曇りのち晴れはキャシー日和

mic

文字の大きさ
15 / 49
第二章 キャシーは陽気に笑う

しおりを挟む
 車のキーがなくなったなんて。そんなバカな。僕は運転席に身を乗り出した。たしかにそこにあったはずのキーが見あたらない。姉貴や修太郎さんが抜き取っていないとすれば──まさか花ちゃん? いや、花ちゃんが取る理由がない。ということは。
「もしかして、昨日、僕たちが寝ている間に誰かがこっそりと抜き取ったってことは」
 僕の言葉に姉貴が素っ頓狂な声を上げる。「ええー? そんなバカなこと。いったい誰が取るっていうのよ。っていうかさ。それって、あたしたちがぐっすり寝ているのをいいことに、何者かがこの車にやってきたってこと? 超恐いじゃん、そんなの」
「いや、しかしそれしか考えられないな」修太郎さんが首を振った。「誰かがやってきて何らかの理由で鍵を抜き取った。これしか考えられない。ううむ、やるじゃないか、犯人のやつ」
「感心している場合じゃないでしょ」姉貴がバッグの中を探る。「みんな、他に取られたものはないよね? だったらなんのためにキーだけを。いったい誰よ、宇宙人みたいな不可解なことをしたのは」
「宇宙人みたいな不可解なことをしたのは、わしだ」
 ワゴンの外で声がした。みんなは一瞬固まったけれど、すぐさま窓から外を見た。変な宇宙人が、いやもとい、別に変じゃない老人が僕たちを見ていた。
「勝手にこういうことされると困るな」老人は僕たちを睨みつけた。「これが犯罪だということを、まさか知らぬわけでもあるまい」
 老人が、杖で僕たち一人一人を突き刺すように指し示した。「いい年こいて、ふざけたことをするんじゃない」
「いや、あの、すみません」僕は真っ先に謝った。元はと言えば、このイベントは僕の発案なのだ。
「おい、爺さん。それは」修太郎さんがワゴンの窓を開けて身を乗り出す。「その杖は飾りかい? それがなくても十分に歩けるように見えるけど」
「え?」老人が自分の杖を見た。あわてて地面に突き刺し、それに体重を預ける。「今日は、たまたま体調が良かっただけだ。普段はこうはいかん。わしの体はボロボロだ。ボロボロのガクガクだ」
「あのお。お爺さん、もしかして、ここの家の人ですか?」姉貴がおそるおそる尋ねた。「ええと、紅林さんだっけ」
「いかにも紅林だ。紅林庄三、八十二歳。お主たちが無断使用しておるバスの所有者でもある。そして」老人が杖で横の茂みの中を示した。「あれが、わしの妻だ」
 僕は杖の向いた方向に目を向けた。木々の中に隠れるようにして、お婆ちゃんが立っていた。なぜか湯飲みを持っている。それを口に運んだお婆ちゃんは、うまそうに飲んだ。
「昌枝だ。年齢は」紅林庄三さんがそう言ったとき、昌枝さんが鋭い目つきで庄三さんを睨んだ。顔が引きつる庄三さん。「それは言えないな。トップシークレットだ」
「はいはいはいはい」修太郎さんが何度もうなずいた。「わかったよ、爺さん。いや、紅林さん。たしかに、俺たちはイケナイことをしてたな。で、どうすればいい? 警察に連絡する? それとも、なにがしかの金額を請求するつもりかい?」
「ふん」紅林さんが懐から何かを取り出した。それを掲げる。この車のキーだ。「さっきも言った通り、この鍵を抜き取ったのは、わしだ。それは、鍵がないと車を動かすことができないことを、わしは知っているからだ」
「わしは知っているって……そんなの、小学生だって知っていると思うけど」姉貴が眉を上げた。
「話の腰を折るんじゃない!」庄三さんが杖をドンと地面に突いた。「細かいところにこだわると、ろくな嫁にならんぞ」
 姉貴が険しい顔で何か言おうとするのを修太郎さんが止める。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写と他もすべて架空です。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

【完結】『続・聖パラダイス病院』(作品260123)

菊池昭仁
現代文学
『聖パラダイス病院』の続編です。こんな病院なら入院生活も悪くはありません。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

完結‼️翡翠の歌姫は 後宮で声を隠す―2人の皇子と失われた記憶【1/23本編完結】

雪城 冴
キャラ文芸
本編完結‼️【中華サスペンス】 皇帝が隠した禁忌の秘密。 それを“思い出してはいけない少女”がいた。 「その眼で見るな――」 特殊な眼を持つ少女・翠蓮は、忌み嫌われ、村を追われた。 居場所を失った彼女が頼れたのは、歌だけ。 宮廷歌姫を目指して辿り着いた都でも、待っていたのは差別と孤立。 そんな翠蓮に近づいたのは、 危険な香りをまとう皇子と、天女のように美しいもう一人の皇子だった。 だが、その出会いをきっかけに皇位争い、皇后の執着、命を狙われる日々。 追い詰められる中で、翠蓮の忘れていた記憶が揺り動く。 かつて王家が封じた“力”とは? 翠蓮の正体とは? 声を隠して生き延びるか。 それとも、すべてを賭けて歌うのか。 運命に選ばれた少女が、最後に下す決断とは――? ※架空の中華風ファンタジーです ※アルファポリス様で先行公開しており、書き溜まったらなろう、カクヨム様に移しています ※表紙絵はAI生成

処理中です...