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第1章 ウスリーの戦い
5 皇国軍本陣
しおりを挟むライナ(総勢18,000)
ウエキン 真田
騎騎騎 騎 騎
騎 騎 騎
5,000 騎 騎
5,000
ライナ選帝侯
歩歩 松平(伊井) 恭仁(うやひと)親王
歩歩 歩歩 歩
歩歩 歩歩 歩
歩歩砲 歩歩 歩
8,000(砲30) 歩歩 3,000
歩歩
ルーデンドルフ 10,000
騎騎騎 ★松平康元
騎 騎 松平(本多) ↖︎【★★★皇国軍本陣★★★】
5,000 歩歩
歩歩
ルシア(総勢27,000) 歩歩
歩歩
ダミアン ルビンスキ 歩歩
騎騎騎 騎騎騎 10,000
3,000 3,000
★アーネン・ニコライ皇太弟 松平(酒井)
歩歩
アーネン アーネン 歩歩
騎 騎 歩歩歩砲→ 歩歩
騎 騎 歩歩歩砲→ 歩歩
4,000 歩歩歩砲→ ←砲歩歩
歩 歩
11,000(砲100) 10,000(砲36)
島津
フリアネン ダレン 騎 騎
騎騎騎 騎騎騎 騎
3,000 3,000 騎 騎
5,000
皇国本陣
皇国軍総大将は松平康本(やすもと)、皇国の関東地方に250万石を領有する大大名の御曹司である。御曹司ではあるが父親が健在であるため、今だ家督を継げていないだけで、年は既に50を越えようとしている。
性格は自己顕示欲が強く、かつ嫉妬心が優先するため、往々にして部下をかばわない。その上、上から目線の暴言が目立つ。ついたあだ名が“怨曹司”。かってはしごをはずされた部下たちの怨嗟がこもっている。表だっては誰も文句を言えないが。
250万石の大大名の継嗣の権力構造は、守役、乳母、幼少のみぎりに付けられる年齢の近い側近を中心に形作られる。もちろん、この年齢の近い側近達の親は有力な譜代大名で固められるわけだが。この幼い子供達は親の権力地図の模様に左右されざるを得ない。親同士が良好な関係の者は子供達も親密になり、敵同士の場合は足を引っ張り合うようになる。康本の守役は本多忠重、本多忠矩の父親である。本多忠矩?誰だ?本陣の指揮官だよ。康本が遠慮するのは父親以外は忠重だけだと言われている。
皇国側の布陣は、右翼の騎馬武者(ルシア側の呼称では軽騎兵)軍団は真田繁成(しげなり)、松平の武将伊井直盛の歩兵方陣1万、中央方陣は同じく松平旗下の本多忠矩(ただのり)、その後方に予備として親王恭仁(うやひと・帝の弟宮)の3千、本多忠矩の左翼はこれまた松平旗下の酒井則清(のりきよ)、3つの歩兵方陣の計3万は松平が出している。最左翼は島津久豊の率いる騎馬軍団5千である。
総兵力4万3千、ルシア・ライナ連合軍4万5千に対してほぼ互角の数であった。
但し、恭仁親王の軍は皇国の危機に役に立ちたいという親王のたっての願いで、半ば無理やりに近衛を率いて来たような状況だ。皇族を戦死などさせられないし、変に手柄を立てられても軍としては困ってしまう。ゆえに使えない予備軍となっている。
「島津めえ、勝手なことをしおってからに。」
もともと松平康本はルシアを大津で迎え撃つつもりであった。それなのに島津久豊が野戦を主張し、独断で大津を出てしまった。応援を頼んだ武将を見捨てることも出来ず、仕方なく島津軍を追って来たのだ。昨夜は島津久豊を本陣に呼びつけ、一悶着あった。島津久豊、66才、文禄・慶長の役を経験してまだ生きている伝説の人物である。ちなみに康本は朝鮮で戦った経験がない。戦の実績からしても康本は久豊に遠く及ばない。
昨夜の顛末はこうだ。
