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プロローグ
プロローグ ④
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「ま、とにかく」修太郎さんが僕を見る。「話、戻すけど、交換条件は成立したわけだ。君が俺たちの芝居に参加すれば、俺は君の姉さん──静香とデートしてさしあげるという交換条件がね。ご苦労だったな、公彦君。静香もいい弟を持って幸せだなあ。ちなみに君、高校三年生だっけ?」
「いえ、二年生です」僕は二年という部分を強調した。三年生、つまり受験生がなにバカなことをやっているんだと言われたような気がして、ちょっと神経が尖った。気を取り直して話題を変える。「修太郎さん、姉貴と幼馴染みだったんでしょ?」
「ん? ああ、まあな。小学校、中学校と一緒だったっけな。でも、あの頃の静香はけっこう地味な女でな。目立たなかったんだけどさ、この前、久しぶりに会って驚いたよ。きっちり美人になってやがる。おまけに色気までムンムンさせているし。ありゃ人妻独特の色気だ」修太郎さんが言葉を切った。僕から目を逸らして咳払いする。「いやその、静香はバツイチだったな。失礼。おっと、今はマルイチって言うんだっけ? うん。バツはいけないよな、バツは。なんかB級品の烙印を押されたような気がする。でも、この前、近くのスーパーで訳あり品のリンゴを買って食べたけど、かなり美味かったぞ。見た目はともかく味は一級品だった。B級品、バンザイだ」
僕は苦笑する。誰もが姉さんの離婚の話題を避けているけれど、目の前のこの人は、それをあっけらかんと口にする。そう言えば、姉さんが言っていたっけ。「この前に修太郎君に会ったんだけど、『お前なら早々に離婚すると思っていたよ、相手はお堅い役人だろ? お前と馴染むはずないだろ』なあんて笑われちゃった」って。姉貴、なにを脳天気なことを、と僕は思った。
そして、姉貴はこう続けた。「修太郎君、すごーくかっこよくなっていたのよ。いいなあ、彼」
それで、僕に一肌脱いでくれというのが、今回の話だったわけだ。
バツイチ姉貴のハート目を不憫と思ったのが、そもそもの間違いだった。まさか、強盗の真似事をするとは。それも僕まで参加させられるなんて。なんだってんだ、この修太郎って人は。
僕は愛のキューピッドではなく、悪魔の手先になってしまったかもしれない。
とにかく、今、僕の頭の中には、言おうか言わないでおこうかと迷っている言葉が渦を巻いている。「姉貴、うまくいったよ」という言葉が。「うまく」か。やれやれだ。
「ところで公彦君。ここでの一連の出来事の結末も、ツイッターに書くのかい?」修太郎さんが、いつの間にか僕が握りしめていたスマホを指さした。「で、君の役割はどう書く? 喫茶店強盗の共犯者かい? それとも傍観者?」
僕は返事をする代わりに、ため息をつきながらスマホをポケットに突っ込んだ。
「いえ、二年生です」僕は二年という部分を強調した。三年生、つまり受験生がなにバカなことをやっているんだと言われたような気がして、ちょっと神経が尖った。気を取り直して話題を変える。「修太郎さん、姉貴と幼馴染みだったんでしょ?」
「ん? ああ、まあな。小学校、中学校と一緒だったっけな。でも、あの頃の静香はけっこう地味な女でな。目立たなかったんだけどさ、この前、久しぶりに会って驚いたよ。きっちり美人になってやがる。おまけに色気までムンムンさせているし。ありゃ人妻独特の色気だ」修太郎さんが言葉を切った。僕から目を逸らして咳払いする。「いやその、静香はバツイチだったな。失礼。おっと、今はマルイチって言うんだっけ? うん。バツはいけないよな、バツは。なんかB級品の烙印を押されたような気がする。でも、この前、近くのスーパーで訳あり品のリンゴを買って食べたけど、かなり美味かったぞ。見た目はともかく味は一級品だった。B級品、バンザイだ」
僕は苦笑する。誰もが姉さんの離婚の話題を避けているけれど、目の前のこの人は、それをあっけらかんと口にする。そう言えば、姉さんが言っていたっけ。「この前に修太郎君に会ったんだけど、『お前なら早々に離婚すると思っていたよ、相手はお堅い役人だろ? お前と馴染むはずないだろ』なあんて笑われちゃった」って。姉貴、なにを脳天気なことを、と僕は思った。
そして、姉貴はこう続けた。「修太郎君、すごーくかっこよくなっていたのよ。いいなあ、彼」
それで、僕に一肌脱いでくれというのが、今回の話だったわけだ。
バツイチ姉貴のハート目を不憫と思ったのが、そもそもの間違いだった。まさか、強盗の真似事をするとは。それも僕まで参加させられるなんて。なんだってんだ、この修太郎って人は。
僕は愛のキューピッドではなく、悪魔の手先になってしまったかもしれない。
とにかく、今、僕の頭の中には、言おうか言わないでおこうかと迷っている言葉が渦を巻いている。「姉貴、うまくいったよ」という言葉が。「うまく」か。やれやれだ。
「ところで公彦君。ここでの一連の出来事の結末も、ツイッターに書くのかい?」修太郎さんが、いつの間にか僕が握りしめていたスマホを指さした。「で、君の役割はどう書く? 喫茶店強盗の共犯者かい? それとも傍観者?」
僕は返事をする代わりに、ため息をつきながらスマホをポケットに突っ込んだ。
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