325 / 567
第325話 【閑話】それぞれの娘達
しおりを挟む
「お母様、お願いがあります!」
「…却下です」
「まだ私は何も言っていませんのに…」
「いいえ、アデルの言いたいことは分かります。“シャルル巻き”を食べにルージュ領都へ連れて行って欲しいと言うのでしょう」
「うっ…」
ばれていましたか…。
「そ、そうです。そろそろ“シャルル巻き”を…」
「何がそろそろですか…。まだルージュ領都から戻ってきてからそんなに経っていませんよ」
「それにアデルは忘れたのですか?」
「つい先日、“シャルル巻き”を欲する衝動をようやく抑えられるようになったのですよ。あなたはまたあの苦しみを味わいたいのですか?」
「そ、それは…」
お母様のおっしゃる通りです。
お母様やマリン達はルージュ領都からジャトワン領都に帰る時にしか“シャルル巻き”を食べていませんでしたが、私とヨルンは二日続けて食べていた為、その分食べられなくなった反動が大きかったのです。
あの衝動は苦しいものでした。
ヨルンでさえジャトワン領都へ戻って三日目には「シャルル巻き食べたい…」と、言葉を発していたのですから。
お母様が動かなければジャトワン領都からルージュ領都へ行くことは不可能ですから、なんとか苦しい期間を乗り越えられたのでしょう。
もし私がルージュ領都へ通える手段を持っていれば“シャルル巻き”断ちは出来なかったでしょうね。
「もうアデルがそんなことを言うから私もまた思い出してきたじゃない…」
「お母様、ルージュ領都へは領主会議の時にしか行ってはいけないという決まりがあるわけではないのでしょう?」
「せめて一月に一度くらいなら…? 行って食べて帰ってくるだけですし…」
「それはそうですが…」
一月に一度…、最初はそれで良いと思うでしょう。
ですが、いずれは20日に一度、10日に一度となってしまうのです。
三日目で欲していたのに何を言っているのでしょう…。
シャルルという方もなんというお菓子を考えたのでしょうか…。
サマンサ様のおっしゃっていた自己責任の意味が少し分かったような気がします。
「ま…まぁ、年が明けたら行ってみても良いかもしれませんね」
「うぅ~、お母様~」
XX XY
「モナミ、あなたパートナー候補の男性に何をしたの!?」
「パートナー候補を辞退されてきたわよ」
「ちょっと【火矢】を見せてあげたのよ」
「へぇ~、優しいわね。【火矢】を放ちながら追いかけなければ…」
「【火矢】はちょっと掠っただけなのよ。ふんっ、あんな弱々しい男性なんて…」
ハァ~。
「またパートナー候補を探し直さないといけないじゃない…」
ユナ様のことを心配している場合じゃないわね…。
「そんなことではオーリエさんに先を越されるわよ」
「先日のルージュ領都での領主会議の時にはオーリエさんはいなかったのですよね?」
「そうよ、サマンサ様は旅に出ているとおっしゃっていたわ」
「旅ね…」
オーリエさんのことだから良い男性を探しに行っているのかも…。
前にお会いした時は私よりも身体が小さかったけれど少しは成長したのかしら。
フフ…、パートナー候補が見つかってもあのままの身体では“誕生の儀”もまだ先になりそうね。
「お母様、私も来年暖かくなったら旅に出てみても良いでしょうか?」
「モナミがですか…、一体何のために?」
「旅はあなたが思っているほど楽でも安全でもありませんよ。盗賊もいますし…」
「もしかしたら知らない都市や町に素敵な男性がいるかもしれないと思ってね」
「盗賊が現れたら私の魔法で退治してみせるわ!」
「……、話は分かりました。来年になってから判断します」
「仮に素敵な男性が見つかったとしてもモナミのパートナー候補になってもらえるとは限りませんよ」
「そんなこと…、私みたいな素敵な女性を拒むだなんて…」
「何を言っているの、あなたは先ほどパートナー候補の方から辞退されたばかりじゃない…」
黙っていれば確かに男性にも好まれそうな容貌なのですが、我が娘ながら性格が少し良くありません。
どうしてこう気が強くて、好戦的で自己中心的なのでしょう。
「そ、それは…」
「あんなに弱々しい男性はこちらからお断りよ…」
「あぁ~、私が憧れるくらい強い男性はいないのでしょうかぁ~」
「馬鹿なことを言っていないであなたは言動を女性らしくする努力をしなさい…」
そんな男性がいるわけないじゃない…。
XX XY
コンコン、コン。
「はい…」
ガチャ…。
「エリカ…、また来たのね」
「だって髪を洗ったら“シャルルの風”で乾かしたいのですよ」
