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第7章 また混乱
28 博多攻囲戦 26 生還
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ルシア軍司令部アーネンニコライ
司令部に左翼のダミアン少将から連絡が入る。
「なに?大将の階級章を付けた人物を捜索中?マジックシゲノブか!」
クツーゾフが興奮したように言う。
「と言うことは、今、敵軍は司令官不在!好機です。殿下、いっきに」
「待て、クツーゾフ。敵は全く動揺していない。あの変な国歌を聞いたか?敵は気迫を失っていない。ヘタに攻めたら逆襲を食らうぞ。ここは戦力を消耗しないように慎重に戦うんだ。」
「しかし。」
「我々は敵の最重要港を占拠している。まあ、必死になって取り返しにくるわな。そしてだな、客観的に見れば敵中に孤立しているとも言える。物量は向こうの方が上だ。で、あるならば戦力の消耗は絶対に避けなければならない。守りを固めて、耐えて敵が態勢を崩すまで待つんだ。その時に渾身のパンチを食らわせる。これしかない。」
そこへ報告が入る。
「皇太弟殿下、帝都より伝令使が参っております。」
皇帝崩御(こうていほうぎょ)。この一報により、ルシアの軍事的方針は一変することになる。
「くう、まずい。このタイミングでこれはないだろう。急ぎ帝都に戻らねば。帝位を狙っているヤカラはごまんといる。帝都を押さえられて即位宣言でもされてはまずいことになる。だがこっちは戦の真っ最中と来ている。どうする?どうする?」
親指の爪を噛みながら部屋の中を行ったり来たりする。
「殿下、イヤ陛下。状況を整理いたしましょう。まず今なによりも肝要(かんよう)なのは一刻も早く帝都に戻り、陛下の帝位を確定させること。もはや、東洋の島国などどうでもよいと言っても良いでしょう。皇帝崩御は絶対に秘匿(ひとく)し、皇国と休戦して国に帰る。これしかありません。」
「そうなのだが、今、まさに戦闘中。どうやって休戦する?」
「全くのウソでは騙されてくれないでしょう。騙すときは話の中に一部の真実を混ぜるのです。そう、例えば皇帝陛下は崩御されたのではなく、病の床にあると。これなら帝都に帰らなければならない理由ともなるし、何もかも放り投げて帰国せねばならないということもない。」
「うむう。他にはすぐに思いつかん。それにしよう。だがな、こういうことには阿吽(あうん)の呼吸がいるのだ。今、敵は全面攻勢をかけてきている。いったんはこれを頓挫(とんざ)させなければならん。クソ、押し切れなかったという気分にさせなければ停戦には応じんよ。」
「ふむう。それもそうですな。」
「ということで、みんな聞いていたな。兄上の崩御は絶対他言無用。そして皇国の全面攻勢をしのぎ切る!皆の助けがいる。踏ん張れ!」
「ウラー!」
司令部にいた全員が叫ぶ。我らの司令官がいよいよ皇帝になられる。やるぞ。
「あっ!」
アーネンが叫ぶ。何事かと全員がアーネンを見る。
「こうなるとマジックシゲノブを絶対に殺してはならない。殺せば皇国は絶対に停戦に応じない。」
「おお、確かに。殺した瞬間、この戦は弔(とむら)い合戦となりましょう。」
「捜索隊に伝令!マジックシゲノブを殺してはならんと伝えよ。」
その命令は遅かった。捜索隊はひよどりごえをした皇国軍に撃破されていた。まあ、結果的にはルシアはそれで救われたのであるが。
可也山山麓
突如現れた騎馬隊にルシア軍シゲノブ捜索隊は混乱する。
「止まれ~!」
「どこから現れた?」
「◯の中に十の字がある旗印だ。」
「ウスリーで右翼に突撃をかましてきたシマズか!」
止まってしまったのが致命的になる。止まった瞬間に皇国軍が突撃してきたからだ。
真田繁信
「博多攻囲軍最高司令官真田繁信である。名乗れ。」
「はっ、島津勢園田惣兵衛(そのだそうべえ)麾下伊藤成信(いとうなりのぶ)、少佐でござる。」
「助かった。礼を言う。見事な馬術だった。馬であの崖を下りるとは、感服した。」
「これなる平石善次郎義勇(よしたけ)の下田流馬術のおかげでござる。」
園田惣兵衛も戦国を生き抜いてきた3万石の領主である。部下の功績は取ってはならぬとわかっていた。
「うむ、平石善次郎、帰ったら下田流馬術を教えてくれ。伊藤少佐、この隊の指揮権をしばらく預かる。我願う指揮権。」
「我、渡す指揮権。」
「我、受ける指揮権。」
「突撃用意。」
「弾込め。」
