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第7章 また混乱
24 博多攻囲戦 22 国歌
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皇国軍司令部は憂色(ゆうしょく)に包まれていた。右翼司令部の土橋准将から連絡。真田司令官、未だ到着せず。
平澤少将は島津少将に相談に行く。
「まさかとは思いますが、真田司令官が予定時刻を過ぎても右翼にお戻りになってないそうです。」
「ううむ。捜索隊は出したか?」
「今は決戦の真っ最中です。皇太弟に悟られます。」
「むう、その通りじゃ。余計なことは考えず、まずは皇太弟を叩こうぞ。」
「皇国軍左翼は予定通り、砲兵隊でもって敵の山上の砲を叩きます。中央と右翼も参加してください。当初の予定通り、総攻撃です。」
「その前に右翼の司令官代理と入念におんし(お主)が直接、打ち合わせをしておいたほうがよかろう?」
「そうですね。土橋はウスリーの戦いの時の2人の連隊長のひとりです。信頼できる男です。」
「ああ、それからな、ワシの孫の久義(ひさよし)はな、音楽の才能があってな。朝廷の依頼で国歌を作曲したばかりよ。」
「国歌ですか?」
「ああ、そうとも。繁信殿がな、ヨーロッパでは国旗と国歌が当たり前だそうだ。みんな持っとる。そう言って朝廷に進言したそうな。それでな、ありがたくも 繁信殿がな、久義を推薦してくれたのよ。皇国の国歌ぞ。おそれおおくもありがたいことじゃ。その歌がな、1週間前に完成しておる。」
「ほう?」
「この歌をな、総攻撃の前に全軍で斉唱したい。繁信殿がな、もし戦死したのなら、とむらい合戦じゃ。豊臣も真田も島津もない。あるのは皇国のみじゃ。皇国としてルシアを討つ!一丸とならねばあの国には勝てん。皇太弟はしぶといぞ。」
「は、ははっ!了解です。」
「なあに、一大決戦の前に歌うのじゃ。お上もお許しくださるじゃろうよ。」
ルシア軍司令部アーネン・ニコライ
「援軍はまだ着かないか?」
「まだです。騎馬と違い、徒歩ですからな。」
「何か敵軍の雰囲気が変わった。来るな。このまま日没順延とはいかんようだ。」
・・・き~み~が~よ~は~・・・
「なにか聞こえてくるな?歌か?面妖な。異国の響きだな。」
皇国軍左翼司令部島津久義(ひさよし)
「楽団員を連れて来ました。各大隊に配置してください。彼らが歌の音頭を取ります。彼らの歌う通りに歌えばそれで良いです。」
この頃には兵どももうすうす感じていた。だが、上層部に動揺がなかったため、兵も動揺していない。
・・・き~み~が~よ~は~・・・ちよにやちよに~さざれ~いしの~・・・
皇国軍砲兵隊黒田権蔵信播(のぶはり)
権蔵、となりの戦友にたずねる。
「なあ、さざれってなんだ?」
砲兵隊に配置された楽団員がすかさず、注意する。
「そこ!歌に集中する!さざれいしは細石のことだ。砂つぶだな。それが集まって、巌(いわお)のように大きくなるさまを歌っている。【古今和歌集】だ。はい!大きな声で!」
古今和歌集には読み人知らずとなっているが、位が低かったためにそうなったらしい。作者は岐阜の生まれで近くに砂つぶほどの石が長い年月に溶け固まっておおきな岩(巌)になった御神体を祀っている神社があった。お上の治世が永く続きますようにという奉祝歌として作った。後に位を賜り、藤原朝臣石位衛門と名乗っている。
島津久義、歌詞についてはいいのが思いつかず悩んでいたが、結局【古今和歌集】からパクって来た。ということは?この時代の詩とは5・7・5・7・7の17文字である。後に世界で一番短い国歌と呼ばれるようになる。
国歌は全軍で7度斉唱された。
ルシア軍司令部アーネン・ニコライ
「歌が終わった。来るぞ。全軍戦闘準備!」
となりに控えるクツーゾフがつぶやく。
「皇国の砲兵隊・・・すごい数ですな。」
「千門は越えてるな。こっちはランキン砲台がやられてルンキン砲台だけだ。見えないようにうまく隠して温存してくれ。」
「はっ、かしこまりました。」
皇国軍の攻撃は陸揚げした野戦砲によるルンキン砲台への徹底的な集中攻撃から始まった。4人で運搬・射撃が可能な1.5キロ砲。射程は4キロを越える程度だ。皇国はこれを標準野砲として集中的に生産している。
1200門の野戦砲による集中的な砲撃。だが、それでも山の上の見えないところに隠れた砲を壊滅させることは出来ない。ルンキン砲台も今は攻撃よりも、生き残るほうを優先している。
「クツーゾフ、右翼は任せた。今一度、余は中央の松平に行ってくる。あっちが心配だ。左翼はダミアンがいるしな。」
「はっ、右翼はお任せください。」
皇国軍中央島津軍
島津豊久がどなる。
「おはんらあ、左翼は砲撃戦、右翼は騎馬戦が始まる。中央を守るはわが島津じゃあ~!敵はにっくき松平。中央だけ敗退したとあっては島津の名折れ。けっして引くなあ!」
