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望まぬ相席③
しおりを挟むギイトとサクヤを乗せた馬車がカタカタとレンガで舗装された道を進む。
ギイトの欠損部に負担がかからないよう馬車内はクッション性の革張りで車輪は振動が少なく過ごしやすいように改装されていた。
「ぐひひ、魔導兵器の造詣に深い軍人でした。生体義装具の理論、仕組みに独学でたどり着くとは対したものです」
憮然とした顔のギイトの横に興奮冷めやらないサクヤが座る。
戦闘兵器開発部門のトップのスティーブと魔導人形を始め戦闘用義装具を開発したサクヤは技術者通し話が合ったようで、ギイトには理解出来ない専門用語で話始めた。蚊帳の外のギイトは面白くない。
途中、スティーブがギイトの戦闘用義装具を良く見せてほしいと申し出たが、欠損部位に触れられたくないギイトは断った。
残念がるスティーブにサクヤがこの世界にない理論ですからと説明すると、スティーブは持論を展開しサクヤを大いに驚かせていた。
「……ふん、随分と楽しそうだったな」
「ぐひ?ギイトっ、嫉妬!嫉妬ですか?」
「っ、違う」
図星を指されギイトは不快に顔を歪める。肩の触れあう隣でくねつく魔女に苛立った。
「ぐふふ、大丈夫ですよ。ギイトの欠損がこの世で一番尊いですから~」
「うるさい、気持ち悪い魔女に嫉妬などするか」 「ぐひぃー。痛ひー」
ギイトは照れ隠しで魔女の両頬を縦にぐにぐに横にふにふにと引っ張った。更に不細工な顔にする。 赤く残る頬に付いた指の跡がまるで所有印のようで胸がすく思いがした。
「け、健気な魔女を虐めるなんて酷いですよギイト…」 サクヤは痛む頬を擦り、怨めしそうにギイトを見上げた。
「ふん、健気な魔女なぞここには存在しない」
サクヤは「ぐふう」と快音を発し何を言おうとして止まりとなぜか頬を赤く染めた。
「………まあ、痛めつけられる趣味はありませが、ギイトが望むなら仕方ありませんね。ぐふふふ、げふふふ。未知の扉が開きそうです」
「開かなくていい」
慌てて未知の扉を開きかけるサクヤを止めた。奴隷として虐げられてきたギイトに女性を痛め付ける趣味はない。
「ぐふふ……残念です。次の楽しみに取っておきますね。まあ、スティーブさんは戦闘用義装具を使いこなすギイトを手に入れられなかったので、製作者のあたしから情報を引き出したいだけです。根本的にはギイトを軍の兵器として使用したいダクソンさんと大差はないです。
二人の軍人から熱烈に求められちゃってますね。お尻の穴が大変なことになりそうです…げふ、げふふふふふ」
サクヤは両頬に手を当てくねくね悶える。
「想像するな。
……大差ないのなら、スティーブの護衛を引き受けてよかったのか?」
先ほどのスティーブの護衛依頼をサクヤは二つ返事で引き受けたのだった。
「対象者の遠方から魔界喰虫は召喚出来ません。術者も近くに居る必要がありますから、スティーブさんの護衛をすれば自ずと術者とご対面出来そうです
から」
「……術者を殺すのか?」
ギイトは顔をしかめた。
「ぐひひ、時空を正す為に必要ですから殺します。……でもギイトはもう人殺しは嫌でしょう?あたしの奴隷だからといって無理にスティーブさんの護衛をしなくて大丈夫ですから。あたしには強い魔導人形が居ますので」
戦争で傷付いたギイトを労るつもりの魔女の言葉はただ彼を苛立たせるだけ。
「ちっ、俺を頼れ。魔導人形より俺の方が強い」
「確かにそうですが……良いのですか?ギイトが大々的に護衛するとなると『魔装具の隻眼騎士』はダクソンさんではなくスティーブさん側に付いたと周りは勝手に解釈します。ダクソンさんの強硬派を敵に回しギイトも魔界喰虫の標的にされるかもしれません」
「今更だ既に町で襲われた。
標的にされ危険なのはサクヤも同じ……不本意だが俺はお前の奴隷だ。俺は主人は護る」
「ぐひぃー。ギイトがあたしを主人と、あたしを護ると…くっ、ぐふふふ、白昼夢でしょうか~?」
「……勝手に白昼夢にするな」
ギイトは隣に座るサクヤの手首をおもむろに掴んだ。そしてそのまま口許に近づけた。まるで手の甲に誓いをたてる騎士のように……。
ギイトの乾いた唇がサクヤの手の甲に触れた。
「ギ、ギイトがとうとうおかしくなりましたーー!!ぐひぃ、こ、困りましたね。手足の替えはあっても脳ミソの替えはありません」
あわわとサクヤが頭を抱えたちょうどその時、馬車は豪奢な娼館前にたどり着いた。
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