騎兵銃には銃剣は不要だ。それより長い馬上槍を装備している。銃は馬上で取り扱うために歩兵銃より、よほど短い。馬に乗りながら弾込めするのは熟練の技を要する。馬上銃は命中率が悪い。外しようのない距離まで接近してから銃を撃つ。銃を撃ったら弾込めしている時間はない。銃をしまい、鞍に取り付けられた馬上槍を引き抜き、騎馬による白兵戦を行うのである。
手を振り上げて隊の様子を確認する。
「いまより騎兵の華(はな)、騎馬突撃を敢行する!」
手を振り下ろす。
「とつげき~!」
この頃はもう真田繁信の名は軍神のひびきを伴ってきこえていた。ウスリー敗戦後の撤退戦では多くの兵が助けられた。その兵どもは撤退中に味わったにぎりめしの味とともに繁信の名を飲み込んでいる。その兵どもは帰って繁信の評判を盛り上げる。鷲巣砦の戦いに参加した兵は諸葛孔明かと思えるような神算鬼謀ぶりに感嘆しきりであった。千曲川の戦いでは砲でもってルシアを圧倒して見せた。堂々と砲でもってルシアを圧倒したのだ。川越の咄嗟遭遇戦では倍の軍勢を破って見せた。
その真田繁信が直接指揮する騎馬突撃。百年兵を養うは、ただこのときのため。小さい頃から厳しい訓練に耐えてきた。こちらは3百、向こうは5百。そんなものは関係なかった。3百の兵、全てがやる気に満ちていた。
ルシア側もダミアンの率いる熟練騎馬師団の一部だ。決して弱兵ではなかったが、突進力の差が明暗を分けた。至近距離で銃を撃ち合ったあと、お互いに馬上槍を持って激突する。最初の激突で勝負は決した。態勢が崩れたのはルシア側で隊形を保っていたのは皇国側であった。
ルシア騎兵はバラバラになって逃げて行く。
「追うな。司令部に帰らないといけない。帰るまで守ってくれ。アーネン・ニコライと決着をつける。」
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あと1・2話で第1部を終わろうと思います。構想を練って第2部ではヨーロッパ編としてナポレオンに脅かされたアーネン・ニコライに頼まれてグラン・ダルメ(フランス大陸軍)と対戦する真田繁信を考えています。
その前に今作をちょっと見直してファンタジー要素を加味して「なろう」にリメイク版を掲載しようかなとも考えています。なぜ繁信が強いのか?秘密の能力があった。そんな感じ。落ち着いて出来の悪いところを手直ししてみようかなとも考えています。
司令部に左翼のダミアン少将から連絡が入る。
「なに?大将の階級章を付けた人物を捜索中?マジックシゲノブか!」
クツーゾフが興奮したように言う。
「と言うことは、今、敵軍は司令官不在!好機です。殿下、いっきに」
「待て、クツーゾフ。敵は全く動揺していない。あの変な国歌を聞いたか?敵は気迫を失っていない。ヘタに攻めたら逆襲を食らうぞ。ここは戦力を消耗しないように慎重に戦うんだ。」
「しかし。」
「我々は敵の最重要港を占拠している。まあ、必死になって取り返しにくるわな。そしてだな、客観的に見れば敵中に孤立しているとも言える。物量は向こうの方が上だ。で、あるならば戦力の消耗は絶対に避けなければならない。守りを固めて、耐えて敵が態勢を崩すまで待つんだ。その時に渾身のパンチを食らわせる。これしかない。」
そこへ報告が入る。
「皇太弟殿下、帝都より伝令使が参っております。」
皇帝崩御(こうていほうぎょ)。この一報により、ルシアの軍事的方針は一変することになる。
「くう、まずい。このタイミングでこれはないだろう。急ぎ帝都に戻らねば。帝位を狙っているヤカラはごまんといる。帝都を押さえられて即位宣言でもされてはまずいことになる。だがこっちは戦の真っ最中と来ている。どうする?どうする?」
親指の爪を噛みながら部屋の中を行ったり来たりする。
「殿下、イヤ陛下。状況を整理いたしましょう。まず今なによりも肝要(かんよう)なのは一刻も早く帝都に戻り、陛下の帝位を確定させること。もはや、東洋の島国などどうでもよいと言っても良いでしょう。皇帝崩御は絶対に秘匿(ひとく)し、皇国と休戦して国に帰る。これしかありません。」
「そうなのだが、今、まさに戦闘中。どうやって休戦する?」
「全くのウソでは騙されてくれないでしょう。騙すときは話の中に一部の真実を混ぜるのです。そう、例えば皇帝陛下は崩御されたのではなく、病の床にあると。これなら帝都に帰らなければならない理由ともなるし、何もかも放り投げて帰国せねばならないということもない。」
