16 / 89
第一章
散歩
しおりを挟む
「どうもこんにちは」
翌日、先日頼んだ店の主人がやってきた。今日は出迎えるためいつもより早く起きたのですでに欠伸が出る。主人を一畳程の個室に案内した。ちなみに、狭い場所でうろうろされたら危険なのでチョコはベッドでお留守番中だ。
「ここにお願いします」
小窓が一つだけの殺風景な個室。トイレのスペースはあるが、それだけだ。古い便器を新しいものに交換するわけではない。はたして今日中に終わるだろうか。リルは若干不安になった。
「あーなるほど。分かりました」
主人が様子を確認して頷く。
「時間かかりそうですか?」
「そうですね。配管作業があるので」
「あ、穴を開けるとかあれば、魔法ですぐできるので言ってください」
そういえば自分が魔法士だということを思い出した。物理的な物を何もないところから作成することは難しいが、加工するだけなら造作もない。
主人がやや驚いた顔で答える。
「それは助かります」
そう言って大きな鞄を地面に置き、それを傾けた。中から鞄より大きな便器や配管が転がり出てくる。
──魔法袋だ。
魔法袋とは、文字通り魔法を施された袋で、実際の大きさに限らず収納できる便利な魔法具である。かけた魔法の強さによって収納できる量が決まるが、よほど大きな物でない限り限界を迎えることはない。
サイも野菜の収納でよく使っていた。袋にさらに冷却魔法をかけておけば冷蔵庫の完成だ。リルもそれに倣い、冷蔵庫は魔法袋を使うつもりでいた。
「さて、始めます」
「お願いします」
主人が指示したところに穴を開け、取り付けは二人で一緒に運んで行った。おかげでものの一時間で作業が終了した。
「本来はこちらが全て行うのにすみません。助かりました」
「いえ、ちょっと手伝っただけなので」
手伝った分作業代を返金しようとする主人を全力で拒否し、お礼を言って帰ってもらう。
リルは一人と一匹になった室内でごろんと寝転がった。
「あ~~~、これで人と会わずにのんびり暮らせる」
トイレが設置され、快適な家が完成した。あとは長い余生を暮らすのみだ。自給自足をすれば仕事もしなくていい。人に会う必要もない。いつ寝ても文句も言われない。最高の生活である。
「チョコ、散歩に行こうか」
「ギャオ」
誘うと、明るい声でチョコが起き上がった。仕舞っていた羽をパタパタ動かし、やる気十分の様子だ。
ここ数日、住居を整えるためチョコにあまり構えなかった。リルは山の散策も兼ねてチョコとともに外へ出ていった。
木を手に入れるため一度山を散策したことがあるが、どのような動物がいるのか、そもそも生き物がいるのかすらまだ分からない。住んでいた山のように魔物がいるかもしれないし、動物の楽園かもしれない。
「チョコ、どんな生き物がいるといい?」
「ワオン」
リルの質問にはチョコはあまり興味の無さそうな返事をした。サイ曰く、ウォルフは単独行動を好む魔物で、違う種族の魔物と触れ合うことをしないという。
──それにしては、人間の私にやけに懐いているけど。
森の中に分け入ったところで、リルの前をウサギが横切った。
「わ、可愛い」
魔物かと思ったが、見慣れた形なのでおそらく動物の方だろう。
「そうなると、この山には狂暴な魔物はいないかも」
草食動物が元気に生きられる環境なので、リルはそう判断して先を進んだ。すると、ウサギの他にもリスがいたり、鳥の鳴き声が聞こえてきた。
「引っ越してくる時上から家が建ってないかは確認したけど、動物は結構いるんだな」
せっかくの山暮らしだからペットを飼ってみようかと近づいたら、チョコがさり気なくリルの前に出た。リルは笑ってチョコを撫でた。
「お」
そんな時、モチモチした何かが近づいてきた。丸く、体が半透明で向こう側が透けて見えている。リルはチョコがいるにも関わらず、どうしてもそれを観察することを止められなかった。
モチモチした何かはふよんと少し浮きながら可愛らしく歩いている。
「これ……スライムだ」
人並以下のゲーム知識でも分かる。スライムが現実に動いている。リルは興奮した面持ちで一歩近づいた。
翌日、先日頼んだ店の主人がやってきた。今日は出迎えるためいつもより早く起きたのですでに欠伸が出る。主人を一畳程の個室に案内した。ちなみに、狭い場所でうろうろされたら危険なのでチョコはベッドでお留守番中だ。
「ここにお願いします」
小窓が一つだけの殺風景な個室。トイレのスペースはあるが、それだけだ。古い便器を新しいものに交換するわけではない。はたして今日中に終わるだろうか。リルは若干不安になった。
「あーなるほど。分かりました」
主人が様子を確認して頷く。
「時間かかりそうですか?」
「そうですね。配管作業があるので」
「あ、穴を開けるとかあれば、魔法ですぐできるので言ってください」
そういえば自分が魔法士だということを思い出した。物理的な物を何もないところから作成することは難しいが、加工するだけなら造作もない。
主人がやや驚いた顔で答える。
「それは助かります」
そう言って大きな鞄を地面に置き、それを傾けた。中から鞄より大きな便器や配管が転がり出てくる。
──魔法袋だ。
魔法袋とは、文字通り魔法を施された袋で、実際の大きさに限らず収納できる便利な魔法具である。かけた魔法の強さによって収納できる量が決まるが、よほど大きな物でない限り限界を迎えることはない。
サイも野菜の収納でよく使っていた。袋にさらに冷却魔法をかけておけば冷蔵庫の完成だ。リルもそれに倣い、冷蔵庫は魔法袋を使うつもりでいた。
「さて、始めます」
「お願いします」
主人が指示したところに穴を開け、取り付けは二人で一緒に運んで行った。おかげでものの一時間で作業が終了した。
「本来はこちらが全て行うのにすみません。助かりました」
「いえ、ちょっと手伝っただけなので」
手伝った分作業代を返金しようとする主人を全力で拒否し、お礼を言って帰ってもらう。
リルは一人と一匹になった室内でごろんと寝転がった。
「あ~~~、これで人と会わずにのんびり暮らせる」