康本に呼びつけられた久豊は参謀と旗本を引き連れて本陣へやって来た。全員騎馬である。帷幕の前で床机(しょうぎ)に腰かけ、待っていた康本の近くまで乗りつける。
「中納言殿(康本の官職)、お呼びか?。」
愛馬疾風(はやて)から降りながら、久豊が尋ねる。久豊を難詰するつもりの康本はイライラした様子で言う。
「島津少将(久豊は真田成繁と同じく少将)、軍司令官のすぐ前まで馬で乗りつけるとは無礼であろう!」
場がシーンと静まり返る。久豊の顔から表情が消える。元々、久豊の康本に対する不信感は増大する一方だった。そこへ来て、この物言い。増長慢のガキが権力を持つとこうなるのか。
「これは失礼いたした。」
振り向きざま、太刀を引き抜き、愛馬の首に突き刺した。
「ヒヒーン!」
血しぶきが飛び、馬がどっと倒れる。懐紙で刀身の血糊をぬぐい、パチリと鞘に納める。
「わが愛馬疾風が軍司令官殿に対し、許し難き無礼を働き、大変申し訳ない。幾度もわが命を救ってくれた馬であるが、軍司令官殿にこのような無礼をはたらいては生かしてはおけぬ。これ、この通り成敗いたしたので容赦願いたい。」
真っ赤になった久豊の鋭い眼光に射すくめられて、康本、声もない。汗血馬(かんけつば)疾風は久豊の愛馬としてあまりにも有名であった。信州馬は座光寺家が代々品種改良を行い、体格も良く足も早く持久力もある、3拍子揃った軍馬として有名であった。中でも赤兎馬(せきとば、三国志に出てくる有名な汗血馬)と名付けた血統は特に優秀であった。馬好きであった久豊は真田家と知己を得たのを幸いに、はるばる薩摩から信州まで出向き赤兎馬の子、早兎(はやと)の産んだばかりの仔を半ば奪い去るように持って帰ったという。久豊が戦場にあるとき、常に乗馬は疾風であった。
「このまま軍議に参加させていただきたいと思っておりましたが、いささか頭痛がし申す。今宵は失礼致しまする。新右衛門、お前の馬を貸せ。その方は六兵衛と相乗りせよ。行くぞ。」
集団は馬蹄の音を響かせながら去っていく。何の打ち合わせもないまま・・・。久豊は馬上でポロポロと涙を流していた。鳴咽の声も漏れていたが、馬蹄の響きで聞こえなかった。そして、戦の方針のすり合わせがなかったことが翌日の久豊の無断騎馬突撃の遠因の一つとも言える。久豊の康本に対するヘイトが一段上がったせいもある。2騎が久豊に近よる。次男の子供の久正と4男の子供の久義だ。
久正が声をかける。
「そんなに泣くほど疾風を好きだったのなら、何故殺したんですか?おじいさま。」
久豊は涙と鼻水でグジョグジョの顔を可愛がっている孫に向ける。
「いやじゃった。」「あの傲慢・上から目線に1厘でも譲るのは、金輪際いやじゃった。」「気がついたら疾風を刺しておった。」「わしゃあ、もう二度と松平の援軍などせん!」「疾風の礼は必ずする!」
久義が心配そうに言う。
「・・・島津の家まで危なくしないでくださいね?」
「フン、わかっとるわい。」
かくして皇国軍本陣は左翼との連携を欠いたまま翌朝を迎える。忠重が言う。
「事ここに至っては仕方ありますまい。兵力もほぼ互角、野戦にて決着をつけましょうぞ。」
「うむ、わが軍は歩兵主体じゃ。迎撃に徹せよ。敵に攻めさせるのじゃ。後の先ぞ。砲兵隊に発射を命ぜよ。」
「はは!」
かくして早朝の日の出後、戦は砲撃戦から始まった。康本の 方針は間違ってはいなかった。が、彼は戦線にほころびができると自らの方針を覆してしまう。
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