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第二章 神の使徒
姫様(2)
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それより、仕事の途中でここを訪れるなんて、上司の上司——教皇様に怒られないのだろうか。
「大丈夫だよ。タンダの王は良い感じに片付けたから。残念ながら、冒涜者は見つかっていないのだよね。王子ともあろうお方が潜伏が得意だなんて、面白いと思わない?」
白の視線を感じたのか、上司は彼女を一瞥することもなく答える。フードで目の動きは隠れているはずなのだが、よく察知されたものだ。面白いと思わない、と言われても、恐れ多くて賛同できない。姫はよく分からないのか、小さく首を傾げた。
「おもしろい、ですか?」
「……うん。面白いよ。シェルミカを捕らえ、辱めていた男が、こそこそ隠れているんだ」
姫に優しく語りかけ、上司は姫の髪を指に絡ませて遊ぶ。白は姫が以前までどのような境遇にいたのか詳しいことは聞かされていないが、アルテアラの王太子に監禁され、強引に夜の相手をされていたことは知っている。
彼女らの大事な姫様がそんな下劣な扱いを受けていたことに対し、強い怒りを感じているが、白では『月華の王子』の相手にもならないだろう。
「わたし……分からないのです」
「どうしたの? シェルミカは難しいことを考える必要はないよ。僕のことだけを考えておいて。僕のことだけが分かってくれたら、それで十分」
「はい……」
姫は何か疑問を感じていたようだが、彼女が自分以外のことに思考を使うことが許せないのだろう。上司は姫の目を覗き込んで、精神魔法を発動させた。姫は瞳から光を失い、傀儡のように頷いた。
「いい子だね。愛しているよ」
上司は姫の額に口付け、甘く微笑んだ。普段は世界全てがつまらないといった表情を浮かべている彼が、姫の前だけで見せる表情である。白に見られていることは全く気にしていないようだ。今の白は壁と同様なので、当然のことではあるのだが。
「食事が進んでいないようだね。ちゃんと食べないとだめだよ。そうだ、僕が食べさせてあげるよ」
スープ皿を手に取った上司は、スプーンでスープをすくって姫に差し出した。姫は小さく口を開けてそれを飲む。
「おいしい?」
「……おいしい、です」
疲れているのだろうか、姫は眠たそうに目をこすっている。その様子を微笑ましそうに見ていた上司は、スープ皿を持ちながら姫の頭を撫でた。
「眠たいの? でも、寝るのは全部食べてからにしようね。後でお腹が空いちゃうかもしれないでしょ?」
「おなか、空いてません。眠い、です」
「我儘言わない。ほら、口開けて。食べないのなら、僕が口移しで食べさせてあげようか」
姫は瞳に一筋の恐怖の色を浮かべ、首を振ってから素直に口を開けた。上司はにこにこと笑みを浮かべながら、食事を彼女に食べさせる。一見温かな光景だが、実際は上司が姫に強引に食事を食べさせている場面である。
以前、姫が頑なに食事を拒んだ時、上司は嫌がる姫を抑えつけながら口移しで食事を食べさせていた。姫は可哀想なほど震えていて、あれは、かなり目に毒な光景だった。
白が頭を空っぽにして壁と同化し続けていると、上司は全ての食事を姫に食べさせたようだ。
「いい子。ご褒美、用意しておくね」
空っぽになった食器を見て、上司は満足そうに頷いて姫の頭を撫でる。彼の言うご褒美が何なのかは分からないが、姫は少し嬉しそうに上司を見上げているため彼女にとって良いものなのだろう。
姫の頭を撫でながら、上司は一瞬だけ白を見た。食器を片付けろということだろう。白はできるだけ気配を薄くしながら、食器を重ねて机の上を片付けた。部屋を出て食器を別の同士に渡し、彼女は部屋に戻る。基本、上司に部屋を出ろと言われない限り、白は姫の部屋で待機する必要がある。
「大丈夫だよ。タンダの王は良い感じに片付けたから。残念ながら、冒涜者は見つかっていないのだよね。王子ともあろうお方が潜伏が得意だなんて、面白いと思わない?」
白の視線を感じたのか、上司は彼女を一瞥することもなく答える。フードで目の動きは隠れているはずなのだが、よく察知されたものだ。面白いと思わない、と言われても、恐れ多くて賛同できない。姫はよく分からないのか、小さく首を傾げた。
「おもしろい、ですか?」
「……うん。面白いよ。シェルミカを捕らえ、辱めていた男が、こそこそ隠れているんだ」
姫に優しく語りかけ、上司は姫の髪を指に絡ませて遊ぶ。白は姫が以前までどのような境遇にいたのか詳しいことは聞かされていないが、アルテアラの王太子に監禁され、強引に夜の相手をされていたことは知っている。
彼女らの大事な姫様がそんな下劣な扱いを受けていたことに対し、強い怒りを感じているが、白では『月華の王子』の相手にもならないだろう。
「わたし……分からないのです」
「どうしたの? シェルミカは難しいことを考える必要はないよ。僕のことだけを考えておいて。僕のことだけが分かってくれたら、それで十分」
「はい……」
姫は何か疑問を感じていたようだが、彼女が自分以外のことに思考を使うことが許せないのだろう。上司は姫の目を覗き込んで、精神魔法を発動させた。姫は瞳から光を失い、傀儡のように頷いた。
「いい子だね。愛しているよ」
上司は姫の額に口付け、甘く微笑んだ。普段は世界全てがつまらないといった表情を浮かべている彼が、姫の前だけで見せる表情である。白に見られていることは全く気にしていないようだ。今の白は壁と同様なので、当然のことではあるのだが。
「食事が進んでいないようだね。ちゃんと食べないとだめだよ。そうだ、僕が食べさせてあげるよ」
スープ皿を手に取った上司は、スプーンでスープをすくって姫に差し出した。姫は小さく口を開けてそれを飲む。
「おいしい?」
「……おいしい、です」
疲れているのだろうか、姫は眠たそうに目をこすっている。その様子を微笑ましそうに見ていた上司は、スープ皿を持ちながら姫の頭を撫でた。
「眠たいの? でも、寝るのは全部食べてからにしようね。後でお腹が空いちゃうかもしれないでしょ?」
「おなか、空いてません。眠い、です」
「我儘言わない。ほら、口開けて。食べないのなら、僕が口移しで食べさせてあげようか」
姫は瞳に一筋の恐怖の色を浮かべ、首を振ってから素直に口を開けた。上司はにこにこと笑みを浮かべながら、食事を彼女に食べさせる。一見温かな光景だが、実際は上司が姫に強引に食事を食べさせている場面である。
以前、姫が頑なに食事を拒んだ時、上司は嫌がる姫を抑えつけながら口移しで食事を食べさせていた。姫は可哀想なほど震えていて、あれは、かなり目に毒な光景だった。
白が頭を空っぽにして壁と同化し続けていると、上司は全ての食事を姫に食べさせたようだ。
「いい子。ご褒美、用意しておくね」
空っぽになった食器を見て、上司は満足そうに頷いて姫の頭を撫でる。彼の言うご褒美が何なのかは分からないが、姫は少し嬉しそうに上司を見上げているため彼女にとって良いものなのだろう。
姫の頭を撫でながら、上司は一瞬だけ白を見た。食器を片付けろということだろう。白はできるだけ気配を薄くしながら、食器を重ねて机の上を片付けた。部屋を出て食器を別の同士に渡し、彼女は部屋に戻る。基本、上司に部屋を出ろと言われない限り、白は姫の部屋で待機する必要がある。
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