少し前にルージュ領都で行われた領主会議から戻られたお母様が持って帰ってこられたこの“シャルルの風”は最高の魔道具です。
今年も残りわずか、寒くなってきたから髪を洗うとなかなか乾かない髪が冷たくなって身震いがする嫌いな時期なのに、“シャルルの風”を使うと一瞬でさらっと乾いてしっとりとするのです。
今までの髪を乾かしている時間は一体何だったのでしょう。
この魔道具を発明された方は天才に違いありません。
「確かにこんなに重宝する魔道具はないわね」
「お母様、早く私専用の“シャルルの風”が欲しいのですが…」
「エリカの言いたいことは分かりますが、“シャルルの風”は来年にならないと本格的に生産が開始されないのです」
「そ、そんなぁ~」
「来年早々には生産も始まると思いますし、初回販売前にはサマンサ様からエリカや各都市長分を譲っていただけることになっていますから…」
「お母様、フリーノース領都では生産出来ないのですか?」
「“シャルルの風”は発明品としてすでに王都に登録されているから勝手に製作することは出来ないのよ」
シェリー女王様にも模倣品が出ないように厳命されていますからね。
それにしても羨ましい魔道具です。
“シャルルの風”一つでルージュ領都は魔道具生産都市として発展していくことでしょう。
「お母様、“シャルルの風”の発明者はシャルルと言う方なのですか?」
「ええ、そうみたいよ」
「女性なのでしょうか? 男性なのでしょうか?」
「魔法を使えない男性が魔道具を発明したとは聞いたこともありませんし、こんな風に女性の為に考えられた物ですからきっと発明者は女性なのでしょう」
そういえばサマンサ様に発明者の性別までは聞いていませんでしたね。
女性だと思い込んでいましたよ。
「そ、そうです…よね…」
私はなぜか男性が発明した物だと思っていました。
この女性に対する思いやりというか、優しさが詰め込まれた魔道具は、同性では考えられないと思ったのです。
「シャルルさんはオーリエさんの知り合いなのだそうですよ」
「凄いです~、こんなに素敵な魔道具を発明される方とお知り合いとは羨ましいですね。私も一度お話してみたいですよ」
「本当ねぇ。私もお会いしてみたいわ」
もしかしてシェリー様もシャルルさんをご存知なのかしら…。
「…却下です」
「まだ私は何も言っていませんのに…」
「いいえ、アデルの言いたいことは分かります。“シャルル巻き”を食べにルージュ領都へ連れて行って欲しいと言うのでしょう」
「うっ…」
ばれていましたか…。
「そ、そうです。そろそろ“シャルル巻き”を…」
「何がそろそろですか…。まだルージュ領都から戻ってきてからそんなに経っていませんよ」
「それにアデルは忘れたのですか?」
「つい先日、“シャルル巻き”を欲する衝動をようやく抑えられるようになったのですよ。あなたはまたあの苦しみを味わいたいのですか?」
「そ、それは…」
お母様のおっしゃる通りです。
お母様やマリン達はルージュ領都からジャトワン領都に帰る時にしか“シャルル巻き”を食べていませんでしたが、私とヨルンは二日続けて食べていた為、その分食べられなくなった反動が大きかったのです。
あの衝動は苦しいものでした。
ヨルンでさえジャトワン領都へ戻って三日目には「シャルル巻き食べたい…」と、言葉を発していたのですから。
お母様が動かなければジャトワン領都からルージュ領都へ行くことは不可能ですから、なんとか苦しい期間を乗り越えられたのでしょう。
もし私がルージュ領都へ通える手段を持っていれば“シャルル巻き”断ちは出来なかったでしょうね。
「もうアデルがそんなことを言うから私もまた思い出してきたじゃない…」
「お母様、ルージュ領都へは領主会議の時にしか行ってはいけないという決まりがあるわけではないのでしょう?」
「せめて一月に一度くらいなら…? 行って食べて帰ってくるだけですし…」
「それはそうですが…」
一月に一度…、最初はそれで良いと思うでしょう。
ですが、いずれは20日に一度、10日に一度となってしまうのです。
三日目で欲していたのに何を言っているのでしょう…。
シャルルという方もなんというお菓子を考えたのでしょうか…。
サマンサ様のおっしゃっていた自己責任の意味が少し分かったような気がします。
「ま…まぁ、年が明けたら行ってみても良いかもしれませんね」
「うぅ~、お母様~」
XX XY
「モナミ、あなたパートナー候補の男性に何をしたの!?」
「パートナー候補を辞退されてきたわよ」
「ちょっと【火矢】を見せてあげたのよ」
「へぇ~、優しいわね。【火矢】を放ちながら追いかけなければ…」
