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第四章 ノンストップ! キャシー号
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気を取り直して次に行こう、と修太郎さんが言った。もちろん立石さんの職探しのことだ。修太郎さんは、何が何でも花火大会までには立石さんの就職を決めるつもりだ。当の立石さんより気合いが入っている。
姉貴はというと、立石さんに対する怒りが転じて、これまた職探しに気合いが入っているようだ。リカーショップの前でキャシー号を停めさせ、店先に置いてある就職情報誌を数冊抜き取ってきた。それを立石さんの面前に突きつけ、はやく次の職場を探しなさいとのたまった。まるで立石さんの保護者のようだ。
立石さんはと言えば、雪辱戦に燃えている──といった様子はあまりなく、というのは回りのプレッシャーに押されてタジタジとなっていて、まるで親に監視されながら夏休みの宿題をする子供のようだ。なんか、自分の小学生の頃のことを思い出すようで、僕は思わず苦笑いしてしまった。
ある意味緊迫感が漂っているキャシー号は、コンビニの駐車場に入った。腹が減ってはなんとかで、エネルギー源の購入とトイレ休憩だ。
お菓子の選択に時間がかかった菜々実が最後に乗り、車のドアを閉めようとしたとき、誰かがスルリと滑り込んできた。子供だ。
僕をはじめ全員が、小学校中学年くらいであろうその子供の顔を見る。
「ちょっと君。勝手に乗ってきちゃダメでしょ」菜々実が両手を広げた。「これはバスじゃないの。下りなさい」
「なんだよ、スクールバスだろ、これ」男の子はフンと鼻を鳴らした。「あんなヘンなひまわりの絵があるのに、普通の車なわけないだろ」
「ヘンなひまわり?」菜々実の顔色が変わった。やれやれ、またかと僕はため息をつく。「ちょっと君。子供に絵の善し悪しがわかるはずないから多くは言わないけどね、わからないならわからないなりに文句を言うのは──」
「乗せてくれてもいいじゃんか」男の子が菜々実の言葉をさえぎる。「ケチケチすんなよ、おばさん」
菜々実が噴火寸前になっており、それを見ている他の人たちが吹き出しそうになる。
「お前、名前は?」修太郎さんが興味津々といった顔で尋ねる。
「卓也だよ。小学四年生だ」子供が機嫌の悪そうな顔で答える。「俺の犬がいなくなっちゃったんだ。チャッピーってんだけどさ、だから探しているんだ」
「なるほど。で、この車に乗ってきた訳は?」
「だからスクールバスだと思ったんだよ。子供が乗ってるんなら、どこかでチャッピーを見たかもしれないだろ」
「なんで子供が乗ってたら、犬を見るんだね?」庄三さんが修太郎さんに負けずとも劣らない興味深そうな目で卓也を見る。
「大人って何も見ていないんだよ。見ているようで見ていないのさ。犬が歩いていたって、何の興味も持たないだろ? 見ているのは、新しくできた店とかカッコイイ服を着た人なんかだろ? 犬がいたとかきれいな石が落ちているとか蝉の死骸が転がっていたとかは、子供のほうがよく見ているんだよ。だから、スクールバスの子供たちに聞いてみようと思ったんだ。犬を見なかったかって」
「ほう。卓也君だったな。面白い子だ」庄三さんが満足そうな顔をする。「どうだい、ウチの子にならんかね?」
昌枝さんがまたお茶をぶっかけそうになったので、花ちゃんがあわてて止めた。
「それにしても広いなあ、このひまわり号は」卓也君が車内に顔を巡らせる。
「十人乗りのキャンピング仕様だからな」修太郎さんが両手を広げた。「ちなみに、ひまわり号じゃなくキャシー号だ」
「キャシー号? 嘘だあ。だって、ひまわりの絵が描かれてあるじゃないか」
「ひまわりが描かれていても、キャシー号だ」
「ヘンなの」
「ヘンでも、キャシー号だ」
修太郎さんと卓也君の漫才のようなやり取りを、他のみんなが面白がって見ている。ただ一人、殺気だっているのは菜々実だ。
「あなた、あたしの描いた絵をヘンなひまわりって言ったわね」菜々実が紙とペンを卓也君の前に差し出した。「そこまで言うのなら、あなたはうまく描けるんでしょうね。じゃあ、描いてみなさいよ。さあ、ここに描いてみなさい」
「この姉ちゃん、どうしたの?」卓也君がのけぞりながら僕に尋ねる。「カレシに振られたの?」
当然、僕はその質問を無視した。
まあいいや、と卓也君は答え、ひまわりの絵を描き始めた。完成したものを、菜々実に突き出した。「これでいいだろ? 姉ちゃんよりもうまいと思うけど」
菜々実は卓也君の描いたひまわりを見て、口の中でうっとうめいた。そのままシートに体を沈める。
「でも、俺の姉ちゃんのほうがもっとうまいけどね」卓也君が寂しそうな顔をする。初めて見せた子供らしい顔だ。
「……へえ。お姉さんがいるの」菜々実が、卓也君の新たな一面を見たからだろう、険のとれた顔で尋ねる。「お姉さん、どうかしたの?」
「ううん、何でもない」卓也君は窓の外に目を向けた。それ以上この話を続けたくないようだ。菜々実もそれ以上は尋ねようとせず、肩をすくめただけだった。
「よし、わかった」修太郎さんがキャシー号のエンジンをかけた。「俺たちは港の花火大会を見に行くつもりなんだが、訳あってちょっとばかり寄り道している最中なんだ。一つくらい寄り道が増えたって同じだ。卓也のチャッピーを探しながら走ってやるよ。どんな犬だ?」
修太郎さんの言葉に卓也君が目を輝かせた。身を乗り出してチャッピーの特徴を長々と話し出した。でも、生い立ちや好物、眠るときの癖までは言わなくていいと思うんだけれど。
菜々実がクッキーを卓也君にあげた。あ、これ好きなんだと喜ぶ卓也君。あたしもよ、と菜々実。よかった、和解成立だ。スナック協定ってのは、女の子や子供の間では有効らしい。
姉貴はというと、立石さんに対する怒りが転じて、これまた職探しに気合いが入っているようだ。リカーショップの前でキャシー号を停めさせ、店先に置いてある就職情報誌を数冊抜き取ってきた。それを立石さんの面前に突きつけ、はやく次の職場を探しなさいとのたまった。まるで立石さんの保護者のようだ。
立石さんはと言えば、雪辱戦に燃えている──といった様子はあまりなく、というのは回りのプレッシャーに押されてタジタジとなっていて、まるで親に監視されながら夏休みの宿題をする子供のようだ。なんか、自分の小学生の頃のことを思い出すようで、僕は思わず苦笑いしてしまった。
ある意味緊迫感が漂っているキャシー号は、コンビニの駐車場に入った。腹が減ってはなんとかで、エネルギー源の購入とトイレ休憩だ。
お菓子の選択に時間がかかった菜々実が最後に乗り、車のドアを閉めようとしたとき、誰かがスルリと滑り込んできた。子供だ。
僕をはじめ全員が、小学校中学年くらいであろうその子供の顔を見る。
「ちょっと君。勝手に乗ってきちゃダメでしょ」菜々実が両手を広げた。「これはバスじゃないの。下りなさい」
「なんだよ、スクールバスだろ、これ」男の子はフンと鼻を鳴らした。「あんなヘンなひまわりの絵があるのに、普通の車なわけないだろ」
「ヘンなひまわり?」菜々実の顔色が変わった。やれやれ、またかと僕はため息をつく。「ちょっと君。子供に絵の善し悪しがわかるはずないから多くは言わないけどね、わからないならわからないなりに文句を言うのは──」
「乗せてくれてもいいじゃんか」男の子が菜々実の言葉をさえぎる。「ケチケチすんなよ、おばさん」
