お菓子はこの世界の物だから。次から気を付ける」
今まで人に見られることなく、山の中で過ごしてきたサチにとっては未知の出来事だった。清にとっても予想外で、サチがこの世界でも作用することに、初めての高揚を覚えていた。
帰宅し、出迎えてくれた母にスマートフォンの画面を見せる。
「ね、これ何が写ってる?」
母が画面を見つめ、首を傾げて答えた。
「木とお花……あ、これがサンジン様の山?」
「うん、そう」
がっくり肩を落として自室に入った。清が画面を見ると、そこにはサチが笑顔でこちらを向いていた。
「これも視えないんだ」
プリントされない時は動揺したが、データの方はしっかり写っているのだから他の人も認識出来ると思っていた。
これも周りからしたら幻なのか。こんなに生き生きとしたサチを、幻の言葉一つで片付けたくないのに。スマートフォンを両手で握りしめる。
──ずっとサチの傍にいて、僕がサチの証明になる。
たった一人でも、サチがいることを知っている人間がいれば、彼女も寂しくないだろう。
『おお~ん……』
「あ!」
ベッドから起き上がり、窓を開ける。見渡してみるが、やはり何もいない。野犬でもうろついているのだろうか。犬は好きだが、野犬ともなると危険だ。陽が落ちたら出歩かないようにしよう。清はそろりと窓を閉めた。そこに、大きな影が映った。
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