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17話 集中
しおりを挟むロドルフ戦を終えてすぐのとある宿に怜とリリス、そしてサキュがいた。
「ロドルフはなんで俺を勝たせたんだと思う?」
怜は戦いを終えてからずっとその理由が気になってしょうがなかった。ロドルフの雰囲気から何か考えがある事はわかるのだが、その肝心な考えの部分がわからなかったのだ。
そこで、ロドルフの弟子であったリリスに聞いたのだ。
「わからないわ。あの人は誰よりも戦いを多く経験してるからこそ厳しい人だったわ。相手のためを思っているからこそ手加減をしないような人のはずなのだけど…」
あの試合を見ていたリリスはロドルフがわざと最後の一撃を避けなかった事に気付いていた。
しかし、リリスも避けなかった理由については知ることができなかったのだ。
「誰よりも戦いを経験してるからこそではないでしょうか。」
考え込み沈黙となった場を切ったのは意外にもサキュであった。
「どういうことなのお姉さま?」
「ロドルフ様は戦いによって何が生まれ何が失われるかを知っている。怜さんみたいに他の人の為に戦う人が実際の戦いを経験して戦いが起こる世界、そして守る為の力で命を奪い続ける自分自身に失望することを…」
サキュの言葉は怜の心臓を抉るように鋭く正論であった。この舞踏祭で怜は1つの命を奪いかけた。リリスの為に戦った怜は少しの間だけでも舞踏祭に参加した事を後悔したのだ。
だから、サキュの言っていることが酷くどこまでも正しいと理解しなくても悟ってしまっていたのだ。
「普通の人ならそこで心が折れて耐えられなくなってしまうでしょう。だけど、貴方は違いました。」
サキュはいつも通りの微笑みを崩さずにそう言い切った。口調も表情も変わっていないのに、その言葉だけは強く言い切ったように聞こえた。
「折れかけはしても貴方の心は折れなかった。それどころか、より自分自身の信念が強くなっていましたでしょう?私はロドルフ様がそんな怜さんにかけたのだと思います。」
「かけたって何を?」
話の流れが自分中心になっていた怜はやや食い気味に問いた。
「おそらくですが、今後の戦争を変える為だと思います。特に貴方が避けることのできない代理戦争を。」
代理戦争という単語を聞き怜は今の自分の状態を思い出す。
代理戦争それは、神霊界、悪魔そして精霊界の3つの勢力が力を持たない人間界の人と契約し恩恵を与えて自分達の代わりに戦わせるというものである。自分達の手を汚さないようにする戦いの為、代理戦争で負けたことによる損は最小限に抑えつつも、勝てば利しか無いようなとても都合のよい戦争であった。
「私達は自分達の手を汚さないようにする為、無関係な人に戦わせ命を奪っていく事を、人間界の中ではひっそりと、3つの勢力の中だと堂々と行っているのが今の現状となっています。しかし、ロドルフ様はその代理戦争をさいごまで否定し続けました。」
普段から瞼を閉じているサキュが、瞼の裏にある青い瞳をまっすぐ怜の瞳と合わせた。
「彼もまた怜さんと同じ、他者の為に武器を取った戦士だったのです。」
◇
同時刻。
魔界最大の世界図書館。そこに来れば魔界の全てが知れる。ある意味魔界の全知を司っているとも言えるものだ。
無数の本と遥か高くまで聳え立つ本棚の群れ。静寂を保ち、どこか落ち着く雰囲気を醸し出している。
のだが……
「ロドルフさん。よかったんですか?」
一人の青年が静寂を壊す。当たり前だがひとりでに疑問を問うわけがない。眼鏡をかけた黒髪の青年が振り向いた先にはロドルフがいた。
「いいんじゃ。儂みたいな老いぼれは前線からいずれ消える。ならば、若いもんに経験を積ませるのも一つじゃと思ったんじゃよ」
自らを老いぼれと称するロドルフだが、彼はその道のプロと言える。誰よりも多くの戦場を駆け、数多の兵を葬った現魔界軍の初期メンバーのひとりだ。若い頃は魔界全土で組み上げれれるランキング上位10名に入っていたこともあったが、現在は彼の名はない。
だが、その中の大半はこのロドルフに武を習った者達だ。余談だがロドルフは多くの者を強者へと導いたとして伝記や絵本で英雄の師として描かれている。
「ご謙遜を……。俺も前から・・・人間だった頃から貴方には世話になりっぱなしですよ。それにしても、英雄の師と呼ばれるロドルフさんに期待される程の人の子ですか」
「なんじゃ聡?もと人としては思うところでもあるのかのう」
「んー。なんというか……。未練ってのは無いです。でも、一応半神半人の身としては人を心配する気持ちはありますね」
彼は元は人間、現在は半神半人。フルネームは『天野 聡』。
ある事件がきっかけで、人から神へと移った者達の一人である。人間界で死ぬ程の苦痛と絶望を味わった彼等は一度死を感じ、抵抗した。死への抵抗を良しとしない何者かに魔界に落とされたが、現地民の助けと生への渇望が上位個体への覚醒をしてみせた。
その後は人を超えた力で生き残り、なんとか生活を築き上げた。それに深い恩を感じた彼らは種族でいえば神に近いのだが、悪魔側についている。
「でも正直なところ、彼ではエアルさんや悪魔王には勝てませんよ?」
「そうじゃな。今のままでは勝てんだろうな。……聡。お主はなぜ今回、戦争が近いのに祭りを行ったと思う?」
「……そうですね・・・。エキシビションマッチ・・・ってとこですか?」
