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流石に9人を転移させるのには骨が折れるということで、イザベラがいるであろう教会近くの薔薇園までそのまま強硬突破することになった。
ちなみに、イザベラの探知もルシウスの魔法によるものだった。
(闇属性ってどうして印象だけで嫌われているのかしら。こんなに頼りになるし、なによりルシウスさん本人は優しいし、他の人と何も変わらないのに)
私たちの周囲を神官や騎士の皆さんがガードしてくれている中、ひたすら私とマイアおばあちゃんが礼拝堂から薔薇園に続く道に現れる神官たちの洗脳を解きながら進む。
「マイア様、セリーナ様! 私たちは一体……」
「すみません、説明は後日致します! みなさんはとりあえず部屋で休んでいてください!」
さっき守護の祈りをかけなおしたおばあちゃん付きの神官、騎士たちと違いこの人たちは魅了耐性が完全にない状態だ。イザベラの近くにいる方が危険なはず。
そう思い覚醒した神官たちに声を掛けながら走った。ちなみにマイアおばあちゃんは騎士の一人に担がれている。
あまりに洗脳された神官が多くて危険だからだった。
できるなら朝になるまでには解決したい。洗脳された国王陛下が私の処刑を正式に告示なんかしたら大変なことになるし。
「それにしても、数が多くないですか……?!」
洗脳解除の祈りが届くまで神官たちを黒いなにかで抑えこんでいるルシウスさんが叫ぶ。
「私たちの洗脳が解けたことがイザベラ様にバレているのかもしれないわ。魅了されていたとき、命令みたいなものがずっと頭の中に響いていたのよ」
「わざわざ妨害をしているってことですよね……」
溜息をつき、また足を踏み出そうとしたとき、疲労か力が抜けころびかける。
「大丈夫ですか、セリーナ様!」
影が膨らんでクッションのように私を包んだ。
「ルシウス様……すみません」
「いえ大丈夫です。それよりお手を」
「え? は、はい!」
いつのまにかルシウスさんが近くに来ていた。差し出された手をつい取ってしまう。
ずっと教会で暮らしていて、神官たちとも過度に接触したりはしないから人と手を繋ぐことなんてめったにないというか初めてなんだけど……。
ルシウスさんは真剣そうな瞳だったし。
(今は非常事態だから! というかこんなところで足を引っ張るわけにはいかないし!)
誰に言い訳しているのかわからない言い訳をしながらそのまま薔薇園まで走った。
そして、美しい薔薇が咲き誇るその場所で、イザベラを見つけた。月光を浴びてその金の髪はより輝いているようで。
月を背後した彼女はこの状況には不釣り合いかもしれない、自慢げな笑みを浮かべた。
「ふふ、この薔薇綺麗でしょう? まあ、私の美貌には及ばないけれど」
動揺もなにも見られない声だった。イザベラは手に取った一凛の薔薇に口づける。
(どうして、陛下もマイアおばあちゃんもライオネル神官長も、みんなを洗脳しておいてそんなに平気な顔ができるの?)
私はイザベラを睨んで、封印の儀式を始めることにした。やり方はかつてマイアおばあちゃんに教わっていた。やれるはず……。
マイアおばあちゃん自身も神官たちと一緒に捕縛の祈りを唱え始めていた。
「あは、あんたは今朝いたわね……憎たらしい男。あんたのせいで昼には死んでるはずだったセリーナがまだ生きてんじゃない」
イザベラは憎らしそうに怒気をこめてルシウスさんを見つめる。
「そうだ、あんたも私の駒になってみる?」
そう言いながら混沌とした波動を放つ。
(初めて見たけど、これが悪魔の力……? ルシウスを魅了しようとしてるの?)
