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ログオンされて吐きそうな私
しおりを挟むジャスティス王子は、見た目だけは王子様みたいだった。金色の固そうな髪を後ろに撫で付け、黒緑色の瞳。くっきりとした目鼻立ち。粗野な雰囲気はあるが、権力もあるしさぞかし女性にモテただろう。でも、私の好みじゃない。旦那さま一筋だからね。
「ヴィヴィアン……お互い若かったな、学園でのお前の過ちを赦してやるよ。また昔みたいに俺を支えてくれ」
ジャスティス王子は、私の隣の椅子にどかっと腰をかけると、恭しく私の右手を取った。
「えーと、記憶を無くしたので、昔のことは覚えていないんですけど、私、ジャスティス王子に死刑にされるところだったんですよね?」
死を望んだ相手にすがろうって恥ずかしくないのかな?面の皮厚いな。
「そんな昔のことを持ち出すな。死刑は、ミリアが言い出したことで俺は反対したんだ……現にお前は生きてるじゃないか。
だが、俺を慕っていたのに獣に嫁がせたのは悪かったと思ってる。記憶を無くすほど、あの獣が嫌いなんだろう?離縁して俺の女に成ればいい」
獣って旦那さまのこと?失礼ですよ。この人も公爵と同じ思考の持ち主なのか。
ジャスティス王子は、目を細め私の紫色の髪を一房掴むと口づけた。
ぶわああーっと全身に変な鳥肌がたった。手のひら返しのこの人が怖い、思考回路がキモイです~。
余りの気持ち悪さに動けず固まる私。大人しいことを肯定の意味に取ったのか、ジャスティス王子は、私の肩を抱いた。
ひいいーっ、吐きそうっ!いやっ。このままじゃ確実に吐く。嫌悪感が胃液とともに競り上がてキターっ。
「ジャスティス!ヴィヴィアンはマクガイヤ辺境伯婦人です。もう貴方の婚約者ではないのです。気軽に触れてはなりませんよ」
見かねたエレナ妃がジャスティス王子の手をピシャリと扇で叩いた。ジャスティス王子の手が肩から離れた。良かった吐く三秒前だった。
「っ!痛ててっ。ふん、母上は頭が固いな。臣下の女は君主の女だろう?」
そんな某アニメキャラ的な格言初めて聞いたよ。
「勘違いはお止めなさい!わたくしたち王族は離縁できませんよ。
貴方は献身的なヴィヴィアンを捨て、怠惰なミリアを妃に選んだのです。今さらやり直したいなんて、厚顔無恥にも程がありますわ。
今、貴方に出来る最善は、ダニエルと合流しモーシャン地方の魔物を倒すことです。地に落ちた信頼を回復しなさい」
固まる私の変わりにエレナ妃が私の代弁してくれてる。さすが聡い王妃様。
うーん……でも今更ジャスティス王子が合流しても、場を乱すだけで、役にたたなそう。旦那さまの為に引き留めるべきかも。
「領地周りはダニエルの公務なんだろう?。俺の代理に魔物を退治させてやる。獣騎士団も貸してやる、俺が赴く必要性はない」
呆れる言い訳をした、ジャスティス王子は私から視線を外さない。完璧にロックオンされている。この勘違い男をどうにかしないと。
「なぁ、ヴィヴィアン。公妾になって俺の子を孕め。世継ぎの生母になれる大層名誉なことだ。ローベルハイム公爵も喜ぶぞ。本来あるべき形に戻るだけだろう?それに、獣よりお前を満足させてやれる」
ジャスティス王子の視線が不埒に私の体のラインをなぞった。
ひいいーっ、助けて旦那さま。視線で犯される~。おもいっきり罵倒して拒否したい。
でも、こんなんでも王子だし不敬罪に問われ兼ねない。旦那さまへの当たりが強くなられても困る。
「わ、私は旦那さまに満足していますっ。顔も私の好みでとってもカッコいいし、筋肉だし、さりげなく優しいし大好きなんです。ジャスティス王子、私に旦那さまをありがとうございます」
ここは旦那さま大好き作戦決行であります。
私と旦那さまの間に、ジャスティス王子の入る隙間は一ミリもないのです。
旦那さまを思い浮かべて、頬を薔薇色に染め、極上の笑顔をジャスティス王子に向けた。
「……お前でも、そんな顔出来るんだな?」
ジャスティス王子の双眸が開き、声色が心なしか上擦っていた。
「え?」
「……雄をそそる顔だ。お前を抱くのが今から楽しみだ」
ジャスティス王子は舌舐りをした。ここまで、言っても引いてくれない。とんだ鋼メンタルですね。
「ええと、毎晩旦那さまに可愛がられているので、大丈夫です!」
こうなったらと、肩のストールをずらし背中の花をジャスティス王子に見せつけた。恥ずかしいけどこれで諦めて~。
「まぁ、情熱的ですこと」
ぽっとエレナ妃が頬を赤らめた。
「なっ!……これをアイツが?
