40 / 49
第四章 ノンストップ! キャシー号
⑦
しおりを挟む
キャシー号がスピードを落とした。やんわりと停止する。
「着いたぞ」修太郎さんが親指で窓の外を指し示す。
「あ、ここ式場じゃない」姉貴がカナさんの顔を見る。「もしかして、カナさんの結婚式の?」
「あ」カナさんが両手で口を押さえる。「どうして」
「修太郎、あんた服を買う店を探すなんていってたくせに、はじめからここに来るつもりで」
修太郎さんはそれには答えず、軽く眉を上げただけだった。
「カナちゃん、式が始まってどのくらいだ?」修太郎さんがキャシー号のダッシュボードの時計を指し示した。
「あ、まだ始まったところだと思います」
「ようし、それなら好都合だ」修太郎さんがパンと手を叩いた。「花嫁消失のサプライズという前代未聞のショーを披露できるぞ」
「でも……結婚式、中止になっていないかしら」カナさんが心配そうな顔をする。
「なあに、『花嫁は必ず戻ります、仰天するようなサプライズを用意していますから』って電話を一本入れておいたから、安心しな」修太郎さんが人差し指を左右に振る。
「え、いつの間にそんな」姉貴が目を見開いた。
「スーパーでトイレに行ったときに、ちょっとな」修太郎さんが悪戯っぽく笑った。「あの辺りの式場は、一つしかないからすぐにわかったよ。まあ、式場の人間に信じさせるのに苦労したけどな」
「やれやれ。あんたって人は、やっぱりよくわからない人間ね」姉貴が首を振りながらため息をつく。
「さあ、行きな」修太郎さんがアゴで式場を示した。「まあ、逆境からのスタートかもしれないが、夫婦共々、がんばり抜いてみるこった。それでも、どうしてもダメだったときは」
修太郎さんが人差し指を曲げてカナさんを呼び寄せた。カナさんが運転席に近づく。修太郎さんがカナさんのウエディングドレスの胸の部分を押し下げた。真っ白いブラジャーが露わになる。カナさんが小さな悲鳴を上げたのとみんなが叫んだのとは同時だった。立石さんの口がタコのようになっている。
「ここへ連絡しろ」修太郎さんがペンでブラジャーに電話番号を書き込んだ。そして、ドレスの胸元を元に戻した。「俺たちが全力で力になってやるからよ。広島からキャシー号でひとっ飛びだ」
「単なる相談でもいいわよ」ブラジャー露出事件のショックから立ち直ったであろう姉貴がせき払いをする。「泣きたくなったときでもいいわ。電話して」そこで修太郎さんに挑みかかるような目を向けた。「女はグチを言ってストレスを解消する生き物だからね」
修太郎さんが首を振りながらハンドルにもたれた。が、姉貴は逃がさない。「なによ、ブラはお色直しのときに見えるじゃない。もっと他の方法を考えなさいよ」
「……そうだな。気がつかなかった」と顔を引きつらせる修太郎さん。「なにしろ俺は結婚の経験がないものでな」
「だいじょうぶです。なんとかごまかしますから」カナさんが笑った。その目には涙が光っていた。もちろんうれし涙だ。それくらい、僕にもわかる。
花ちゃんがミニひまわりをカナさんにプレゼントする。ありがとうございます、いい思い出になります、とカナちゃんは目尻の涙を拭った。
「最後に、写真一枚、いいかな」修太郎さんがスマホを構えた。
「どうぞ」とカナちゃんが応じる。今日、僕が見た中で最高のスマイルを、最後に彼女は見せてくれた。
式場に向かうカナちゃんに、窓から庄三さん夫妻が手を振った。二人はつないだままの手を揺らすように振る。「歳をとっても手をつなげるよう、がんばるんだぞお!」
カナさんがにっこり笑ってお辞儀をする。そして、足早に式場の中に消えた。
「ところで修太郎」姉貴の顔からさっきまでの笑顔が消えている。「なんであんたの電話番号を教えたの? あたしの番号でよかったじゃない? 、もしカナさんがかけてきたら、よからぬことを考えているんじゃないでしょうね」
「まあ、少しはな」
姉貴が平手打ちの構えをする。
「落ちつけよ、冗談だって」修太郎さんが両手を上げて楯を作る。「だいじょうぶだ。番号は俺のものじゃない」
「え? あんたの番号じゃないの?」姉貴がポカンと口を開けた。「じゃあ、誰の番号なのよ」
修太郎さんが親指で僕を指し示した。え? なにそれ。なんで僕の番号を?
