曇りのち晴れはキャシー日和

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第三章 出会いは風のごとく

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 僕たちは、キャシー号に乗り込んできたビジネスマン──立石っていう名前らしい──に席を勧めた。立石さんはデイパックを膝の上に置き、礼儀正しく座った。花ちゃんが紙コップに入れた麦茶を渡すと、深々と礼をして一気に飲んだ。
 立石さんによると、会社をリストラされたと同時に寮も追い出されたので、住み込みか、あるいは寮が完備されている職場を探しているとのこと。とりあえず商店街をあたって募集しているところを探すつもりだったらしい。
「それにしても、ほんとに荷物はそれだけ?」姉貴が呆れ顔で尋ねる。「生活用品や服は? 会社で働いていたのなら、スーツじゃないにしてもそれなりの服装だって必要でしょ?」
「前の会社はスーツで仕事をしていたのですが、これ一着です。これで事足ります。着替えはバッグの中に下着が二セット入っています。洗濯すれば、余裕で間に合います」
 姉貴の顔が引きつった。もうそれ以上何も言わず、修太郎さんにバトンタッチする。
「じゃあ、あれだな。家具なんかの必要なものはすべて寮に備え付けられていたんだな。だから出るときは身軽なんだ」
「はい。至れり尽くせりの会社でした」立石さんが胸を張る。「ものすごくいい会社なんです」
 だから、なぜ胸を張る? なぜ誉める? 立石さん、あなたリストラされたんでしょ? そのものすごくいい会社に。僕はそう言いたかったのだけれど我慢する。
「それは大変ねえ。はやく仕事をみつけなきゃね」姉貴が奇妙な顔つきでうなずく。「早急にみつかることを祈っているわ」
 姉貴が本気で祈っていないことは、よくわかる。長年、一緒に生活してきた僕は、姉貴の唇の動く方向で、彼女の思っていることがわかるようになった。間違いない。悪魔は、いや、姉貴は今「なによこのヘンな人」と思っているはずだ。
 姉貴と目が合った。僕が鼻を膨らませると、「なによ文句あるの?」と目で挑んできた。もちろん無視する。
「あのう、結局、このスクールバスはどこに行くんでしょうか」立石さんが修太郎さんと姉貴の顔を交互に見る。
 スクールバスという言葉に、また菜々実がトゲのある反応をしたけれど、僕が口を開けてお菓子を求めるとポッキーを突っ込んできた。美味いなこれと言うと、おいしいよねーと微笑む。怒りの軌道修正は、案外簡単にいくものだ。
「俺たちは港に向かっているんだ」修太郎さんが前方から目を離さずに言う。「ま、途中、己斐本町に寄り道するけどな」
「そうですか。では、港まで乗せていってください。港の近くには会社が多いですから、手当たり次第、回ってみます。どこか一件くらい、雇ってくれるところがあるでしょうから」
「オーケー。ま、がんばってな。そう深刻になりなさんな。職探しなんて、売り込み次第でどうにでもなるもんさ。もっと自信をもっていきなよ」
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