貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

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第一章

散歩

「どうもこんにちは」

 翌日、先日頼んだ店の主人がやってきた。今日は出迎えるためいつもより早く起きたのですでに欠伸が出る。主人を一畳程の個室に案内した。ちなみに、狭い場所でうろうろされたら危険なのでチョコはベッドでお留守番中だ。

「ここにお願いします」

 小窓が一つだけの殺風景な個室。トイレのスペースはあるが、それだけだ。古い便器を新しいものに交換するわけではない。はたして今日中に終わるだろうか。リルは若干不安になった。

「あーなるほど。分かりました」

 主人が様子を確認して頷く。

「時間かかりそうですか?」
「そうですね。配管作業があるので」
「あ、穴を開けるとかあれば、魔法ですぐできるので言ってください」

 そういえば自分が魔法士だということを思い出した。物理的な物を何もないところから作成することは難しいが、加工するだけなら造作もない。

 主人がやや驚いた顔で答える。

「それは助かります」

 そう言って大きな鞄を地面に置き、それを傾けた。中から鞄より大きな便器や配管が転がり出てくる。

──魔法袋だ。

 魔法袋とは、文字通り魔法を施された袋で、実際の大きさに限らず収納できる便利な魔法具である。かけた魔法の強さによって収納できる量が決まるが、よほど大きな物でない限り限界を迎えることはない。

 サイも野菜の収納でよく使っていた。袋にさらに冷却魔法をかけておけば冷蔵庫の完成だ。リルもそれに倣い、冷蔵庫は魔法袋を使うつもりでいた。

「さて、始めます」
「お願いします」

 主人が指示したところに穴を開け、取り付けは二人で一緒に運んで行った。おかげでものの一時間で作業が終了した。

「本来はこちらが全て行うのにすみません。助かりました」
「いえ、ちょっと手伝っただけなので」

 手伝った分作業代を返金しようとする主人を全力で拒否し、お礼を言って帰ってもらう。

 リルは一人と一匹になった室内でごろんと寝転がった。

「あ~~~、これで人と会わずにのんびり暮らせる」

 トイレが設置され、快適な家が完成した。あとは長い余生を暮らすのみだ。自給自足をすれば仕事もしなくていい。人に会う必要もない。いつ寝ても文句も言われない。最高の生活である。

「チョコ、散歩に行こうか」
「ギャオ」

 誘うと、明るい声でチョコが起き上がった。仕舞っていた羽をパタパタ動かし、やる気十分の様子だ。

 ここ数日、住居を整えるためチョコにあまり構えなかった。リルは山の散策も兼ねてチョコとともに外へ出ていった。

 木を手に入れるため一度山を散策したことがあるが、どのような動物がいるのか、そもそも生き物がいるのかすらまだ分からない。住んでいた山のように魔物がいるかもしれないし、動物の楽園かもしれない。

「チョコ、どんな生き物がいるといい?」
「ワオン」

 リルの質問にはチョコはあまり興味の無さそうな返事をした。サイ曰く、ウォルフは単独行動を好む魔物で、違う種族の魔物と触れ合うことをしないという。

──それにしては、人間の私にやけに懐いているけど。

 森の中に分け入ったところで、リルの前をウサギが横切った。

「わ、可愛い」

 魔物かと思ったが、見慣れた形なのでおそらく動物の方だろう。

「そうなると、この山には狂暴な魔物はいないかも」

 草食動物が元気に生きられる環境なので、リルはそう判断して先を進んだ。すると、ウサギの他にもリスがいたり、鳥の鳴き声が聞こえてきた。

「引っ越してくる時上から家が建ってないかは確認したけど、動物は結構いるんだな」

 せっかくの山暮らしだからペットを飼ってみようかと近づいたら、チョコがさり気なくリルの前に出た。リルは笑ってチョコを撫でた。

「お」

 そんな時、モチモチした何かが近づいてきた。丸く、体が半透明で向こう側が透けて見えている。リルはチョコがいるにも関わらず、どうしてもそれを観察することを止められなかった。

 モチモチした何かはふよんと少し浮きながら可愛らしく歩いている。

「これ……スライムだ」

 人並以下のゲーム知識でも分かる。スライムが現実に動いている。リルは興奮した面持ちで一歩近づいた。
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