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第一章 箱に集う人々
⑦
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コンビニで食料や雑貨を手に入れ、トイレも済ませた僕たちは、すぐにワゴンに戻った。少し遅れて、修太郎さんも戻ってきた。ただし、一人ではなかった。
「あらあ、花ちゃん。いらっしゃい」姉貴が手を叩いた。「修太郎、花ちゃんに声をかけてくれたのお? やるじゃない。人が多い方が楽しいからね。さあ、何か食べましょ。花ちゃんもどうぞ」
花ちゃんは柔らかく会釈をしたあと、僕をちらと見た。車に乗り込み、後ろの席に座る。
花ちゃんは、その名が示す通り、町の花屋さんに勤める女の子だ。僕より二つ三つ、年上だと思う。なかなかの美人だけれど、背は僕より少しだけ高い。
彼女はよく店頭で花の手入れをしているので、町の人間は通りがかりに挨拶する。僕とて例外じゃない。花屋さんに勤めているから花ちゃん。みんな勝手にそう呼んでいるだけで、本当の名前は知らない。
「よかったねえ公彦。若い女の子が来てくれて」姉貴が意味ありげに笑う。「これで今夜は寂しい思いをしなくてすむでしょ」
「やめろよ姉貴」僕は姉貴を睨んだ。花ちゃんを見ると、心持ち赤くなっているような気がした。僕は咳払いする。
修太郎さんが横長い大きなものを車に運び込んだ。後部によっこらしょと置く。見ると、長さ六十センチメートルくらいのプランターに花が十本ほど入っていた。背丈が三十センチメートルほどの花だ。入っていたというのは、それぞれが円い鉢の中に個別に植えられていて、その鉢がプランターの中に並べられていたからだ。
「あ、ミニひまわりね」姉貴がきれいねえと感嘆の声を上げる。「それ、花ちゃんのお店のでしょ? どうするの?」
「みなさんに差し上げます。何人いらっしゃるかわかりませんでしたので、適当に持ってきました」
「わあ、ありがとう。さすが花ちゃん」姉貴がミニひまわりに顔を近づける。「でも、花ちゃん、家に帰らなくていいの? 仕事、終わったところなんでしょ?」
「花ちゃんは一人暮らしだからな」修太郎さんが弁当のラップを外しながら言う。「暗闇に潜むワゴンの中で夜を過ごしても何の問題もない。明日は仕事は休みだし。そうだよな、花ちゃん?」
修太郎さんの問いかけに、花ちゃんは微笑みながらうなずく。姉貴がサンドイッチを手渡すと、お礼を言ってから小さな口を開けて食べ始めた。おいしいと、これまた小さな声で言う。
「夜通しって、まさか」僕はカフェオレのパックを花ちゃんに手渡した。「朝までいるとか? この車に? いいの?」
「本人がいいって言ってるじゃない」姉貴が僕の背中をゲンコツで叩いた。「後ろのベッドには、あんたが一緒に寝ればオーケーだし。あたしと修太郎は、前のシートを倒して寝るからだいじょうぶよお。あんたたちのベッドで何が起ころうと知ったこっちゃないから、ご自由にねえ」
ウーロン茶を吹き出しそうになるのを辛うじてこらえた僕は、姉貴を睨みながら、花ちゃんの様子をうかがう。花ちゃんはちょっとうつむき加減で両手で挟んだカフェオレをチュルチュルと飲んでいた。仕事中はポニーテールにしている髪は、今は下ろされて彼女の頬を被っているので、表情が見えにくい。ニヤついている姉貴と修太郎さんをもう一度睨んでから、ちょっと涼んでくると言って、僕は賑やかになったキャンピングカーを脱出した。
車のボディにもたれてウーロン茶の残りを飲んでいたら、修太郎さんが出てきた。
「公彦君、ちょっと手伝ってくれ」修太郎さんは暗闇の中でもはっきりとわかるほど大きく手を振って、僕を招き寄せる仕草をする。「人間、夜の生活には明かりが必要だからな。暗い車内で息をひそめているだけじゃ、キャンプとは言えない。それは逃亡者のあり方だ」