「【火矢】はちょっと掠っただけなのよ。ふんっ、あんな弱々しい男性なんて…」
ハァ~。
「またパートナー候補を探し直さないといけないじゃない…」
ユナ様のことを心配している場合じゃないわね…。
「そんなことではオーリエさんに先を越されるわよ」
「先日のルージュ領都での領主会議の時にはオーリエさんはいなかったのですよね?」
「そうよ、サマンサ様は旅に出ているとおっしゃっていたわ」
「旅ね…」
オーリエさんのことだから良い男性を探しに行っているのかも…。
前にお会いした時は私よりも身体が小さかったけれど少しは成長したのかしら。
フフ…、パートナー候補が見つかってもあのままの身体では“誕生の儀”もまだ先になりそうね。
「お母様、私も来年暖かくなったら旅に出てみても良いでしょうか?」
「モナミがですか…、一体何のために?」
「旅はあなたが思っているほど楽でも安全でもありませんよ。盗賊もいますし…」
「もしかしたら知らない都市や町に素敵な男性がいるかもしれないと思ってね」
「盗賊が現れたら私の魔法で退治してみせるわ!」
「……、話は分かりました。来年になってから判断します」
「仮に素敵な男性が見つかったとしてもモナミのパートナー候補になってもらえるとは限りませんよ」
「そんなこと…、私みたいな素敵な女性を拒むだなんて…」
「何を言っているの、あなたは先ほどパートナー候補の方から辞退されたばかりじゃない…」
黙っていれば確かに男性にも好まれそうな容貌なのですが、我が娘ながら性格が少し良くありません。
どうしてこう気が強くて、好戦的で自己中心的なのでしょう。
「そ、それは…」
「あんなに弱々しい男性はこちらからお断りよ…」
「あぁ~、私が憧れるくらい強い男性はいないのでしょうかぁ~」
「馬鹿なことを言っていないであなたは言動を女性らしくする努力をしなさい…」
そんな男性がいるわけないじゃない…。
XX XY
コンコン、コン。
「はい…」
ガチャ…。
「エリカ…、また来たのね」
「だって髪を洗ったら“シャルルの風”で乾かしたいのですよ」
少し前にルージュ領都で行われた領主会議から戻られたお母様が持って帰ってこられたこの“シャルルの風”は最高の魔道具です。
今年も残りわずか、寒くなってきたから髪を洗うとなかなか乾かない髪が冷たくなって身震いがする嫌いな時期なのに、“シャルルの風”を使うと一瞬でさらっと乾いてしっとりとするのです。
今までの髪を乾かしている時間は一体何だったのでしょう。
この魔道具を発明された方は天才に違いありません。
「確かにこんなに重宝する魔道具はないわね」
「お母様、早く私専用の“シャルルの風”が欲しいのですが…」
「エリカの言いたいことは分かりますが、“シャルルの風”は来年にならないと本格的に生産が開始されないのです」
「そ、そんなぁ~」
「来年早々には生産も始まると思いますし、初回販売前にはサマンサ様からエリカや各都市長分を譲っていただけることになっていますから…」
「お母様、フリーノース領都では生産出来ないのですか?」
「“シャルルの風”は発明品としてすでに王都に登録されているから勝手に製作することは出来ないのよ」
シェリー女王様にも模倣品が出ないように厳命されていますからね。
それにしても羨ましい魔道具です。
“シャルルの風”一つでルージュ領都は魔道具生産都市として発展していくことでしょう。
「お母様、“シャルルの風”の発明者はシャルルと言う方なのですか?」
「ええ、そうみたいよ」
「女性なのでしょうか? 男性なのでしょうか?」
「魔法を使えない男性が魔道具を発明したとは聞いたこともありませんし、こんな風に女性の為に考えられた物ですからきっと発明者は女性なのでしょう」
そういえばサマンサ様に発明者の性別までは聞いていませんでしたね。
女性だと思い込んでいましたよ。
「そ、そうです…よね…」
私はなぜか男性が発明した物だと思っていました。
この女性に対する思いやりというか、優しさが詰め込まれた魔道具は、同性では考えられないと思ったのです。
「シャルルさんはオーリエさんの知り合いなのだそうですよ」
「凄いです~、こんなに素敵な魔道具を発明される方とお知り合いとは羨ましいですね。私も一度お話してみたいですよ」
「本当ねぇ。私もお会いしてみたいわ」
もしかしてシェリー様もシャルルさんをご存知なのかしら…。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
148
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる