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第四章 ノンストップ! キャシー号
⑦
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キャシー号がスピードを落とした。やんわりと停止する。
「着いたぞ」修太郎さんが親指で窓の外を指し示す。
「あ、ここ式場じゃない」姉貴がカナさんの顔を見る。「もしかして、カナさんの結婚式の?」
「あ」カナさんが両手で口を押さえる。「どうして」
「修太郎、あんた服を買う店を探すなんていってたくせに、はじめからここに来るつもりで」
修太郎さんはそれには答えず、軽く眉を上げただけだった。
「カナちゃん、式が始まってどのくらいだ?」修太郎さんがキャシー号のダッシュボードの時計を指し示した。
「あ、まだ始まったところだと思います」
「ようし、それなら好都合だ」修太郎さんがパンと手を叩いた。「花嫁消失のサプライズという前代未聞のショーを披露できるぞ」
「でも……結婚式、中止になっていないかしら」カナさんが心配そうな顔をする。
「なあに、『花嫁は必ず戻ります、仰天するようなサプライズを用意していますから』って電話を一本入れておいたから、安心しな」修太郎さんが人差し指を左右に振る。
「え、いつの間にそんな」姉貴が目を見開いた。
「スーパーでトイレに行ったときに、ちょっとな」修太郎さんが悪戯っぽく笑った。「あの辺りの式場は、一つしかないからすぐにわかったよ。まあ、式場の人間に信じさせるのに苦労したけどな」
「やれやれ。あんたって人は、やっぱりよくわからない人間ね」姉貴が首を振りながらため息をつく。
「さあ、行きな」修太郎さんがアゴで式場を示した。「まあ、逆境からのスタートかもしれないが、夫婦共々、がんばり抜いてみるこった。それでも、どうしてもダメだったときは」
修太郎さんが人差し指を曲げてカナさんを呼び寄せた。カナさんが運転席に近づく。修太郎さんがカナさんのウエディングドレスの胸の部分を押し下げた。真っ白いブラジャーが露わになる。カナさんが小さな悲鳴を上げたのとみんなが叫んだのとは同時だった。立石さんの口がタコのようになっている。
「ここへ連絡しろ」修太郎さんがペンでブラジャーに電話番号を書き込んだ。そして、ドレスの胸元を元に戻した。「俺たちが全力で力になってやるからよ。広島からキャシー号でひとっ飛びだ」
「単なる相談でもいいわよ」ブラジャー露出事件のショックから立ち直ったであろう姉貴がせき払いをする。「泣きたくなったときでもいいわ。電話して」そこで修太郎さんに挑みかかるような目を向けた。「女はグチを言ってストレスを解消する生き物だからね」
修太郎さんが首を振りながらハンドルにもたれた。が、姉貴は逃がさない。「なによ、ブラはお色直しのときに見えるじゃない。もっと他の方法を考えなさいよ」
「……そうだな。気がつかなかった」と顔を引きつらせる修太郎さん。「なにしろ俺は結婚の経験がないものでな」
「だいじょうぶです。なんとかごまかしますから」カナさんが笑った。その目には涙が光っていた。もちろんうれし涙だ。それくらい、僕にもわかる。
花ちゃんがミニひまわりをカナさんにプレゼントする。ありがとうございます、いい思い出になります、とカナちゃんは目尻の涙を拭った。
「最後に、写真一枚、いいかな」修太郎さんがスマホを構えた。
「どうぞ」とカナちゃんが応じる。今日、僕が見た中で最高のスマイルを、最後に彼女は見せてくれた。
式場に向かうカナちゃんに、窓から庄三さん夫妻が手を振った。二人はつないだままの手を揺らすように振る。「歳をとっても手をつなげるよう、がんばるんだぞお!」
カナさんがにっこり笑ってお辞儀をする。そして、足早に式場の中に消えた。
「ところで修太郎」姉貴の顔からさっきまでの笑顔が消えている。「なんであんたの電話番号を教えたの? あたしの番号でよかったじゃない? 、もしカナさんがかけてきたら、よからぬことを考えているんじゃないでしょうね」
「まあ、少しはな」
姉貴が平手打ちの構えをする。
「落ちつけよ、冗談だって」修太郎さんが両手を上げて楯を作る。「だいじょうぶだ。番号は俺のものじゃない」
「え? あんたの番号じゃないの?」姉貴がポカンと口を開けた。「じゃあ、誰の番号なのよ」
修太郎さんが親指で僕を指し示した。え? なにそれ。なんで僕の番号を?
