曇りのち晴れはキャシー日和

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第一章 箱に集う人々

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「これって、もしかして修太郎さんが?」
「そう。静香に電話をもらったときに、状況は聞いていたからな。このワゴンのバッテリーがいかれている確率は高い。だから、手に入れてきたのさ、新品を」
「なんだ、どこへ行ってたのかと思ったら。で、もしかして今から交換するとか?」
「当然だ。電源が死んでいては、明かりは得られないだけじゃなく何もできないだろ」
「でも、車のキーがないのに意味がないんじゃ」
 僕が言い終わる前に、修太郎さんは右手を挙げて振った。そこには車のキーが握られていた。「長期間、車に乗らない人間の中には、キーを差しっぱなしにしている者がいるんだ。このワゴンの所有者は、そういうタイプらしい。ま、たしかに車のキーはどこに置いたっけ、なんて探す手間は省けるよな」
 僕が修太郎さんを手伝い、無事バッテリーが生き返った。エンジンをかけ、エアコンを作動させる。涼やかな風が車内に満ちあふれ、快適さに頬が緩んだ。
「でもさあ、エンジンなんかかけちゃってだいじょうぶなの?」姉貴がTシャツの胸元をパタパタさせて冷風を取り込む。「ここの人に見つからない?」
「だいじょうぶだ。この車の位置は死角になっているし、エンジン音も低いから聞こえないだろう。まあ、これだけ広い庭の中で木々に囲まれていちゃ、少々のことをしたって見つからないだろうがな」
 修太郎さんの力強い言葉で全員が安心する。ルームライトを点けて、僕たちは語り合ったりゲームをしたりして遊んだ。
 夜が深くなった頃、僕たちは再びコンビニへ行ってトイレを済ませ、花火を買ってから公園へ行った。誰もいない公園には、僕たち四人の笑い声だけが響き渡った。
 ワゴンに戻った頃には、もう日付が変わろうとしていた。姉貴の目がトロンとしているのがわかる。
「さすが学生は夜に強いわねえ」姉貴が座席にワカメのようにもたれる。「あたしはもうだめ。夜、弱いのよねえ」
「俺も眠くなってきた。今日は何かと忙しかったからな」修太郎さんが伸びをする。「じゃ、そろそろ寝るとするか。明日のために」
「明日のために、ですか?」僕は、シートを倒して寝床をこしらえている修太郎さんの顔を見る。「明日は何を」
「いや、別に何も考えていないけどな」修太郎さんはフラットになったシートと姉貴を交互に見る。姉貴はもうふやけたワカメ状態だ。コンビニで買ったビールを飲み過ぎたこともふやけた一因だろう。「公彦君、手伝え。静香をこっちのシートへ移動させるから」
 僕が足を持ち、修太郎さんが姉貴の脇の下に手を入れて支えながら姉貴を隣りのシートに移した。
「静香って、こんなに胸、大きかったっけ」姉貴を移動し終えた修太郎さんは、首をコキコキ鳴らしながら言う。「ま、いい女になったことだけは確かだな」
 僕は軽く修太郎さんを睨んでから、後部のベッドに移動した。花ちゃんは体育座りをしたまま、うつらうつらしている。無理もない、今日も一生懸命に働いてきたのだ。のほほんと夏休みを消化している僕とは、その疲労度において雲泥の差がある。
「あの、花ちゃん、横になったら? いや、僕はまだ眠くないから前の座席にいるから」
 僕の声に花ちゃんは顔を上げた。軽く微笑んでからベッドに横になった。すぐに目を閉じる。スカートの裾からのぞく白いふくらはぎが目に入り、僕の鼓動が少しばかり速くなった。あわてて目をそむける。ワゴンの前方に戻ると、修太郎さんもすでに横になって軽いいびきを立てていた。僕は苦笑しながらも、助手席に座った。
 フロントガラスの先には、暗闇が広がっている。どこまでも続く闇。それは、見る人によっては浅くも深くも感じるのかもしれない。この先にあるものがはっきりと見えている人っているのだろうか。僕は、それを見ようとして、プチ家出なるものを企てたのかもしれない。
 首をひねって後方に目を向ける。思いがけない飛び入りの三人によって、僕のプチ家出は毛色の変わったものになったけれど、それはそれでよかったのかもしれない。
 明日は明日の風が吹く、か。そんなことを考えているうちに、僕は目を閉じていた。
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