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娼館での一夜①
しおりを挟む町外れの最高級の娼館に到着した二人は揉み手の支配人に豪華な部屋に案内された。
「……サクヤ、娼館に用事があるのか?此処にも生体義装具の顧客がいるのか?」
お泊まりと聞きホテルに直行かと考えていたギイトは出端を挫かれ、サクヤに尋ねた。
「ぐひ、ありますよ。楽しみですね」
サクヤとギイトはふかふかの白い毛皮を敷いた大きなソファーに腰を掛けた。
娼館『宵の華』は、本来奴隷が入館出来ない敷居の高い店だ。
軍が喉から手が出るほど手にいれたい『魔装具の隻眼騎士』と、生体義装具の商人で大金持ちの『時渡りの魔女』を上客にしたい支配人は二人を歓迎してくれた。
ご挨拶にとサクヤが金貨の入った袋を魔導人形に10つほど運ばせれば、支配人は目の色を替えた。
「この娼館1の美女をつれて参ります!お待ち下さい。お部屋も食事も最高級な物を直ぐに準備いたします」
「支配人、マリアは今へそを曲げていまして」
「いいから、早く連れてこい!」
従業員は支配人を叱咤した、哀れな従業員は大慌てで部屋から出て行く。支配人は揉み手のまま低姿勢で二人に謝った。
しばらくすると廊下から人の揉める声とコツコツと高いヒールを踏む靴音がした。
「嫌ですわ!わたくしは、奴隷の相手なんてしませんわよ」高圧的な女性のヒステリックな声が響き渡る。
「申し訳ありません。奴隷といえどギイト様のお相手が出来ることは幸運です。少しお待ち下さい!」
青い顔をした支配人が廊下に飛び出ていった。
部屋の外から女と支配人の言い争そう声が聞こえるが、ギイトの耳には届かなかった。
ーー今、支配人は俺の相手と言わなかったか?
まさか、俺に娼婦をあてがうつもりなのかっ!
腹の奥から湧く怒りにかっと目の前が赤くなる。
「どういうつもりだ?サクヤ」
隣に座るサクヤの腕を軋むほど強く掴んだ。
「い、痛たたたっ。ぐひぃ、折れますよ離して下さい~。ぐふふ、美女が待ちきれないのですか?落ち着いて下さい」
「っ、サクヤ……俺は」「お待たせいたしました!!」
ギイトがサクヤに告げる前に部屋の扉が大きく開かれた。
「この娼館1の娼婦のマリアです。ほらマリア!『魔装具の隻眼騎士』のギイト様だ。早くご挨拶しなさい」支配人に腕を引っ張られた女が部屋に入ってきた。
「始めましてマリアです」
頭を下げる女は確かに美しかった。
燃えるようなうねる赤髪に、同じ色の気の強そうな瞳、男好きのするぽてりとした唇にすらり整った鼻。体の凹凸を強調するぴったりとした真っ赤なドレス。
大きく空いた胸元から溢れんばかりの豊かな膨らみと括れた腰に肉付きのよいお尻は男の官能を大いに揺さぶる。
ただ一つ彼女に足りないとしたら、それは若さだった。下級貴族だった彼女は若さと美貌を武器に権利を持つ男を渡り歩いて悠々自適に遊び暮らしてきた。武器の一つだったそれが失くなり、美しさに陰りが見え始め軍の上層部の男の愛人だったマリアは焦った。焦った彼女は男の本妻を排除し、後釜に収まろうとして男の怒りを買い平民に落とされた。そして娼館に売られてしまった。一年半前のことだっだ。
以来、目の下の隈を肌のくすみを化粧で隠し、若作りをし娼婦を続けてきた。全ては条件の良い金持ち男に自分を身請けさせるためである。
奴隷男の相手と聞いてマリアは難色を示していた。だが廊下で支配人から相手がポンと金貨10袋を払える財力があり、しかも今巷で有名な『魔装具の隻眼騎士』と聞いて、気が変わった。
寧ろ、自分の太客にしてやると意気込んだ。
「先ほどは失礼いたしましたわ。有名な『魔装具の隻眼騎士のお相手とは思いませんでしたの。精一杯勤めさせて頂きますわ」
「……お前っ」
マリアは艶やかに微笑むと、顔を凝視するギイトの隣に腰を掛けるとしなだれかかり太い腕に豊かな胸を押し付けた。
「ぐふふ、ギイト良かったですね!むしゃぶりつきたくなるような美人さんですよ」
何故かサクヤか目を輝かせて、感嘆の声をあげた。
ギイトは下を向き奥歯をギリギリと噛み閉めた。拳は固く握られ何かに耐えているように見えた。
「ぐひ……ギイト?」
「まあ、照れていらっしゃいるのね?うぶなお方。うふふ、忘れられない素晴らしい一夜にいたしますわ。さぁ、行きましょう」
急かすように腕を絡めたマリアをギイトは突き飛ばした。マリアは大理石の床に尻餅を付いた。
「きゃぁ、何をなさいますの?」
「…お前と忘れられない素晴らしい一夜はもう過ごした」ギイトはソファーから立ち上がりと恐ろしい顔でマリアを睨んだ。
「ひっ、ギイト様何をおっしゃいますの?わたくしたちは初対面ですわ」
「……忘れたのか?奴隷商の前で俺に散々鞭打ちし、他の奴隷に掘らせた。醜い欠損奴隷は地を這うのがお似合いと楽しそうに笑っていたな」
「え?……まさかあの時の見世物の奴隷が…」
「そうだ俺だ……本当にお前を抱いて良いのか?因果応報だ。お前がしたことと同じことをしてやるが」
ギイトがニヤリと不気味に笑った。
「ひぃぃーっ、ごめんなさい!ごめんなさい!許してください。そんなつもりなかったの」
マリアは自分の所業を思い出したのかガクガク震えるとその場で泣き崩れ土下座をした。
呆気にとられる支配人にギイトははっきり言った。
「俺に娼婦は必要ない。ただ部屋を一晩貸してほしい」
ギイトは言うが早いか隣に座るサクヤを荷物のようにひょいと肩に担いだ。
「ぐひ、ギイトっ!なぜ抱えるんですか?もったいない。別の娼婦に替えましょうよ」
「……少し黙れ」
喚くサクヤを抱えたまま従業員に案内され最上階の客室に消えていった。
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