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パーティーに向けて
しおりを挟む考査を終え、生徒達は浮足立っていた。
考査後、カルサリア王立学園では新入生を歓迎するパーティーが行われる。考査前に行えば良いという意見も多々あるが、新入生が勉学を疎かにすることがないよう、この時期に行っていると学園長は述べている。
フィーリアも当然、この歓迎パーティーに出席する。彼女は自分の部屋で、数着のドレスを前に悩んでいた。
「どれを着ていけば良いのでしょう」
フィーリアはそう呟いて、頬に手を添えて嘆息した。並んでいるドレスは全て両親と兄から贈られたものである。学園内で開催されるが、パーティーには制服ではなくドレスで参加することになっている。制服でも大丈夫なのだが、ほとんどの令嬢がドレスを着ている中自分だけ制服であれば、かなり浮いてしまうだろう。
「フィアは何を着ても似合うわ。けれど、そうね……この空色のドレスはどう?」
パーティーに着ていくドレスを選んでいるフィーリアの隣には、相談するために呼んだ母がいる。ローゼリアが指を指したドレスは、空の色を写したような爽やかなもので、露出が少ない。最近の流行は肩出しドレスで、これは流行に則ったドレスではないが、フィーリアのお気に入りのドレスの一つである。
空色のドレスに目を移したフィーリアは、微妙な顔を浮かべた。ローゼリアにその理由を問いかけられ、フィーリアは空色のドレスのスカート部分を摘まんで話す。
「この色は、お兄様の瞳と同じ色なので、常にお兄様に包まれているような気分になりそうです」
「確かにねぇ。きっとヴィオは、フィアから片時も離れようとしないでしょうから、関係を探られる可能性があるかもしれないわね。兄妹で禁断の恋……若者達が好きそうな話題だわ」
「変な噂が広がって目立ってしまうのは嫌です……」
歓迎パーティーには、在校生も出席する。出席するかどうかは自由に決められるが、ほとんどの人が参加する。このパーティーは出会いの場でもあり、新たに友を得たり、恋人候補を探したりすることを目的とする人も多い。
生徒会長セオドルを始め、ヴィセリオやルーンオードといった、校内で名が知れ渡っている者は出席が義務付けられている。理由としては、彼らがパーティーの場にいるだけで、パーティーが華やかになるからである。また、パーティー出席者を増やすためでもある。
ヴィセリオはこういったパーティーを嫌う。例年、歓迎パーティーに出席するのを最後まで渋っていて、昨年はパーティーを途中退席しようとしてルーンオードに連れ戻されたらしい。彼は何をしているのだろうか。
今年はフィーリアが出席するので、ヴィセリオは意気揚々と出席を表明した。彼のことだから、パーティー中もフィーリアの傍から離れようとしないのだろう。そんなことになると、兄の圧により、本来のパーティーの目的である友人関係の拡大を望むことができない。
正直なところ、パーティーに着ていくドレスは何でもいいと考えていた。しかし、ルーンオードが出席することを知ったので、彼の目に入る可能性があるのならば、少しでも格好に気を使いたい。彼のことを諦めると決めていても、彼の目に映る自分の姿はできるだけ美しくありたい。
「フィアの髪には何色のドレスも似合うから、難しいわ。王道でいくなら、この桃色のドレスか、流行に則ったこの青色のドレスね」
「そうですね……。お兄様から頂いた髪飾りと合わせるのであれば青色のドレスが良いでしょうけど、ちょっと露出が多い気が……」
青色のドレスは、肩を大胆に出す造りになっており、最近の流行に則っている。更に、新しく兄から贈られた、氷魔法で作られた花の形の髪飾りと合わせると、似合うことは間違いない。
ただ、フィーリアが気になっている所は、露出が多いことに抵抗感があるのも一つだが、それよりも大きな問題があった。
このドレスに使われているリボンが、深い蒼色なのである。
気にしすぎるのは良くないと分かっている。言い始めたら、全てのドレスが誰かの瞳の色と被っているはずである。それに、今のフィーリアと彼の距離はかなり遠いので、二人の関係を詮索されることもない。
過去三度、彼の瞳と同じ深い蒼色のリボンで装飾されたドレスを、彼が贈ってくれたことを今でもはっきりと覚えているから、余計気にしてしまうのである。
フィーリアは過去のことを思い出して少し心が痛んだが、それを悟られないように微笑みを浮かべて青いドレスに目を向ける。
「そういえば、このドレスはお母様が贈ってくださったのではないのですか?」
「わたくしではないわ。トール様でもないでしょうし、ヴィオじゃないかしら」
贈り物のドレスが多いせいで、このように贈り主を把握できていない時もある。
その後もローゼリアと他のドレスの選別を行い、最終的にこの青いドレスを着てパーティーに出席することにした。
歓迎パーティーを明日に控えた日。フィーリアは教科書の間に一つの手紙が挟まっていることに気が付いた。彼女はその手紙を手に持ち、宛先と差出人を確認する。フィーリア宛の手紙だが、差出人は書かれていなかった。
「何でしょう、この手紙」
「恋文というものではないでしょうか?」
隣でフィーリアの手元を見ていたレティシアが、心なしか目を輝かせてそう言った。恋文という言葉にフィーリアは再び手紙に目を落とし、封を切って中身を取り出す。
折りたたまれた紙を開くと、そこには端的に『貴女のことが忘れられない』とだけ書かれていた。何だか不気味な気持ちがして、フィーリアはすぐにその紙を封筒の中に仕舞う。
「フィーリア様に一目ぼれをした男性からの恋文ではないですか? 過去にお会いしたことがあって、その時から忘れられなかった、とか」
「それにしては、随分と言葉が少ないですよね。気持ちを伝えたいのなら、もっと文章を長くするべきです」
「わたしはこういった端的な言葉もいいと思います。この短い言葉に、想いが籠っているような気がします」
フィーリアの友人三人は、この手紙について話をして盛り上がっていた。どうやら友人達は、恋の話が大好物なようである。フィーリアはそういった話に疎いので、あまり話には参加できない。
フィーリアは手紙をかばんの中に入れ、ヴィセリオに勘付かれないようにこの手紙を隠す方法を考えた。兄がこの手紙を見たら、どんな方法を使ってでも差出人を見つけ出して何かするに違いない。それは避けたかった。
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