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第26話 碧い海と過保護な防御
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「——エルセ。本日の外出、俺は断固として反対です。あるいは、今すぐそのお姿の上に、絶対に肌が焼けない上着を纏っていただきたい」
病み上がりの快気祝い。バルドスの誘いで、エルセリアたちは街から少し離れた入り江へピクニックに来ていた。
だが、出発前からギルベルトの様子がおかしい。彼は今、彼女の目の前で、彼女が着ている「夏用のリネンワンピース」を殺さんばかりの目で見つめている。
「今更何を言っているの、ギル。せっかくの海だもの、これくらい軽やかな格好でないと」
「これくらい!? エルセ、あなたのその……その……白く、柔らかな、無防備な二の腕が、あられもなく太陽の光に晒されています! 太陽が羨ましい! 太陽になりたい! いえ、太陽を今すぐ撃ち落として暗闇にしたい!!」
「落ち着きなさい、狂犬。お嬢様の二の腕は太陽に焼かれるためにあるのではありません。潮風を楽しむためにあるのです」
マルタがバスケットを抱え、冷ややかに言い放つ。今日のエルセリアは、少しだけ袖の短い、風通しの良いワンピースを着ていた。バルドスの娘リナとお揃いの麦わら帽子を被り、足元はサンダルだ。
「エルセ様! こっちこっち! 砂浜でお魚焼くんだよ!」
リナに手を引かれ、エルセリアは碧く輝く砂浜へと駆け出した。
入り江に到着すると、そこはまさに地上の楽園だった。綺麗なエメラルドグリーンの海が広がり、波が打ち寄せている。バルドスの部下たちが手際よくタープを張り、大ぶりな貝や魚を炭火で焼き始めている。
「よお、エルセさん! 全快おめでとう。今日は好きなだけ食って、海を楽しんでくれや」
「ありがとうございます、バルドスさん。本当に綺麗……」
エルセリアが波打ち際で少し裾を捲り上げ、水に足を浸すと、背後から「ヒッ……!」という短い悲鳴が聞こえた。
振り向くと、ギルベルトが口を布で押さえ、膝をついている。
「……足首……。エルセの……生足首が……。あぁ、この世にこれ以上の背徳があるでしょうか。……バルドス、今すぐ部下全員の目潰しをしていい許可をください。エルセの足首を見ていいのは、この世で俺だけです」
「バカ言え、そんなことしたら誰が魚焼くんだよ。ほら、エルセさん。こいつはほっといて、このサザエ食いな。うまいぜ」
バルドスが焼きたての貝を差し出してくれる。だが、エルセリアがそれを受け取ろうとした瞬間、ギルベルトが音速で割り込んだ。
「待ってください。毒見です」
「……焼きたてのサザエに毒なんて入ってないわよ、ギル」
「いいえ。バルドスの指先から、不潔という名の毒が混入している可能性があります。……むぐっ、熱っ……! あぁ、エルセ。この貝は安全です。それどころか美味いです」
「もう、勝手に食べないで!!」
◇ ◇ ◇
食後エルセリアはリナと一緒に貝殻拾いを楽しんでいた。すると、数名の若い漁師たちが「先生、あっちに大きな珊瑚の欠片が落ちてたぜ」と親しげに声をかけてくる。
その瞬間、入り江全体の空気が凍りついた。
ギルベルトがいつの間にか、エルセリアの隣に立っている。彼は無言で、手にした日傘をまるで長槍のように構え、漁師たちに向かってどす黒い殺気を放っていた。
「……これ以上エルセに近づく者は、この海に生息する全魚類の餌にします。……去れ。さもなくば、君たちの家系図を今日で終わらせる」
「ひ、ひえぇぇっ! すみませんでした!!」
