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第四章 ノンストップ! キャシー号
①
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下船したキャシー号を港の案内所で停めた。立石さんが強く希望したからだ。まさか売店で求人を尋ねるつもりじゃ。
僕の心配をよそに、立石さんはトイレに飛んでいった。そういや、フェリーの中で冷たいコーラを飲み過ぎてお腹が冷えたと言っていた。お腹を壊したのかもしれない。
「ここは松山観光港だよ」庄三さんが案内所の前を歩いている女子大生らしきミニスカートの女性を目で追う。「花火大会は三津浜港で行われるらしい。ここから車で十五分ほどの距離だとフェリーの中に書いてあったよ」
「そうなの? じゃあ、三津浜港に移動しなきゃ」姉貴がキャンディを口の中に放り込んだ。「それにしても、花火大会までまだ時間がありすぎるわね。ちょっとはやく来すぎたかも。時間つぶし、どうしようか」
修太郎さんは姉貴の問いかけが聞こえているのかいないのか、じっと案内所を見ている。
「ちょっと修太郎。聞いているの? あ。まさか、あの女の子のお尻に見とれていたんじゃないでしょうね」
「いや、それはわしだ」庄三さんが頭をかいた。「若い子の尻が好きなもんでな」
昌枝さんがお茶の残りを庄三さんにぶっかけた。なんてことをするんだ、キャシー号が濡れてしまったじゃないか、と庄三さんがわめいた。
「お。戻ってきたぜ」修太郎さんが見る方向には、小走りで走ってくる立石さんがいた。丸めた小冊子のようなものを握りしめている。雑誌かパンフレットの類か。
「就職情報誌をもらってきました。これをフル活用させていただきます」座席に座って情報誌を開いた立石さんは、胸ポケットから赤鉛筆を取り出した。「松山まで来ましたので、ここで生活の基盤を築くつもりです。まずは、この近くにある会社からチェックします」
立石さんは、赤鉛筆で印をつけながらページをめくっていった。めくるときは、赤鉛筆を耳の上にはさんだ。競馬予想じゃないんだから、と僕は危うく言ってしまいそうになる。
「この近くに募集をしているところがあるのかい?」修太郎さんが久し振りに口を開いた。
そう、ほんとに久し振りという感じだ。あれだけしゃべっていた人が急に無口になると、次に発した声には懐かしささえ感じられるから不思議だ。
「いくつかあるみたいです。エリア別になっているから探しやすいですね」立石さんがページをめくりながら言う。「すぐそこにある小さなスーパーが募集しているそうです。店の二階が寮になっているので、私の条件にも当てはまります。まずはそこから当たってみようと思います」
「そうか──なあ、みんな。一つ、提案があるんだ」修太郎さんがキャシー号の乗客を見回す。「花火大会までの時間、この立石氏のために使ってやらないか? つまり、彼が無事に就職できるように、俺たちで協力してやろうと思うんだ」
「面白そうね。なんか就活のドキュメンタリーみたいな感じね」姉貴がふふふと笑う。「私は賛成よ。みんな、どう?」
姉貴の問いに、キャシー号の中の面々は首を縦に振った。もちろん僕もだ。
「ようし、決まりだ」修太郎さんが指をパチンと鳴らした。「ってことで立石氏。がんばって面接に臨んでくれ。あんたの就職が決まるまで、全員で応援するからよ」
「え、本当にいいんですか?」立石氏はポカンと口を開けてみんなの顔を見回した。その顔はすぐに微笑みに変わった。「こんな私なんかのために……ありがとうございます。がんばります」立石さんの微笑みが、さらに強まる。あまり似合わない真っ白な歯が、唇の間でキラリと光った。
だから、真っ白な歯で微笑みながら涙と鼻水を流さないでくださいって。なんか感情表現がごちゃ混ぜになっているんですけど。もしかして、泣くことと笑うことに慣れていないなんてことは……この人ならあり得るか。僕は妙に納得する。
それにしても、と僕は修太郎さんの背中を見つめた。修太郎さん、ずっと黙っていると思ったら、こんなことを考えていたのか。それは、立石さんの就活に対する興味なのか、それとも、単にお節介好きなのか。やっぱりよくわかんないな、この人は。
僕の心配をよそに、立石さんはトイレに飛んでいった。そういや、フェリーの中で冷たいコーラを飲み過ぎてお腹が冷えたと言っていた。お腹を壊したのかもしれない。
「ここは松山観光港だよ」庄三さんが案内所の前を歩いている女子大生らしきミニスカートの女性を目で追う。「花火大会は三津浜港で行われるらしい。ここから車で十五分ほどの距離だとフェリーの中に書いてあったよ」
「そうなの? じゃあ、三津浜港に移動しなきゃ」姉貴がキャンディを口の中に放り込んだ。「それにしても、花火大会までまだ時間がありすぎるわね。ちょっとはやく来すぎたかも。時間つぶし、どうしようか」
修太郎さんは姉貴の問いかけが聞こえているのかいないのか、じっと案内所を見ている。
「ちょっと修太郎。聞いているの? あ。まさか、あの女の子のお尻に見とれていたんじゃないでしょうね」
「いや、それはわしだ」庄三さんが頭をかいた。「若い子の尻が好きなもんでな」
昌枝さんがお茶の残りを庄三さんにぶっかけた。なんてことをするんだ、キャシー号が濡れてしまったじゃないか、と庄三さんがわめいた。
「お。戻ってきたぜ」修太郎さんが見る方向には、小走りで走ってくる立石さんがいた。丸めた小冊子のようなものを握りしめている。雑誌かパンフレットの類か。
「就職情報誌をもらってきました。これをフル活用させていただきます」座席に座って情報誌を開いた立石さんは、胸ポケットから赤鉛筆を取り出した。「松山まで来ましたので、ここで生活の基盤を築くつもりです。まずは、この近くにある会社からチェックします」
立石さんは、赤鉛筆で印をつけながらページをめくっていった。めくるときは、赤鉛筆を耳の上にはさんだ。競馬予想じゃないんだから、と僕は危うく言ってしまいそうになる。
「この近くに募集をしているところがあるのかい?」修太郎さんが久し振りに口を開いた。
そう、ほんとに久し振りという感じだ。あれだけしゃべっていた人が急に無口になると、次に発した声には懐かしささえ感じられるから不思議だ。
「いくつかあるみたいです。エリア別になっているから探しやすいですね」立石さんがページをめくりながら言う。「すぐそこにある小さなスーパーが募集しているそうです。店の二階が寮になっているので、私の条件にも当てはまります。まずはそこから当たってみようと思います」
「そうか──なあ、みんな。一つ、提案があるんだ」修太郎さんがキャシー号の乗客を見回す。「花火大会までの時間、この立石氏のために使ってやらないか? つまり、彼が無事に就職できるように、俺たちで協力してやろうと思うんだ」
「面白そうね。なんか就活のドキュメンタリーみたいな感じね」姉貴がふふふと笑う。「私は賛成よ。みんな、どう?」
姉貴の問いに、キャシー号の中の面々は首を縦に振った。もちろん僕もだ。
「ようし、決まりだ」修太郎さんが指をパチンと鳴らした。「ってことで立石氏。がんばって面接に臨んでくれ。あんたの就職が決まるまで、全員で応援するからよ」
「え、本当にいいんですか?」立石氏はポカンと口を開けてみんなの顔を見回した。その顔はすぐに微笑みに変わった。「こんな私なんかのために……ありがとうございます。がんばります」立石さんの微笑みが、さらに強まる。あまり似合わない真っ白な歯が、唇の間でキラリと光った。
だから、真っ白な歯で微笑みながら涙と鼻水を流さないでくださいって。なんか感情表現がごちゃ混ぜになっているんですけど。もしかして、泣くことと笑うことに慣れていないなんてことは……この人ならあり得るか。僕は妙に納得する。
それにしても、と僕は修太郎さんの背中を見つめた。修太郎さん、ずっと黙っていると思ったら、こんなことを考えていたのか。それは、立石さんの就活に対する興味なのか、それとも、単にお節介好きなのか。やっぱりよくわかんないな、この人は。
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