ようこそ安蜜屋へ

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対決

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 屋台を引き、教えられた屋敷に向かう。数日振りの屋台はずっしりと重かったが、勘助が一緒に引いてくれた。

 屋敷の前で名前を告げると、庭に通してくれた。そこには似たような屋台が置かれていた。あれが競争相手なのだろう。その横に、半次郎よりだいぶ年を取った男が笑みを浮かべて立っていた。

「これはこれは安蜜屋さんですか。今日はお手柔らかにお願いします」
「いえ、こちらこそよろしくお願いします」

 男の屋台には何も書かれていなかった。屋台全てに店名が書かれているわけではないので、不思議ではない。

──あちらもみつ豆なのか。

 みつ豆は珍しいものではないし、そもそも屋敷の人間がみつ豆を欲しているのかもしれない。同じ料理で勝負することに緊張が走る。

「半次郎さん。右腕はどうしたんですか」

 半次郎を推薦してくれた侍がやってきて尋ねた。半次郎は右腕を持ち上げて答えた。

「いや、ちょっと盗人にやられましてね。でも、この通り。問題ありません」
「そうですか。盗人とは物騒な」
「おや、本当だ」

 二人の後ろで相手の男が覗き込んだ。勘助が半次郎に抱き着く。

「半次郎は大丈夫だよ」
「そうかい。それじゃあ、そろそろ始めるとしましょう」

 侍が合図を出すと、ぞろぞろと屋敷の人間が集まってきた。きっとここの長も名のある大名なのだろう。半次郎は手を僅かに震えさせ、勘助に指示を出した。

「皿を人数分、全部で十枚だな。一枚ずつ俺に渡してくれ」
「うん」

 勘助は皿が置かれている場所に近づき、指で触って慎重に一枚目を手渡した。

──大丈夫。あんなに味見もしてもらって、研究もした。

 深呼吸を一つして、半次郎は丁寧にみつ豆をよそった。
 相手をちらりと見遣ると、余裕のある表情でどんどん皿に入れていた。半次郎の額に汗が滲む。

「どうぞ」
「ああ、これこれ。私はこちらが好きでして」

 二種類のみつ豆を受け取った侍が同僚に宣伝する。安蜜屋を推してくれているのが実に心強い。

 すると暇になったのか、男が屋台から離れ、侍たちが試食しているところを眺め始めた。

「あんなのは知らないな」

 男が半次郎の皿を見つめて呟いた。耳の良い勘助がそれを拾う。くいくいと、半次郎の服を引っ張った。

「あの人、あんなのは知らないって言ったよ」
「あんなの? 改良版の方か」

 もしかして、以前客として安蜜屋に来たことがあるのだろうか。それにしても、なんとなく引っかかる。

「ん?」

 試食していた中の一人が首を傾げた。

「こちらが安蜜屋さんの? 実に美味だ。しかしどうして、太兵衛さんのところと随分似ていますね」
「本当だ。みつ豆は皆こういう味なんですか?」
「どうだろう」
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