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第一章 囚われの日々
強さの理由(2)
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「ねえ、シェミ。もう一つ聞いてもいい? どうして僕の剣技が貴女の目に留まったのですか?」
「……ユイト様の剣技は、まるで剣舞のように美しく、貴方様の姿がわたしの心に深く刻まれたからです」
わたしがそう言うと、ユイナート様の手の動きが止まった。彼の顔を見ようと顔を動かしたが、彼によって止められる。困ってシェンド様を見ると、シェンド様は仕方なさそうに肩をすくめた。
「シェミは本当に無意識にユイトを誘うのが得意だよな」
「さ、誘ってなど……」
「聞いている俺ですらそう感じるのだから、ユイトはまさにそうだろう。おいユイト、今日はシェルミカに手を出さないという言葉を必ず守れよ」
シェンド様の話の途中で、わたしの身体を弄り始めていたユイナート様が手を止めた。今にも彼が服の下に手を差し込もうとしていたところだったので、わたしはひやひやしていたところだった。
ユイナート様は大きく息を吐き、シェンド様を見ていたわたしの視界は彼の手で覆われた。
「……ミハイルを本気で怒らせたくはありませんからね。ごめんなさい、シェミ。貴女かあまりにも可愛らしかったせいで、僕の理性が飛びそうになりました。それに、シドなんかを視界に入れないでください。シェミの可愛い目が穢れる」
「俺を汚いもののように言うな。お前よりも心が綺麗だという確信はある。あと、お前のような図太い奴にも苦手なものがあったのだな」
「うるさいですね。吹き飛ばしますよ」
シェンド様は両手を上げ、後部のユイナート様は再び息を吐いた。
「僕が強い理由、ですか」
ユイナート様が小さく呟く。シェンド様が吹き飛ばされたことでわたしの問いがスルーされてしまったと思っていたので、ちゃんと覚えていてくださっていて良かった。
「才能があったから」
ぼそりと聞こえた言葉に耳を疑った。小さな声量だったがシェンド様にも聞こえていたらしく、お前まじかと言いたげなジト目でわたしの後部を見る。ユイナート様は軽く笑った。
「冗談ですよ。魔力が一般よりも多いのは事実ですし、剣技が得意なのも事実ですが、僕が強くなった一番の理由は別にあります」
カイト様がぼやかした内容がユイナート様から直接聞けるだろうか。どうせ教えてくださらないのでは、と思っていたので、驚きを感じる。しばらくユイナート様は口を開かずただわたしの頭を撫でていた。
「……大切な人のため」
その言葉はさっきよりもはるかに小さな声だった。それでもわたしははっきりと聞き取ることができた。
「大切な、人?」
思わず復唱すると、シェンド様はわたしの顔を見つめた。そして彼はユイナート様に視線を移す。何か仰るかと思ったが、彼は何も言わなかった。
「僕が強くなる理由は、自分の力で国の民を守るためですよ。僕は自分で動いていないと落ち着かない性分なので、騎士に任せっきりにすることは耐えられませんでした。護衛に関しても自分で身を守れるようにはしておきたかったのです」
ユイナート様の声色は普段と変わらない。しかし、これ以上先程の言葉を深堀してほしくないというような雰囲気が醸し出されている。深堀するとひどい目に遭いそうなので、何も言う事ができなかった。
ユイナート様の大切な人……。大切な人がいるというのに、わたしなんかに構っていて、大丈夫なのだろうか。以前彼が言っていたことから考えると、その人物はサラ様ではないのだろう。しかしサラ様以外に思いつく人物が思いつかない。ユイナート様の言葉には少し寂しさが込められていたような気がしたので、既に亡くなっているとか。彼の大切な人が彼の傍にいたのなら、わたしは今この場にいることはなく、いつまでも変わらず下町で暮らしていたのかもしれない。
わたしはユイナート様の『玩具』なので、大切な『人』ではない。そのことだけははっきりと分かる。
その後もユイナート様とシェンド様はわたしを挟んでわたしに関することを話していたが、集中して聞くことはできなかった。そのうち目を開けていることが辛くなってきて、うとうととしてくる。
「おやすみなさい、シェルミカ。良い夢を」