「そう。その通りじゃよ。これは言わば前哨戦。互いの兵力を見せつけあって戦争を有利に転がす為の作戦とでも言ったところじゃろう」
「ふむ。ならば、一番は神崎冬馬の確認と衛藤護の弱点探し……って感じですかねぇ。それ以外はあまり派手に動けそうにない」
この祭りのバックには各世界の王はもちろんのこと化物じみた本物の王までいる。つっついて反撃されたら溜まったものではない。祭りにおける戦力分析は非常に慎重にやらねばならない。
「……しかし、この戦争なにか嫌な予感がする。ちょいちょい三世界以外の連中の気配がする。聡。お主も準備だけはしておけ」
「そうですね。なんとなく予想はつきますが……。心配して損は無さそうですね」
二人は頷き合って、この図書館にまた静寂を取り戻させた。波乱の戦争はもう、すぐ近くまで来ている…。
◇
夜空には無数の星が光り輝き、闘技場を照らす。街灯やランプが無くても全体が良く見える。人間界ではこうはいかないだろう。
自然の偉大さを身に感じつつ一人中央で立つ。自分の持つ全神経を研ぎ澄ませる。
卓越した格闘センス。怜の攻撃を経験と勘で避け続けたあの老人の戦闘スタイルは怜の脳裏に焼き付いたままだった。力と力を初めからぶつけ合う戦いではいずれ自分には限界が来る。
早くて攻撃力のある一発はたしかに強力なものだが、それだけ。その戦い方が通用するのは雑魚までだ。種がバレたら瞬殺されるだろう。
ロドルフは強いには強いが悪魔王の幹部には名前が無い。
ちなみにだが、悪魔王の幹部、精霊王の幹部はそれぞれ10人で神王の幹部は半分の5人だそうだ。
つまり、悪魔界だけでもあの老人以上がまだ少なくとも10人はいるということだ。
自分の手の届く範囲すべてを守り尽くす。なにかを守るには、信念を貫くには何者よりも強くなくてはならない。しかし、まだ弱い。強者と戦い、強者を超えなくてはならない。その壁は高く、頂上は見えない。
精霊王よりも、悪魔王よりも、神王よりも、全ての王たちよりも強くなる。
ならばどうすればいいのか。怜は闘技場の中央で考え続ける。
始めて数時間が経ち自分が定めた範囲内に入った者の気配くらいなら感じ取れる様になった。気配察知はかなり便利な技術だ。故に覚えるのは至難の技なのだが、この怜という男はいとも簡単にそれも無自覚で習得をした。はっきり言って異常だ。
しかし、この怜という男はそれを理解していないようだ。数年間毎日修行して漸く数メートルの範囲で気配察知が扱えるようになるのに、数時間たらずで闘技場全範囲数百メートルに展開しているのだ。これは砂漠地帯に落ちたコンタクトレンズをブルドーザーで的確にすくい上げるレベルに難しいだろう。
確かに彼の目指す壁は高すぎる。彼らが積み重ねた数百、数千年を埋めるにはやるしかないのだが限度がある。これでは、気配察知に何年もかけた武闘家達が報われない。発狂してもおかしくない程だ。
そして、彼の気配察知が闘技場に何者かが侵入してきたことを本能が伝える。初めての来客に戸惑うものの落着きを装って細かい特徴を探っていく。
短く切りそろえられた髪に、額から生える二本の角。
背は小さいが胸はでかい。ここまで調べて怜は見知った悪魔を思い浮かべた。
自分が始めて契約した悪魔。
怜を代理戦争に引き入れた張本人。
人を殺めることに抵抗のある怜にとっては悪夢の元凶ともとれるが、怜は嫌そうな顔はしなかった。寧ろ少し頬が緩んでいるようで、笑顔のままその少女を呼ぶ。
「どうした?リリス。こんな夜中に何のようだ?」
突然呼ばれたことと、気配に気づかれたことに巨乳ロリっ子悪魔リリスは一瞬驚いた顔を見せる。だが、この程度で狼狽えては悪魔王側近の娘とは認められないと気を引き締めて怜に向かう。
「いえ、たいした用はないわ。私の部屋から闘技場に怜がいるのが見えたから来てみただけよ」
「そうか・・・心配かけたか?悪かったな」
「いいのよ。私が勝手にきたんだし。それで?なにしてるの?修行?」
そう言って俺の隣に座るリリス。
そんなつもりはなかったし、追い返す理由もないので話を続ける。
「考え事をしててな。ちょっとばかし、自分の未熟さを思い知って。これからの戦争、死なない為にも強くならないといけないなって思ったんだ。」
「……そうね」
それからは静かな時間が続いた。リリスは少しだけ気まずそうな顔をして怜を見つめている。
「怜……私のこと恨んでる?代理戦争に引きずり込んだこと」
「……そうだな」
肯定ともとれる言葉にリリスはさらに顔を悲痛なものへと変える。
「最初は恨んでた。というより、なんで俺が……って思ってた。でも、今はそうでもないな。この力も、この世界も悪くないと思い始めてる。さくらだけが俺の大切なもので、あとは全て利用するものって考えも今じゃ、お前も、この世界も大切なもので守りたいって思えるようになった。まだリリスよりも俺の方が弱いからもっと頑張らないとな」
最大の笑顔でリリスの顔を見る。リリスはしばし固まってからふふふと笑みをこぼした。
そして、怜の膝に頭を倒す。
その大胆な行動に驚く怜だが、短いため息を吐いてリリスの頭を撫でる。
「少しのあいだだけ……こうしていていい?」
「……あぁ。いつまででも」
緊張と一転し、優しい時間がながれていく。
……リア充爆発しろ。
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