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望まぬ相席②
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「スティーブ……なぜお前がここにいるのだ?兵器開発で忙しいのではなかったのか?」
ダクソンは忌々しげに長髪で涼やかな青年を睨んだ。スティーブと呼ばれた青年は爽やかな青い軍服を上品に着こなしていた。
「忙しいです……が、どなたかが私目の仕事を増やしたからです。ダクソン様、時渡りの魔女に手を出すなと国王から勅旨を受けておりましたよね?
一人で先走り、戦闘用義装具を兵士にあてがい被害者を出したことをもうお忘れですか?」
物腰は柔らかいが有無を言わさない口調だった。
「……ちっ、うるさい奴だ!」
ダクソンは舌打ちするとドスドスとドアに向かう。その道中に立つギイトの肩を掴むとスティーブに聞こえないように耳打ちした。
「先の提案受け入れろ…さもないとお前に刺客を差し向けるぞ」
「……刺客?この前の暴漢のことか?弱かったな拳で退けられた。どうせ送るならもっと骨のある奴にしてくれ」
凄みを効かせた脅迫をものともしないギイトにダクソンは怒りに拳を握り震わせた。
「弱い暴漢など知らんわ!!きさまも魔女もわしを侮ったこと後悔させてくれる!」
大声で怒鳴るとやっと個室から出ていった。
静まりかえる個室。
料理はもうすっかり冷めてしまった。後に残された軍人にしては線の細い青年は、頭を深々下げてサクヤとギイトに謝った。
「同胞が騒がしくて申し訳ありませんでした。今後暴走しないよう監視させます」
「ぐふ、ぐふ。スティーブ・ローンさんは軍縮を掲げる穏健派ですよね?戦闘狂のダクソンさんを同胞と言えるのですか?」
「いやぁ、魔女殿は私のことを御存じでしたか?これは嬉しいです。
まぁ、ダクソン様は口は悪く、軍力による世界平和という方法は乱暴ですが、軍縮による世界平和を掲げる私と最終目標は同じですので」
人好きする笑顔を浮かべスティーブは笑う。
「おおざっぱですね。全く同じとは思えません」
「方法論の違いですよ」
真逆とも言える思想を強引に一括りに纏めるスティーブに二人は瞠目した。
スティーブ・ローン……聞いたことのある名前にギイトの古傷が疼く。ギイトは忘れたがい苦い記憶を呼び覚ました。
「……お前、確かドドキア戦争で活躍したキサール国の敵将だったな」
魔導兵器部隊の隊長だった彼らの一団に散々苦しめられた。凄惨な戦争を思い出し、ギイトの顔が苦悶に歪む。
「そうです……私もギイト殿と同じあの戦争の経験者です。あれは……人が人として扱われない悲惨なものでした。戦争はダイソ帝国の介入で終戦して、私は運良く帝国に拾われまた軍人として戦う日々です」
皮肉そうに唇の端を上げ、スティーブはおどけてみせた。
「……だから夢見たいんです。戦争のない世界を」
「ぐふふ、まあ無理ですね」
理想を掲げるスティーブをサクヤはあっさり切り捨てた。
「……サクヤ」
ギイトが呻いた。
戦争が憎い。
戦争が無かったら自分は醜い欠損奴隷に成らなかったのだ。口の中が乾いて苦い。
「ふう……魔女殿は冷たいですね」
スティーブは大袈裟に肩をすくめた。
「ぐひん、現実的と言ってください。ところで、こんな話をしたくてわざわざこんな辺鄙な町のレストランに来た訳じゃないですよね?」
じとりとサクヤはスティーブを見つめた。
ギイトは息を飲んだ。
そうだ…ダクソンを止めるだけならこの男が来る必要はないのだ。
「話が早いですね……実は『時渡りの魔女』と『魔装具の隻眼騎士』に護衛を依頼したいのです」
「護衛だと」
「はい!度重なる魔界喰虫の襲撃から私を守ってほしいのです」
ダクソンは忌々しげに長髪で涼やかな青年を睨んだ。スティーブと呼ばれた青年は爽やかな青い軍服を上品に着こなしていた。
「忙しいです……が、どなたかが私目の仕事を増やしたからです。ダクソン様、時渡りの魔女に手を出すなと国王から勅旨を受けておりましたよね?
一人で先走り、戦闘用義装具を兵士にあてがい被害者を出したことをもうお忘れですか?」
物腰は柔らかいが有無を言わさない口調だった。
「……ちっ、うるさい奴だ!」
ダクソンは舌打ちするとドスドスとドアに向かう。その道中に立つギイトの肩を掴むとスティーブに聞こえないように耳打ちした。
「先の提案受け入れろ…さもないとお前に刺客を差し向けるぞ」
「……刺客?この前の暴漢のことか?弱かったな拳で退けられた。どうせ送るならもっと骨のある奴にしてくれ」
凄みを効かせた脅迫をものともしないギイトにダクソンは怒りに拳を握り震わせた。
「弱い暴漢など知らんわ!!きさまも魔女もわしを侮ったこと後悔させてくれる!」
大声で怒鳴るとやっと個室から出ていった。
静まりかえる個室。
料理はもうすっかり冷めてしまった。後に残された軍人にしては線の細い青年は、頭を深々下げてサクヤとギイトに謝った。
「同胞が騒がしくて申し訳ありませんでした。今後暴走しないよう監視させます」
「ぐふ、ぐふ。スティーブ・ローンさんは軍縮を掲げる穏健派ですよね?戦闘狂のダクソンさんを同胞と言えるのですか?」
「いやぁ、魔女殿は私のことを御存じでしたか?これは嬉しいです。
まぁ、ダクソン様は口は悪く、軍力による世界平和という方法は乱暴ですが、軍縮による世界平和を掲げる私と最終目標は同じですので」
人好きする笑顔を浮かべスティーブは笑う。
「おおざっぱですね。全く同じとは思えません」
「方法論の違いですよ」
真逆とも言える思想を強引に一括りに纏めるスティーブに二人は瞠目した。
スティーブ・ローン……聞いたことのある名前にギイトの古傷が疼く。ギイトは忘れたがい苦い記憶を呼び覚ました。
「……お前、確かドドキア戦争で活躍したキサール国の敵将だったな」
魔導兵器部隊の隊長だった彼らの一団に散々苦しめられた。凄惨な戦争を思い出し、ギイトの顔が苦悶に歪む。
「そうです……私もギイト殿と同じあの戦争の経験者です。あれは……人が人として扱われない悲惨なものでした。戦争はダイソ帝国の介入で終戦して、私は運良く帝国に拾われまた軍人として戦う日々です」
皮肉そうに唇の端を上げ、スティーブはおどけてみせた。
「……だから夢見たいんです。戦争のない世界を」
「ぐふふ、まあ無理ですね」
理想を掲げるスティーブをサクヤはあっさり切り捨てた。
「……サクヤ」
ギイトが呻いた。
戦争が憎い。
戦争が無かったら自分は醜い欠損奴隷に成らなかったのだ。口の中が乾いて苦い。
「ふう……魔女殿は冷たいですね」
スティーブは大袈裟に肩をすくめた。
「ぐひん、現実的と言ってください。ところで、こんな話をしたくてわざわざこんな辺鄙な町のレストランに来た訳じゃないですよね?」
じとりとサクヤはスティーブを見つめた。
ギイトは息を飲んだ。
そうだ…ダクソンを止めるだけならこの男が来る必要はないのだ。
「話が早いですね……実は『時渡りの魔女』と『魔装具の隻眼騎士』に護衛を依頼したいのです」
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