漁師たちが脱兎のごとく逃げ出していく。
「ギル! また人を脅して……! これはせっかくのお祝いなのに」
「エルセ、あなたは無防備すぎるのです。あいつらの瞳の奥に、あなたを『可愛い』と思った不純な光が見えました。エルセを可愛いと言っていいのは、俺だけ……いえ、俺にすらその権利はない……。あぁ、矛盾で胸が苦しい……!」
ギルベルトは砂浜に「エルセリア命」と巨大な文字を書き込み始めた。
「……お嬢様。あの男はもう手遅れです。放っておいて、私たちはリナさんとスイカ割りをしましょう。……狂犬、あなたがその文字を書き終えるまでに、スイカの代わりにあなたの頭を割ってあげましょうか?」
マルタが木の棒を構えて微笑む。
「……仮面女。あなたの冷酷さには、時折感謝しますよ。……エルセ! 待ってください、俺がスイカを食べやすいように均等に叩き割ってみせます!」
◇ ◇ ◇
夕暮れ時。オレンジ色に染まる海を見つめながら、エルセリアたちは砂浜に腰を下ろしていた。ギルベルトは相変わらず、彼女の隣で「風からエルセを守る」という名目で、大きなタオルを広げて彼女を包み込むように座っている。
「……幸せね、ギル」
エルセリアが肩を寄せると、ギルベルトの体がビクンと震えた。
「……はい。こうして、誰にも邪魔されずあなたと海を見られるなんて。……エルセ。俺は、一生この中であなたを離したくありません」
「ふふ、そんなことしたら、あなたもお仕事ができないわ」
「仕事など、エルセの吐息に比べれば塵に等しい。……あぁ、エルセ。海が綺麗ですが、あなたの瞳に映る海は、その百万倍綺麗です」
彼はエルセリアの手を握り、静かに目を閉じた。
過保護で、執着が強くて、時々本当に困ってしまうけれど。この重すぎる愛が、今の彼女の、一番確かな居場所なのだ。
——なおこの後。ギルベルトが「エルセのサンダルに入った砂を一粒残らず回収して記念品にします」と言い出し、マルタに海へ投げ込まれるまでが、本日のピクニックの全行程であった。
病み上がりの快気祝い。バルドスの誘いで、エルセリアたちは街から少し離れた入り江へピクニックに来ていた。
だが、出発前からギルベルトの様子がおかしい。彼は今、彼女の目の前で、彼女が着ている「夏用のリネンワンピース」を殺さんばかりの目で見つめている。
「今更何を言っているの、ギル。せっかくの海だもの、これくらい軽やかな格好でないと」
「これくらい!? エルセ、あなたのその……その……白く、柔らかな、無防備な二の腕が、あられもなく太陽の光に晒されています! 太陽が羨ましい! 太陽になりたい! いえ、太陽を今すぐ撃ち落として暗闇にしたい!!」
「落ち着きなさい、狂犬。お嬢様の二の腕は太陽に焼かれるためにあるのではありません。潮風を楽しむためにあるのです」
マルタがバスケットを抱え、冷ややかに言い放つ。今日のエルセリアは、少しだけ袖の短い、風通しの良いワンピースを着ていた。バルドスの娘リナとお揃いの麦わら帽子を被り、足元はサンダルだ。
「エルセ様! こっちこっち! 砂浜でお魚焼くんだよ!」
リナに手を引かれ、エルセリアは碧く輝く砂浜へと駆け出した。
入り江に到着すると、そこはまさに地上の楽園だった。綺麗なエメラルドグリーンの海が広がり、波が打ち寄せている。バルドスの部下たちが手際よくタープを張り、大ぶりな貝や魚を炭火で焼き始めている。
「よお、エルセさん! 全快おめでとう。今日は好きなだけ食って、海を楽しんでくれや」
「ありがとうございます、バルドスさん。本当に綺麗……」
エルセリアが波打ち際で少し裾を捲り上げ、水に足を浸すと、背後から「ヒッ……!」という短い悲鳴が聞こえた。
