死に戻り令嬢は逃げ出したい ~前世で私を殺した暗殺者が、「一生離しません」と忠犬になって追いかけてきます~

ラム猫

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第25話 看病という名の監禁

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 意識が浮上した時、鼻腔をくすぐったのは、消毒薬と煮込み料理が混ざった匂いだった。

 重い瞼をゆっくりと持ち上げると、そこには見慣れた天井——ではなく、至近距離でエルセリアを凝視する、美しい金色の瞳があった。

「良かった、エルセ。目覚めてくださったのですね。どうですか? 気分は悪くないですか? 喉の渇きはありますか? どこか痛む場所はありますか? ……あるいは、俺への愛の告白が漏れ出そうではありませんか?」
「ギ、ギル……。……近いわ」

 エルセリアが弱々しく声を出すと、ギルベルトは「あぁ、エルセが起きてくれた……良かった」と天を仰ぎ、そのまま彼女の手を頬に擦り寄せた。

 どうやら彼女は、あの日の夜に熱を出して倒れ、まる二日ほど眠っていたらしい。

「マルタは……?」
「『狂犬の相手をしているとこちらの血管が切れる』と言って、階下でリナ殿とアップルパイを焼いています。エルセ、今は俺だけを見てください。あなたが眠っている間、俺は一万八千回ほど、あなたの寝顔に永遠の忠誠を誓いました」

(……怖い。寝ている間に何が起きていたのか、詳しく聞くのが怖いわね)

 エルセリアは起き上がろうとしたが、ギルベルトの鋼のような腕に優しく阻止された。

「エルセ。病人は寝ているのが仕事です。あなたのその白い指先が再び薬草の根を掴む許可を出すまで、俺の腕という安全地帯から出ることは許されません」
「でも、お店が……」
「バルドスが部下を総動員して、『先生が倒れた! 今日から一週間、セレンの人間は誰も怪我をするな! 病気になるな!』と街中に触れ回りました。現在、セレンは歴史上最も健康な一週間を迎えています」

(……なんて無茶苦茶な……)

 とはいえ、体はまだ鉛のように重い。エルセリアは諦めて枕に頭を沈めた。するとギルベルトは、待ってましたと言わんばかりに、サイドテーブルから丁寧に裏漉しされたお粥の器を手に取る。

「さあ、俺が食べさせてあげますよ。……あぁ、エルセの口が小さくて可愛い。世界の宝ですね。……はい、あーん」
「……恥ずかしいわ、ギル。自分で食べられ……」
「ダメです。今のあなたは指先一つ動かすことさえ俺が管理します。さあ、食べないのなら、俺が口移しで——」
「食べます!! 食べますから!!」

 エルセリアは顔を真っ赤にしながら、彼の差し出すスプーンにかじりついた。  お粥は驚くほど優しく、美味しい味がした。



 ◇ ◇ ◇



 再び眠りに落ちてから目覚めた時、窓の外には穏やかな夕暮れが広がっていた。ギルベルトはエルセリアの寝台の脇に座り込み、彼女の手を握ったまま、離そうとしない。

「……ギル。あの夜のこと、ごめんなさいね。せっかくのあなたの誕生日だったのに」
「いいえ。……あなたが俺のために、そこまで身を削ってくださった。その事実だけで、俺は死ぬまで悦びを噛み締められます。……ですが、エルセ」

 ギルベルトの瞳が、ふと真剣な光を宿した。

「……あの日、あなたが倒れる直前。俺が何をしようとしたか、覚えていますか?」

 ドクン、と心臓が跳ねた。琥珀色の月の下。触れそうなほど近かった彼の唇。エルセリアは熱のせいではなく、羞恥でまた意識が遠のきそうになる。

「……そ、それは……その……」
「……続きは、エルセが完治してから、また琥珀色の月の夜に。次は、熱を出す暇もないほど、俺だけを感じていただきますから」

 ギルベルトは彼女の指先に、深く、刻みつけるような口づけを落とした。

 その瞳に宿るのは、騎士としての忠誠心と、それを上回るほどの、雄としての独占欲。

(……この病気が治ったら、私はもっと大変な目にあう気がするわ……)

 階下からは、マルタたちが焼いたパイの甘い香りが漂ってくる。エルセリアの看病生活は、まだしばらく続きそうだった。
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