けれどルシウスは、すぐさま黒い壁を展開して対抗する。魅了の波動と影の壁がぶつかり合い、やがて波動と壁は同時に消失した。
「セリーナ様、こちらは大丈夫ですから!」
「……本当に疎ましいわね、セリーナ!」
(ルシウスさん、すごい……。私も私のやるべきことをやらないと)
儀式を進めていく。神へ祈り、指の先を切って血を一滴捧げる。
騎士たち二人も手早く薔薇園の奥に待機させられていたらしい神官たちを昏倒させていく。今は洗脳を解除する暇がないから、それはとてもありがたかった。
洗脳された神官の数も減ってきた。儀式が進み、イザベラの周囲に悪魔の力が実体化して私の目に映るようになった。
この力を抑え込み、消し去るイメージを懸命に頭の中に浮かべる。
イザベラは舌打ちし、手を周囲の薔薇に向ける。鋭い棘を持つ薔薇のつるが蠢き私に向かって一直線に放たれた。
「ふふっ、薔薇って私にふさわしい花だと思わない? 私が操れるのは人だけじゃないわ……素晴らしいでしょう、この力! あんたなんかに負けやしない」
近くの騎士やルシウスさんが蔓を切り落とそうとしてくれるが、あまりの物量にいくつかの蔓が私の元にたどり着いた。頬を棘がかすめ、血が流れる感覚がする。
(癒しの祈りは……いえ、これくらい問題ない。今は封印を進めないと)
イザベラの攻撃は苛烈になってきている。力が封印されつつあるのを感じているからかもしれない。
怒りを感じているような、初めて聞くような低い声でルシウスさんが叫んだ。
「セリーナ様!」
「大丈夫ですから! もうすぐ儀式が終わります。皆さんあともう少しだけご助力ください!」
どんどんイザベラの力が弱まっていくのが目に見えてわかった。
「ああ、妬ましい……ふざけないでよ!」
「ふざけているのはイザベラ様の方でしょう! もうこんなことはやめてください!」
そう叫ぶとひと際強い光が私の周囲から放たれる。……儀式が、完了した。
イザベラは力なく座り込み、騎士たちに取り押さえられる。
「……終わった、の?」
足も頬もじくじく傷む。やり切ったという感覚だけがかろうじて私をまだ立たせていた。
ちなみに、イザベラの探知もルシウスの魔法によるものだった。
(闇属性ってどうして印象だけで嫌われているのかしら。こんなに頼りになるし、なによりルシウスさん本人は優しいし、他の人と何も変わらないのに)
私たちの周囲を神官や騎士の皆さんがガードしてくれている中、ひたすら私とマイアおばあちゃんが礼拝堂から薔薇園に続く道に現れる神官たちの洗脳を解きながら進む。
「マイア様、セリーナ様! 私たちは一体……」
「すみません、説明は後日致します! みなさんはとりあえず部屋で休んでいてください!」
さっき守護の祈りをかけなおしたおばあちゃん付きの神官、騎士たちと違いこの人たちは魅了耐性が完全にない状態だ。イザベラの近くにいる方が危険なはず。
そう思い覚醒した神官たちに声を掛けながら走った。ちなみにマイアおばあちゃんは騎士の一人に担がれている。
あまりに洗脳された神官が多くて危険だからだった。
できるなら朝になるまでには解決したい。洗脳された国王陛下が私の処刑を正式に告示なんかしたら大変なことになるし。
「それにしても、数が多くないですか……?!」
洗脳解除の祈りが届くまで神官たちを黒いなにかで抑えこんでいるルシウスさんが叫ぶ。
「私たちの洗脳が解けたことがイザベラ様にバレているのかもしれないわ。魅了されていたとき、命令みたいなものがずっと頭の中に響いていたのよ」
「わざわざ妨害をしているってことですよね……」
溜息をつき、また足を踏み出そうとしたとき、疲労か力が抜けころびかける。
「大丈夫ですか、セリーナ様!」
影が膨らんでクッションのように私を包んだ。
「ルシウス様……すみません」
「いえ大丈夫です。それよりお手を」
「え? は、はい!」
いつのまにかルシウスさんが近くに来ていた。差し出された手をつい取ってしまう。
ずっと教会で暮らしていて、神官たちとも過度に接触したりはしないから人と手を繋ぐことなんてめったにないというか初めてなんだけど……。
ルシウスさんは真剣そうな瞳だったし。
(今は非常事態だから! というかこんなところで足を引っ張るわけにはいかないし!)
誰に言い訳しているのかわからない言い訳をしながらそのまま薔薇園まで走った。
そして、美しい薔薇が咲き誇るその場所で、イザベラを見つけた。月光を浴びてその金の髪はより輝いているようで。
月を背後した彼女はこの状況には不釣り合いかもしれない、自慢げな笑みを浮かべた。
「ふふ、この薔薇綺麗でしょう? まあ、私の美貌には及ばないけれど」
動揺もなにも見られない声だった。イザベラは手に取った一凛の薔薇に口づける。
(どうして、陛下もマイアおばあちゃんもライオネル神官長も、みんなを洗脳しておいてそんなに平気な顔ができるの?)
私はイザベラを睨んで、封印の儀式を始めることにした。やり方はかつてマイアおばあちゃんに教わっていた。やれるはず……。
マイアおばあちゃん自身も神官たちと一緒に捕縛の祈りを唱え始めていた。
「あは、あんたは今朝いたわね……憎たらしい男。あんたのせいで昼には死んでるはずだったセリーナがまだ生きてんじゃない」
イザベラは憎らしそうに怒気をこめてルシウスさんを見つめる。
「そうだ、あんたも私の駒になってみる?」
そう言いながら混沌とした波動を放つ。
(初めて見たけど、これが悪魔の力……? ルシウスを魅了しようとしてるの?)
けれどルシウスは、すぐさま黒い壁を展開して対抗する。魅了の波動と影の壁がぶつかり合い、やがて波動と壁は同時に消失した。
「セリーナ様、こちらは大丈夫ですから!」
「……本当に疎ましいわね、セリーナ!」
(ルシウスさん、すごい……。私も私のやるべきことをやらないと)
儀式を進めていく。神へ祈り、指の先を切って血を一滴捧げる。
騎士たち二人も手早く薔薇園の奥に待機させられていたらしい神官たちを昏倒させていく。今は洗脳を解除する暇がないから、それはとてもありがたかった。
洗脳された神官の数も減ってきた。儀式が進み、イザベラの周囲に悪魔の力が実体化して私の目に映るようになった。
この力を抑え込み、消し去るイメージを懸命に頭の中に浮かべる。
イザベラは舌打ちし、手を周囲の薔薇に向ける。鋭い棘を持つ薔薇のつるが蠢き私に向かって一直線に放たれた。
「ふふっ、薔薇って私にふさわしい花だと思わない? 私が操れるのは人だけじゃないわ……素晴らしいでしょう、この力! あんたなんかに負けやしない」
近くの騎士やルシウスさんが蔓を切り落とそうとしてくれるが、あまりの物量にいくつかの蔓が私の元にたどり着いた。頬を棘がかすめ、血が流れる感覚がする。
(癒しの祈りは……いえ、これくらい問題ない。今は封印を進めないと)
イザベラの攻撃は苛烈になってきている。力が封印されつつあるのを感じているからかもしれない。
怒りを感じているような、初めて聞くような低い声でルシウスさんが叫んだ。
「セリーナ様!」
「大丈夫ですから! もうすぐ儀式が終わります。皆さんあともう少しだけご助力ください!」
どんどんイザベラの力が弱まっていくのが目に見えてわかった。
「ああ、妬ましい……ふざけないでよ!」
「ふざけているのはイザベラ様の方でしょう! もうこんなことはやめてください!」
そう叫ぶとひと際強い光が私の周囲から放たれる。……儀式が、完了した。
イザベラは力なく座り込み、騎士たちに取り押さえられる。
「……終わった、の?」
足も頬もじくじく傷む。やり切ったという感覚だけがかろうじて私をまだ立たせていた。
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