大砲と馬と 戦術と戦略の天才が帝国を翻弄する

高見信州翁

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第4章 ルシアの攻勢

3 時間との勝負

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皇国参謀本部

    「貴公の軍服、見たことのないものだが?」

    この場の最高責任者豊臣秀安元帥が問う。

    「・・・妻が創作した軍服です。小官は迷彩模様が良いと申したのですが、真田は赤備えの家柄だと押し切られましてな。」

    再び背筋を伸ばす。

    「これが真田の正式軍服であります。」

    「・・・ここは皇国護国省参謀本部なのだが、今のはのろけか?真田少将?」

    豊臣秀綱が必死に笑いをこらえている。

    「ルシアの大砲の前には楔帷子(くさりかたびら)など重いだけで不要です。これはただただ動きやすさを重視しております。」

    兵站参謀伊藤大尉(昇進して護国省兵站部に栄転していた)が帰る繁信を目に止めて、立ち話をしてから1ヶ月も立たないうちに護国省内にも制服一新の提案が出され、皇国兵士の制服は様変わりする。ルシアを打ち負かした真田繁信の影響力はそれほどに強くなっていた。但し、こちらは迷彩模様であった。以後、皇国軍の制服は7つボタンに自分たちの象徴となる模様(例えば大砲と馬)を浮かび上がらせるようになる。

    「参謀長蜂須賀大将である。本題に入って良いか?」

    「何なりとも。」

    「ルシアはどこに来る?つまり、どこに上陸してくるかだ。」

    「まず博多ですね。博多に迎撃戦力を集めるしかないでしょう。あとはどこかと想定しようにも海岸線が広すぎます。博多と博多以外、割り切るしかないでしょう。博多に集中して、博多以外に来た場合はすみやかに移動する。例えば蝦夷に来たら、蝦夷は放棄しましょう。守れません。本州に防衛線を築くしかないでしょう。博多以外に来たら、いかに素早く戦力を迅速に移動させるかが肝要。こうなれば鉄軌道の有る無しは勝敗を左右します。」

    秀安が答える。

    「着工して半年、全線開通するにはあと半年かかる。それでも、これほどの距離を1年で完了するなど、ちょっと前なら考えられなかった。」

    「まさに時間との勝負です。武器と弾薬は信州にて大増産中です。兵器廠は今や昼夜の別がありませぬ。だが、作ったとしてもです。必要な時期に必要な場所へ必要な量を送れなければ意味がありません。量は確保しております。必要な場所へ必要な時期に運ぶ手段は鉄軌が最適です。」



ルシアも又時間と戦っていた。

5月23日ルシア御前会議

    「皇帝陛下、皇太弟殿下より大津を落としたとの報告があり、併せて当初の計画通りバルト海艦隊の分派を要請されておられます。つきましては本日は派遣艦隊についての御裁可をお願い申し上げます。」

    「裁可する。」

    20隻の戦列艦、総数80隻の大艦隊である。司令官ホレイショ・ドボルザーク少将。皇帝の侍従上がりである。

6月11日サンクトペテルブルク・クロンシュタット軍港

    同日付けでドボルザーク少将は中将に昇進、艦隊は正式にウラジオストック艦隊と命名され、クロンシュタットを出港。
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