菜々実が噴火寸前になっており、それを見ている他の人たちが吹き出しそうになる。
「お前、名前は?」修太郎さんが興味津々といった顔で尋ねる。
「卓也だよ。小学四年生だ」子供が機嫌の悪そうな顔で答える。「俺の犬がいなくなっちゃったんだ。チャッピーってんだけどさ、だから探しているんだ」
「なるほど。で、この車に乗ってきた訳は?」
「だからスクールバスだと思ったんだよ。子供が乗ってるんなら、どこかでチャッピーを見たかもしれないだろ」
「なんで子供が乗ってたら、犬を見るんだね?」庄三さんが修太郎さんに負けずとも劣らない興味深そうな目で卓也を見る。
「大人って何も見ていないんだよ。見ているようで見ていないのさ。犬が歩いていたって、何の興味も持たないだろ? 見ているのは、新しくできた店とかカッコイイ服を着た人なんかだろ? 犬がいたとかきれいな石が落ちているとか蝉の死骸が転がっていたとかは、子供のほうがよく見ているんだよ。だから、スクールバスの子供たちに聞いてみようと思ったんだ。犬を見なかったかって」
「ほう。卓也君だったな。面白い子だ」庄三さんが満足そうな顔をする。「どうだい、ウチの子にならんかね?」
昌枝さんがまたお茶をぶっかけそうになったので、花ちゃんがあわてて止めた。
「それにしても広いなあ、このひまわり号は」卓也君が車内に顔を巡らせる。
「十人乗りのキャンピング仕様だからな」修太郎さんが両手を広げた。「ちなみに、ひまわり号じゃなくキャシー号だ」
「キャシー号? 嘘だあ。だって、ひまわりの絵が描かれてあるじゃないか」
「ひまわりが描かれていても、キャシー号だ」
「ヘンなの」
「ヘンでも、キャシー号だ」
修太郎さんと卓也君の漫才のようなやり取りを、他のみんなが面白がって見ている。ただ一人、殺気だっているのは菜々実だ。
「あなた、あたしの描いた絵をヘンなひまわりって言ったわね」菜々実が紙とペンを卓也君の前に差し出した。「そこまで言うのなら、あなたはうまく描けるんでしょうね。じゃあ、描いてみなさいよ。さあ、ここに描いてみなさい」
「この姉ちゃん、どうしたの?」卓也君がのけぞりながら僕に尋ねる。「カレシに振られたの?」
当然、僕はその質問を無視した。
まあいいや、と卓也君は答え、ひまわりの絵を描き始めた。完成したものを、菜々実に突き出した。「これでいいだろ? 姉ちゃんよりもうまいと思うけど」
菜々実は卓也君の描いたひまわりを見て、口の中でうっとうめいた。そのままシートに体を沈める。
「でも、俺の姉ちゃんのほうがもっとうまいけどね」卓也君が寂しそうな顔をする。初めて見せた子供らしい顔だ。
「……へえ。お姉さんがいるの」菜々実が、卓也君の新たな一面を見たからだろう、険のとれた顔で尋ねる。「お姉さん、どうかしたの?」
「ううん、何でもない」卓也君は窓の外に目を向けた。それ以上この話を続けたくないようだ。菜々実もそれ以上は尋ねようとせず、肩をすくめただけだった。
「よし、わかった」修太郎さんがキャシー号のエンジンをかけた。「俺たちは港の花火大会を見に行くつもりなんだが、訳あってちょっとばかり寄り道している最中なんだ。一つくらい寄り道が増えたって同じだ。卓也のチャッピーを探しながら走ってやるよ。どんな犬だ?」
修太郎さんの言葉に卓也君が目を輝かせた。身を乗り出してチャッピーの特徴を長々と話し出した。でも、生い立ちや好物、眠るときの癖までは言わなくていいと思うんだけれど。
菜々実がクッキーを卓也君にあげた。あ、これ好きなんだと喜ぶ卓也君。あたしもよ、と菜々実。よかった、和解成立だ。スナック協定ってのは、女の子や子供の間では有効らしい。
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