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プロローグ
プロローグ ③
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突然、二人はどちらともなく笑い始めた。大声で笑いながら抱き合う。見れば、他のお客さんも、手を叩きながら笑っていた。新聞を読んでいた男は床にうずくまり、お腹を押さえながら悲鳴を上げるように笑っている。
「いやあ、なかなかの演技だったぞ修太郎」マスターが修太郎さんとハイタッチを交わした。「真に迫った演技だった」
「まあな。ここへ来るまでにイメトレをイヤというほど繰り返したからな。それに」修太郎さんが僕を見る。「いいゲストがいたから、演技に幅が出たよ。なにせ彼の演技は超シロウト級だ。そんな人物が混じっていたほうが、かえって演技に真実味が出る」
ほっといてくれ、と僕は心の中で罵りながら、ナイフをカウンターの上に置いた。「じゃ、これで終わりですね? 帰ってもいいですか?」
「まあ、そう急ぐな。ケーキでも食っていけよ。俺のおごりだ」修太郎さんが僕の肩に腕を回した。「君の姉さんとのデート、了解した。待ち合わせは追って連絡すると静香に伝えておいてくれ」
「そうですか。姉貴、喜ぶと思います」僕はそう答ながらも、こんな男、僕だったら絶対に付き合いたくないなと思った。
「おい修太郎、チケットの販売、頼んだぞ」マスターが修太郎さんに声をかけた。「劇場が満杯になるかどうかは、お前にかかっているんだからさ」
「任せとけ。客席、一杯にしてみせるからよ。そのかわり、一か月間、コーヒー飲み放題って約束、忘れるなよ」
首を傾げて返事を待つ修太郎さんに、マスターが親指を立てて応える。
僕は席に座り直し、マスターが運んできたシフォンケーキにフォークを突き立てた。
「でも、劇団のチケットの販売を引き受けるのに、あんな演技をする必要があるんですか? 普通にもらえばいいじゃないですか」僕は二度三度とケーキにフォークを突き立てる。ケーキは真ん中から二つに割れ、片方が皿の外に転がり出た。あわててそれを皿の上に戻す。
「彼ら劇団員にとっては、日常がすでに演技なのさ。だから、どんな状況でも、ナチュラルに芝居に溶け込めるんだ。俺はマスターにこう言ったんだ。チケットはありたいていの方法では受けとらないぞ、俺が仕掛けるから、劇団員らしくきっちり対応してみせろ、ってね」修太郎さんはマスターが新しく淹れてくれたコーヒーを一口飲んだ。「さすがは劇団員だ。マスターも、回りのお客も、みんななりきっていただろ? 強盗の真似事をするなんて、俺は一言も言ってなかったのに」
「お客さんも、みんな劇団員なんですか?」僕はカウンターやボックス席に目を走らせた。それに気づいた人たちが、僕に微笑みかける。
「そう、ここの常連だよ。なにせ団長が喫茶店のマスターだろ。おのずと団員が集まる店になるよ。多いときにゃ、店は常連客で一杯になる」
「おい、修太郎。いい加減、決心してくれよ」カウンターで新聞を読んでいた人が、僕の目の前のちょいハンサムな男に声をかけてきた。「そろそろ劇団に入ってくれないか」
「俺は忙しいんでね」修太郎さんが片手を上げた。「ま、おたくらの芝居はちゃんと観に行くから、それでいいだろ?」
新聞を読んでいた人は肩をすくめて、再び新聞を読み始めた。
「いやあ、なかなかの演技だったぞ修太郎」マスターが修太郎さんとハイタッチを交わした。「真に迫った演技だった」
「まあな。ここへ来るまでにイメトレをイヤというほど繰り返したからな。それに」修太郎さんが僕を見る。「いいゲストがいたから、演技に幅が出たよ。なにせ彼の演技は超シロウト級だ。そんな人物が混じっていたほうが、かえって演技に真実味が出る」
ほっといてくれ、と僕は心の中で罵りながら、ナイフをカウンターの上に置いた。「じゃ、これで終わりですね? 帰ってもいいですか?」
「まあ、そう急ぐな。ケーキでも食っていけよ。俺のおごりだ」修太郎さんが僕の肩に腕を回した。「君の姉さんとのデート、了解した。待ち合わせは追って連絡すると静香に伝えておいてくれ」
「そうですか。姉貴、喜ぶと思います」僕はそう答ながらも、こんな男、僕だったら絶対に付き合いたくないなと思った。
「おい修太郎、チケットの販売、頼んだぞ」マスターが修太郎さんに声をかけた。「劇場が満杯になるかどうかは、お前にかかっているんだからさ」
「任せとけ。客席、一杯にしてみせるからよ。そのかわり、一か月間、コーヒー飲み放題って約束、忘れるなよ」
首を傾げて返事を待つ修太郎さんに、マスターが親指を立てて応える。
僕は席に座り直し、マスターが運んできたシフォンケーキにフォークを突き立てた。
「でも、劇団のチケットの販売を引き受けるのに、あんな演技をする必要があるんですか? 普通にもらえばいいじゃないですか」僕は二度三度とケーキにフォークを突き立てる。ケーキは真ん中から二つに割れ、片方が皿の外に転がり出た。あわててそれを皿の上に戻す。
「彼ら劇団員にとっては、日常がすでに演技なのさ。だから、どんな状況でも、ナチュラルに芝居に溶け込めるんだ。俺はマスターにこう言ったんだ。チケットはありたいていの方法では受けとらないぞ、俺が仕掛けるから、劇団員らしくきっちり対応してみせろ、ってね」修太郎さんはマスターが新しく淹れてくれたコーヒーを一口飲んだ。「さすがは劇団員だ。マスターも、回りのお客も、みんななりきっていただろ? 強盗の真似事をするなんて、俺は一言も言ってなかったのに」
「お客さんも、みんな劇団員なんですか?」僕はカウンターやボックス席に目を走らせた。それに気づいた人たちが、僕に微笑みかける。
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「おい、修太郎。いい加減、決心してくれよ」カウンターで新聞を読んでいた人が、僕の目の前のちょいハンサムな男に声をかけてきた。「そろそろ劇団に入ってくれないか」
「俺は忙しいんでね」修太郎さんが片手を上げた。「ま、おたくらの芝居はちゃんと観に行くから、それでいいだろ?」
新聞を読んでいた人は肩をすくめて、再び新聞を読み始めた。
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