「どうして僕の電話番号を知っているんですか?」僕は尋ねる。
「俺と喫茶店で会う前に、電話連絡してきたの、誰だっけ?」
「あ、そうか。それで」
「じゃあ、カナさんが連絡してくるときは、公ちゃんのスマホにかかってくるの?」姉貴が修太郎さんと僕を交互に見る。
「年上との甘いロマンスだ。それもなかなかオツなものだ」片頬を上げて笑う修太郎さん。
「よくない。絶対によくない」怒りを露わにするのは菜々実だ。
立石さんが、私さえ携帯電話を持っていれば、と悔しそうにつぶやいた。
「着いたぞ」修太郎さんが親指で窓の外を指し示す。
「あ、ここ式場じゃない」姉貴がカナさんの顔を見る。「もしかして、カナさんの結婚式の?」
「あ」カナさんが両手で口を押さえる。「どうして」
「修太郎、あんた服を買う店を探すなんていってたくせに、はじめからここに来るつもりで」
修太郎さんはそれには答えず、軽く眉を上げただけだった。
「カナちゃん、式が始まってどのくらいだ?」修太郎さんがキャシー号のダッシュボードの時計を指し示した。
「あ、まだ始まったところだと思います」
「ようし、それなら好都合だ」修太郎さんがパンと手を叩いた。「花嫁消失のサプライズという前代未聞のショーを披露できるぞ」
「でも……結婚式、中止になっていないかしら」カナさんが心配そうな顔をする。
「なあに、『花嫁は必ず戻ります、仰天するようなサプライズを用意していますから』って電話を一本入れておいたから、安心しな」修太郎さんが人差し指を左右に振る。
「え、いつの間にそんな」姉貴が目を見開いた。
「スーパーでトイレに行ったときに、ちょっとな」修太郎さんが悪戯っぽく笑った。「あの辺りの式場は、一つしかないからすぐにわかったよ。まあ、式場の人間に信じさせるのに苦労したけどな」
「やれやれ。あんたって人は、やっぱりよくわからない人間ね」姉貴が首を振りながらため息をつく。
「さあ、行きな」修太郎さんがアゴで式場を示した。「まあ、逆境からのスタートかもしれないが、夫婦共々、がんばり抜いてみるこった。それでも、どうしてもダメだったときは」
修太郎さんが人差し指を曲げてカナさんを呼び寄せた。カナさんが運転席に近づく。修太郎さんがカナさんのウエディングドレスの胸の部分を押し下げた。真っ白いブラジャーが露わになる。カナさんが小さな悲鳴を上げたのとみんなが叫んだのとは同時だった。立石さんの口がタコのようになっている。
「ここへ連絡しろ」修太郎さんがペンでブラジャーに電話番号を書き込んだ。そして、ドレスの胸元を元に戻した。「俺たちが全力で力になってやるからよ。広島からキャシー号でひとっ飛びだ」
「単なる相談でもいいわよ」ブラジャー露出事件のショックから立ち直ったであろう姉貴がせき払いをする。「泣きたくなったときでもいいわ。電話して」そこで修太郎さんに挑みかかるような目を向けた。「女はグチを言ってストレスを解消する生き物だからね」
修太郎さんが首を振りながらハンドルにもたれた。が、姉貴は逃がさない。「なによ、ブラはお色直しのときに見えるじゃない。もっと他の方法を考えなさいよ」
「……そうだな。気がつかなかった」と顔を引きつらせる修太郎さん。「なにしろ俺は結婚の経験がないものでな」
「だいじょうぶです。なんとかごまかしますから」カナさんが笑った。その目には涙が光っていた。もちろんうれし涙だ。それくらい、僕にもわかる。
花ちゃんがミニひまわりをカナさんにプレゼントする。ありがとうございます、いい思い出になります、とカナちゃんは目尻の涙を拭った。
「最後に、写真一枚、いいかな」修太郎さんがスマホを構えた。
「どうぞ」とカナちゃんが応じる。今日、僕が見た中で最高のスマイルを、最後に彼女は見せてくれた。
式場に向かうカナちゃんに、窓から庄三さん夫妻が手を振った。二人はつないだままの手を揺らすように振る。「歳をとっても手をつなげるよう、がんばるんだぞお!」
カナさんがにっこり笑ってお辞儀をする。そして、足早に式場の中に消えた。
「ところで修太郎」姉貴の顔からさっきまでの笑顔が消えている。「なんであんたの電話番号を教えたの? あたしの番号でよかったじゃない? 、もしカナさんがかけてきたら、よからぬことを考えているんじゃないでしょうね」
「まあ、少しはな」
姉貴が平手打ちの構えをする。
「落ちつけよ、冗談だって」修太郎さんが両手を上げて楯を作る。「だいじょうぶだ。番号は俺のものじゃない」
「え? あんたの番号じゃないの?」姉貴がポカンと口を開けた。「じゃあ、誰の番号なのよ」
修太郎さんが親指で僕を指し示した。え? なにそれ。なんで僕の番号を?
「どうして僕の電話番号を知っているんですか?」僕は尋ねる。
「俺と喫茶店で会う前に、電話連絡してきたの、誰だっけ?」
「あ、そうか。それで」
「じゃあ、カナさんが連絡してくるときは、公ちゃんのスマホにかかってくるの?」姉貴が修太郎さんと僕を交互に見る。
「年上との甘いロマンスだ。それもなかなかオツなものだ」片頬を上げて笑う修太郎さん。
「よくない。絶対によくない」怒りを露わにするのは菜々実だ。
立石さんが、私さえ携帯電話を持っていれば、と悔しそうにつぶやいた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写と他もすべて架空です。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる