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第一章 箱に集う人々
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三日分の荷造りを終えた僕は、机に座った。紙とペンを用意する。書き置きを残すために。殴り書きのような文字を抱いた紙を机の真ん中に置き、僕は部屋をこっそりと出た。そして外へ。みんなテレビでも観ているのだろう、誰にも気づかれることなく、僕はお隣りさんの庭に侵入できた。片隅にあるワゴンが目に入る。まるで恋人に会ったようにドキドキした。車の正面に回り込み、これから三日間よろしく、と小さな声で挨拶してから乗り込んだ。
部屋から持ってきたタオルケットをベッドに敷き、僕はその上に座った。一息つく。とりあえず、どうしようか。考えを巡らせながらベッドに横になった。うん、なかなか快適なベッドだ。待てよ、今ならまだ僕の書き置きを誰も見ていないはずだ。まだ家出をしたことを知られていない。よし、今のうちに買い出しに行ってこよう。家出を知られたら、暗くなってからでないと出歩くのは難しくなる。
思うがはやいか、僕は体を起こした。
「三日間ほど家出します」車の外から声がした。
僕は感電したように体を硬直させた。心臓が一気に跳ねる。なんだ? 誰だ?
「ちゃんと帰ってきますから心配しないでください。公彦」車のドアが開いて、姉貴が顔をのぞかせた。僕の書いた書き置きのメモをピラピラと振りながら悪魔のような笑いを浮かべる。「あんたねえ、もうちょっと味のある文章、書けないの? 仮にも公彦ちゃんのとこ、県でも有数の進学校でしょお? お願いだから、姉ちゃんをがっかりさせないで。あんたには期待しているんだから」
「なんで、姉貴が」僕の声が裏返った。「どうしてここへ? っていうか、なんでそれを最初に読んだのが姉貴なわけ?」
「なんでって言われてもねえ」姉貴が首を傾げて考え込む。「まあ、しいて言うなら、もう少しあんたと取引できる画像を撮るためにあんたの部屋へ行ったら、机の上にあるこの遺書を見つけたって感じかな」
「取引って」僕は目をぐるりと回した。「って言うか、それ、遺書じゃないし」
「公彦ちゃんも味なマネをするじゃん、とあたしが感心していたとき、玄関のドアが閉まる音が聞こえたのよ。お父さんとお母さんは部屋にいるし、出て行ったのは公彦ちゃんしかいないでしょ。あんたは昔からどこへ行くにも黙って行ったりしない子だったよね。だからおかしいなと思って後をつけたの。そしたら、ああなんてこと。このありさまだわ。死んだおばあちゃんになんて言い訳する気?」
公彦はキャンピングカーに恋をしましたとでも言っておいてくれ、と僕は心の中で毒づいた。「とにかくさ、姉貴は帰ってよ。これは僕が勝手に計画したイベントなんだからさ。姉貴は関係ないだろ」
「ねえ、あたしも仲間に入れなさいよ」姉貴の悪魔的微笑みがさらにパワーアップする。「あたしもここで寝泊まりするわ。なんか楽しそう。ワクワクするねえ」
「ダメだ。ダメダメダメ」僕は両手を大きく振った。「第一、姉貴までいなくなったら大変だろ? なんて言い訳する気だよ」
「ああ、その点なら抜かりはないわ」姉貴は僕の書いた遺書、じゃない書き置きのメモを丸めて僕のほうへ投げた。「新たに書き置いて来たから。内容はこうよ。『公彦ちゃんと友だちのところへ泊まりに行きます。三日ほどで帰るから心配しないでねえ。愛するパパ&ママへ』」
人のことをとやかく言える文章かい。僕は頭を抱えた。「まいったな、もう。でも、よく書き直す時間があったね。僕の後を追ってきたんでしょ?」
「ううん、公彦ちゃんの目的地がここだとわかったから、いったん戻ったの。そのとき、遺書は書き換えたわ。だってほら」姉貴は右手を持ち上げた。その手はしっかりとバッグをつかんでいた。おそらく三日分の服や生活用品が入っているのだろう。「用意は万全よ」
僕はため息をついた。一人旅は諦めたほうがよさそうだ。いや、ひとつだけ文句を言わなきゃ。あれは遺書じゃないって。
部屋から持ってきたタオルケットをベッドに敷き、僕はその上に座った。一息つく。とりあえず、どうしようか。考えを巡らせながらベッドに横になった。うん、なかなか快適なベッドだ。待てよ、今ならまだ僕の書き置きを誰も見ていないはずだ。まだ家出をしたことを知られていない。よし、今のうちに買い出しに行ってこよう。家出を知られたら、暗くなってからでないと出歩くのは難しくなる。
思うがはやいか、僕は体を起こした。
「三日間ほど家出します」車の外から声がした。
僕は感電したように体を硬直させた。心臓が一気に跳ねる。なんだ? 誰だ?
「ちゃんと帰ってきますから心配しないでください。公彦」車のドアが開いて、姉貴が顔をのぞかせた。僕の書いた書き置きのメモをピラピラと振りながら悪魔のような笑いを浮かべる。「あんたねえ、もうちょっと味のある文章、書けないの? 仮にも公彦ちゃんのとこ、県でも有数の進学校でしょお? お願いだから、姉ちゃんをがっかりさせないで。あんたには期待しているんだから」
「なんで、姉貴が」僕の声が裏返った。「どうしてここへ? っていうか、なんでそれを最初に読んだのが姉貴なわけ?」
「なんでって言われてもねえ」姉貴が首を傾げて考え込む。「まあ、しいて言うなら、もう少しあんたと取引できる画像を撮るためにあんたの部屋へ行ったら、机の上にあるこの遺書を見つけたって感じかな」
「取引って」僕は目をぐるりと回した。「って言うか、それ、遺書じゃないし」
「公彦ちゃんも味なマネをするじゃん、とあたしが感心していたとき、玄関のドアが閉まる音が聞こえたのよ。お父さんとお母さんは部屋にいるし、出て行ったのは公彦ちゃんしかいないでしょ。あんたは昔からどこへ行くにも黙って行ったりしない子だったよね。だからおかしいなと思って後をつけたの。そしたら、ああなんてこと。このありさまだわ。死んだおばあちゃんになんて言い訳する気?」
公彦はキャンピングカーに恋をしましたとでも言っておいてくれ、と僕は心の中で毒づいた。「とにかくさ、姉貴は帰ってよ。これは僕が勝手に計画したイベントなんだからさ。姉貴は関係ないだろ」
「ねえ、あたしも仲間に入れなさいよ」姉貴の悪魔的微笑みがさらにパワーアップする。「あたしもここで寝泊まりするわ。なんか楽しそう。ワクワクするねえ」
「ダメだ。ダメダメダメ」僕は両手を大きく振った。「第一、姉貴までいなくなったら大変だろ? なんて言い訳する気だよ」
「ああ、その点なら抜かりはないわ」姉貴は僕の書いた遺書、じゃない書き置きのメモを丸めて僕のほうへ投げた。「新たに書き置いて来たから。内容はこうよ。『公彦ちゃんと友だちのところへ泊まりに行きます。三日ほどで帰るから心配しないでねえ。愛するパパ&ママへ』」
人のことをとやかく言える文章かい。僕は頭を抱えた。「まいったな、もう。でも、よく書き直す時間があったね。僕の後を追ってきたんでしょ?」
「ううん、公彦ちゃんの目的地がここだとわかったから、いったん戻ったの。そのとき、遺書は書き換えたわ。だってほら」姉貴は右手を持ち上げた。その手はしっかりとバッグをつかんでいた。おそらく三日分の服や生活用品が入っているのだろう。「用意は万全よ」
僕はため息をついた。一人旅は諦めたほうがよさそうだ。いや、ひとつだけ文句を言わなきゃ。あれは遺書じゃないって。
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