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第一章 箱に集う人々
①
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「あんたにしては上出来だったね」スマホを操作しながら姉貴が笑う。「修太郎の相手ができるなんてね。けっこう頑張ったのねえ」
「心臓が止まるかと思った」僕は姉貴の横顔に投げやりな言葉を放った。「コーヒーとケーキくらいじゃ割に合わない。やめときゃよかったな」
「あんたには感謝してるわ」姉貴は一瞬だけ僕を見てから、またスマホに見入る。「あんたのお人好しさには呆れるけれどね」
呆れるって。なんだよ、それ。「ほんとにやめときゃよかったな。ものすごく後悔してるかも」僕は今度は吐き捨てるように言った。
「まあまあ、そう言いなさんな。でも、もしあんたが親切心を見せてくれなかったとしたら、それはそれで望まない結果になってたかもね」
「望まない結果って?」
「ちょっと待って」姉貴はスマホをいじりながら僕のほうへ向き直った。スマホを差し出す。「ほら、これ」
ぎょっとした。画面には、姉貴のパンティを持って立ち尽くす僕の姿が写っていたからだ。人間失格の烙印を押されてもおかしくないような隙だらけのアホ面は、自分で言うのもなんだけれど、この世から消滅してもらいたいと思うほどだ。
「ハメやがったな、姉貴」
「うん。ハメた。しっかりハメた」
「じゃあ、あのとき、やっぱり写真を」
僕は天を仰いだ。先日、僕のタンスの引き出しに、なぜか姉貴の下着が入っていた。なぜここに、と考えている僕がいけなかったんだ。一瞬の隙を逃さない姉貴の激写が、しっかりと僕をとらえていた。部屋のドアを開けっ放しにしていたのも敗因だ。
「もし公彦ちゃんがあたしの頼みを断ったら、奥の手としてこれを見せるつもりだったんだ。公表されたくないでしょ、こんな情けない姿」姉貴が意地の悪そうな顔をする。「姉の下着を盗んでニヤける弟の歪んだ性」
「別に盗んでない!」僕は叫んだ。「さらにはニヤけてもない」
「じゃ、訂正。姉の下着を見て呼吸を荒くする弟の悲しき性癖」
「いい加減にしてよ」僕はフロアに横たわった。頭の後ろで手を組み、ため息をつく。「二十三歳にもなって、そんなくだらないことするなって。とにかく、修太郎さんにはちゃんと約束してもらったから、それでいいだろ。この話はもうやめよう」
はいはい、了解しました、公彦ちゃんご苦労さま。それではごきげんよう。姉貴は歌うようなセリフを残して、僕の部屋から出て行った。
まったく、と言いながら僕はフロアから上半身を起こした。拳で床面を叩く。
姉貴が結婚して以来、両親の僕に対する干渉の密度が増した。痛みと痒さが同時にやってきたような感覚に耐えきれなくなりかけたとき、うまい具合に姉貴が出戻ってきた。うまい具合に、というのは姉貴に対してちょっと失礼かもしれないけれど、両親が僕に干渉する度合いは、明らかに減った。その分、姉貴のほうが大変になっただろう。まあ、そういう意味じゃ姉貴に感謝している。だからこそ、今回の任務を買って出たのだけれど、まったく姉貴のやつは。僕はさっきの画像を思い出した。再び腹の虫が騒ぎ始める。弟を変態扱いする姉がどこの世界にいる。いや、そんなことはもういい。どうでもいい。それよりも。
僕は立ち上がって机の上に置いてある卓上カレンダーを見た。夏休みが始まって一週間。まさに今日こそが決行の日だ。
僕は拳を固めて小さく叫んだ。「やるぞ。プチ家出の時だ」
「心臓が止まるかと思った」僕は姉貴の横顔に投げやりな言葉を放った。「コーヒーとケーキくらいじゃ割に合わない。やめときゃよかったな」
「あんたには感謝してるわ」姉貴は一瞬だけ僕を見てから、またスマホに見入る。「あんたのお人好しさには呆れるけれどね」
呆れるって。なんだよ、それ。「ほんとにやめときゃよかったな。ものすごく後悔してるかも」僕は今度は吐き捨てるように言った。
「まあまあ、そう言いなさんな。でも、もしあんたが親切心を見せてくれなかったとしたら、それはそれで望まない結果になってたかもね」
「望まない結果って?」
「ちょっと待って」姉貴はスマホをいじりながら僕のほうへ向き直った。スマホを差し出す。「ほら、これ」
ぎょっとした。画面には、姉貴のパンティを持って立ち尽くす僕の姿が写っていたからだ。人間失格の烙印を押されてもおかしくないような隙だらけのアホ面は、自分で言うのもなんだけれど、この世から消滅してもらいたいと思うほどだ。
「ハメやがったな、姉貴」
「うん。ハメた。しっかりハメた」
「じゃあ、あのとき、やっぱり写真を」
僕は天を仰いだ。先日、僕のタンスの引き出しに、なぜか姉貴の下着が入っていた。なぜここに、と考えている僕がいけなかったんだ。一瞬の隙を逃さない姉貴の激写が、しっかりと僕をとらえていた。部屋のドアを開けっ放しにしていたのも敗因だ。
「もし公彦ちゃんがあたしの頼みを断ったら、奥の手としてこれを見せるつもりだったんだ。公表されたくないでしょ、こんな情けない姿」姉貴が意地の悪そうな顔をする。「姉の下着を盗んでニヤける弟の歪んだ性」
「別に盗んでない!」僕は叫んだ。「さらにはニヤけてもない」
「じゃ、訂正。姉の下着を見て呼吸を荒くする弟の悲しき性癖」
「いい加減にしてよ」僕はフロアに横たわった。頭の後ろで手を組み、ため息をつく。「二十三歳にもなって、そんなくだらないことするなって。とにかく、修太郎さんにはちゃんと約束してもらったから、それでいいだろ。この話はもうやめよう」
はいはい、了解しました、公彦ちゃんご苦労さま。それではごきげんよう。姉貴は歌うようなセリフを残して、僕の部屋から出て行った。
まったく、と言いながら僕はフロアから上半身を起こした。拳で床面を叩く。
姉貴が結婚して以来、両親の僕に対する干渉の密度が増した。痛みと痒さが同時にやってきたような感覚に耐えきれなくなりかけたとき、うまい具合に姉貴が出戻ってきた。うまい具合に、というのは姉貴に対してちょっと失礼かもしれないけれど、両親が僕に干渉する度合いは、明らかに減った。その分、姉貴のほうが大変になっただろう。まあ、そういう意味じゃ姉貴に感謝している。だからこそ、今回の任務を買って出たのだけれど、まったく姉貴のやつは。僕はさっきの画像を思い出した。再び腹の虫が騒ぎ始める。弟を変態扱いする姉がどこの世界にいる。いや、そんなことはもういい。どうでもいい。それよりも。
僕は立ち上がって机の上に置いてある卓上カレンダーを見た。夏休みが始まって一週間。まさに今日こそが決行の日だ。
僕は拳を固めて小さく叫んだ。「やるぞ。プチ家出の時だ」
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