「どうして僕の電話番号を知っているんですか?」僕は尋ねる。
「俺と喫茶店で会う前に、電話連絡してきたの、誰だっけ?」
「あ、そうか。それで」
「じゃあ、カナさんが連絡してくるときは、公ちゃんのスマホにかかってくるの?」姉貴が修太郎さんと僕を交互に見る。
「年上との甘いロマンスだ。それもなかなかオツなものだ」片頬を上げて笑う修太郎さん。
「よくない。絶対によくない」怒りを露わにするのは菜々実だ。
立石さんが、私さえ携帯電話を持っていれば、と悔しそうにつぶやいた。
「着いたぞ」修太郎さんが親指で窓の外を指し示す。
「あ、ここ式場じゃない」姉貴がカナさんの顔を見る。「もしかして、カナさんの結婚式の?」
「あ」カナさんが両手で口を押さえる。「どうして」
「修太郎、あんた服を買う店を探すなんていってたくせに、はじめからここに来るつもりで」
修太郎さんはそれには答えず、軽く眉を上げただけだった。
「カナちゃん、式が始まってどのくらいだ?」修太郎さんがキャシー号のダッシュボードの時計を指し示した。
「あ、まだ始まったところだと思います」
「ようし、それなら好都合だ」修太郎さんがパンと手を叩いた。「花嫁消失のサプライズという前代未聞のショーを披露できるぞ」
「でも……結婚式、中止になっていないかしら」カナさんが心配そうな顔をする。
「なあに、『花嫁は必ず戻ります、仰天するようなサプライズを用意していますから』って電話を一本入れておいたから、安心しな」修太郎さんが人差し指を左右に振る。
「え、いつの間にそんな」姉貴が目を見開いた。
「スーパーでトイレに行ったときに、ちょっとな」修太郎さんが悪戯っぽく笑った。「あの辺りの式場は、一つしかないからすぐにわかったよ。まあ、式場の人間に信じさせるのに苦労したけどな」
「やれやれ。あんたって人は、やっぱりよくわからない人間ね」姉貴が首を振りながらため息をつく。
「さあ、行きな」修太郎さんがアゴで式場を示した。「まあ、逆境からのスタートかもしれないが、夫婦共々、がんばり抜いてみるこった。それでも、どうしてもダメだったときは」
修太郎さんが人差し指を曲げてカナさんを呼び寄せた。カナさんが運転席に近づく。修太郎さんがカナさんのウエディングドレスの胸の部分を押し下げた。真っ白いブラジャーが露わになる。カナさんが小さな悲鳴を上げたのとみんなが叫んだのとは同時だった。立石さんの口がタコのようになっている。
「ここへ連絡しろ」修太郎さんがペンでブラジャーに電話番号を書き込んだ。そして、ドレスの胸元を元に戻した。「俺たちが全力で力になってやるからよ。広島からキャシー号でひとっ飛びだ」
「単なる相談でもいいわよ」ブラジャー露出事件のショックから立ち直ったであろう姉貴がせき払いをする。「泣きたくなったときでもいいわ。電話して」そこで修太郎さんに挑みかかるような目を向けた。「女はグチを言ってストレスを解消する生き物だからね」
修太郎さんが首を振りながらハンドルにもたれた。が、姉貴は逃がさない。「なによ、ブラはお色直しのときに見えるじゃない。もっと他の方法を考えなさいよ」
「……そうだな。気がつかなかった」と顔を引きつらせる修太郎さん。「なにしろ俺は結婚の経験がないものでな」
「だいじょうぶです。なんとかごまかしますから」カナさんが笑った。その目には涙が光っていた。もちろんうれし涙だ。それくらい、僕にもわかる。
花ちゃんがミニひまわりをカナさんにプレゼントする。ありがとうございます、いい思い出になります、とカナちゃんは目尻の涙を拭った。
「最後に、写真一枚、いいかな」修太郎さんがスマホを構えた。
「どうぞ」とカナちゃんが応じる。今日、僕が見た中で最高のスマイルを、最後に彼女は見せてくれた。
式場に向かうカナちゃんに、窓から庄三さん夫妻が手を振った。二人はつないだままの手を揺らすように振る。「歳をとっても手をつなげるよう、がんばるんだぞお!」
カナさんがにっこり笑ってお辞儀をする。そして、足早に式場の中に消えた。
「ところで修太郎」姉貴の顔からさっきまでの笑顔が消えている。「なんであんたの電話番号を教えたの? あたしの番号でよかったじゃない? 、もしカナさんがかけてきたら、よからぬことを考えているんじゃないでしょうね」
「まあ、少しはな」
姉貴が平手打ちの構えをする。
「落ちつけよ、冗談だって」修太郎さんが両手を上げて楯を作る。「だいじょうぶだ。番号は俺のものじゃない」
「え? あんたの番号じゃないの?」姉貴がポカンと口を開けた。「じゃあ、誰の番号なのよ」
修太郎さんが親指で僕を指し示した。え? なにそれ。なんで僕の番号を?
「どうして僕の電話番号を知っているんですか?」僕は尋ねる。
「俺と喫茶店で会う前に、電話連絡してきたの、誰だっけ?」
「あ、そうか。それで」
「じゃあ、カナさんが連絡してくるときは、公ちゃんのスマホにかかってくるの?」姉貴が修太郎さんと僕を交互に見る。
「年上との甘いロマンスだ。それもなかなかオツなものだ」片頬を上げて笑う修太郎さん。
「よくない。絶対によくない」怒りを露わにするのは菜々実だ。
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