振り向くと、ギルベルトが口を布で押さえ、膝をついている。
「……足首……。エルセの……生足首が……。あぁ、この世にこれ以上の背徳があるでしょうか。……バルドス、今すぐ部下全員の目潰しをしていい許可をください。エルセの足首を見ていいのは、この世で俺だけです」
「バカ言え、そんなことしたら誰が魚焼くんだよ。ほら、エルセさん。こいつはほっといて、このサザエ食いな。うまいぜ」
バルドスが焼きたての貝を差し出してくれる。だが、エルセリアがそれを受け取ろうとした瞬間、ギルベルトが音速で割り込んだ。
「待ってください。毒見です」
「……焼きたてのサザエに毒なんて入ってないわよ、ギル」
「いいえ。バルドスの指先から、不潔という名の毒が混入している可能性があります。……むぐっ、熱っ……! あぁ、エルセ。この貝は安全です。それどころか美味いです」
「もう、勝手に食べないで!!」
◇ ◇ ◇
食後エルセリアはリナと一緒に貝殻拾いを楽しんでいた。すると、数名の若い漁師たちが「先生、あっちに大きな珊瑚の欠片が落ちてたぜ」と親しげに声をかけてくる。
その瞬間、入り江全体の空気が凍りついた。
ギルベルトがいつの間にか、エルセリアの隣に立っている。彼は無言で、手にした日傘をまるで長槍のように構え、漁師たちに向かってどす黒い殺気を放っていた。
「……これ以上エルセに近づく者は、この海に生息する全魚類の餌にします。……去れ。さもなくば、君たちの家系図を今日で終わらせる」
「ひ、ひえぇぇっ! すみませんでした!!」
漁師たちが脱兎のごとく逃げ出していく。
「ギル! また人を脅して……! これはせっかくのお祝いなのに」
「エルセ、あなたは無防備すぎるのです。あいつらの瞳の奥に、あなたを『可愛い』と思った不純な光が見えました。エルセを可愛いと言っていいのは、俺だけ……いえ、俺にすらその権利はない……。あぁ、矛盾で胸が苦しい……!」
ギルベルトは砂浜に「エルセリア命」と巨大な文字を書き込み始めた。
「……お嬢様。あの男はもう手遅れです。放っておいて、私たちはリナさんとスイカ割りをしましょう。……狂犬、あなたがその文字を書き終えるまでに、スイカの代わりにあなたの頭を割ってあげましょうか?」
マルタが木の棒を構えて微笑む。
「……仮面女。あなたの冷酷さには、時折感謝しますよ。……エルセ! 待ってください、俺がスイカを食べやすいように均等に叩き割ってみせます!」
◇ ◇ ◇
夕暮れ時。オレンジ色に染まる海を見つめながら、エルセリアたちは砂浜に腰を下ろしていた。ギルベルトは相変わらず、彼女の隣で「風からエルセを守る」という名目で、大きなタオルを広げて彼女を包み込むように座っている。
「……幸せね、ギル」
エルセリアが肩を寄せると、ギルベルトの体がビクンと震えた。
「……はい。こうして、誰にも邪魔されずあなたと海を見られるなんて。……エルセ。俺は、一生この中であなたを離したくありません」
「ふふ、そんなことしたら、あなたもお仕事ができないわ」
「仕事など、エルセの吐息に比べれば塵に等しい。……あぁ、エルセ。海が綺麗ですが、あなたの瞳に映る海は、その百万倍綺麗です」
彼はエルセリアの手を握り、静かに目を閉じた。
過保護で、執着が強くて、時々本当に困ってしまうけれど。この重すぎる愛が、今の彼女の、一番確かな居場所なのだ。
——なおこの後。ギルベルトが「エルセのサンダルに入った砂を一粒残らず回収して記念品にします」と言い出し、マルタに海へ投げ込まれるまでが、本日のピクニックの全行程であった。
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