閨しかやらないはずでは……」ジャスティス王子が絶句した。
「私たちはラブラブな仲良し夫婦ですから」
ストールを直し、にっこり微笑むと遊び疲れたシリウスがお膝に乗ってきた。
「マァマと、おとうしゃま。とってもなかよしさん」
クッキーを両手に持ってニコニコ食べ始めた。肩から下げた、かごにはたくさんの蝶が捕まっていた。
「そうです~!家族三人幸せなんです」
ポロポロクッキーを溢す、シリウスのお手伝いをする。もうこの話は終わったと視界からジャスティス王子を除外した。見ない見ない、関わらない~。
ぎりりと私を睨んでいるらしい王子をエレナ妃が諌めてくれる。
「ヴィヴィアンはシオンのために騎士団詰所に毎日のように手作りの食事を届けているそうです。今、市井でも仲睦まじいと話題になっていますわ。二人に貴方の付け入る隙はないのです!いい加減あきらめて、お下がりなさい」
ピシャリと言い切られ、ジャスティス王子は一度怯んだけど、また何か言おうと口を開いた。
「俺は……いっ、痛い!」
開いた口を押さえてジャスティス王子は呻いた。
「まあ、どうしたの?ジャスティス」
「くそっ、こんなときに歯が痛むとは、くっ!ヴィヴィアンっ!俺はっ。いだたたっ」
涙目で頬を押さえるジャスティス王子。
あれ?もしかして地味に歯が痛くなる呪いが効いなの?なーんて、ただの偶然だよねー。
「大変です。直ぐに王宮医者に診てもらいなさい」
エレナ妃が目配せをすると、騎士が進み出て俯くジャスティス王子を支え連れていく。
良かった、やっと居なくたってくれた。ほっと胸を撫で下ろす。もう二度と会いたくないです。
「ジャスティスも歯痛なんて、面白い偶然ですわ」
覚めた紅茶を新しく淹れ直す間、思い出したかのようにエレナ妃がクスッと笑った。
「侍女から聞いたお話なんですが、ローベルハイム公爵家には歯痛が流行っているそうよ」
歯痛が流行る?感染でもないのに?
「流行ってるとしか言いようがないそうですわ。
家人は勿論のこと。ローベルハイム公爵家で働き始めると歯痛になって、帰宅すると治まるそうですから。地味に痛くて仕事が出来ないと、次々と使用人が辞めてしまい人手不足のようですわ」
ん?シリウスの誕生日会で、公爵家に『使えるなら歯が地味に痛くなる呪いをかけてやりたい』て思ったけど……まさか私のせい?
うーん……でも、お姉さんに呪いの力があるなんて聞いてない。もし私が無意識に闇魔法使ってたら旦那さまにわかるはずだし、やっぱり偶然だよね~。
私、闇魔法について何も知らない。黒丸くんは出せるけど、あと何が出来るんだろう?
お姉さんみたいに人が操れるんだろうか?
あれ?待って……人が操れるんなら、お姉さんはなんでジャスティス王子を操らなかったんだろう?
操れるなら自分を好きにさせたり、品行方正な人物に仕立てることが出来たはずだもの。
王子だから魔法封じの装飾品でも着けていた可能性もあるけど。
民衆も操れるし王家に必要な能力なのに、王は簡単に王子の婚約破棄を容認して聖女を選んだ。そして旦那さまと婚姻を許した。
それってもしかして………。
帰ってきたら旦那さまに尋ねてみよう。お姉さんに人を操る魔法が使えたかどうかを。
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