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第二章 キャシーは陽気に笑う
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「松山?」僕は松山という言葉を口の中で三度ほど転がした。「松山って。もしかして、四国の? ええと、愛媛県だっけ」
「そうだ。愛媛は松山の花火大会だ。聞いた話だが、松山の花火大会がけっこうすごいらしいんだ。今夜、開催される予定だ。それを見に行きたい」
「ちょっと、ちょっと、お爺さん」姉貴が苦笑いする。「いくらなんでも、それは厳しすぎるんじゃない? 広島から松山まで行くのなら、海を越えなきゃダメじゃない。しかも、花火大会は今夜なんでしょ? そんなの気軽なドライブとは言えないんじゃない? あたしたちが望んでいるドライブとは大きく違うわ」姉貴が修太郎さんに同意を求める。「ねえ、修太郎」
修太郎さんはじっと庄三さんの顔を見ていた。庄三さんが見つめ返す。
「なあ、爺さん。あんた、どうしてそこまでして花火大会に行きたいんだい? なにも無理してまで今夜、松山の花火大会を見に行くことはないだろ? 広島で開催される次の花火大会まで待てばいいじゃないか?」
庄三さんが唇を固く結んで地面を見ていたけれど、意を決した顔で修太郎さんを見た。「昨日の検査の結果、心臓がかなりいかれていることがわかった。いつあの世から迎えが来てもおかしくないらしい。それは一月先かもしれないし、明日かもしれない。だから、動けるうちに、花火を見ておきたいんだ。大空に咲くあの壮大な大輪を見れば、少しでも長く生きる気力がわきそうな気がするんだよ」
「私からもお願いします」昌枝さんが湯飲みを持ったまま頭を下げた。
「海を渡ってドライブか。いい響きだ。それこそ俺たちにふさわしいドライブだ」修太郎さんがニヤリとする。「爺さん。あんたの希望、引き受けた。今夜の花火大会、しっかり見届けようぜ」
「ちょ、ちょっと」僕はあわてた。なんでまた松山まで。姉貴の顔を見る。「まいったな。案の定、事が大きくなっちゃったよ」
「ま、予想通りね」姉貴がうなずく。「修太郎なら、絶対に行くと思ったわ」
「え? なんで? 姉貴、修太郎さんに同意を求めていたじゃない? 僕たちの望んでいるドライブとは大きく違うって」
「ああ、あれは建前を言ってみただけ。あたしが修太郎に振った時点で、もう彼が行く気になっていたことはわかっていたのよね。あいつがこんな面白そうな話、飛びつかないはずないもの」
まったくもう。僕はため息をついた。悪魔が二匹、予期せぬ出来事に目を爛々と輝かせている。道連れになってしまう僕が可哀想だ。そうだよ、これ、本当は僕のプチ家出だったはずだ。それなのに、なんでこんなことに。
花ちゃんも驚いているだろうな。ごめん、花ちゃん。僕は申し訳ない気持ちになり、花ちゃんに謝罪の目を向けた。
花ちゃんは、あまりのことに戸惑った顔を──まったくしていなくて、うれしそうな顔でハミングしていた。
……はいはい。僕一人が仲間はずれってことですね。
やれやれだ。もう好きにしてくれ。
「そうだ。愛媛は松山の花火大会だ。聞いた話だが、松山の花火大会がけっこうすごいらしいんだ。今夜、開催される予定だ。それを見に行きたい」
「ちょっと、ちょっと、お爺さん」姉貴が苦笑いする。「いくらなんでも、それは厳しすぎるんじゃない? 広島から松山まで行くのなら、海を越えなきゃダメじゃない。しかも、花火大会は今夜なんでしょ? そんなの気軽なドライブとは言えないんじゃない? あたしたちが望んでいるドライブとは大きく違うわ」姉貴が修太郎さんに同意を求める。「ねえ、修太郎」
修太郎さんはじっと庄三さんの顔を見ていた。庄三さんが見つめ返す。
「なあ、爺さん。あんた、どうしてそこまでして花火大会に行きたいんだい? なにも無理してまで今夜、松山の花火大会を見に行くことはないだろ? 広島で開催される次の花火大会まで待てばいいじゃないか?」
庄三さんが唇を固く結んで地面を見ていたけれど、意を決した顔で修太郎さんを見た。「昨日の検査の結果、心臓がかなりいかれていることがわかった。いつあの世から迎えが来てもおかしくないらしい。それは一月先かもしれないし、明日かもしれない。だから、動けるうちに、花火を見ておきたいんだ。大空に咲くあの壮大な大輪を見れば、少しでも長く生きる気力がわきそうな気がするんだよ」
「私からもお願いします」昌枝さんが湯飲みを持ったまま頭を下げた。
「海を渡ってドライブか。いい響きだ。それこそ俺たちにふさわしいドライブだ」修太郎さんがニヤリとする。「爺さん。あんたの希望、引き受けた。今夜の花火大会、しっかり見届けようぜ」
「ちょ、ちょっと」僕はあわてた。なんでまた松山まで。姉貴の顔を見る。「まいったな。案の定、事が大きくなっちゃったよ」
「ま、予想通りね」姉貴がうなずく。「修太郎なら、絶対に行くと思ったわ」
「え? なんで? 姉貴、修太郎さんに同意を求めていたじゃない? 僕たちの望んでいるドライブとは大きく違うって」
「ああ、あれは建前を言ってみただけ。あたしが修太郎に振った時点で、もう彼が行く気になっていたことはわかっていたのよね。あいつがこんな面白そうな話、飛びつかないはずないもの」
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花ちゃんも驚いているだろうな。ごめん、花ちゃん。僕は申し訳ない気持ちになり、花ちゃんに謝罪の目を向けた。
花ちゃんは、あまりのことに戸惑った顔を──まったくしていなくて、うれしそうな顔でハミングしていた。
……はいはい。僕一人が仲間はずれってことですね。
やれやれだ。もう好きにしてくれ。
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