赤鹿毛の馬上から采配を振り上げる。
「とつげきい~!我につづけ!」
陽は未だ落ちず、長い1日はまだ終わらない。
平澤少将は島津少将に相談に行く。
「まさかとは思いますが、真田司令官が予定時刻を過ぎても右翼にお戻りになってないそうです。」
「ううむ。捜索隊は出したか?」
「今は決戦の真っ最中です。皇太弟に悟られます。」
「むう、その通りじゃ。余計なことは考えず、まずは皇太弟を叩こうぞ。」
「皇国軍左翼は予定通り、砲兵隊でもって敵の山上の砲を叩きます。中央と右翼も参加してください。当初の予定通り、総攻撃です。」
「その前に右翼の司令官代理と入念におんし(お主)が直接、打ち合わせをしておいたほうがよかろう?」
「そうですね。土橋はウスリーの戦いの時の2人の連隊長のひとりです。信頼できる男です。」
「ああ、それからな、ワシの孫の久義(ひさよし)はな、音楽の才能があってな。朝廷の依頼で国歌を作曲したばかりよ。」
「国歌ですか?」
「ああ、そうとも。繁信殿がな、ヨーロッパでは国旗と国歌が当たり前だそうだ。みんな持っとる。そう言って朝廷に進言したそうな。それでな、ありがたくも 繁信殿がな、久義を推薦してくれたのよ。皇国の国歌ぞ。おそれおおくもありがたいことじゃ。その歌がな、1週間前に完成しておる。」
「ほう?」
「この歌をな、総攻撃の前に全軍で斉唱したい。繁信殿がな、もし戦死したのなら、とむらい合戦じゃ。豊臣も真田も島津もない。あるのは皇国のみじゃ。皇国としてルシアを討つ!一丸とならねばあの国には勝てん。皇太弟はしぶといぞ。」
「は、ははっ!了解です。」
「なあに、一大決戦の前に歌うのじゃ。お上もお許しくださるじゃろうよ。」
ルシア軍司令部アーネン・ニコライ
「援軍はまだ着かないか?」
「まだです。騎馬と違い、徒歩ですからな。」
「何か敵軍の雰囲気が変わった。来るな。このまま日没順延とはいかんようだ。」
・・・き~み~が~よ~は~・・・
「なにか聞こえてくるな?歌か?面妖な。異国の響きだな。」
皇国軍左翼司令部島津久義(ひさよし)
「楽団員を連れて来ました。各大隊に配置してください。彼らが歌の音頭を取ります。彼らの歌う通りに歌えばそれで良いです。」
この頃には兵どももうすうす感じていた。だが、上層部に動揺がなかったため、兵も動揺していない。
・・・き~み~が~よ~は~・・・ちよにやちよに~さざれ~いしの~・・・
皇国軍砲兵隊黒田権蔵信播(のぶはり)
権蔵、となりの戦友にたずねる。
「なあ、さざれってなんだ?」
砲兵隊に配置された楽団員がすかさず、注意する。
「そこ!歌に集中する!さざれいしは細石のことだ。砂つぶだな。それが集まって、巌(いわお)のように大きくなるさまを歌っている。【古今和歌集】だ。はい!大きな声で!」
古今和歌集には読み人知らずとなっているが、位が低かったためにそうなったらしい。作者は岐阜の生まれで近くに砂つぶほどの石が長い年月に溶け固まっておおきな岩(巌)になった御神体を祀っている神社があった。お上の治世が永く続きますようにという奉祝歌として作った。後に位を賜り、藤原朝臣石位衛門と名乗っている。
島津久義、歌詞についてはいいのが思いつかず悩んでいたが、結局【古今和歌集】からパクって来た。ということは?この時代の詩とは5・7・5・7・7の17文字である。後に世界で一番短い国歌と呼ばれるようになる。
国歌は全軍で7度斉唱された。
ルシア軍司令部アーネン・ニコライ
「歌が終わった。来るぞ。全軍戦闘準備!」
となりに控えるクツーゾフがつぶやく。
「皇国の砲兵隊・・・すごい数ですな。」
「千門は越えてるな。こっちはランキン砲台がやられてルンキン砲台だけだ。見えないようにうまく隠して温存してくれ。」
「はっ、かしこまりました。」
皇国軍の攻撃は陸揚げした野戦砲によるルンキン砲台への徹底的な集中攻撃から始まった。4人で運搬・射撃が可能な1.5キロ砲。射程は4キロを越える程度だ。皇国はこれを標準野砲として集中的に生産している。
1200門の野戦砲による集中的な砲撃。だが、それでも山の上の見えないところに隠れた砲を壊滅させることは出来ない。ルンキン砲台も今は攻撃よりも、生き残るほうを優先している。
「クツーゾフ、右翼は任せた。今一度、余は中央の松平に行ってくる。あっちが心配だ。左翼はダミアンがいるしな。」
「はっ、右翼はお任せください。」
皇国軍中央島津軍
島津豊久がどなる。
「おはんらあ、左翼は砲撃戦、右翼は騎馬戦が始まる。中央を守るはわが島津じゃあ~!敵はにっくき松平。中央だけ敗退したとあっては島津の名折れ。けっして引くなあ!」
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