悪役令嬢の面の皮~目が覚めたらケモ耳旦那さまに股がっていた件

豆丸

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かけがえのない② 旦那さま視点

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 護衛騎士ランディから借りた馬を走らせた。町外れの門までは遠い。どの門も一度街中を通過しないとたどり着けないように道が作られていた。

 シリウスどうか……無事でいてください。

 神に祈る気持ちでひた走ると、上空からイザークの声が降りてきた。

「シオン隊長!第二門に向かう客室内が氷で一杯な不審な馬車を発見した。小さな氷を無数に落としながら進んでる」
 走る馬と並走しながら飛行するイザーク。

「小さな氷……シリウスからの救助要請ですね。イザークご苦労様です。タスクにも知らせてください。そのあと、閉門許可書を運ぶ兵士から受け取り、第二門まで届けて下さい」馬を走らせながらイザークに指示を出した。

「鳥使いの荒い隊長だね……大丈夫俺に任せて」
 弾丸のようにイザークは飛んで行った。 

 進路を変えて第二門に急いだ。
 暫くひた走ると第二門に近い街中に入った。街中には門が締まり行き場をなくした数台の馬車と慌てふためく人々。その閉じられた門前で第二騎士団とタスク率いる獣人騎士団が睨み合っていた。 
 
 一髪触発の針積めた空気、タスクの後方でカンタが牙を剥き出し唸る。
 

「あ、シオン隊長来たのー?早かったね」

「タスク!この騒ぎは一体どうしたのですか?氷詰めの不審な馬車は?シリウスは無事ですか?」

「~~うわぁ、狐耳にビーンと来たよ。シリウス坊は大丈夫だよ。
 ほら後ろの『白猫堂』の女将さんのキリコさんと店長さんがシリウス坊の鳴き声のする氷詰めのノロノロ馬車を不審に思ってね。
 商店街のみんなと協力して足止めしつつ、俺に知らせてくれたんだよ。だから早く来れんだ。
 今、シリウス坊はキリコさんの店のなかで保護してもらってるよ。後でたっぷり御礼しなよシオン隊長~」 

「……感謝してもしきれませんね。馬車のニセ獣人の確保はまだですか?」 

「ああそれねー。
 何故か第二騎士団こいつらが俺らが確保したニセ獣人を引き渡してくれないんだよね~。どうしてなんだい?第二騎士団長スミス・ザッケローニさん?誰かの命令かい?」タスクはふざけた笑顔を張り付け目の前の男を揶揄った。

「うるさいっ!たかが獣人の副団長ごときが私の名前を気安く呼ぶな」 
 スミス・ザッケローニ。反獣人派のザッケローニ公爵の次男坊で自身も反獣人でしたね。
 
「タスク止めなさい。
 門を締めて街中を混乱させたのは我々獣人騎士団です。非常事態でしたので申し訳ありません。取り急ぎ正妃様から閉門許可書が届きます」
 丁寧に謝るが煩わしそうに鼻を鳴らした。 

「ふん、俺たちの仕事を増やすなよ。犯人は捕まえたんだからな。もう門は開けるぞ」
 スミスが手をあげると部下が睨む獣人騎士団員を押し退け、門を開いた。止められていた馬車が列を連なり逃げるように出ていく。

 スミスは、そのまま犯人を乗せた馬車を先導し踵を返した。このままニセ獣人を黙って連れて行かせる訳にはいきません。

「スミス殿……獣人騎士団を偽り、私の息子を誘拐した犯人は私に引き渡して下さい」

「何度も言わせるな…街中の警備、犯人の確保、詰問は俺らの仕事だ!獣人がしゃしゃり出てくるな」
 
「あれ?獣人の犯罪には獣人騎士団が対応するってことになってるんだけど、第二騎士団長さんはなーにも知らないのかい?」 
 馬鹿にしたタスクの口調にみるみるうちにスミスの顔が赤くなった。

「ぐうう、うるさい!そんなことは知ってるぞ」

「知っているなら引き渡して下さい……それとも引き渡せない理由があるんですか?」 
 探りを入れて顔色を伺うと、スミスはニヤリと意地悪く笑った。 

「おっと、手が滑った」
 スミスは馬の手綱を離すと、馬の尻を強打した。
 
「なっ!」 
「くっ!」
 ヒヒーンと嘶くと馬は矢のごとく走り出し、門か出て逃げて行く。

 慌てて追いかけようとしたタスクと私の前に第二騎士団が立ち塞がる。 

「おいっ!お前ら退けよ」 
 タスクが怒鳴った。

「退いてほしいなら土下座でもしろよ…まあ、獣に土下座されても何の価値もないがな」
 スミスと第二騎士団がゲラゲラ笑いながら退いた時には、すでに馬車の走り去った方向さえわからなかった。  

 項垂れるタスクを嘲笑うと、スミスと第二騎士団は面倒な後片付けを第三騎士団に押しつけ帰って行った。

 スミスが視界から消えたことを確認すると、タスクは顔を挙げて不敵に笑った。 

「イザークは馬車にぴったりくっつて尾行出来たね。馬鹿な騎士団長と第二騎士団は俺たちに気を取られて全然気付かなかったみたいだ。
 これで北の山の何処に獣人たちが集められているかわかるよ~。本当に良かった」 

「そうですね相手が単純馬鹿で助かりました」
 タスクと顔を見合わせ肩を竦めた。

「もう一つさ、念のため準備したいからシオン隊長ちょっと待っててよー」
 タスクはそう言うと疲れた顔の第三騎士団員に話しかけた。 

「おーい!今度獣人騎士団で北の山に鍛練に行くんだけどさ、今日、俺たちが迷惑かけちゃったから、ついでやる仕事とかってあるかな?」
 タスクはお得意の人懐こい笑顔を浮かべた。


「つ、ついで?」
「良いのか?頼んでも?」
 隈の深いくたびれた彼は第三騎士団長で平民出身のアイクだった。日常的に第二騎士団に都合よく使われ極度に疲弊しているようです。

「良いよー。第二騎士団には秘密にしとくからー。頑張ってる第三騎士団は少し休みなよ」
 タスクが第三騎士団長に軽く目配せを送る。

「うう……お優しいお言葉、ありがとうございます。
 実は近々北の山に物資を運ぶ手筈になっているんです。あんな廃坑にどうして物資が必要なのか教えてはもらえませんでしたが、代わりに運んで貰えたら助かります」
 アイクは低姿勢で頭を垂れた。
  
 
 ーーどうやら当たりのようです。
 第二騎士団は、再三の訴えに関わらず獣人失踪の調査を拒否した。
 そして、ニセ獣人を逃がした先ほどの不自然な態度。タスクの睨んだ通り第二騎士団は獣人失踪に絡んでいるようですね。
 必ずニセ獣人騎士団を捕まえ、黒幕を引き摺り出してやります。 
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