いつのまにか意識が薄れ、ユイナート様がわたしの頭を優しく撫でるのを心地よく感じながら、彼の胸に頭を預けて眠ってしまった。
「……ユイト様の剣技は、まるで剣舞のように美しく、貴方様の姿がわたしの心に深く刻まれたからです」
わたしがそう言うと、ユイナート様の手の動きが止まった。彼の顔を見ようと顔を動かしたが、彼によって止められる。困ってシェンド様を見ると、シェンド様は仕方なさそうに肩をすくめた。
「シェミは本当に無意識にユイトを誘うのが得意だよな」
「さ、誘ってなど……」
「聞いている俺ですらそう感じるのだから、ユイトはまさにそうだろう。おいユイト、今日はシェルミカに手を出さないという言葉を必ず守れよ」
シェンド様の話の途中で、わたしの身体を弄り始めていたユイナート様が手を止めた。今にも彼が服の下に手を差し込もうとしていたところだったので、わたしはひやひやしていたところだった。
ユイナート様は大きく息を吐き、シェンド様を見ていたわたしの視界は彼の手で覆われた。
「……ミハイルを本気で怒らせたくはありませんからね。ごめんなさい、シェミ。貴女かあまりにも可愛らしかったせいで、僕の理性が飛びそうになりました。それに、シドなんかを視界に入れないでください。シェミの可愛い目が穢れる」
「俺を汚いもののように言うな。お前よりも心が綺麗だという確信はある。あと、お前のような図太い奴にも苦手なものがあったのだな」
「うるさいですね。吹き飛ばしますよ」
シェンド様は両手を上げ、後部のユイナート様は再び息を吐いた。
「僕が強い理由、ですか」
ユイナート様が小さく呟く。シェンド様が吹き飛ばされたことでわたしの問いがスルーされてしまったと思っていたので、ちゃんと覚えていてくださっていて良かった。
「才能があったから」
ぼそりと聞こえた言葉に耳を疑った。小さな声量だったがシェンド様にも聞こえていたらしく、お前まじかと言いたげなジト目でわたしの後部を見る。ユイナート様は軽く笑った。
「冗談ですよ。魔力が一般よりも多いのは事実ですし、剣技が得意なのも事実ですが、僕が強くなった一番の理由は別にあります」
カイト様がぼやかした内容がユイナート様から直接聞けるだろうか。どうせ教えてくださらないのでは、と思っていたので、驚きを感じる。しばらくユイナート様は口を開かずただわたしの頭を撫でていた。
「……大切な人のため」
その言葉はさっきよりもはるかに小さな声だった。それでもわたしははっきりと聞き取ることができた。
「大切な、人?」
思わず復唱すると、シェンド様はわたしの顔を見つめた。そして彼はユイナート様に視線を移す。何か仰るかと思ったが、彼は何も言わなかった。
「僕が強くなる理由は、自分の力で国の民を守るためですよ。僕は自分で動いていないと落ち着かない性分なので、騎士に任せっきりにすることは耐えられませんでした。護衛に関しても自分で身を守れるようにはしておきたかったのです」
ユイナート様の声色は普段と変わらない。しかし、これ以上先程の言葉を深堀してほしくないというような雰囲気が醸し出されている。深堀するとひどい目に遭いそうなので、何も言う事ができなかった。
ユイナート様の大切な人……。大切な人がいるというのに、わたしなんかに構っていて、大丈夫なのだろうか。以前彼が言っていたことから考えると、その人物はサラ様ではないのだろう。しかしサラ様以外に思いつく人物が思いつかない。ユイナート様の言葉には少し寂しさが込められていたような気がしたので、既に亡くなっているとか。彼の大切な人が彼の傍にいたのなら、わたしは今この場にいることはなく、いつまでも変わらず下町で暮らしていたのかもしれない。
わたしはユイナート様の『玩具』なので、大切な『人』ではない。そのことだけははっきりと分かる。
その後もユイナート様とシェンド様はわたしを挟んでわたしに関することを話していたが、集中して聞くことはできなかった。そのうち目を開けていることが辛くなってきて、うとうととしてくる。
「おやすみなさい、シェルミカ。良い夢を」
いつのまにか意識が薄れ、ユイナート様がわたしの頭を優しく撫でるのを心地よく感じながら、彼の胸に頭を預けて眠ってしまった。
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