別にキャンプじゃないんだけれど。僕はそう言いたいのを我慢して、修太郎さんのほうへ近寄った。修太郎さんが懐中電灯を点けた。足元を指さす。四角い箱。あ、バッテリーだ。
「あらあ、花ちゃん。いらっしゃい」姉貴が手を叩いた。「修太郎、花ちゃんに声をかけてくれたのお? やるじゃない。人が多い方が楽しいからね。さあ、何か食べましょ。花ちゃんもどうぞ」
花ちゃんは柔らかく会釈をしたあと、僕をちらと見た。車に乗り込み、後ろの席に座る。
花ちゃんは、その名が示す通り、町の花屋さんに勤める女の子だ。僕より二つ三つ、年上だと思う。なかなかの美人だけれど、背は僕より少しだけ高い。
彼女はよく店頭で花の手入れをしているので、町の人間は通りがかりに挨拶する。僕とて例外じゃない。花屋さんに勤めているから花ちゃん。みんな勝手にそう呼んでいるだけで、本当の名前は知らない。
「よかったねえ公彦。若い女の子が来てくれて」姉貴が意味ありげに笑う。「これで今夜は寂しい思いをしなくてすむでしょ」
「やめろよ姉貴」僕は姉貴を睨んだ。花ちゃんを見ると、心持ち赤くなっているような気がした。僕は咳払いする。
修太郎さんが横長い大きなものを車に運び込んだ。後部によっこらしょと置く。見ると、長さ六十センチメートルくらいのプランターに花が十本ほど入っていた。背丈が三十センチメートルほどの花だ。入っていたというのは、それぞれが円い鉢の中に個別に植えられていて、その鉢がプランターの中に並べられていたからだ。
「あ、ミニひまわりね」姉貴がきれいねえと感嘆の声を上げる。「それ、花ちゃんのお店のでしょ? どうするの?」
「みなさんに差し上げます。何人いらっしゃるかわかりませんでしたので、適当に持ってきました」
「わあ、ありがとう。さすが花ちゃん」姉貴がミニひまわりに顔を近づける。「でも、花ちゃん、家に帰らなくていいの? 仕事、終わったところなんでしょ?」
「花ちゃんは一人暮らしだからな」修太郎さんが弁当のラップを外しながら言う。「暗闇に潜むワゴンの中で夜を過ごしても何の問題もない。明日は仕事は休みだし。そうだよな、花ちゃん?」
修太郎さんの問いかけに、花ちゃんは微笑みながらうなずく。姉貴がサンドイッチを手渡すと、お礼を言ってから小さな口を開けて食べ始めた。おいしいと、これまた小さな声で言う。
「夜通しって、まさか」僕はカフェオレのパックを花ちゃんに手渡した。「朝までいるとか? この車に? いいの?」
「本人がいいって言ってるじゃない」姉貴が僕の背中をゲンコツで叩いた。「後ろのベッドには、あんたが一緒に寝ればオーケーだし。あたしと修太郎は、前のシートを倒して寝るからだいじょうぶよお。あんたたちのベッドで何が起ころうと知ったこっちゃないから、ご自由にねえ」
ウーロン茶を吹き出しそうになるのを辛うじてこらえた僕は、姉貴を睨みながら、花ちゃんの様子をうかがう。花ちゃんはちょっとうつむき加減で両手で挟んだカフェオレをチュルチュルと飲んでいた。仕事中はポニーテールにしている髪は、今は下ろされて彼女の頬を被っているので、表情が見えにくい。ニヤついている姉貴と修太郎さんをもう一度睨んでから、ちょっと涼んでくると言って、僕は賑やかになったキャンピングカーを脱出した。
車のボディにもたれてウーロン茶の残りを飲んでいたら、修太郎さんが出てきた。
「公彦君、ちょっと手伝ってくれ」修太郎さんは暗闇の中でもはっきりとわかるほど大きく手を振って、僕を招き寄せる仕草をする。「人間、夜の生活には明かりが必要だからな。暗い車内で息をひそめているだけじゃ、キャンプとは言えない。それは逃亡者のあり方だ」
別にキャンプじゃないんだけれど。僕はそう言いたいのを我慢して、修太郎さんのほうへ近寄った。修太郎さんが懐中電灯を点けた。足元を指さす。四角い箱。あ、バッテリーだ。
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