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しおりを挟む「ごめんなさいっ、、、」
目の前で泣きながら僕に謝る彼女を見て何も言えなかった。2人で過ごす最後の夜は涙を流しながら深く深く求め合った。
「私のことは忘れて幸せになって。」
最後は突き放してくれればいいのに最後まで僕をしっかり愛してくれた。それなのに忘れてなんて彼女は残酷だ。
こんなに愛しているのにどうして。
そんな思いばかりが募り、1週間経っても1ヶ月経っても1年経っても彼女のことを忘れることなどできなかった。
周りの友人たちが結婚し、次々と父親となっていく中でも僕は彼女のことを忘れられずに日々を過ごした。
仕事が生き甲斐。そう自分に言い聞かせて産婦人科の看護師として日々多くの命の誕生に立ち会った。だが新しい命の誕生を喜ぶ家族を見るたびに、泣きながら去っていった彼女とこんな風に家族になれたらどれだけ幸せだったんだろうか。そう思わずにはいられなかった。
「大丈夫?最近働きすぎじゃない?」
「院長、、、」
「今は良いわよ普段通りで。」
この産婦人科の院長は大学時代からの友人で、僕と別れた彼女の共通の知人だ。だが僕と同様に結婚を機に彼女と連絡は取れなくなっている。
「一度長めに休んだらどう?あの子と別れてから自分を追い詰め続けてるじゃない。」
「そんなつもりはないんだけどね。・・・忙しくしていないと思い出して泣きたくなる。彼女を奪いに行きたくなる。」
「そうね。今どこにいるのかも分からないものね。」
「もう一度だけ会いたいなとは思うけど、会ったらきっと彼女にまた辛い思いをさせるから会いにはいけない。」
きっと僕は生涯孤独のまま人生を終えるんだと思う。最後まで彼女を愛して。
彼女の幸せを願って日々を過ごした。
なのに、
「あの子、亡くなったそうよ。」
「・・・は?」
「子供が1人いたみたいだけど、、、。」
愛していた彼女が亡くなった。増田宗ニという男のもとに嫁いでいたようだ。増田グループといえばかなり大きい会社グループ。そうか、そりゃ僕と一緒になんて親が認めてくれないよな。
病気で亡くなったらしい彼女はどんな最後だったんだろうか。旦那さんや子供に看取られて笑って天国に行けたんだろうか。最後に少しでも僕のことを思い出してくれたり、、、、いや、そんなことは考えてはいけないな。
いつか友人としてお墓参りにぐらいは行きたい。
けど僕は彼女を奪いに行けばよかったと後悔することになった。
増田宗ニという男と後妻、息子が捕まったというニュースが日々流れた。彼女の子供が悪に手を染めたのかと気になり調べたところ捕まったのは後妻の子供のようだ。さらに調べていくと増田宗二は彼女と結婚した後すぐにのちの後妻と関係があり捕まった息子を授かっていた。
彼女は、、幸せじゃなかったのか?
そんな思いがチラついた。
どうしても気になり必死になって調べた。だが、大きなグループの情報なんてほとんど出てくることはなく彼女息子の名前が増田周ということだけが分かった。
それ以来は彼女の忘れ形見の周くんの幸せを願って日々を送った。彼女の分も幸せに暮らしてほしいとそう願った。毎日毎日彼女が泣いて謝っていたあの日の夢を見た。
「ねぇ、今日来た初診の患者さんがあの子に似ていたの。」
そう言って院長である友人が見せてきたカルテには
増田周
そう書かれていた。
「この子が入院したら、僕を担当にしてほしい。」
公私混同なんてしてはいけない。そんなことは分かっている。頭では分かっていたけど、気づくと口からそんな言葉が漏れていた。
病院を受診するたびに番の人と幸せそうに仲良さそうにしているのを見て僕自身も幸せに感じた。
出産の日、周くんが子供を産む瞬間に立ち会えたことが嬉しかった。院長が取り上げた子供を俺が周くんに渡すことができた。
天国の彼女に問いかける。君の代わりに僕が抱っこしたってことにしよう。君の孫が産まれたんだよ。
涙が出そうになるのを必死に堪えた。僕と彼女のことは周くんに言うつもりはないから。
自分のシフトが終わっても、新生児室に行き彼女の孫の顔を目に焼き付けた。もう会うこともほとんどなくなるだろう。検診の時に病院には来るだろうがこうしてゆっくりと見られるのは今だけだから。
「お世話になりました!!ありがとうございました!!」
腕の中ですやすやと眠った子供を愛しそうに抱えながら笑顔で退院していく彼女の忘れ形見を見送る。その背中があの時の彼女と重なって見えた。
周くんがタクシーに乗り込んだ後、ドアを閉めて番の方がこちらに歩いてきた。何か忘れ物か?
「あの、また周に会いにきてやってください。あなたは言うつもり無いのかもしれないけれど、周に周のお母さんのことたくさん教えてあげてほしいんです。」
「ぇ、、、、?」
「溝口大輝さん。周のお母さんの引き離された元恋人ですよね?すいません、昔調べた時に名前を知りました。別れた後もお一人でいると知り、あなたの周を見る目が優しくてここで終わりたく無いと思いました。周には俺から話してみますから。」
そう言ってくれたことで我慢していた涙が溢れ出た。
「、、、会いに行って良いんですか。」
「はい、周のお母さんの代役ってことで。」
今日は泣いている彼女じゃなくて笑っている夢を見れそうな気がした。
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