「うむう。他にはすぐに思いつかん。それにしよう。だがな、こういうことには阿吽(あうん)の呼吸がいるのだ。今、敵は全面攻勢をかけてきている。いったんはこれを頓挫(とんざ)させなければならん。クソ、押し切れなかったという気分にさせなければ停戦には応じんよ。」
「ふむう。それもそうですな。」
「ということで、みんな聞いていたな。兄上の崩御は絶対他言無用。そして皇国の全面攻勢をしのぎ切る!皆の助けがいる。踏ん張れ!」
「ウラー!」
司令部にいた全員が叫ぶ。我らの司令官がいよいよ皇帝になられる。やるぞ。
「あっ!」
アーネンが叫ぶ。何事かと全員がアーネンを見る。
「こうなるとマジックシゲノブを絶対に殺してはならない。殺せば皇国は絶対に停戦に応じない。」
「おお、確かに。殺した瞬間、この戦は弔(とむら)い合戦となりましょう。」
「捜索隊に伝令!マジックシゲノブを殺してはならんと伝えよ。」
その命令は遅かった。捜索隊はひよどりごえをした皇国軍に撃破されていた。まあ、結果的にはルシアはそれで救われたのであるが。
可也山山麓
突如現れた騎馬隊にルシア軍シゲノブ捜索隊は混乱する。
「止まれ~!」
「どこから現れた?」
「◯の中に十の字がある旗印だ。」
「ウスリーで右翼に突撃をかましてきたシマズか!」
止まってしまったのが致命的になる。止まった瞬間に皇国軍が突撃してきたからだ。
真田繁信
「博多攻囲軍最高司令官真田繁信である。名乗れ。」
「はっ、島津勢園田惣兵衛(そのだそうべえ)麾下伊藤成信(いとうなりのぶ)、少佐でござる。」
「助かった。礼を言う。見事な馬術だった。馬であの崖を下りるとは、感服した。」
「これなる平石善次郎義勇(よしたけ)の下田流馬術のおかげでござる。」
園田惣兵衛も戦国を生き抜いてきた3万石の領主である。部下の功績は取ってはならぬとわかっていた。
「うむ、平石善次郎、帰ったら下田流馬術を教えてくれ。伊藤少佐、この隊の指揮権をしばらく預かる。我願う指揮権。」
「我、渡す指揮権。」
「我、受ける指揮権。」
「突撃用意。」
「弾込め。」
騎兵銃には銃剣は不要だ。それより長い馬上槍を装備している。銃は馬上で取り扱うために歩兵銃より、よほど短い。馬に乗りながら弾込めするのは熟練の技を要する。馬上銃は命中率が悪い。外しようのない距離まで接近してから銃を撃つ。銃を撃ったら弾込めしている時間はない。銃をしまい、鞍に取り付けられた馬上槍を引き抜き、騎馬による白兵戦を行うのである。
手を振り上げて隊の様子を確認する。
「いまより騎兵の華(はな)、騎馬突撃を敢行する!」
手を振り下ろす。
「とつげき~!」
この頃はもう真田繁信の名は軍神のひびきを伴ってきこえていた。ウスリー敗戦後の撤退戦では多くの兵が助けられた。その兵どもは撤退中に味わったにぎりめしの味とともに繁信の名を飲み込んでいる。その兵どもは帰って繁信の評判を盛り上げる。鷲巣砦の戦いに参加した兵は諸葛孔明かと思えるような神算鬼謀ぶりに感嘆しきりであった。千曲川の戦いでは砲でもってルシアを圧倒して見せた。堂々と砲でもってルシアを圧倒したのだ。川越の咄嗟遭遇戦では倍の軍勢を破って見せた。
その真田繁信が直接指揮する騎馬突撃。百年兵を養うは、ただこのときのため。小さい頃から厳しい訓練に耐えてきた。こちらは3百、向こうは5百。そんなものは関係なかった。3百の兵、全てがやる気に満ちていた。
ルシア側もダミアンの率いる熟練騎馬師団の一部だ。決して弱兵ではなかったが、突進力の差が明暗を分けた。至近距離で銃を撃ち合ったあと、お互いに馬上槍を持って激突する。最初の激突で勝負は決した。態勢が崩れたのはルシア側で隊形を保っていたのは皇国側であった。
ルシア騎兵はバラバラになって逃げて行く。
「追うな。司令部に帰らないといけない。帰るまで守ってくれ。アーネン・ニコライと決着をつける。」
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あと1・2話で第1部を終わろうと思います。構想を練って第2部ではヨーロッパ編としてナポレオンに脅かされたアーネン・ニコライに頼まれてグラン・ダルメ(フランス大陸軍)と対戦する真田繁信を考えています。
その前に今作をちょっと見直してファンタジー要素を加味して「なろう」にリメイク版を掲載しようかなとも考えています。なぜ繁信が強いのか?秘密の能力があった。そんな感じ。落ち着いて出来の悪いところを手直ししてみようかなとも考えています。
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