曇りのち晴れはキャシー日和

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第三章 出会いは風のごとく

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「立石氏、はやく代わってくれ」立石さんに代わり、修太郎さんが運転席に座った。すぐさまキャシー号を発進させた。急ハンドルを切り、路線を変更する。さっきまでとは違い、キャシー号からおだやかな乗り心地が消えた。代わりに強引な重力がシートに預けた背中にかかった。
「ちょっと修太郎。逃げ切る気?」姉貴がシートに沈み込んで体を固定させる。「そんなことしたら、あいつら追ってくるよ」
「追ってくるから逃げるんだ」修太郎さんがドアミラーに目を走らせた。「おう、やつら走り出したぜ。こいつはちょっとやっかいだな」
「逃げ切れたとしても、この車を覚えているかもしれないじゃないですか」菜々実が切羽詰まった声を出す。「そしたら、万事休すですよ」
「まあ、間違いなく車種は覚えられただろうな。ボディのひまわりの絵は見られただろうが、ナンバーまでは見られていないはずだ」
「ほう。ひまわりの絵は見られたのに、ナンバーは見られていないと言うのかね」庄三さんが不思議そうな顔をする。「なぜ、そう思うんだね?」
「やつら、カフェにいたんだろ? 車の接触音はかなりデカかったから、すぐにこっちを見たはずだ。カフェの窓からキャシー号のひまわりが見えて当然だろ。だが、やつらがカフェから出てきたときには、俺たちはもうだいぶ先まで進んでいた。ナンバーが見えるはずはない。やつらがどこかの民族みたく五.〇の視力を持っていない限りはね」
「ほほう。なるほどなあ」庄三さんが満足げにうなずいた。菜々実が握りしめているうまい棒を指さす。「それ、食べないのなら、わしにくれんかね?」
「じゃあ、どこか細い道に逃げこまなきゃ」姉貴が辺りを見回した。「はやく隠れなきゃ捕まってしまうわ」
「いや、まずは二丁目のデカい交差点だ」修太郎さんが信号を見上げた。「ここの信号をこのタイミングでクリアしたなら、ぶっ飛ばせば二丁目の交差点の信号はギリギリクリアできるはずだ。やつらは赤信号とにらめっこだ。大きな交差点ほど交通量が多いからな。無視して渡りたくても渡れないのさ」
「なるほど。まずは大きな交差点で引き離しておいて、それから目立たない道に逃げこむという寸法ですね」今までおとなしくお茶を飲んでいた昌枝さんが、ふふふふと笑った。目が爛々と輝いている。「いい作戦です。なんか面白そう」
 ここは奇人の集会所か! 昌枝さん、あなた普段、刺激のない生活を送りすぎですよ。僕は今ほどまともな人間の顔を見たいと思ったことはない。
 修太郎さんの作戦通り、キャシー号は二丁目の交差点を黄信号でクリアした。振り返って交差点を見る。後続する広誠連合の車数台は、赤信号を無視して交差点に突入したものの、横からきた多くの車に進路を阻まれていた。飛び交うクラクションの音。
「おい昌枝」庄三さんが湯飲みを口に運ぶ昌枝さんの顔をのぞき見る。「なんだ、つまらなさそうな顔をしているな。まさか、敵をあっさり引き離してしまったから、物足りないなんて思っているんじゃないだろうな」
「いえ、そんなことは」昌枝さんがプイとそっぽを向いた。「何事も落ち着きが大事なんです。私はそれを自ら示しているだけです」
「ふう。とにかく逃げ切れたわね」姉貴が菜々実の顔を見る。「広島に戻ったら、ひまわりの絵を書き換えなくちゃいけないかもね。申し訳ないけど」
「あの人たちに覚えられてしまったんじゃ、しかたがないですね」菜々実がため息をつく。「あたしの芸術作品が無に帰するわけですね。大きな損失だけど、しょうがないですね」
 今度の絵は誰か他の人に頼んだほうがいいですよ、と僕は後で庄三さんに伝えようと思う。少なくとも、ポッキーを口にくわえ、アニソンを歌いながら絵を描くなんてことをしない人に。
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