トイレが設置され、快適な家が完成した。あとは長い余生を暮らすのみだ。自給自足をすれば仕事もしなくていい。人に会う必要もない。いつ寝ても文句も言われない。最高の生活である。
「チョコ、散歩に行こうか」
「ギャオ」
誘うと、明るい声でチョコが起き上がった。仕舞っていた羽をパタパタ動かし、やる気十分の様子だ。
ここ数日、住居を整えるためチョコにあまり構えなかった。リルは山の散策も兼ねてチョコとともに外へ出ていった。
木を手に入れるため一度山を散策したことがあるが、どのような動物がいるのか、そもそも生き物がいるのかすらまだ分からない。住んでいた山のように魔物がいるかもしれないし、動物の楽園かもしれない。
「チョコ、どんな生き物がいるといい?」
「ワオン」
リルの質問にはチョコはあまり興味の無さそうな返事をした。サイ曰く、ウォルフは単独行動を好む魔物で、違う種族の魔物と触れ合うことをしないという。
──それにしては、人間の私にやけに懐いているけど。
森の中に分け入ったところで、リルの前をウサギが横切った。
「わ、可愛い」
魔物かと思ったが、見慣れた形なのでおそらく動物の方だろう。
「そうなると、この山には狂暴な魔物はいないかも」
草食動物が元気に生きられる環境なので、リルはそう判断して先を進んだ。すると、ウサギの他にもリスがいたり、鳥の鳴き声が聞こえてきた。
「引っ越してくる時上から家が建ってないかは確認したけど、動物は結構いるんだな」
せっかくの山暮らしだからペットを飼ってみようかと近づいたら、チョコがさり気なくリルの前に出た。リルは笑ってチョコを撫でた。
「お」
そんな時、モチモチした何かが近づいてきた。丸く、体が半透明で向こう側が透けて見えている。リルはチョコがいるにも関わらず、どうしてもそれを観察することを止められなかった。
モチモチした何かはふよんと少し浮きながら可愛らしく歩いている。
「これ……スライムだ」
人並以下のゲーム知識でも分かる。スライムが現実に動いている。リルは興奮した面持ちで一歩近づいた。
892
あなたにおすすめの小説
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~
いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。
地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。
「――もう、草とだけ暮らせればいい」
絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。
やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる――
「あなたの薬に、国を救ってほしい」
導かれるように再び王都へと向かうレイナ。
医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。
薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える――
これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
弁えすぎた令嬢
ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
元公爵令嬢のコロネ・ワッサンモフは、今は市井の食堂の2階に住む平民暮らしをしている。彼女が父親を亡くしてからの爵位は、叔父(父親の弟)が管理してくれていた。
彼女には亡き父親の決めた婚約者がいたのだが、叔父の娘が彼を好きだと言う。
彼女は思った。
(今の公爵は叔父なのだから、その娘がこの家を継ぐ方が良いのではないか)と。
今後は彼らの世話にならず、一人で生きていくことにしよう。そんな気持ちで家を出たコロネだった。
小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。
【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました
成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。
天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。
学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
1人生活なので自由な生き方を謳歌する
さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。
出来損ないと家族から追い出された。
唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。
これからはひとりで生きていかなくては。
そんな少女も実は、、、
1人の方が気楽に出来るしラッキー
これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ
ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」
ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。
「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」
何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。
都合のいい女は本日で卒業。
今後は、余暇を楽しむとしましょう。
吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる