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初めての怒り
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ルシウスさんが私のもとへ駆け寄ってきた。彼の緑色の瞳には、なんだか慌てているような表情は、さっきまでの鋭い雰囲気と全然違うけれど、その様子になんだか安心してしまう。
(安心したら、なんだか力が抜けちゃうかも……)
「セリーナ様、大丈夫ですか?!」
倒れ込みそうになった私を、ルシウスさんが抱きとめてくれた。
「ふふ、全然、大丈夫ですよ」
そう言って笑顔を作る。儀式に集中していたときは気づかなかったけれど、だいぶ聖力を消費していたようだった。
ルシウスさんは蔓を弾いてくれていたときに怪我をしたのか、手に棘の傷があった。
「大変、怪我してるじゃないですか! 今から治癒します」
私は彼の傷に掌を向け、癒しの光を作り出す。
「えっそんなお疲れなのに悪いです、セリーナ様」
「これくらい問題ないですから! もう、ルシウスさんはもっと自分を大切にしてください」
当然のように私を助けてくれた優しさ。私は彼にすごく感謝してるのに、彼本人は自分のことにはやたらと無頓着だし、自分のことをすぐ下に見る気がする。
(それは、なんか嫌だな……)
「それより、セリーナ様ご自身も傷が……」
なぜかあからさまに私から視線を外していたルシウスさんが、私の頬の傷を見つめていた。もうルシウスさんの傷は治っているはずなのに、まだ痛みがあるかのような顔だった。
「え、ああそういえば治癒を忘れていたかも」
「もう全くセリーナったら」
頬の傷を思い出した私の元にマイアおばあちゃんがやってきた。癒しの祈りをかけてくれたのか、すぐに痛みは引いていく。
「……呪われろ!」
落ち着いてきたと思ったところに聞こえたのは冷たい罵倒だった。離れたところで騎士たちに取り押さえられながらイザベラ様が暴れているのが見える。
「……!」
その言葉を聞いたルシウスさんがなにか掌に力を込めるのが見えた。直感でその力がかなり攻撃性の高い危険なものだと感じ、慌てて制する。
「セリーナ様、ですが」
「別に私はいいのです。それよりいくら魔女となっていてもイザベラ様に必要以上に危害を加えるとルシウスさんの立場が悪くなってしまいます」
舌打ちをするイザベラ様を見る。
「ふん、そんなみすぼらしい男を庇って、幸せそうね。みなしご風情には丁度いい男なんじゃない?」
その発言についにこらえていた何かが切れた音がした。
魔女となってしまったイザベラ様。封印をしていたときのことを思い出す。私はイザベラ様に死んでもいいと思うくらい妬まれていたらしい。
イザベラ様が聖女となった数年前を思い出す。姫が聖女となるなんてどう接すればいいのか、ってみんな悩んでいたっけ。
イザベラ様はお祈りにも真面目に参加しないし、ドレスが質素だから嫌って言って姫のドレスをよく着ていて……。
私の方が先に聖女をしていたからか、ある程度のお祈りとかは最初私と一緒にするようにって神官長は言ってたんだけど、私に会うたび舌打ちをして。
『みなしご風情が、偉そうなのよ』
『私より聖力が高いって言われてるそうね。どんな媚び方をしたのかしら?』
そう。別にみなしご風情なんて言われ慣れてる。問題は前半部分。
前まではあまり考えないようにしていた。人を妬まず疎まず、敬虔に聖女として人々に慈愛をもって接すべし。それが聖女の振る舞いだったから。
でも、こんなにあれこれ言われて殺されかけて、しかもこうして一大事になって。
「ルシウスさんはみすぼらしくなんてありません! もう、これ以上人を傷つけないで!」
そっと手を組む。聖女には攻撃の力がないことをこんなに悔やんだ日はなかった。
(ルシウスさんを止めたのに、私本人が怒りに呑まれてたらダメだよね……)
頑張って怒りを抑え込み、イザベラ様に向かって眠りの光を放った。神の力をお借りする聖女の力を使うときは、あんまり負の感情が混じると危険と言われている。
イザベラ様は驚きに目を見開いて、その後私を睨みつけた。
(もう、なんとも思わない……私が嫌われる分には)
そのまま光はイザベラ様を包み込み、眠りに誘う。これは初歩的な聖女の祈りの一つだった。これでイザベラ様は朝まで目覚めないだろう。
「陛下の命令なんて無視して、私たち大人がもっとちゃんとイザベラ様のことを見れていればよかったのかもしれないわね……」
マイアおばあちゃんはぼそっとつぶやいた。
国王陛下はイザベラ様を溺愛していた。イザベラ様が好き放題だったのも国王陛下の命令で放置されていたのかもしれない。
マイアおばあちゃんはパンと手を叩いて私たちを見つめた。
「それにしても。頑張ったわね、セリーナ」
「ううん。おばあちゃんも、ありがとう。ルシウスさんも!」
「……っ。いえ、僕は当然のことをしたまでですから。それに、まだやるべきことが残っています」
ルシウスさんはまたフードを被り直し、顔を隠してしまう。
「セリーナが封印を施したから、もう私たちが直接洗脳を解除していない人達の洗脳も解けたはずよ。あとは陛下に状況を説明しなくちゃね」
(安心したら、なんだか力が抜けちゃうかも……)
「セリーナ様、大丈夫ですか?!」
倒れ込みそうになった私を、ルシウスさんが抱きとめてくれた。
「ふふ、全然、大丈夫ですよ」
そう言って笑顔を作る。儀式に集中していたときは気づかなかったけれど、だいぶ聖力を消費していたようだった。
ルシウスさんは蔓を弾いてくれていたときに怪我をしたのか、手に棘の傷があった。
「大変、怪我してるじゃないですか! 今から治癒します」
私は彼の傷に掌を向け、癒しの光を作り出す。
「えっそんなお疲れなのに悪いです、セリーナ様」
「これくらい問題ないですから! もう、ルシウスさんはもっと自分を大切にしてください」
当然のように私を助けてくれた優しさ。私は彼にすごく感謝してるのに、彼本人は自分のことにはやたらと無頓着だし、自分のことをすぐ下に見る気がする。
(それは、なんか嫌だな……)
「それより、セリーナ様ご自身も傷が……」
なぜかあからさまに私から視線を外していたルシウスさんが、私の頬の傷を見つめていた。もうルシウスさんの傷は治っているはずなのに、まだ痛みがあるかのような顔だった。
「え、ああそういえば治癒を忘れていたかも」
「もう全くセリーナったら」
頬の傷を思い出した私の元にマイアおばあちゃんがやってきた。癒しの祈りをかけてくれたのか、すぐに痛みは引いていく。
「……呪われろ!」
落ち着いてきたと思ったところに聞こえたのは冷たい罵倒だった。離れたところで騎士たちに取り押さえられながらイザベラ様が暴れているのが見える。
「……!」
その言葉を聞いたルシウスさんがなにか掌に力を込めるのが見えた。直感でその力がかなり攻撃性の高い危険なものだと感じ、慌てて制する。
「セリーナ様、ですが」
「別に私はいいのです。それよりいくら魔女となっていてもイザベラ様に必要以上に危害を加えるとルシウスさんの立場が悪くなってしまいます」
舌打ちをするイザベラ様を見る。
「ふん、そんなみすぼらしい男を庇って、幸せそうね。みなしご風情には丁度いい男なんじゃない?」
その発言についにこらえていた何かが切れた音がした。
魔女となってしまったイザベラ様。封印をしていたときのことを思い出す。私はイザベラ様に死んでもいいと思うくらい妬まれていたらしい。
イザベラ様が聖女となった数年前を思い出す。姫が聖女となるなんてどう接すればいいのか、ってみんな悩んでいたっけ。
イザベラ様はお祈りにも真面目に参加しないし、ドレスが質素だから嫌って言って姫のドレスをよく着ていて……。
私の方が先に聖女をしていたからか、ある程度のお祈りとかは最初私と一緒にするようにって神官長は言ってたんだけど、私に会うたび舌打ちをして。
『みなしご風情が、偉そうなのよ』
『私より聖力が高いって言われてるそうね。どんな媚び方をしたのかしら?』
そう。別にみなしご風情なんて言われ慣れてる。問題は前半部分。
前まではあまり考えないようにしていた。人を妬まず疎まず、敬虔に聖女として人々に慈愛をもって接すべし。それが聖女の振る舞いだったから。
でも、こんなにあれこれ言われて殺されかけて、しかもこうして一大事になって。
「ルシウスさんはみすぼらしくなんてありません! もう、これ以上人を傷つけないで!」
そっと手を組む。聖女には攻撃の力がないことをこんなに悔やんだ日はなかった。
(ルシウスさんを止めたのに、私本人が怒りに呑まれてたらダメだよね……)
頑張って怒りを抑え込み、イザベラ様に向かって眠りの光を放った。神の力をお借りする聖女の力を使うときは、あんまり負の感情が混じると危険と言われている。
イザベラ様は驚きに目を見開いて、その後私を睨みつけた。
(もう、なんとも思わない……私が嫌われる分には)
そのまま光はイザベラ様を包み込み、眠りに誘う。これは初歩的な聖女の祈りの一つだった。これでイザベラ様は朝まで目覚めないだろう。
「陛下の命令なんて無視して、私たち大人がもっとちゃんとイザベラ様のことを見れていればよかったのかもしれないわね……」
マイアおばあちゃんはぼそっとつぶやいた。
国王陛下はイザベラ様を溺愛していた。イザベラ様が好き放題だったのも国王陛下の命令で放置されていたのかもしれない。
マイアおばあちゃんはパンと手を叩いて私たちを見つめた。
「それにしても。頑張ったわね、セリーナ」
「ううん。おばあちゃんも、ありがとう。ルシウスさんも!」
「……っ。いえ、僕は当然のことをしたまでですから。それに、まだやるべきことが残っています」
ルシウスさんはまたフードを被り直し、顔を隠してしまう。
「セリーナが封印を施したから、もう私たちが直接洗脳を解除していない人達の洗脳も解けたはずよ。あとは陛下に状況を説明しなくちゃね」
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