伸ばしたこの手を掴むのは〜愛されない俺は番の道具〜

にゃーつ

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「あの子は、幸せに暮らしてるんじゃないんですか!」

「申し訳ありません。柊家本家で起きた出来事です。謝ることしかできません。」

涙を流すわけもなくこちらをまっすぐ見て怒りのこもった声を飛ばす園長。18年育てて幸せを願い嫁いでいくのを見送ったはずなのに、実際は酷い目に遭わされていたなんて知らされたら怒らない人はいない。

柊の家がしたことは許されることじゃない。俺には謝ることしかできない。

「今、あの子は病院に?」

「はい、番欠乏によって命が危ないので俺の兄である結弦との番を解除する処置をしています。診てもらってる医者によると栄養失調によって内臓も弱っていますので当分は入院生活になるそうです。」

「・・・病院に行きます。柊の人だからってあなたのことを怒ったってどうにもならない。あの子をそんな地獄へ送り出してしまった私にも責任はあります。あの子に謝らなくちゃ。」

この人、なんて広い心を持っているんだ。俺は今日罵られ殴られるくらいの覚悟でここに来た。どんなことを言われたって償いにすらならない。なのにこの人は俺を責めることなく、楓君のもとへ行ってくれるなんて。

乗ってきたタクシーにまた乗り楓君のいる松本総合病院へ向かう。

「・・・あの子には苦労させたんです。長く施設の職員をしていますけどΩの子は初めてで、当時どう対応していいかもわからなかった。多くの子供達がいて、中には楓より大きい中学生・高校生もいる。なにか起きてしまってからでは遅いとあの子には寂しい思いをさせました。それでもあの子はいつも笑顔でいってきますって言って休むことなく学校に行って、帰ってきてからも施設のことをよく手伝ってくれました。」

「楓君は、一度も兄のことを責めませんでした。それに、楓君の長男の優という男の子がいるんです。その子は群を抜いて優しいんです。きっと楓君に似たんです。」

「小さい頃は施設の子達とも仲良くしていたんです。里子としてら引き取られた男の子とすごく仲が良くて毎日2人で楽しそうにしてました。でも、その子が施設を去ってからはだんだん他の子とも話さなくなって・・・Ωだと診断を受けてからは人と関わらなくなってしまったんです。」

「そうだったんですね。・・・俺はαです。周りのαの友人たちといつか自分のただ1人のΩを見つけられたらなんて話をしていたことがあります。αにとってΩは唯一無二の存在です。本来Ωは煙たがられ差別される存在ではないんです。αは番のΩには逆らえません。そんなことして嫌われたら俺たちαなんて生きていけません。本当は1番優位な存在なんです。」

Ωである楓君は兄さんの所に来なければ別の場所で笑っていたかもしれない。誰か大切な人ができてその人と家庭を築いていたかもしれない。そんな誰かを想像して気分が下がるなんて、そんな権利ないくせに楓君の笑顔は俺の力でなんてこと考えてる俺は所詮意地汚いαなんだ。反抗し続けた柊のαなんだ。

「あ、着きましたね。ご案内します。」

病院の中を一言も話さずに歩き続ける。今からこの人は変わり果てた様子の楓君のもとへ行く。

エレベーターが上へ上がっていくのと比例して自分の心臓の音が大きく速くなっていっている気がした。

エレベーターが着いた音にビビるくらいには俺自身気を張り詰めていたみたいだ。病室の近くには優が立って待っていた。

「・・・理玖おじさん、、。」

「優、偉いな。病室入らずに待ってたのか?」

「うん。本当は近くにいたいけど、俺がいるせいでママの容態悪くなったら嫌だから。」

「・・・この子が?」

「はい。優といいます。10歳です。」

「優くん、こんにちは。私はあなたのママの先生みたいなものよ。小さい頃のママを知ってるの。優くんは小さい頃のママによく似てるわね。」

その言葉に優がすごく嬉しそうにしていた。自分の大好きなママと似ていると言われて嬉しかったんだろう。

「柊さん、」

「松本先生!楓君は!」

「・・・とりあえずは大丈夫です。でも、これからの本人の頑張り次第って感じですかね。まだまだ油断できないです。」

「・・・あなた、、、もしかして?」

「園長先生、お久しぶりです。隼人です。」

は、やと??

・・・あ!ひまわり園で楓君が仲良くしてたっていう友達か!!

「松本先生、楓君と友達だったんですね、、、。」

「俺も驚いたんですよ、あなたから楓の名前が出るなんて思ってもみなかったし。それに、成人して園を訪れた時に楓は結婚したって聞いてましたから。幸せに暮らしてるとそう思ってました。それが、、、楓のことを治療するなんて思ってなかったですよ、、しかも危険な状態の楓を。」

俺の兄さんはこんなにもたくさんの人を悲しませたんだ。誰よりも楓君を、そしてその楓君のことを大切に思っている人のことを。

それだけじゃない、自分の息子のことも傷つけている。優は10歳とは思えないほど賢い子だ。でも、まだ10歳なのにこんな重い事実を受け止めて、それでも必死になってになって大切な人を守ろうとしている。

兄さん、どんなに謝ったって許されることじゃないんだからな。

「まだ眠ってるんですけど、騒がなければ病室に入って大丈夫ですからね。」

松本先生がそういってくれたのでその場にいた全員で病室に入った。
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